入学式 3
「わ、私、別にあなたを傷つけるつもりはないんですぅ……!」
そう言っておさげにした水色の髪を小さく震わせる少女に、周囲の人は胡乱な目を向ける。
「そうは言っても……お兄ちゃんに捕まえられてる時点で、ねえ?」
「正直、信用はできない。」
「まあまあ……。とりあえず、もう少し話を聞こうよ。」
僕はトウカたちを宥めつつ、少女に向き直る。
「それで……君はどうしてあんなことをしたの?わざわざ認識阻害の能力まで使ってさ。」
「そ、それは……。」
僕の問いに、口ごもる少女。
「大丈夫。僕は君を傷つけるつもりはないし、ちゃんと納得できる理由なら皆も矛を収めてくれるだろうしね。」
彼女を怖がらせないようそう言うと、彼女は覚悟を決めたのか、勢いよく頭を下げる。
「ご、ごめんなさい!婚約者と似てたので、間違えました!」
その言葉に、周囲に沈黙が満ちる。
「……え、ええっと……?それはどういう……?」
若干頬が引きつっていることを感じながら、僕は問いかける。
「じ、実は……私、婚約者がいるんですけど……彼が、あなたにそっくりなんです。だから、あなたがそちらの女性たちと歩いてきているのを見て……つい……。」
「な、成程……。ところで、その婚約者さんはそういうことを?」
「割と……。」
「あー……。」
そんな彼女の言葉に、周囲に先ほどとはまた違った種類の沈黙が満ちる。
「……あれ?もしかして鬼人族ですか?」
その空気に気まずくなり視線をさまよわせていると、少女の額に小さな角が生えていることに気付く。
「あ、はい。あんまり気付かれることはないんですけど ──」
少女が僕の言葉に頷いた瞬間、黒髪の少年の動きを止めていた糸が切れる。
「ッ!!」
「チィッ!」
咄嗟に風流を抜き、少年の振るう白金色の剣に合わせる。彼の振るう剣は重く、その衝撃で若干手が痺れる。
「流石"勇者"……そう呼ばれるだけの力は持ってるわけだ。」
「何故邪魔をする!」
そう呟いた僕に、少年は大声で問いかけてくる。
「そいつは"魔族"だぞ!人類の敵なんだぞ!」
そう言う彼の瞳は真っすぐなように見えるが、その奥に仄かに狂気が宿っているようにも見えた。
「何を言ってるの……?」
「ん。時代錯誤。多分、法国の仕業。」
そんな少年の行動に、トウカたちは若干うろたえているようだ。でも、それも仕方ない。
「魔族が人類の敵……?モンスターと魔族は別だよ?確かにそう思われていた時代もあったけど……。」
彼の言っていることは、今や時代遅れと言われても仕方のないことだからだ。
── 確かに、魔族が人類の敵だった時代はあった。約200年前、一代前の魔王が魔族を束ねていた時代だ。その頃は世界中で人類と魔族の戦いが起こってたらしいけど、その魔王は昔の勇者に倒されて戦いは終わったし、今の魔王は人類に友好的だ。だから今の常識的には、魔族は人類の良き隣人っていう扱いになってる。
「黙れ!魔族は人類の敵なんだ……!」
そんな少年を、先程月見里と呼ばれていた少女が冷めた目で見ている。
── 成程。何となく状況は分かった。
「とりあえず、君は大人しくしてようか。」
僕はそう呟いて、少年の首筋に峰打ちを放つ。
「ガッ……。」
それを受けた少年は、小さく声を漏らしてその場に倒れ伏す。
「ふぅ……。とりあえず落ち着いたかな……。」
少年が動かなくなったことを確認し、僕は風流をしまう。
「彼、任せてもいい?」
「もともとこっちの起こした問題だからね。勿論だよ。」
そう言って月見里は、少年を慣れた手つきで拘束する。
「大丈夫だった?」
「は、はい!ありがとうございます!」
「ならよかった。でも……彼が同じクラスにいるってなると、これから大変そうだよね……。」
そんな僕の言葉に、鬼人族の少女は顔を曇らせる。
「そう……ですね……。」
「悠真はいつもああだからな……。起きればまた同じようなことが起きるだろうな。」
「うーん、どうすればいいんだろ……。」
ひーちゃん、と呼ばれていた中性的な少女の言葉に、少し考え込む僕。
「私の能力がずっと発動できればいいんですけど……。」
「……それだ。」
しかし、小さく呟かれた言葉に、僕は顔を上げる。
「失礼。えっと……。」
「あ、私はシオンです。」
「シオンさんだね。それで、あなたの能力の発動条件を教えてもらってもいいですか?あ、もちろん嫌だったら断ってくれてもいいですよ。」
「大丈夫、です。……私の能力は、私の存在を感知されなくなる、というものです。発動条件は、私と言う存在が一瞬でも意識の外にいることです。」
「成程。意識の外に行くのは、魔導具なんかを使った時でもいいの?」
「はい。問題ありません。」
「……なら、何とかなるかも。2、3日くらい時間をもらってもいい?」
「全然大丈夫です!よろしくお願いしま ──」
そう言って頭を下げようとする彼女だったが、遠くに何かを見つけた瞬間、その動きを止める。
「?どうし ──」
そして、僕の言葉が終わるより早く、彼女は視線の先 ── 2人の少女と話している白髪の青年の方に向け、その見た目からは想像もできない速さで駆け出すのだった。
作者の葉隠です!初めての作品なので、至らぬところも多々ありますが、温かく見守っていただけると幸いです。もし気に入っていただけましたら、ブックマークと☆による評価を、よろしくお願いします。




