第12話 合宿訓練
昔、合宿ってやったよなあ。
第12話 合宿訓練
高速道路を走っていると、エージはあることに気付く。
「今日はツーリングの人が多いみたいだねえ。」
自分達の車の後ろから、かなりの台数のオートバイが付いてきている。
順序良く一列に並んでいるが、大体30台くらいは並んでいるであろうと思われた。
香の車は三車線あるうちの一番左の車線を走行していたが、そのバイクの列も左の車線を走っていた。
その内に、先頭のバイクが速度を上げて香の車の横にピタリと並んだ。
真っ赤なライダースーツに身を固めているのは女性ライダーだった。
「静香やな。」
千陽子がそう言うと、その女性ライダーはヘルメットのライナーを開けて、こちらを見る。
ナンバー5の堂本静香である。
バイクレーサーをしているためか、かなり安定感のある走りをしている。
と言っても香の車自体が指定速度以下で走っているので高速道路ではかなりゆっくりとしたペースに感じる。
静香がこちらへ手を振った。
千陽子も振り返す。
「千陽子さん、あの人っていうか、後ろの人達のこと知っているの?」
その様子を見てエージが驚いて尋ねる。
「はははは、知っているも何も、あれは千陽子さんの現役時代の…」
と香が途中まで言いかけたところで千陽子のツッコミが香の後頭部入る。
かなり弱めにしているのだが、千陽子のツッコミはかなりの衝撃がある。
「いったあー!」
おもわず香が叫んで急ブレーキをかける。
車体がガクガクと震えながら急激に速度を落とす。
すると、後部座席のエージも前の席の後部分に頭をぶつける。
シートベルトをしていなければ前の席を飛び越えて大事故になっていたかもしれない。
「痛たた!千陽子さん、何やってるんですか!?香さん、運転中じゃないですか!人を殺す気ですか?!」
エージが慌てて注意する。
「だって人の黒歴史を喋ろうとするんだもん。」
と言いながらプイッと口を尖らせる。
「そんな可愛い子ぶっても、ダメですよ!謝ってください!それに何なんですか黒歴史って!?」
エージが厳しく言うと、千陽子は、
「ちっ!悪かったよ。」
と舌打ちをしながら香に謝る。
「いえ、大丈夫ですから。」
と香は言うが、エージは、
「香さん!そんな優しくして千陽子さんを甘やかしたらダメです。しっかりと怒らないと!」
エージが香にも注意する。
「あ、いや、それは…もういいんだよ、エージ君。そもそも私が、悪いんだし…」
と香が前を見て運転しながらも、エージの話には応えていた。
「ったく、千陽子さんも舌打ちをしながら謝ったって、謝ったうちに入りませんからね。」
「ちょっと触れただけやん!」
とエージが千陽子に更に注意をすると千陽子も言い返す。
「いいえ、千陽子さんのツッコミは下手をすれば凶器と同じだからに気を付けないとダメなんです。」
「凶器と同じって、ワイは化け物か?!」
千陽子もツッコミ返してきた。
「化け物の方がまだかわいいです。」
「くっ!こいつ!」
エージにツッコミを入れたいところだが、後部座席の人間には流石の千陽子も入れられない。
「あと、香さんが言おうとしたこと大体わかりますよ。多分、後ろの人達って昔の千陽子さんのチームの仲間の方ですよね?」
「なっ!?どうしてそれを!?」
千陽子が驚く。
「だって、千陽子さん今や時の人ですよ、週刊誌に千陽子さんの過去の経歴とか出てましたし、あーっと何でしたっけ『スターセブン』でしたっけ?ケンカ上等!常勝無敗のレディース総長宮離霧千陽子とかってデカデカと載ってましたから。」
「な、な、何やて?ホンマかそれ?」
千陽子が急に大人しくなる、エージには過去の自分を知られたくなかったようだ。
「クリーンなイメージで売ってたのに、どこの週刊誌や!ワイのイメージぶっ壊しやがって!」
男勝りな言葉遣いの千陽子が言う、『クリーンなイメージ』の意味がよくわからない。
どう見てもアカン系のエリアの人間に見えるが。
だが、テレビやラジオで出演している千陽子の喋りはスナック『ファンタジー』で客相手にしている時と近いかそれと同じで、そういった事を考えれば、かなり素の自分を抑え気味にしているとは言えるだろう。
だが、エージの話では、千陽子の伝説は週刊誌各社でかなり取り上げられているみたいで、SNS等もそちらの方面の話がかなりアップされているらしい。
かなり嘘臭い話も載っていたということだ。
「嘘臭い話?」
「うん、何か、レディース同士の抗争が埠頭であった時に、千陽子さんが相手の乗って来ていた100キロ以上あるバイクを持ち上げて振り回して相手に投げてぶつけたりして、全員ノックアウトをさせた『バイクノックアウト事件』とか、あり得ないっしょ!あはは」
とエージが笑うが、千陽子と香は笑っていなかった。
「エージ君、それホンマの話や。」
香が真剣な顔をして話す。
「えっ?!マジで?千陽子さん、やっぱり化け物や。」
「アホ、全員バイクで殴れるか!振り回したら、相手が勝手にそれにぶつかっただけや!それに、そのバイクはすぐに海に投げ捨てたから全員倒したっちゅうのは嘘や!」
「えっ?バイク振り回したってところは否定しないんですね。それにそのバイクを海に投げ捨てたとか…普通じゃ出来ないですよ。」
「リーダーは普通じゃないんだよ!」
香が声をひそめてエージに言うが、車内なので全くひそめた意味がない。
千陽子に丸聞こえだ。
「香も、一緒になって!あのな、あの時バイクにぶつかったんは数人だけや!その他の奴はワイが直接海に投げ捨てたから、その記事はウソや!」
「…ウソって、千陽子さん、全員海に投げ捨てたって、全員ノックアウトと一緒やん。それの方が怖いです。」
確かに人間を持ち上げて全員投げ入れるなんてことは余程でないと出来ない。
「後で、ウチのチームのもんが全員を助け上げたけどな…」
と香がフォローする。
「そうやったんですか、良かったです。」
エージはホッと胸を撫で下ろす。
「他には?」
千陽子は他の記事も気になるみたいだ。
「えっ?他ですか?他には、えーっと、あ、そうそう、絶対ウソって思える記事もありましたよ!『自分のチームに入れる奴は全てタイマン勝負してから入れる』とか、あは、普通じゃ無いですよね。」
とエージが再び、笑うが、二人は笑っていない。
「はっ!も、もしかして、これも、本当の話なんですか?!」
とエージは驚きながら尋ねる。
「エージ君、その話は半分はウソだけど、私は千陽子さんとタイマン張ってからチームに入ったんだよ。」
と香が答える。
「あの頃は私も、突っ張っててな、千陽子さんとやる前までは、ケンカじゃ負けたことがなかったんや。だけど、千陽子さんとタイマンでケンカしたら…」
「ケンカしたら?」
「一発でノックアウトされてな。」
「ここでもノックアウト伝説ですか?」
「そうや。」
と香がエージに昔話を語ると千陽子から、
「アホ!香が一発でやられるかいな、あの時は二発や!」
「いや、あれは一発目で意識持っていかれてたから一発ですわ。」
「はあ?香、お前、あの時はフラフラしながらも立って来よったやないか!?」
「いや、そんなこと記憶にありませんから。」
「いやいや、ワイのパンチ喰ろうて立ち上がった奴は中々おらへん。」
「いや、だから記憶が無いっていうてるやん!」
香が切れた。
「何やと、お前!誰に口聞いてんねん!ちょっと外に出え!」
千陽子も頭に血が上っている。
「おう、ちょっと待っとけ直ぐに車止めるから!」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って下さいよ!何で、車の中でケンカになってるんですか!?止めてくださいよ!」
エージが止めに入る。
「香さんも、こんなとこで車止めたら後続の車に跳ねられて死んでしまいますよ!」
と香にも注意する。
すると千陽子が、
「エージ、お前がいらんこと言うからや!」
と言うと、今度はエージが、
「だって千陽子さんが、他の記事はって聞くからですやん!」
と声を張り上げる。
「はあ?ワイがそんなこと言うかいな!お前の空耳や!」
「誰が空耳や!言うたこと忘れてるんやったら千陽子さんの口は頭と直結してないんとちゃいますか?勝手に口だけが動いているお化け口や!」
「誰がお化け口や!お前、ちょっと車降りいや!反省させたる!」
「反省するのは千陽子さんです!僕は全く悪くありませんから!」
「くっそ!ちょっとこっちに顔出せ!お前のそのほっぺた指で千切り取ったるから!」
「やっぱり、総長は怖いですねー、今の声を証拠として全部録音してサーバーに送りましたから、僕に何かあったら、それを警察に持って行って訴えますので、どうぞやるならやってください。」
そう言うとエージは千陽子の前に顔を出した。
すると、千陽子は、急に笑顔になり、
「なっ、なっ、何を言っているのかなエージ君は、そんなの冗談に決まっているじゃないの、ねえ、香さん?」
といきなり態度が180度変わる。
「えーーー?!」
香の表情が驚きの表情のまま凍りつく。
やはり、千陽子は芸人になってからかなり丸くなっている。
昔なら、そんなことはお構いなしにエージは天国行きになっていたであろう。
そんなことを言いながらも車は走り続け、ようやく日本海が見える所までやって来た。
青い海とはこの事を言うのだろうと思うくらいの青さだった。
近くまでやって来ると潮の香りがして、夏の思い出の1ページに記憶させる。
いよいよお笑いの為の合宿訓練の開始となった。
お笑いの合宿って何?って感じです。
ただ、これを乗り切った時、二人に新たな力が…
そんな訳ないと思いますが、波乱の合宿の始まりです。
ではまた、次回をよろしく。




