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殺人鬼は異世界にて、かく語りき~殺人鬼は異世界で如何にして生きていくべきか~  作者: スズカズ
第二章 どうかこの偽りの魂に一条の光を
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第十八話 殺人問答

 眼前の女性が暗殺者だと気付いた瞬間、僕は後方に数メートルほど跳躍して距離を取っていた。


《マズイ、マズイぞ、坊ちゃん! ああ、クソ! だから貧民地区なんて行かない方が良かったんだよ!》


 ヴァーゲストが苦情じみたことを念話で騒ぎ立てる。だが、もはや後の祭りだ。


 何故こんなところに闇の顎門(フェンリル)の最高戦力の一角がいるというのか。


《こん畜生が! レベル1で街の外に出たらいきなりラスボスとエンカウントした気分だっての!》


 ヴァーゲストが何を言っているか分からないが、焦っているのは十分伝わってくる。


 クロムバッハ別邸襲撃。後に聞いたゲオルグとの戦闘から考えるにジューダスはおそらく到達者(マジスタ)級の異能者だ。


 上級にすら届かない僕の攻性術式では相手にすらならない。しかも今の僕はハンネとの訓練で消耗している身だ。


 以前の襲撃時は異能という概念の知識があまりなかったから実感出来なかったが、今なら分かる。


 あの時ジューダスを追い返すことが出来たのは、本当に運が良かっただけなのだ。


「ヌヌッ? 小童、どうして我の名を知っているのだ?」


「──は?」


 すぐさま攻性術式を発動出来るように身構えていると、買い物袋を持ったままジューダスが不思議そうに首を傾げていた。


「いや、待て待て、その顔には見覚えがあるぞ」


 暗殺者が昨日の朝食を思い出そうとするように、むむっと眉を顰める。


「ハハッ、そうか! クロムバッハ家の小僧か! 服があまりにも見すぼらしいのですぐには分からなかったぞ! クハハハハッ!」


 ジューダスが歯に詰まった小骨が取れたかのように愉快に笑う。


「…………」


 どういうことだ?


 こんな路地裏で出会ったこともそうだが、買い物袋を持っているし本当に偶然道端で遭遇しただけなのか?


「で、なんだ? その戦闘態勢は? 一戦交えるつもりか? 降りかかる火の粉を払うのは好きだが、今は私用の最中だ。折角買ってきたアッティを台無しにしたくはないのだがな」


 私用というか、ただ買い物しているだけのように見えるが。


「……ええっと、あの、襲ってこないんですか?」


 命を狙ってきた相手に僕は何故こんなことを聞いているのだろうか。


「ハッ、仕事でもないのになにゆえ殺しをしなければならないのだ。我は快楽殺人者ではないのだぞ」


 いや僕がむしろ快楽殺人鬼なのだが……まさか暗殺者にそんなことを言われるとは夢にも思わなかった。


「クロムバッハ家の暗殺任務は失敗に終わった。我は休暇中(フリー)なのだ。今さら小童一人を襲ったところで何の意味もない」


 その言葉通り、彼女が襲ってくる気配は依然として無い。


 実力差がある以上、騙し討ちする必要も無い。ジューダスが言っていることはおそらく本気なのだ。


《なァ坊ちゃん、襲ってくるつもりはないだったら今の内にさっさと逃げたらどうだ?》


 ヴァーゲストの提案。


 それは勿論考えなかったわけじゃないが──


《いや止めておこう。ここで彼女に背中を見せるのはきっと得策じゃない》


 僕は幼い頃に義父からサバイバル技術を教わった。

 野山で動物を殺すためのノウハウ。殺人衝動に苦しんでいた僕を助けるための苦肉の方針だ。


 かつて自衛隊でサバイバル教官をしていたこともあるという義父の教えは本格的だった。


 その時に教わった。


 山の中で熊や野犬といった動物と遭遇した場合、決して背中を見せて逃げてはならない。

 背中を見せるということは自分よりも弱い存在──つまり獲物だと認識させてしまうからだと。


《人間だって逃げれば追いたくなってしまうのはよくあることだ。相手に敵意が無いなら下手に刺激したくない》


《……まァ、そういう考え方もあるけどよォ、オレちゃんには底無し沼に黙って沈んでいくように見えるぜ》


 勿論僕の選択が正解とは限らないが……


「なんだ、我を放って密談か」


 ジューダスは狼狽える僕を見て愉快そうに笑った。


「丁度いい。小童、貴様に少しばかり聞きたいことがあったのだ。付き合うが良い」



 *****



 ジューダスに連れられて来たのは貧民街の闇市のような場所だった。


 政務商業地区の小奇麗な商店通りとは違い、混沌とした様相で屋台や露天が並んでいる。


 明らかに盗品だと思われる壺や宝石類、血の跡が付いた武具類、眼が三つある子供の大きさぐらいのトカゲ、違法植物を使った麻薬煙草、そんなのがエトセトラエトセトラ。真っ当ではない代物たちが沢山売られていた。


「うむ、ここに座るとするか」


 大きな音を立てて、ジューダスがテーブルに座った。


 闇市に併設されている飲食エリアだ。二十個以上の大きなテーブルがあり、それを囲むように食べ物系の屋台がずらりと並んでいた。闇市の食事処といったところか。


「……失礼」


 必然的は僕は彼女の体面に座ることになる。


食うか(きゅうか)?」


「……いえ、結構です」


 ジューダスの片手には、道すがら買った何の肉か分からない大量の骨付き肉。それを頬張りながら問い掛けて来た。ちなみにさっきまで持っていたアッティの果実は移動しながら食べていたので、とっくに無くなっている。


「小童よ、そう警戒するな。取って食おうというわけではない。貴様のためにわざわざ人の多いところに出向いてやったのだぞ」


 骨付き肉を丸ごと噛み砕きながらジューダスが余裕たっぷりに言ってきた。


「……正直、生殺与奪を握られている気分ですけどね。貴方は喉元にナイフを突き付けられながら平気で喋れるんですか?」


 迷った末に僕は率直な感想を述べた。


 こういう相手に腹芸は通用しない。下手なおためごかしやおべっかは逆効果だろう。


「我は好きだぞ。命を掛けた戦場での言葉の掛け合いは闘争の醍醐味の一つだ。……まあ、先程も言ったが今は貴様を襲うつもりはない。自衛以外ではな」


 その言葉に嘘はないのだろう。

 さっきも本人も言っていたが、こんな人の多いところに来たのだ。仮にも暗殺者だ。衆目に晒されながら戦い始めるとは思えない。


「そういえば、あの覇王の小娘は息災か? クハハハ、まさか転移術式とはな。あんな小娘にしてやられた物だ」


「ええ、元気ですよ。元気過ぎて困るぐらいです」


 言いつつ僕は周囲の警戒を怠らない。

 僕たちのテーブルの周りには少ないが数名の客がいる。ノアが覇王の子孫だということはなるべく聞かせたくない。


「心配するな。こんな場末の闇市で、他人の話しに聞き耳を立てる愚か者はいない。仮に聞こえたとしても何かの聞き間違いだと思うだろうさ」

 

「……もしかして報告していないんですか? 結構、重大なことだと思うんですが」


 てっきりノアの存在は外部──闇の顎門(フェンリル)にバレているのだと思っていたが、どうやらそれは杞憂だったようだ。


 助かる話だ。

 今後はノアが暗殺者に襲われることも考慮しなければならないと思っていたからだ。


「クハッ、一介の暗殺者の言葉など誰が信じる。しかも、あの死んだはずの覇王だぞ? あの『仲介屋』の連中がどこまで掴んでいるかは知らぬが、これほどの大物を他の連中に渡せるものかよ」


 『仲介屋』だって?

 一体何のことだ?


「……それはどうも。そのまま黙っていただけると助かります」


「我が失敗した以上、おそらく次に出てくるのはウラの連中だろうな。奴らは厄介だぞ。せいぜい気を付けることだな」


「裏? それは一体どういう意味ですか?」


 僕か疑問を投げ掛けるとジューダスは意外そうな顔をした。


「なんだ、聞いていないのか? 元来、闇の顎門には二種の暗殺者が存在している。一つは顎門あぎと──表側と呼ばれる連中だ」


 顎門。

 そういえばクロムバッハ邸を襲った時もヴァーゲストとそんな会話していたような気がするな。


「表側の異能者は、主に正面戦闘による暗殺を生業にしている。相手の邸宅に正門から押し入り、護衛ごと標的を惨殺する。暗殺とは名ばかりの鏖殺(みなごろし)だ」


 ジューダスは骨付き肉の最後の一つを口に放り込みながら言葉を続ける。


「我々、顎門側の人間は敵対者に『名乗り』を義務付けられている。騎士の決闘の如く、戦闘の直前に己が名を宣言するのだ。……なんだ、その怪訝そうな顔は? 我は伊達や酔狂で名乗っているわけではないのだぞ」


 ……いや、てっきり伊達や酔狂で自らの名前を宣言しているのだと思っていた。


「……妙な話ですね。正面から攻撃を仕掛けるにしろ、名乗りを上げるにしろ、暗殺者なのにむしろ積極的に目立つようにしているみたいだ」


「ほう、良い着眼点だな。……では次は裏側──尾についてだ」


 リスクとリターンがまるで合っていない。

 どういうことだろう?

 目立ったところでデメリットしか生まないはずなのに。


「連中は顎門とは違い、決して表側には姿を表さない。毒殺、不意打ち、事故や自殺に見せ掛けた偽装工作。影から現れ、煙のように消えていく。まさしく正当な暗殺者だ」


 それは一般的な暗殺者のイメージだ。そうか、だからオモテとウラなのか。


「奴らは絶対に姿を見せない。目撃者を残さない。正面戦闘と名乗りが顎門の責務ならば、尾の主目的は正体不明の暗殺だからだ。残すのは目標ターゲットの死体のみ」


 アトレイア大陸に遥か昔から根付いていたされる伝説の暗殺結社。

 多種多様な暗殺手段を持っているからこそ、今まで畏怖され続けてきたのだろう。


「……ひょっとして、貴方たち顎門オモテ側が正面戦闘からの暗殺にこだわるのは、ウラ側を援護するためなのでは?」


「……ほう」


 ジューダスが僕の言葉に聞き、感心する。


 暗殺が目的なら正面戦闘に固執する必要はない。むしろ相手に警備を強化されて暗殺が失敗に終わる可能性が高くなるだろう。


 聞いていると、顎門側はデメリットを承知で正面からの暗殺にこだわっているように思る。


「顎門が正面から暗殺を仕掛けて陽動し、尾が背後から奇襲をかける。そう想定するなら不利益を承知で正面戦闘を仕掛けることにも筋が通る」


 正面から敵が襲ってくるならば、必然的に注意はそちらに向く。背後の警戒が薄くなるのは道理だ。


「……大した物だな。小童の分際で随分頭が回ることだ。貴様の言う通り、オモテとウラが二つに分かれている本来の意義はそこにあった」


 ジューダスは妙なこと言った。


「本来の意義は? 今は違うんですか?」


「嘆かわしいことにな。陸軍と海軍をお互いを忌み嫌うように、一つの国にある二つの人種が争い合うように、長い歴史の末に顎門と尾は完全に分断されてしまっている」


 分断、組織内対立ということか。


「組織を作り上げた大導師も嘆いているだろうさ。顎門と尾が完璧に連携すれば、覇王すら暗殺することが可能だというのに」


 自負と嘆きの混じった声音。

 覇王の暗殺犯は闇の顎門だという噂があったが、それは本当なのだろうか。


「……だから次に襲ってくる暗殺者はウラの人間だと言うんですね」


 顎門と尾が組織内で派閥争いのような事をしているのであれば当然か。


「我の暗殺が失敗した以上、手番は尾に回ったと見るのが妥当だ。故に、我が暇を持て余しているわけだがな。……フン、クロムバッハ家(きさまら)は他の誰でもない我の獲物だ。そう簡単にやられてくれるなよ」


 肉食獣が獲物を見付けたような強い視線だった。少し背筋が寒くなる。


《あァもう! いつまで仲良くお喋りしてんだっての! 心臓に悪いぜ!》


「ヴァーゲスト?」


 突然、脳内にヴァーゲストの念話が響いた。


「……ヌっ?」


 僕から光の粒子が漏れ、ヴァーゲストが実体化する。しかも黒妖犬形態じゃない。人間の姿だ。


 どうしたんだ?


 普段は人前に一切出ないのに、こんな人の目があるところに出てくるなんて。幸い周囲の人間がヴァーゲストに気付いた様子はない。


「……何者だ、そこの幼女は」


 ジューダスが突然現れたヴァーゲストを怪訝な目で見ていた。そうか、ジューダスは黒妖犬の時のヴァーゲストとしか戦っていないから今の姿は知らないのか。


「オレちゃんのことはどうでもイイんだよッ! そこの戦闘狂の暗殺者! 坊ちゃんに用があったんだろ!? いい加減に本題に入れや! じゃなきゃ心配でオレちゃんの心臓が止まるっての!」


「ちょっ……、ちょっと、ヴァーゲスト?」


 怒りに任せたまま叫びつつ、ヴァーゲストが僕の座っている席──膝の上に飛び乗ってくる。


「ほう、その魔素形成はあの時の使い魔──犬畜生か。人間の姿にも化けれるのか。器用な……いや、むしろ()()()()()()()?」


「……オレちゃんは犬じゃねェ」


 ヴァーゲストはジューダスの疑問に答えることなく睨み付けるだけだった。


「ハッ、まあいい、せっかくだ。話しを戻すとしよう」


 ジューダスは、テーブルの上で手を組み顎を乗せた。


「用件とは他でもない。小童、貴様に聞きたいことがある」


「僕に?」


 一体何だ?

 暗殺者にわざわざ聞かれるようなことなど──


「──()()()()()()()()()()()()()?」


 それはジューダスの純粋な問い掛けだった。


「笑っていた? そんなこと……」


 あっただろうか。

 あの時は色々なことがあったし、自分の身を守るのに精一杯で──


「いや、そうか、あの瞬間か」


 クロムバッハ別邸の最初の戦闘。

 ヴァーゲストが屋敷に吹き飛ばされた時。ジューダスが僕の目の前に立ち、最後の一撃を振り落とそうした時だ。


 あの時、ジューダスは何かに驚いて手を止めた。


「貴様はあの瞬間に笑っていた。間違いなく心の底からの愉悦の笑みを浮かべていた」


 見間違いではないだろうかと僕は思ったが、ジューダスの言葉は確信に満ちていた。


「……あの時のことはよく覚えていません。大方死の間際に混乱しているのが、そう見えただけではないですか?」


 笑いというのは一種の防衛本能だと聞いたことがある。過度なストレスに晒された人間が、笑うべき場面ではないところで笑ってしまうのはありがちなことだ。


「我は長い間、この仕事(あんさつ)をしている。恐怖と混乱の極みで浮かべる笑みの違いぐらい分かる。言っただろう、貴様のアレは心の底からの愉悦だったと」


 愉悦。

 そんなことを言われても皆目見当も付かない。


「……ふむ、本人に自覚無しか。やはり、ということは……」


 テーブルに手を組んだまま、何事かブツブツとジューダスが呟いていた。


「小童、もしや貴様は転生者か?」


「なっ!?」


 虚を衝かれた質問だった。


「……いえ、それは」


 どう答えるべきだろうか。


 転生は帝国法によって極刑に規定されている。露呈すれば関係者諸共、重罪として罰せられる。


 相手が法律とは乖離した存在とはいえ、クロムバッハ家の不利益になる情報をわざわざ言ってしまっていいのか。


「フン、言いたくないのであれば言わなくていい。今のでおおよそ察しがついた。……しかし、そうか、転生者ならば疑問はいくらか氷解する。

 小童、貴様は()()()()()()()()()


「……()()()()()()()()?」


 それは僕の殺人衝動のことを言っているのだろうか。


 長年僕を苦しみ続けたこの罪業を。


 何故、暗殺者である彼女がそれに気付くのか。


「貴様の囚われている方向性とやらは知らぬがな。難儀なものよな、小童よ」


「……さっきから貴方は一体何を言っているんですか」


 要領得ない。

 ジューダスは何を気付き、何を理解したというのか。


 今まで僕は、この呪われた衝動をコントロールしようと必死に努力してきた。


 何かを、他者を、殺すことでしか満たされない昏い炎を。


 赤の他人である彼女に理解出来るはずない。


「──()()()()()()()()()()()


 ()()()()()()()()──?


「お、オイ、坊ちゃん!?」


 いつの間にか僕は立ち上がっていた。膝に乗っていたヴァーゲストを蹴飛ばすように立ち上がっていた。


「クハッ、冷静沈着に見えて、やはりそこが貴様の鬼門か。凄まじい形相よな」


 なんだ?

 今、僕は怒っているのか?


 自分の感情が、自分でもよく分からない。


「暗殺者である貴方が今まで何百人、何千人殺してきたかは知らない。けれど僕は相応の覚悟で死を積み上げてきた」


 そうだ。


 ()()()()()()()()()()()()()()()


 殺すだけなら人混みにトラックで突っ込むか、建物にガソリンでも撒けばいい。


 僕がやってきたのはそんな軽々しい軽率な行為ではない。


 この世から消えてもいい人間を調べ上げ、誰にも気付かれずに秘密裏に処分する。


 殺人鬼(ひとでなし)が、人であるための足掻きだ。


「逆だ。貴様は死という一面に固執しているだけなのだ」


「……固執しているだけ?」


 意味が分からない。

 死は死以外の何物でもないはずだ。


「死とは生の一部分。生もまた死の一部分。両者は硬貨の裏表だ。硬貨の半分だけを見て、全てを知ったつもりになるのは愚者のすることだ」


 一理ある……のだろうか。


 僕の人生は殺す事、本性を隠す事に終始してきた。殺人鬼としての自分を隠すために、人畜無害な人間を演じ続けていた。


 生きるということが他者と向き合うことならば、それを蔑ろにしていなかったとは到底言えない。


「貴様が新たな生の一部分と直面した時、死の裏側もまた知ることになるだろう。故に、貴様はまだ死を理解していないのだ」

 

 まるで禅問答だ。


「よく分からない。……そもそも貴方は何故僕にそんな助言じみたことを言うんですか?」


「ハッ、こと闘争という面で気になったことは放っておけぬ(タチ)でな。我は我が殺す相手が万全でなければ困るのだ。闘争とは全存在を賭けた究極の対話。どちらかに不備があれば、興醒めも良いところだ」


 ジューダスも彼女なりの理屈で動いているのか。

 闘争などという僕には理解できない事柄だが。


「──では、僕からも一つ聞かせてもらっていいでしょうか」


「ほう?」


 僕が言うとジューダスは意外そうな顔をした。

 さんざっぱら僕のことを聞かれたのだ。こっちが質問したって文句はないはずだ。


「貴方が人を殺す理由は何ですか?」


 それは僕が前の世界から幾度なく抱いてきた疑問。

 心の底からの問いだった。


 ──何故、僕は誰かを殺すことでしか生きられないのか。


 僕は殺人者を見付けては、時折同じ質問を繰り返して来た。それは主に標的を殺す最後の瞬間であったが。

 時には、僕と同じような殺人鬼(シリアルキラー)にすら問うたことがある。


 しかし結局は答えが得られることはなかった。


「殺す理由か。フン、下らぬことよな。我の本質は闘争。闘争ことが我の本懐。殺人はその過程の副次的な結果に過ぎん」

 

 われ闘争、故に我存り。

 彼女は誰にはばかることなく、そう宣言した。


 まさしく戦闘狂。どこまでも兇人だった。

 しかしその強靭な意志は、僕にとって金剛石(ダイヤ)の輝きのように見えた。

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