第11話 エージ、千陽子に拉致される
エージが千陽子に連れ出されます。
第11話 エージ、千陽子に拉致される
あれから数日経った。
エージは、『受付嬢』のネタが、千陽子にウケたのでかなり気を良くしていた。
それに、難波にある小さな劇場で、そのネタをやったところかなりウケたので、自信を持ったのだ。
だが、千陽子からは、
『アホ!このネタはな!異世界とコントの両方に興味のある奴しかウケへん限定ネタや!今日ウケたんは、客がマニアックな奴らやからウケただけや!』
と叱られた。
確かに、客はかなりコアな人達ばかりだった。
図に乗っていては、これ以上の成長は望めない。
もっと頑張らねば。
だが、千陽子と組んだときの方針として『異世界ネタのコントをウリにしたい』と千陽子に言ってしまった手前、なかなか、それを変更したいと千陽子に言うことが出来ず、お笑いに対する方向転換が出来ないことも理由のひとつとなっていた。
千陽子に、路線を変更したいなどと口にした瞬間、首から上が無くなっているかも知れない。
そんな恐ろしい事を口にしたくはない。
梅田プロの事務所のデスクで、エージは今日もネタ百個を考えているが、流石に1日に面白いことを百個も考えることは辛い。
家で考えていたが、いいアイデアが出なかったので、場所を代えれば何とかなるかと思い事務所にやって来て考えていたが、段々と面白くなくなっていくというか、面白いのか面白くないのか、自分自身わからなくなってきていた。
「うーん。『武闘会で打とうかい!』『槍で殺りすぎ』『くっ、殺』って『食ってけコロッケ』っていう意味だったかな?『異邦人の魔方陣』『ケンちゃんの剣』ってケンちゃんで誰?うわーダメだあー、千陽子さんに殺されルーはカレーのルー!」
エージが壊れていく。
「誰に殺されるって?」
不意に後ろから声がした。
「あっ!千陽子さん。」
エージが後ろを振り向くとそこに千陽子が立っていた。
「あれ?どうしたんですか?今日は休みじゃないんですか?」
「アホ!日頃からスケジュール空いとるのに、さらに休んでどないするねん。」
「でも、今日は仕事は入ってないですから、事務所に来てもしょうがないんじゃないですか?」
「仕事やあらへんけど、練習や!」
「えっ?練習って、例の新ネタですか?」
「そうや、大賞狙うんやったら後、いくつかネタ持っとかな戦われへんからな。」
「そりゃまあそうですけど…」
「そやからお前を連れに来たんや!」
「えっ?どこか行くんですか?」
「そうや!」
というと千陽子はエージの襟首を掴んで持ち上げる。
小柄とはいえエージも50キロ以上は体重がある。
それを片手で持ち上げるのだ、トンでもなく物凄い力だ。
「えっ、ちょ、ちょ、ちょっとぉ~!」
エージの姿が事務所の出入口から消えていく。
それを事務所にいた社長とマサやんが見ていた。
彼等も千陽子が怖いので彼女の行動を止められない。
それに、先日の殺人事件の犯人を捕まえた件で警察からの広報で千陽子の名前が出たことで、新聞沙汰になり、
『お笑い芸人大手柄!殺人事件解決させる!』
と週刊雑誌にも連日の取材の申し込みが入り、千陽子の名前は一挙にメジャーになってしまった。
事件自体も練炭自殺を装った殺人であった事と、犯人が警察には一条隼人という、犯人とは違う人間をミスリードさせていたなど、手の込んだ内容であったため、事件の報道は連日に及び、それと共に殺された氷神の悪行が次第に明らかになり、洋介に対する罰の軽減を求める多くの嘆願書が付近住民から出されるなど、かなり注目されることとなった。
そんなものだから、実は千陽子にもテレビや舞台の出演依頼が殺到していたのだ。
そうなると、心配なのは自分達のネタと芸である。
芸は、相方と息を合わせて練り上げなければ、いくら自分だけが出来ていても意味がない。
当然、ネタも大事なのだが、この『芸』が未熟だと、今回の事件解決の件もただの売名行為だと言われて悪目立ちするだけなので、最近の千陽子は以前よりも練習に打ち込んでいた。
千陽子が、先程スケジュールが空いとると言っていたのは、コンビでの仕事の事であり、実のところ、元々キャラが立っている千陽子だけの取材が多く、最近はほとんど休みがないのだ。
だが、本来のコンビである『クリム&カリスマ』としての仕事が無いので彼女自身は危機感を持っていた。
お笑い芸人として念願の『関西コント大賞』に出場し、大賞を取るという目標のためにも、日頃から練習をしなければならないと感じていたのだが、このところ全く練習が出来ていなかったのだ。
だから休みの日を使ってネタの練習をしようと事務所に顔を出してエージを拉致したのだ。
「千陽子さん。どこへ行くんですか?」
襟首を捕まれながら、つま先立ちで付いていくエージが千陽子に尋ねたが、千陽子は、
「黙っとれ!」
と言って、テナントビルの一階まで、エージを連れて降ろす。
一階のビルの前には香の真っ赤な軽四が停まっていた。
「あ、こんにちは香さん!」
エージは以前、香を千陽子から紹介され知っていた。
「香さんも千陽子さんに呼び出されたんですか?」
とエージが香に聞くと、香は軽く頷き、千陽子が横から応える。
「まあ、そういうことや。乗れ!」
千陽子は後部座席のドアを開けるとエージをそこへ放り込んだ。
そして、自分は助手席に乗り込む。
「行ってくれ。」
千陽子がそう言うと香は車を発進させた。
「今日は泊まり込みで練習やからな!」
千陽子がエージに言う。
普通ならば女子とお泊まりなら、うれしいと思うべきなのだろうが、相手が千陽子に限ってそれは無い。
悪いことしか想像できない。
前回も泊まり込みと言って、山の中に連れて行かれ、精神修行だと言われて、滝に打たれてお経を唱えるというテレビでもないのにトンでもないことをさせられた。
この時は途中でエージが滝の勢いに吹き飛ばされ終了した。
この時、千陽子は水面に浮かぶエージを見て大笑いをしていたという。
エージがそれを聞き、文句を言うと、
「あれがテレビやったら、めっちゃおいしかったのになあ。」
と一言。
今想うと、やはり、腹立たしい。
『くっ、殺してやりたい!』
と想うと同時に、『くっ、殺』の意味を思い出した。
ちょっと違うと思うが…
それに確か、その時も香が来ていたというか、この車で行ったような気がする。
「あっ!」
その時に香を紹介されたことを思い出した。
「千陽子さん、また、滝に行くんじゃないよね?」
「ふふふ、エージ、お前も勘が鋭くなってきたな。だが今回の場所は更にパワーアップしてるで!」
「ええ!!?パワーアップ?!」
もう悪いことしか起こらないことが決定した。
「ちょ、ちょっと待ってよ!僕、泊まり込みの用意もしていないし…」
そう言って用意するふりをして、千陽子から逃げ出そうと思っていたが、
「ああ、大丈夫や、お前のロッカーから着替えとかタオルとか洗面セットとか必要そうなやつ持ってきたから」
「用意周到だな!」
思わずツッコミを入れる。
「おっ、中々ツッコミが冴えてきたな。ヨシヨシ。」
「ヨシヨシじゃねーよ!」
「はははは」
香がそのやり取りを見て笑っている。
千陽子にこれだけツッコミを入れる人間はチームにはいない。
それだけに千陽子にツッコミを入れるエージはかなりスゴいと言える。
というか、エージが過去の千陽子をあまり知らないというのもあるだろう。
大阪府下全域に数あるレディースの暴走族の頂点であった『スターセブン』の総長であり、その辺の男なら絶対に勝てない程の強さを持ち、ケンカでは常勝無敗の伝説を持っているのだ。
そんな話をしたらエージは卒倒するか、嘘だと笑い飛ばすかのどちらかだ。
車は高速道路に入り、環状線を抜けて北へ向けて走る。
「どこへ行くの?」
エージの顔が引き吊り気味だ。
「海や!」
「海?海ってまさか日本海?」
「当たり前や、北に走ってて太平洋に出たらノーベル賞もんや!」
言ってる意味がわからない。
時々出る千陽子ジョークである。
この間も『いまさら』つまり英語では『Now』もしくは『at this late hour』と言わなければならないところをを『ナウソーサー』Now saucerと言って今 (now)と皿 (plate、saucer)を引っ付けたのだ。
確かに英語で皿は、ソーサーという言い方をするが…
漢字で書くと『今更』なので『今皿』ではない。
知っていて使っているのであればいいが、知らないで使っていれば大恥だ。
もう、それはオッサン英語の域だ。
とりあえずわかるところは英語でわからないところは日本語で喋るという不思議な英語だ。
外国の人に日本語で
『神社へはどう行けばいいですか?』How do I get to the shrine?
と聞かれると、
『ゴーストレート、ジンジャ、オーケー』
と言ってしまうのだ。
まあ、これでも通じなくはない。
訳すると、
『まっすぐ行く ジンジャ OK』
なのでオッサン英語も相手方に理解度があれば通じる。
正しくは、
ここをまっすぐ進めば神社があります。
If you go straight ahead, you will find a shrine.
となる。
あれ?
いつの間にオッサン英語講座になった?
まあ、千陽子英語はオッサン英語に近いということだ。Chiyoko English is close to Ossan English
Ossan is Middle-aged man is what it means
えっ?全然違うって?
『ナウソーサー』ですが、これはゼリーも『水無月蔵光の冒険譚』の中で言っています。
どの話なのかは探して下さい。
それでは次回をよろしく。
( ´∀`)/~~




