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エターナル・スペランツァー  作者: 和島大和
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第五弾 『正午の異変』




 昼の休憩時間。


 青々とした空に、白い雲が浮かんでいる。


 秋の風によって日差しの暑さが緩和されていた。


 ジャックとシャルルは校舎の屋上にて、昼食を取っていた。




 「はい、今日のお弁当。」



 「おう! ありがとよ。」




 シャルルが手渡したのは、茶色の弁当箱と木の箸。


 それを当たり前のように、ジャックは礼を言って受け取った。


 平民の中でも地位が高い家でなければ、箸を扱うことなどできない。


 食事に於いてフォークとナイフが一般的なのだ。


 それこそ、高級な料亭でなければ箸というものは出ないだろう。


 そんな高級品を平然と出してくるシャルルの家は、そこそこに裕福な家だった。




 「にしてもお前、いっつも箸だよな。


  最初は珍しかったけどよ……今となっちゃ面倒くさいだけだぜ。」



 「何言ってんのよ。


  外食して店で食べるときなんて、箸で食べる所の方が多いんだから。


  今の内に箸の扱いくらい慣れておきなさい。」




 ジャックの言葉に呆れるように呟くシャルル。


 この国では、外食そのものが裕福とされた。


 貴族社会でもあるヴァレアス帝国は、平民に向けた店よりも貴族に向けた店の方が繁盛しやすいのだ。


 そして、貴族は当然のように箸を使いこなすため、殆どの店が箸で食べるような料理を中心に作っている。




 「けど……外食なんて贅沢なこと、俺はしねぇからな。」




 溜め息混じりに呟くジャックに、シャルルは不機嫌そうな顔を浮かべる。




 「バカね! 軍人になって、もし偉い地位になれれば、嫌でも外食するようになるのよ。


  そんな時に「箸の扱いが解りません。」なんて恥ずかしいこと言ってられないでしょうが!」



 「……俺は別に、軍の上層に就きたいとか思ってねぇよ。」




 強い口調で発するシャルルの言葉に、ジャックは視線を逸らした。


 軍の上層に就ければ彼女の言葉も納得できる。


 しかし、今の現状で箸の扱いがそこまで重要かといえばそうではない。


 フォークとナイフとスプーンがあれば充分なのだ。




 「それはアンタの考えでしょ? 軍っていうのは組織で、軍の方針は組織の方針なの。


  アンタの意志で決まる訳じゃないわ。


  組織の意志で組織の方針が決定される……そこのところ勘違いしないことね、ジャック。


  ほら、分かったらさっさと食べなさい。」



 「……あぁ、いただくぜ。」




 真剣な表情で告げるシャルル。


 彼の将来を本気で案じるような言葉と表情に、反論する意思を霧散させた。


 言われてみれば軍は組織なのだ。


 組織の決定をたった一人の意志で覆すことなどできない。


 戦場に行け、人を殺せと命令されれば、やらなければならないのだ。


 ジャックは慣れない手つきで箸を掴み、弁当箱を開いた。


 中身は四つの卵焼きに三枚のローストビーフとハム。


 唐揚げが五つも入り、全てのおかずが互いに干渉しないように巧みに仕切りをしていた。




 「うおっ! 相変わらず美味そうだなァ。」




 なんて言いながら卵焼きを掴み、口に運ぶ。


 彼の様子を、シャルルは不安げな顔でジッと見つめていた。




 「……ど、どう?」



 「……うまっ!」



 「っ、ほ、ホント!?」




 頬張りながら発したジャックの言葉に、心底嬉しそうに明るい笑顔を浮かべるシャルル。


 ジャックは他のおかずにも次々と食らいついた。




 「あぁ、メチャクチャ美味ェよ。


  だけど、スッゲェな! 毎日毎日、こんな美味い弁当を手作りで作ってくるなんてよ。」



 「と、当然でしょ! アタシにかかれば、これくらい、朝飯前よ。」




 賞賛の言葉を聞き、顔を赤らめながらも得意げに告げるシャルル。


 ジャックはおかずで胃袋を満たしながら、実技の授業で行った召喚(サモンズ)のことが頭をよぎった。


 こうしている時間もまた、相手との信頼関係に影響するのか。


 しかし、その確証はない。


 だからこそ、召喚(サモンズ)とはどういったものなのかを知る必要があった。




 「なぁ、シャルル。


  召喚(サモンズ)について、教えてくれよ。」




 「あら、珍しいわね? アンタからその話を振ってくるなんて。」



 「……我ながらそう思うんだけどよ。


  さっきから気になって仕方ねぇんだ。」





 シャルルからの指摘に、思わず苦笑してしまう。


 勉強嫌いなジャックから、勉強についての問い掛けを勉強以外の時間に投げ掛けるというのは、異例だ。


 ただ、それほど気になって仕方がないのが現状だった。




 「そう……いいわ、教えてあげる。」




 どこか嬉々とした様子で呟くシャルル。


 彼が勉強熱心になったことが、何よりも嬉しかった。


 シャルルは説明を始めた。




 「召喚(サモンズ)はさっき見た通り、兵器を具現化するもの……まぁ、儀式のようなものよ。」



 「儀式?」



 「そう、儀式。」





 意外な話だった。


 朝の光景を思い返してみる。


 ナナリーとティムが目を合わせた光景。


 その瞬間に彼女の胸が発光し、そこにティムが腕を入れた光景。


 一見して儀式というよりも、目を合わせた結果としてあのような光景を実現したようにも見えた。




 「まぁ、あくまでも簡単に言えば、だけどね。


  ただ、それくらい神秘的なものだってことよ。


  どういう技だとか、どういうやり方だとかじゃ説明できないような、そういうもの。」




 真剣な表情で説明するシャルル。


 彼女の説明はまだ続いた。




 「召喚(サモンズ)するにあたって最低限必要なことは、『リアライザー』が『ストライカー』に対して、信頼の念を抱くこと。


  そうしたら、『リアライザー』自身が『ストライカー』に心を開ける。」



 「……で、あの光が?」



 「そうよ。


  心を開いた現象を、『開心(フェデルタ)』とも言うわ。


  こっちの言い方が一般的ね。」




 ナナリーの心臓部が神秘的な光を放っていたのは、ティムのことを信頼した結果として発現したものだと知る。


 その現象は、開心(フェデルタ)というらしい。


 召喚(サモンズ)を発動するにあたって最低限必要なのは、『リアライザー』自身が心を開くか否か。


 またもや己の力で発動できないことを知り、ジャックは歯噛みした。




 「……また、他人の力を借りないといけねぇのかよ。」




 思わず言葉として、小さく漏らしてしまう。


 仮に召喚(サモンズ)する時に『ストライカー』の心情が起因するのであれば、相手を信頼できればそれで良い。


 だが、『兵器を生み出す』という行為そのものが『リアライザー』に起因するのであれば、純粋なジャックの力ではどうしようもない。


 戦う以前の問題なのだ。




 「言っておくけど、開心(フェデルタ)は簡単にできるものじゃないわ。


  人は誰でも、見られたら恥ずかしいものだってあるし、知られたくない過去や秘密だってあるでしょ。


  それでも「この人になら見せても良い、知られても良い」って想いがなきゃ、開心(フェデルタ)もできないし、そもそも召喚(サモンズ)なんてできないのよ。」




 変わらず真剣な表情で説明するシャルル。


 他人の力を借りなければ戦えないことを知り、落胆するジャックに告げた。


 召喚(サモンズ)をする以前に、『リアライザー』が開心(フェデルタ)しなければ意味がない。


 ジャックにとっては難解な話を聞き、眉をひそめるジャック。


 


 「けどよ、ナナリーさんはあの時……」




 と、彼の言葉を遮り、シャルルは口を開く。


 まるで、彼の疑問を察知していたかのように。




 「召喚(サモンズ)させた、わね。


  そこはやっぱり、レイフィート軍を……ひとつの軍隊を率いるだけのことはあるわ。


  彼女自身、後ろめたい気持ちは一切無いんだと思う。」



 「…………。」




 ジャックは黙って、考える。


 レイフィート軍とは、ナナリーが持つ軍隊のこと。


 ヴァレアス帝国の正規軍とは独立した指揮を可能とし、あらゆる特殊任務に就く軍隊だ。


 そのレイフィート軍のトップに君臨するナナリーだからこそ、信頼関係をまともに築いていないティムへの開心(フェデルタ)、そして召喚(サモンズ)を成功させたのだろう。




 「でも、あれは例外中の例外よ。


  普通の人間なら、信頼していない相手に心を見せようなんて思わないもの。


  それも、表面上の想いじゃない、深層心理の中での想いに起因するからね。」



 「……つまり、『リアライザー』本人が意識する心情よりも深いところで、『ストライカー』を信頼する必要があるってのかい?」



 「えぇ、そうよ。


  だから言ったでしょ? 開心(フェデルタ)は簡単にできるものじゃないって。」




 ジャックの確認の問い掛けに頷くシャルル。


 本当に、心の底から信頼していない限り、心を開くことはできない。


 開心(フェデルタ)はできない。


 人は無意識にも他人と接する際、何らかの壁を形成しようとするからだ。


 相手が初対面ならば、それは顕著に出てくる。


 例外として心を開ける者は居るかもしれないが、そうした人間の方が稀だ。


 たとえ心の壁が緩和されても、やはり隠し事があったり、言いたくないこと、伝えたくない想いというものはどうしても存在するのだ。


 それら全てを目の前の男に曝け出しても良いと考えなければ、開心(フェデルタ)はできず、召喚(サモンズ)もできない。


 ジャックが思っている以上に、召喚(サモンズ)とは難しいものなのだ。




 「あと、召喚(サモンズ)でストライカーの手に六芒星が刻まれるんだけど、ジャックは見えたかしら?」



 「……六芒星?」




 シャルルの言葉を聞き、ジャックは再びあの光景を思い出す。


 ナナリーの心の中へ手を入れたティムが、手を出した時。


 手の甲に、六芒星の文様が浮かび上がっていた。


 その手を地面に触れ、巨大な六芒星の魔法陣を展開していた。


 青く輝き、円の中に六芒星が刻まれた魔法陣。




 「あったな、そんなことも。」



 「あの六芒星……『ストライカー』が『リアライザー』の心に触れると、ある条件下で出てくるものなの。


  『六星刻印(レジュルタ)』と呼ばれるものよ。」



 「六星刻印(レジュルタ)……また難しそうなものが出てきたなァ。


  その話、また放課後で良いか? フェ……何だっけ? まぁそれが出てきて、その上にまた変な単語を聞かされたら……嫌になってくる。」




 新たに出てきた単語に、ジャックは顔を引き攣らせてしまった。


 内容は気になるが、今ここで聞くというのも辛い話だ。


 只でさえ、新たな単語が出てきたというのに。


 そろそろ休憩時間は終わりを迎え、召喚(サモンズ)の話の整理もしたい。


 どのみち放課後に説明を受けるものだから、今すぐ聞く必要性はあまりなかった。




 「……フェ、何とかじゃなくて、開心(フェデルタ)ね。


  それじゃあ、そろそろ教室に戻りましょうか。」




 ジャックの言葉を訂正しつつ、笑みを浮かべながら立ち上がった。


 それに彼も続く。




 「あぁ、そうしてくれ。


  頭がパンクして全部忘れたら、元も子もねぇ。」



 「ふふっ、それもそうよね。


  なんたって、勉強嫌いのジャックだもん。」



 「……言い返せねぇ辺りが情けなくなってくるぜ。」




 なんてやり取りをした後、シャルルが屋上から退室する。


 唐突にジャックは、空を見上げる。


 一つの黒点が見えた。


 プロペラの音が微かに聞こえ、それが航空機の類であると推測した。




 「……?」



 「ジャック、早くしなさいよ! 授業に遅れるわよ!?」



 「お、おぉ、悪ィ! 今行くぜ。」




 シャルルの言葉に反応して出て行こうとする。


 そして、再び空を見上げたが、先ほどの黒点は既に存在しなかった。

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