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殺人鬼は異世界にて、かく語りき~殺人鬼は異世界で如何にして生きていくべきか~  作者: スズカズ
第二章 どうかこの偽りの魂に一条の光を
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プロローグ どうかこの偽りの魂に

 その日、私は泣いていた。

 リラヘール川の河原で、ずっと泣き続けていた。


「──ねぇ、アンタさ、なんでそんなに泣いているんだい?」


 ふと気付くと、栗色の髪をした同年代の女の子が目の前に立っていた。


「……お父、さん……が、ぐすっ、この前の行商で……盗賊に……襲われて……」


 嗚咽が混じって、私は最後まで言葉を発することが出来なかった。


「む、そっか、アンタは……最近噂になってるフェムシュタット家の子なんだね」


 女の子は何かを納得したのか、うんうんと頷く。

 栗色の髪の女の子は、私に向かって片手を差し出した。


「アタイの名前は、エーカ・イェニアだよ。よかったらさ、アタイと一緒にどこか遊びに行こうよ」 


「遊びに……?」


「そうそう、アンタさ、最近ずっとここで毎日泣いてるだろ。……アタイの家、ここのすぐ近くだから、嫌でも目入ってさ」


 栗色の髪の女の子──エーカちゃんは、私の腕を強引に引っ張って歩き出した。


「え……あの、どこに行くの?」


「ここ以外ならどこだっていいよ。ほらほら、こんなとこでずっと泣いてると気が滅入るよ」


 少し強引だが、優しい手だった。

 

 私はエーカちゃんに手を引かれて、カサキヤ村の田舎道を歩き出す。


「さてと……とりあえずどこに行こうかな。っと、そういえば聞くの忘れてたよ。アンタの名前は?」


「……えっと、私の名前はアリエッタ・フェムシュタット……です」


「敬語は無しだってば。アリエッタ、アンタさ……アタシと同じぐらいの歳でしょ?」


「今年で七歳です……ううん、だよ」


「お、そっか、アタイと同い年だね。へへへ、奇遇だね」


 私はエーカちゃんに引っ張られて、カサキヤ村の田舎道を歩き出す。


「そうだ! アリエッタ、アンタさ、止まり木亭のアッティルト食べたことある?」


「ううん、私、この村には最近来たばかりだから……」


「そっか。なら尚更だね。あそこのアッティルトは絶品なんだよ。まあ一つだけ問題があるんだけど……」


「問題?」


「そう。止まり木亭のメリドールおばさんは凄く良い人なんだけど、あそこには悪ガキが──」


「おい! 悪ガキってのは誰のことだよ、馬鹿エーカ!」


 突然、私とエーカちゃんの前に一人の男の子が立ち塞がった。


 額に傷のある男の子だ。


「うげ、噂をすればだ。別にアンタのことなんか呼んでないってば、馬鹿ガル!」


 ガルと呼ばれた男の子が、エーカちゃんの言葉を聞いてむっとする。


「へんだ、馬鹿って言う奴の方が馬鹿なんだぞ、馬鹿エーカ」


「へぇ、じゃあアンタの方が馬鹿って言ってるからそっちの方が馬鹿確定だね、やーいやーい」


「なにおう!」


 カサキヤ村の田舎道でエーカちゃんとガル君は言い合いを始まる。

 その様子を見て、私は子猫の喧嘩を連想した。


「ほらアリエッタ、こんなやつ無視して先行こ」


「う、うん……」


 エーカちゃんがまた私の手を引っ張って、田舎道を歩き始めた。


「ねぇ、エーカちゃん、さっきの男の子って……」


「ん、ガルのこと? なんか知らないけどさ、アイツってアタイにいつもちょっかい掛けてくるんだよね」


「ふーん、そうなんだ。……ちょっかいってどんなことなの?」


「うーん? そこら辺で拾った芋虫やミミズとか見せて脅かしたりとか? アタイ、猟師の娘だからそんなの全然平気だけどね。……はぁ、そういやこの前なんかメリドールさんにもらったお古のスカートを着たんだけどさ、一日中ずっとスカートめくって来るんだよね、ガルの奴」


 エーカちゃんがうんざりとした様子でため息を付いた。


「あーあ、昔はあんな奴じゃなかっだけどなぁ」


「ふぅん、そうなんだ」


「ここ最近はずっとかな。この村にアタシと同い年の奴なんてガルぐらいしかいなかったからさ。昔からよく一緒に遊んでたんだけど、半年ぐらい前から急にそんな感じになっちゃってさ。……うーん、なんでだろ」


 エーカちゃんの声音は少し残念そうだった。


 私は思った。


 それってもしかして……


「……エーカちゃん、ちょっと待ってて」


「え? どうしたのアリエッタ?」


 私はエーカちゃんが握っていた手を離して、反対方向に向かって歩いてたガル君の方に近づく。


「あん? なんだよ、お前?」


 私がガル君の服の裾を掴むと、彼は怪訝な顔をして振り向いた。……私より結構背が大きいからちょっと怖いかな。


「あ、あの、貴方は……えっと……」


「んだよ、言いたいことがあるならハッキリ言えよな」


 中々言葉を出てこない私を見かねて、少し苛ついた様子でガル君が言ってくる。


「……好きなの? エーカちゃんのこと」


「はぁ!? な、な、何言ってんだ、お前!?」


 私の言葉を聞いてガル君の顔が真っ赤に染まった。分かりやすいぐらいに動揺している。


 あ、やっぱりそうなんだ。


 うんうん、やっぱり男の子は好きな女の子に悪戯しちゃうもんね。


「あのなぁ、なんで初めて会った奴がそんな──」


「……自分の大切な人が……明日も同じように生きているとは……限らないんだよ」


 私は心の底から思ったことを正直に言った。


 それは私がずっと後悔していることだった。


 あの日、父と会話出来るのが最後だと知っていたならば、もっと私は……


「お前……」


 ガル君が驚いた様子で私を見た。


「……オレの名前はガルド・キリーク。覇王の止まり木亭の次男坊だ。お前の名前は?」


「アリエッタ・フェムシュタットだよ」


「そっか、やっぱりお前はフェムシュタット家の……」


 ガル君は意味深に呟いた。


「お前ん家の事情はよく知っているよ。母ちゃんがお前の親父さんと幼馴染でさ。……お前の親父さん、残念な事件だったな」


 私を気遣う優しい言葉だった。

 やっぱり私の思った通り、この男の子は優しい気質を持っているみたい。


「……じゃあ、ガル君、私のお願い聞いてくれるかな?」


「お、おい、ちょっと!?」


 私はガル君の手を引っ張って、エーカちゃんの元に戻った。


「はぁ? アリエッタはともかく、なんでアンタがこっち来るのさ?」


 エーカちゃんが、私に引っ張られてきたガル君を見てうんざりとした表情になる。


「いや別に、俺は……」


「ガル君、素直になった方が良いよ」


「……うぐっ」


 また悪態を吐きそうになったガル君を私が止めた。

 ガル君が私とエーカちゃんの顔を交互に見る。


「……むむむ」


 ガル君が唸る。


 何事かを葛藤している。

 きっと私の言葉を聞いて迷っているのだろう。


 意地を張るのは簡単だ。でも私の事情や境遇を考えて迷っているのだ。やっぱり他人のことを思いやれる優しい男の子だと思う。


「……悪かったな、エーカ」


 ガル君がボソリと謝罪の言葉を口にした。


「はぁ? 何よ、いきなり?」


「ちょっと前からさ、エーカに色々と嫌がらせしてきただろ。……だから、悪い、ごめん。そんなつもりなかったんだけど、素直になれなかったんだ」


「……ふん、別にアタイはアンタの嫌がらせなんて大して気にしてなかったけどね」


 エーカちゃんは強気に言ったが、ガル君の謝罪の言葉を聞いてどこか嬉しそうだった。


「アタイ、がさつだからさ。ずっとガルに嫌われたのかと思ってたよ。でも、なんだ、アタイと遊びたいなら普通に話し掛ければ良いだけじゃないか」


「だって、周りの目もあるしよ、お前はお前でどんどん女っぽく──いや、なんでもねぇよ、ただ素直に話し掛けるのが恥ずかしかっただけだって!」


 ガル君が途中で慌てて発言を切り替えた。


「……ん? お前がなんだって? 途中のところよく聞き取れなかったんだけど?」


「何でもねぇってば! 気にすんな!」


 ガル君が真っ赤になりながら声を上げる。


 うーん、別に言っちゃっても良いと思うんだどなぁ。どうやら男の子というのは中々素直になれないモノらしい。


「エーカちゃん、ガル君──ううん、エーちゃん、ガーちゃん、ほらほら一緒にいこ」


 右手にエーちゃん、左手にガーちゃん、私は二人の手を繋いで歩き出した。


 嬉しいな。

 私は二人の中を取り持つことが出来たのだ。


「あはは、良いねアリエッタ。お詫びにガルに、止まり木亭のアッティルト沢山奢って貰おうか」


「ちょ、ちょっと待ってくれよ! そんなことしたら今月のオレの小遣い減っちまうぞ! 母ちゃんにどやされちまう!」


 私たちはカサキヤ村の田舎道をわいわいと騒ぎ立てながら歩き続ける。


 涙はもう出ていない。

 あんなに泣いても泣いても延々と流れ続けていたのに。 

 

 不思議だ。

 

 いつのまにか私の中にあった悲しい気持ちはどこかに消え去っていった。

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