第三章 気が合う?合わない?
今回はチェシャ猫登場します!
どんな猫かはお楽しみに〜!
そして今回、帽子屋の身体能力の一部が明らかになります。
では、どうぞ〜♪
「はい、到着〜♪どうだった?空の旅は。」
「はぁ…はぁ…あ…大変だった…。ジェットコースターより凄かったし…」
「ぜっとこーすたー?何それ?あ、もしかしてその上にグラス置くと飲み物が美味しくなるとか?」
「違う!Zコースターじゃなくてジェットコースターだって!しかもそっちのコースターじゃないから!走る方のコースターだから!」
「ふぅん…。コースターに足が生えて走るってことだね。アリス、今度私にもその『ジェットコースター』とやらをおくれよ〜。」
「…もういいです…。」
さて、なぜ私達がこんなアホな会話をしているかと言うと…
時は戻り…私達がここ、ハートの城に着く30分ぐらい前。
「ハートの女王様に挨拶しなきゃねぇ。きっと喜ぶよ。」
帽子屋のこの一言が事の始まりだった。
彼が言うには、アリスが戻ってきた事をハートの女王に知らせに行かないといけないらしいのだ。
帽子屋に汚れたエプロンドレスをきれいにしてもらい、彼が(なんと)たったの2分で質素な服からお洒落で品のある豪華な服に作り変えたプロンドレスを着る。
最後に、彼は私に宝石が散りばめてあるカチューシャをくれた。
これも、彼自身が作ったという。
「すごい!」
嬉しくて、私は思わず鏡の前でくるくると回ってしまう。
帽子屋は私の隣で笑顔を浮かべ「いいねぇ♪とても似合ってるよ。」と言ってくれた。私が顔を真っ赤に染めたのは、言うまでもないだろう。
それを誤魔化すために、今度は鏡台の前でメイクを塗り直している帽子屋へ質問を投げかけた。
「ねぇ、さっきから言ってる女王様ってどんな人なの?」
彼はますます派手になった顔でこちらを向き、ふらふらと変な歩き方で大きな鏡の前までやって来る。
…帽子重いのが原因じゃないのか?
「とても美人だよ。前のハートの女王と違って、彼女は理想的な女王だ。『首をはねよ!』って口癖はあるけどねぇ。でもまぁ、実際にやってないんだからいいんじゃない?」
………え。
「か…変わった口癖なのね…。」
「変わってるね、確かに。でもいい人だよ。きっと、君を気に入るはずさ。」
「私を?」
「そう。だって、アリスかわいいじゃない。それにね、彼女はずっとアリスに会いたがっていたんだ。行ってみれば分かるさ。」
彼はそう言い、いきなり私を抱き上げる。しかも、お姫様抱っこ。
「ちょ…えっ…えぇ!?」
あまりに急な出来事だったので、私は目を見開いたまま近くにあるメイクの濃い帽子屋の顔を見つめる。
彼は私を抱きかかえたまま窓辺まで歩いていった。そこに足をかけ、私に笑いかける。
「馬車よりも船よりも空の旅が一番♪地面に降りずにどこまで行けるか試してみようね、アリス。」
…はい?どゆこと?
私が目できき返すと、帽子屋は窓辺から跳んだ。
そう、文字通り、3階の窓辺から跳んだのだ。
「こういうこと♪どう?楽しいでしょ!」
「うぎゃあああああ!!」
…返事どころじゃなかった。
帽子屋は空中で一回転し、庭に生えている木の枝に着地。そしてまた飛び上がる。
庭に掃除中の執事さんらしき人物がいて、こちらを笑顔で眺めていた。
帽子屋は彼に向かって「留守番よろしく〜!」と言いながら遠くの枝に飛び移り、今度はもっと大きなジャンプをした。
風を頬に受け、私達は上昇を続ける。その間にも、私はずっととても女子とは思えないような悲鳴を上げていた。
不思議なことに、着地の衝撃や跳ぶときにかかる重力はほとんどない。寧ろ自分一人で飛んでいるような錯覚さえする。
下を見ると、下界に広大な森が広がっていた。森が途切れた遥か彼方、前方に町と丘の上に建つ城が見えてきた。
「あれだよ、アリス。あれがハートの城。女王様の住居さ〜」
空を飛ぶ感覚に慣れてきていた私はいつの間にか悲鳴を上げることを止め、前方の景色をじっと見つめる。
「き…綺麗…」
私が呟くと、帽子屋はまるで自分が褒められたかのように笑う。
「でしょ?アリスが気に入ってくれたみたいで良かった。中も結構オシャレだから、楽しみにしててねぇ〜」
彼が言い終わると、一瞬身体が浮くような感覚があり、次の瞬間、私達は急に降下を始めた。
悲鳴再開。
「ひぎゃあああああああああぁぁぁぁ」
「ひゃっひゃっ…アリスが叫んでる〜♪」
…帽子屋に笑われた。いや、叫んでるって言って喜ばれても困るんですけど…。
しかも笑い方が変!
「やっぱりアリスも気持ちいい?気分爽快?」
違ぁう!何だ、何を勘違いしてそういう解釈になってるんだ!?
気分爽快になって叫んでるワケじゃないんですよ!
「だから違ぅあああああああああああああああ!!!!!!!!!」
…以上が、これまでの経緯だった。
†*・+・*†*・+・*†*・+・*†
帽子屋とアリスがハートの城に向かっている頃、くねくねとした奇妙な木が生い茂るタルジイの森で一匹の猫がまどろんでいた。
彼は遠くから聞こえてくる悲鳴に気付き、うっすらと黄色い目を開ける。
上を向くと、ちょうどアリスを抱きかかえた帽子屋が飛んでいくところだった。
「…うにゃ…帽子屋…?…あぁ、アリスが帰ってきたんだ。女王様に知らせなきゃね。」
彼は木の上から浮きあがり、ニヤニヤ笑いを浮かべると煙のように姿を消した。
†*・+・*†*・+・*†*・+・*†
「ここが…ハートの城…」
城門をくぐった私達は今、真っ赤な薔薇が咲き乱れる庭を歩いていた。
白レンガで作られた道、入念に手入れされた芝生。
そして、遠くでゆっくりと開く大きな扉。
その両脇には、槍を持った二人の兵士が扉を守るように立っていた。
深々と頭を下げる兵士達の横を通り過ぎて私達が扉に入っていくと、そこは広いホールになっていて、ずらりと並んだメイドや執事達が一斉に頭を下げる。
『お帰りなさいませ、アリス様!』
うわ!
人生で初めてアリス様って呼ばれたよ!
というかあの中を通っていくのか!
やばい、めっちゃ緊張するんだけど!
帽子屋はニコニコしながらフツーに歩いていこうと私の手を引っ張っているけど、人生初の超豪華な待遇を受けた私の足は思うように動かない。
あぁ、私ってばなんて情けないんだ。
すると、帽子屋がふと立ち止まった。
「…そういえば、何でアリスが帰ってくるって知ってるんだろ…。」
「…確かに…。」
帽子屋は首を傾げ「女王さまはまだ知らないはずなんだけどな〜…」とか呟いている。
そうだった。帽子屋は私が来たことを知らせるためにここへ向かったのに。
もしかして、女王様って実はエスパーだったとか?
いや、いくら何でもありえないでしょ…。
「それはね、僕が女王様に伝えたのさ。」
「わあっ!」
耳元で声がしたと思うと、目の前で煙が渦巻き、くるくると回りながらデブ猫が現れた。
驚いた私はその場で尻餅をついてしまう。
その猫は黒と青の縞模様がきれいな黄色い目の猫だった。
しかも体型はぽっちゃり系。
ぐふふ、私の好みだ。あ、ついキモイ本音が…。
目を丸くする私をにやけた顔で見下ろしながら…って、見下ろす!?
よく見ると、その猫は宙に浮いていた。
宙に浮いたまま、猫は今度は帽子屋の前に飛んでいく。
「やぁ、帽子屋。元気かい?」
「マイナス100%元気だよ、チェシャ。」
ヒュンッ
挨拶を交した直後…不意に、風切り音がする。
あまりにも早すぎて状況が飲み込めない私が見たのは、剣を振り切った状態で静止する帽子屋と、猫が現れた時のすぐ消えてしまう煙のようなものだけだった。
「あ〜…危ない危ない。当たったらどうするのさ。」
「当たったら当たったでそれまでかな〜。」
帽子屋が剣を納めると同時にまた私の隣に猫が現れた。
当たったら…って、今のはなんだったんだ!?
「今の…何…?」
私がきくと、帽子屋と猫が笑顔で答えてくれた。
『挨拶』
「さいですか…」
そこで初めて声が重なっていたのに気づいたのか、二人は不機嫌そうな表情で互いに顔を見合わせる。
気が合うんだか合わないんだか…。
てか、挨拶代わりに剣振り回すって…。
いくら何でも非常識すぎるよ…。
二人を交互に見て呆れる私に、帽子屋は手を貸してくれた。
「ほら、立ってアリス。汚れちゃうよ。」
「あ…ありがとう。」
周りを見ると、メイドさんや執事の人達はこの出来事を日常茶飯事のような顔で眺めている。
てことは、いつもやっているんだろうか。
あ、危ないぞこの国。
果たして、自分はいつまで生きていられるんだろうか…。
チェシャ猫は、ぽっちゃり系がいいと思ってたんです。
ディズニーのチェシャ猫もおデブ体型でしたし、何より作者がデブ猫大好き人間でして。
ほらそこ!
趣味悪いとか言わない!
…じ…自覚あるからいいんですよ…。
それでは次回をお楽しみにー!
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