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殺人鬼は異世界にて、かく語りき~殺人鬼は異世界で如何にして生きていくべきか~  作者: スズカズ
第二章 どうかこの偽りの魂に一条の光を
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第十三話 現代術式戦闘

「……というわけで、今日から訓練を開始するわよ」


 翌日、ハンネに連れられた僕は、クロムバッハ本邸ではなく屋外の練兵場に来ていた。


「ハンネ姉様、どうして室内の練兵場ではなく屋外なのですか?」


 屋外の練兵場は、クロムバッハ本邸の外にあった自然公園のようなエリアにあった。


 当然の如く、こちらも相当広い。


 整地された土のせいか、イメージ的には学校のグラウンドに近いだろうか。


「剣を振るだけなら本邸の方でも出来るけれど、今日は初日だから色々と試してもらいたいことがあってね」


「うむ、攻性術式を使った訓練となると屋内では危険でござるからなぁ」


 そうか、僕としてはハンネとシンゲンの訓練に付き合わせてくれればそれで良かったのだが、わざわざ僕に合わせてくれたようだ。


「姉様、シンゲンさん、ありがとうございます。……ところで一体何をするつもりなんです?」


「そーね、まずは……」


 ハンネが意味ありげに僕を見て、


「そこのワンコロ! 聞いてるんでしょ! 出てきなさい!」


 突然一喝してきた。

 びっくりしたが、僕に対して言ったわけではない。


 言った先は──


「……アッハイ、ナンスカ」


 渋々といった様子で、黒妖犬のヴァーゲストが現れる。


「ネフェに一体化のことを詳しく聞いたわ。ワンコロ、なんでもアンタの異能を使えるようになっているらしいわね」


「……オレちゃん、犬じゃないんですけどねェ」


 ハンネにそっぽを向きながら、ヴァーゲストが答えた。


「犬だろうが猫だろうが魔獣だろうがどうでもいいわよ。アンタと一体化してアインの成長に悪影響はないんでしょうね?」


 僕が書物で調べた限りでは、異能の才能が発現し始めるのは十歳前後──つまりは第二次性徴期からがほとんどだそうだ。


 ハンネは、僕の中にヴァーゲストがいることでクロムバッハの異能の血筋に影響が出ないかを危惧しているのだろう。……まあ、僕は本当はクロムバッハ家の人間ではないので異能の才能が開花するとは限らないのだが。


「オレちゃんは外付けハードディスクみたいなモンだからな、坊ちゃんに影響を及ぼすことはねェ。本体がデータを読み込むことはあっても、勝手に書き換えるなんざ普通は無理だッつーの」


「……はーどでぃすく? 一体どういう意味か知らないけど、アインに影響はないってことね。良かったわ」


 ハンネは安心したように笑った。


「ところでワンコロ、比率はどれぐらいよ」


 比率?

 何のことだ?


「アン? 身体強化術式のことか? それならオレちゃんの魔素の三割程度だな」


「ふぅん、まあ基本的な遠距離単独型の構成比ね」


「……あの姉様、その構成比とは何のことなのでしょう?」


 僕が聞くとハンネは上機嫌そうに腕を組んだ。


「そうね、初日だしアインには現代術式戦闘の基本を教えようかしら」


「現代の術式戦闘ですか?」


「そもそもアインはモーリッツ・パラケルという学者が四百年前に魔素原子(アストラル)を発見したっていう話は知っているかしら?」


「はい、ええと──」


 帝国成立以前は、超常的な現象を引き起こす人々のことをいわゆる魔術師や魔法使いと呼称していた。


 しかしモーリッツが魔素原子(アストラル)という概念を発見し証明したことで、一部の者たち秘匿特権だった超常の力は世間一般にも広く知られ、魔法使い──異能者は世界中に爆発的に増加した。


 つまりは異なる能力を持った普通の人間となったわけだ。


 今ではモーリッツの成果は新領域創造学(アンノミストリー)と呼ばれる学問になっていて、五大強国を含めた各国によって積極的に研究がされている。


 僕がその説明をすると、ハンネは腕を組んだまま上機嫌そうにうんうんと頷いた。


「うふふ、アインは良く勉強しているわね。偉いわ! 流石、クロムバッハの子ね!」


 だから僕はクロムバッハの人間では……いや、もういいか。内心で突っ込むのも疲れた。

 

「当たり前だけど、異能者が当然の存在になったせいで戦争の世界は様変わりしたわ。大砲のような火力を持った人間がそこらじゅうにいるような物だからね。それは個人間の闘争でも同様よ。さてアイン、異能に置いて一番汎用性が高いと思われる術式は何かしら?」


 一番汎用性が高い異能?

 それは魔法のように火球を敵に放つ攻性術式ではなくて──


「……身体強化術式でしょうか?」


「大正解! 凄いわ、よく分かったわね! 抱擁(ハグ)しちゃう!」


「ちょ……ちょっと、やめてください、姉様!」


 一見すると攻性術式は凶悪極まりない存在だ。


 僕の元いた世界で例えれば、一般人が常に拳銃やライフル銃を持っているような状態に近いだろう。

 もしも争いになった場合は太刀打ちできないように思われる。


 しかしそれは、敵対する相手が普通の運動能力を持っている場合だ。

 

 たとえ戦いの場面に置いて銃火器に匹敵する火力を持っているとしても、その相手が銃弾を見てから回避するような人間だとしたらどうだろう。


 一足飛びで十メートル以上も跳躍し、拳一つで岩壁を粉砕する超人のような身体能力。

 それらが相手では銃火器程度の火力では心許ない。


「攻性術式は屋内戦闘などの限定条件下では使いにくい。逆に身体強化術式は、ただ単純に運動能力が強化されるという性質上、あらゆる状況で腐ることなく利用可能です。……そうですよね、姉様?」


「そういうことね。だから、まず異能を習得する上で基本となるのは身体強化術式なのよ。……でもね現代の異能術式戦は特化型が主流なの」


「特化型ですか?」


「そうよ。身体強化術式を特化して極めたタイプ。攻性術式を特化して極めたタイプ。そのどちらかに偏って修練することが最善だと言われているわ」


 それは一体どういうことだろうか。

 身体強化術式の有用性、利便性は絶大だ。

 闘争において敵よりも優れた身体能力を発揮することが出来れば、あらゆる局面で優位に立てるはずだ。


 普通に考えれば攻性術式と身体強化術式、両方とも満遍なく鍛えそうなものだが。


「ふふ、考えてるわね。……じゃあ、ここで話を最初に戻すわけだけど、異能という概念が当たり前になって以来、異能者は爆発的に増えたわ。その結果どうなったと思うかしら?」


 異能者が増えた結果?

 おそらく異能の質自体はさほど変わらないだろう。千人に一人が、百人に一人になったとして考えられる事柄は──


「──そうか、()()()()()()()()()()()()


「またも大正解よ! やーん、アインが賢くてお姉ちゃん嬉しいわ!」


 ハンネがまた抱き付いて来るが、流石に今度は避けた。

 

「……あら、寂しいわね。でも、これもごく単純な理屈ね。百の水が入っている壺があるとして、それを五十と五十に分けて二つの器に注ぐのではなく、たった一つの器に百を注げばいいのよ。それだけで質は二倍になるわ」


 なるほどな。

 この場合どちらかが近距離戦、遠距離戦が不得手になるわけだが異能者はたくさんいるわけだから、そのどちらかを負担してもらえばいい。


「つまりは前衛と後衛のような考え方になるわけですね」


 前衛者が敵と正面から戦い、後衛者が後ろから攻性術式を仕掛ける。


 実に合理的だな。

 昔ならば異能者の数が少なったから、両方を自らで負担するしかなかったわけだ。

 

 しかし当然か。

 

 闘争という生き死に直結する事柄だ。状況の変化に合わせて、洗練せざるを得ないのだろう。


「さきほど言っていた構成比というのはそのことなのですね」


「ええ、いくら異能者が増えたといっても、軍に所属しないような単独の異能者たちは流石に極端な魔素因子の割り振りが出来ないのよ。攻性術式を主とする異能者は特にね。そもそも異能者は──」


 こうして初めての訓練は座学を中心に行った。

 意外というか何というか。ハンネは教えるのが上手だった。


 どんな小さなことではハンネは過剰に褒めてくれる。(それは弟思いの一面でもあるのだろうが)


 しかし、どんなことであれ褒めることは教育の基本だろう。

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