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殺人鬼は異世界にて、かく語りき~殺人鬼は異世界で如何にして生きていくべきか~  作者: スズカズ
番外編 カサキヤ少年探偵団事件簿 黒衣の幽霊
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番外編 黒衣の幽霊④

 事の発端はカサキヤ村の成立からだ。


 リラヘール大河のすぐ近くに出来たカサキヤ村は、そもそもユニゼラル家が作った村だそうだ。


 そう、この極東地方に大都市ユニゼラルを作った、あのユニゼラル家だ。

 

 カサキヤ村が成立したのは四百年以上前。帝国草創期よりも少し前だ。


 当時のイシュール地方は、他の地方と御多分に洩れず群雄割拠の戦乱時代を迎えていた。


 様々な地方領主たちや小国が、リラヘールの実権を握ろうと激しい争いを繰り広げていたんだ。『リラヘールは水と血潮で出来ている』……という格言もあるぐらいだね。


 ユニゼラル家は後の覇王となるクライン・ダインスレイグの援助を受けて、イシュール地方を支配することになるんだけど今は置いておこう。


 この話で重要なのは、そのユニゼラル家の本拠となる屋敷がカサキヤ村にあったということだ。


 そう、その通り。


 アリエッタちゃんは察しが良いね。


 そのかつての屋敷があった場所は、この集会所なんだ。


 集会所が建築されたのはおおよそ百年前。


 さらにその三百年前はユニゼラル家の屋敷が立っていたんだ。


 ここで僕は一つの仮説を立てた。


 ユニゼラル家が屋敷を建築した時期は、周辺地域との小競り合いが激しい戦乱の時代だった。


 当然、屋敷は砦のような役割も担っていただろう。


 屋敷であるならばユニゼラル当主以外の親族も住んでいたはずだ。


 であるならば、緊急時に置ける逃走用の隠し通路のようなモノが存在しているのではないか?


 関係者しか知らない秘密の抜け道だ。


 古今東西の物語で定番のお話だね。


 実際にこの仮説は正しかったわけだけど、ではどうして現代のカサキヤ村の集会所にも、その秘密の抜け道が存在しているのか?


 ここで話を戻そう。


 カサキヤ村の集会所が建築されたのは百年前。つまりは帝国崩壊の混乱期だ。


 集会所を立てた人間は建設時に、秘密の抜け道の存在に気付いたのではないか?


 帝国が崩壊して世情がどうなるかも分からなかった時期だ。


 秘密の抜け道を知ったならば、再利用したとしてもおかしくないだろう。



 *****



「以上が僕の考えていた推理だね」


 僕がひとしきり語り終えると、ノアと少年探偵団の面々は「おぉ〜」と感嘆の声を上げる。


「なるほどね! それが幽霊が消えた理由だったんだね、アイ君!」


「まあ、ありきたりな結果だけれどね」


 これがミステリーなら、密室殺人のトリックが超能力だったと明かされるぐらいのどうしようもなさだ。三文小説もいいところだろう。


「でもよ、ロギンスのおっちゃんが見た黒のローブの連中が消えた理由は分かったけどさ、結局そいつらは一体何者だったんだ?」


 そう、結局はそこに行き着く。

 人が消えたトリックが分かっても、そもそもの犯人が判明していないのだ。


「これが昔のユニゼラル家が作った秘密の抜け道だとしたら、黒衣の幽霊たちの正体は貴族の関係者なんでしょうか?」


「その可能性は低いだろうね。ネフェラに確認したけれどクロムバッハ家は秘密の通路の存在を知らなかった。この地域の治安を管理するクロムバッハ家が知らないのであれば、貴族階級の人間たちのほとんどは知らないだろうね。ユニゼラル公国──イシュール地方は大陸の戦火からは比較的影響が少ない地域だ。使う理由もないから徐々に忘れられていったんじゃないかな」


 ユニゼラル家の本拠が移転したのは何百年も前の話らしい。ひょっとするとユニゼラル家すら秘密の抜け道の存在自体を忘れてしまっている可能性がある。


「……実のところ、黒衣の連中の目星は付いてるんだ。いや逆かな。反則じみた話だけど、最初から幽霊の正体に気付いていたからこそ秘密の抜け道なんていう発想に思い至ったんだよ」


「えぇ!? どういうことだよ、アインス兄ちゃん!?」


 ガルに自らの推理を語る前に、僕は集会所に現れた隠し通路の階段を調べてみた。


「……やっぱりだ。この埃の積もり方。少なくとも数ヶ月は使っていない。ガル君、たしか最後に幽霊が目撃されたのは三ヶ月前が最後だったね?」


「ああ、俺たちが調べた限り、ロギンスのおっちゃんが目撃したのが最後だぜ。それ以来、幽霊の目撃証言はぱったり止まっているんだ」


 僕の予想通りだ。

 だったら今この隠し通路は使われていないはずだ。


「ふふっ、それじゃあせっかくだし僕の二つ目の推理が合っているのか確かめに行こうか」

 

 危険性は低いだろうし、この子たちを連れて地下に入っても大丈夫だろう。


《ノア、たぶん大丈夫だと思うけど、一応最後尾で警戒をお願い出来るかな》


 少年探偵団の面々を怯えさせないようにノアに念話で伝える。


《ん? 分かったよ、それじゃあ警戒しておくね》


 僕たちは一列になって階段を降りて行く。


 僕とヴァーゲストが先頭、中間がガルエーカアリエッタ、最後尾がノアだ。


 隠し階段を降りた先は坑道のトンネルのような空間になっていた。


 どうやら随分と長い通路らしい。

 視界向こう側は暗闇に包まれている。


「……あわわ、アタイ暗いところ苦手なんだよぉ」


「お、おい! エーカ、そんなに引っ付くなって!」


「あ、てへ、つまづいちゃったぁ」(棒読み)


「うひゃぁぁぁ!」


「うぉぉぉ! 背中に抱き付くなぁ!」

 

 怯えるエーカが涙目でガルにしがみついていた。

 

 どうしてだが分からないが、ガルの顔は真っ赤に染まっていた。恐怖による物だろうか?


「うーん、青春だねぇ」


 最後尾のノアがその様子を見て、感慨深げに呟く。


「お、坊ちゃん、もう少し前に進んだらナニカの障害物があるみたいだぜ」


 五分ほどトンネルを歩いた頃合いだろうか。


 僕と一緒に先頭を歩いていたヴァーゲストが何かを発見したようだ。聴覚だけではなく夜目も利くようだ。


「……これは扉のようだね」


 僕たちに前に現れたのは頑丈そうな木材で作られた木の扉だった。


「あれ? この扉、釘で打ち付けられてるね」


 ノアの言う通り、扉は何重もの釘で完全に閉鎖されていた。


「ここまで一方通行だったからこれ以外に道は無いようだね。……みんな危ないからちょっと下がって」


 僕は閉鎖された扉に向かって右手を向け、中空に浮かぶ魔法陣を作り出す。


「──歪なる影の独歩(シャッテングロウ)


 魔法陣からドリルのような螺旋状の物体が射出され、木扉を破壊した。


 ヴァーゲストと一体化して以来、様々な異能を試して来たが攻性術式ならばこれが一番しっくりきた。


「うおお、すっげぇ! 本物の攻撃異能だ!」


 破壊された扉を見て、ガルが興奮した様子で叫ぶ。


「わぷっ、煙が……」


「さて、扉の向こうは……」


 扉を壊した衝撃でトンネル内に土埃が舞い上がる。数秒して視界がはっきりしていく。

 破壊された扉の向こうに現れたのは二十メートル四方の開けた空間だった。


「え……?」


 一番最初に視界に入ったモノを見て、ノアが驚く。

 しかし僕は違う。予想してた通りの光景だったからだ。


「ええっと、これって牢屋ですよね?」


 アリエッタの疑問の声。

 そう、そこにあったのは《《人間を閉じ込めるための檻、鉄格子だった》》。


「やれやれ、大方予想通りのモノが現れたね」


「なあ、アインス兄ちゃん、これってどういうことだよ? この牢屋はなんなんだ?」


「単純な話さ。ここは奴隷商人たちの隠れ家なんだよ」


「はぁ、奴隷商人だって!?」


 僕の言葉を聞き、みんなが一様に驚く。


「ちょ、ちょ、アインスにぃ、どういうことなのさ!?」


「最初に黒衣の幽霊の話を聞いた時点でピンと来たんだよ。その連中っていうのは奴隷商人たちなんじゃないかってね」


 そもそもユニゼラル公国では奴隷売買は禁止されている。


 近隣で人攫いをしたところですぐに売り払うことが出来ない以上、移送するまでの間どこかに監禁する必要があるのだ。


 元々は奴隷商人を追っている時に考えていた事だ。


「連中が一般市民に紛れ込んで潜伏しているのは前から予想していたからね。だったら、この近辺に隠れ家もあるはずだと思っていたんだ」


 結果的に別の方法で奴隷商人──クインドの正体を暴いたわけだが。


「そっか、アイ君は消えた幽霊の話を聞いた時点で犯人が分かったんだね」


「そうだね、後は村の歴史を調べてみたら案の定といったところさ」


「待ってくれよ、それじゃあロギンスのおっちゃんが聞いた助けてくれって叫び声は……」


「ああ、間違いなく誘拐された他の村の人間だろうね」


「うわっ最悪……アタイたちの村のこんな近くに奴隷商人がいたなんて……」


 エーカが血の気の引いた顔で呟いていた。


 この集会所は止まり木亭から数分の距離だ。怯えるのも無理はない。 


 本当はもっと身近にいたんだがな。まあ言わぬがな花だろう。


「……でも奴隷商人たちはこの国の人間じゃないんですよね? どうしてユニゼラル家が作った秘密の抜け道を知っていたんでしょうか?」


 アリエッタがぼそりと疑問を口にした。


「良いところに気付いたね、アリエッタちゃん」


 良い着眼点だ。やはりこの子は頭が切れる。


 この秘密の抜け道はクロムバッハ家ですら知らなかった存在なのだ。連中はどこで情報を仕入れたのやら。


「……アインスお兄さん、もしかしてこれも何か検討が付いているんでしょうか?」


「残念だけれど、それに関しては今のところ予想しかないかな。もしかしたら奴隷商人たちは一部の貴族階級と繋がりがあるのかもしれないね」


 拷問は趣味ではないが、クインドをもう少し問い詰めるべきだったか。もはや後の祭りだが。


「おーい! アインス兄ちゃん! こっちにもう一つ扉があるぜ!」


 どうやらガルが部屋の奥で新しい扉を発見したようだ。


「……ん?」


 部屋の奥に移動している最中。牢屋の隣の机に走り書きされたメモのようなモノがあるのを見付けた。


 書かれていた内容は──


////////////////////////////////////


 増援でやってきた連中のために念の為メモを残す

 どうやらここを出入りしているところを村の人間に目撃されたらしい

 不足の事態を予想してキリーヴ森林の隠れ家に拠点を移動させた

 正確な場所はユニゼラルのあの場所で確認しろ

 それと例の暗殺者共だがちょっとしたコネが出来た、ひょっとしたら渡りをつけれる可能性がある

 もし暗殺者と俺たちの『毒蛇』が合流することが出来れば、あの憎きクロムバッハの連中を潰すことが出来るかもしれない


////////////////////////////////////


「……毒蛇?」


 一体何のことだ?


 暗殺者というのは『闇の顎門(フェンリル)』の事を指しているのだろう。しかし毒蛇とは何の隠語なのか。


 もしかして、あの女暗殺者──ジューダスがクロムバッハ邸を襲撃したのは奴隷商人たちの差金だったのだろうか?


「おーい、アイ君どうしたのー?」


 考え込んでいるとノアが奥の扉の前で僕を呼んでいた。


「……ああ、今行くよ」


 まあいいか。

 今は先を進むことを優先しよう。



 *****



「やた! ようやく外に出たね!」


 牢屋があった空間から地下通路を十分ほど歩くと出口となる扉があった。

 

 それを押し開くと外の空気が僕たちを出迎える。外はすでに暮れており、真っ暗になっていた。


「ええっと……ここはカサキヤ村の近くの森みたいですね」


 樹齢五百年を越えるであろう大きな樹木の下には、巧妙にカモフラージュされた隠し通路の扉があった。今しがた僕たちが出てきた出口だ。


「すぐ向こう側にリラヘール川の支流があるようだね。なるほど、ここから小舟を使って移動する算段になっているのか」


 おそらくかつての戦時であればリラヘール川を使ってすぐに逃走できる手筈になっていたのだろう。今は使っているのは奴隷商人たちだと思うが実に合理的だな。


「うへぇ、ようやく外に出れた。……アタイ、やっぱり暗い場所は苦手だよ」


「へっへーん、エーカはビビりだな。オレは肝試しみたいで楽しかったぜ」


「む、嘘ばっか! ガルだって結構ビビってたじゃん!」


「……ビ、ビビってねーし! オレ楽勝だっだし!」


「みんなご苦労様。とりあえずこれで事件は解決かな。予想通りだけれど、終わってみれば存外つまらない結末だったね」


「そんなことないですよ、アインスお兄さん! 話を聞いただけで何ヶ月も村を悩ませていた幽霊事件を解決したんです。凄いことだと思いますよ!」


「そうだぜ、アインス兄ちゃん! これはオレたちカサキヤ少年探偵団の初めて手柄なんだからさ、誇るべきだぜ!」


「馬鹿ガル、アンタは何もしてないじゃん! アインスにぃが全部推理してくれたおかげでしょ!」


 少年探偵団の面々がそれぞれを大きな声を上げて、僕を褒めちぎってくれる。

 僕は苦笑した。


「今回の幽霊事件はゲオルグ……お父様に報告しておくよ。近いうちに衛兵隊の正式な調査が入るんじゃないかな」


 ともあれ謎はいくつか残ったが、これで一件落着だろう。


《ねぇ、今回の奴隷商人っていうのはやっぱり……》


 ノアが念話で僕に話し掛けてきた。他の三人に聞かれるとマズイと思ったのだろう。


《……ああ、間違いなくクインドが使っていたアジトの一つだろうね》


 彼女には僕が殺したクインドは、奴隷商人だったということをすでに教えている。


 その可能性に思い至るのは当然か。


《卑怯の話だけどクインドの隠れ家がカサキヤ村にあるのは薄々予想していたからね。別の奴隷商人があそこを使う前に突き止められて幸運だったよ》


《ふふっ、そっか、アイ君は本当に最初から答えを知っていたわけなんだね》


 念話の密談で、ノアが悪戯坊主を咎めるように笑った。


「へぇ、使い魔さんのお名前はヴァーゲストさんって言うんですね」


「ケケケ、オレちゃんは由緒ある使い魔様なんだゼ、テメェらもせいぜい敬うが……あふん、そこ撫でるのやめてェ!」


「なーなー、これってどこから背中から腹なんだ?」


 僕たちが念話で会話している最中に、ヴァーゲストがまたもや弄り回されていたようだ。


 好奇心旺盛な少年少女たちにとって、喋る使い魔は興味が尽きない存在らしい。


「……ぼ、坊ちゃん、何とかしてくれよォ」


 困ったヴァーゲストが僕の後ろに隠れる。


「はいはい、みんな、ゲスちゃんをイジるのはそこまで。……もうこんな時間だし早く帰ろ。わたしとアイ君で家まで送るから」


 年長者ぶったノアが三人をたしなめた。


 そうして幽霊事件を解決した僕たちは各々の家に帰っていた。


 子供たちの小さな事件簿。

 まあ、これも平和で平凡な日常というモノかな。

 病人生活を送っている僕としても多少は退屈さが紛れる事件だった。

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