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エターナル・スペランツァー  作者: 和島大和
5/15

第四弾 『召喚の実習』




 「はいは~い。


  今日はナナリーちゃん主催で、実践的なことをして貰いまぁ~す。」




 ヴァレアス帝立初級士官学校のグラウンド。


 この日は実技授業が行われようとしていた。


 教師であるナナリーが生徒の前に立つ。


 秋の早朝。


 やや肌寒いヒンヤリとした空気。


 一部の生徒たちは青いジャージを着込み、寒さ対策をしていた。


 茶色の砂が敷き詰められた広大なグラウンドは、その広さゆえに風通しも良くなっている。


 夏は暑く、冬は寒いという、良いことなしのグラウンドだ。


 風が吹く度に震えている生徒も居るほど、ここ数日の中では特に冷え込んでいた。


 そんな肌寒い中で、ジャックは白の半袖体操着に紺の半ズボンを着用し、時々震えながらも寒さに耐えていた。


 彼の隣にはシャルルがジャージ姿でクラスの列に並んでおり、手は袖の中に入れている。


 指先だけを袖口から覗かせ、熱を逃がすまいと両肩を上げていた。


 初級士官学校の実技は、基本的に男女混合で行われる。


 その理由として、男女の隔たりなく『絆』を育むことが目的であること。




 「今日は、召喚(サモンズ)を実際に見てもらいまぁ~す!」




 皆が寒さに耐えている中で、ナナリーだけが露出の高い服を身に着けていた。


 白いノースリーブの服に、黒いホットパンツ。


 明らかに季節外れであるように思える服装でも、平然と元気よく飛び跳ねている。


 その度に豊満な胸が上下左右に揺れ動き、おさげの黒髪がそれに呼応するかのように暴れていた。


 男子生徒の視線を集め、女子生徒が彼らを蔑むような目線で見つめた。


 しかし、ジャックは教師の豊満な胸意外に興味を抱いたことがあった。


 ナナリーに気づかれないよう、シャルルの方へと僅かに体を傾ける。




 「なぁ、召喚(サモンズ)って、なんだ?」




 ジャックは小声でシャルルに問い掛けた。


 それを耳にしたシャルルは、驚愕した面持ちで目を見開かせる。




 「ア、アンタ……そんなものも知らないの? ……ひとまず、あとで教えてあげるから、今は見てなさい。」



 「……あぁ。」




 冷や汗混じりに困惑するシャルル。


 気持ちを落ち着かせ、ジャックに対してあとで教えると伝えた。


 彼はそれに納得し、傾けていた体を戻す。




 「それじゃ~あ…………ティムちゃんにお願いしようかな?」



 「えっ!? ぼ、僕、ですか?」




 人差し指を唇に添えながら生徒たちを見渡すナナリーが、一人の少年を指定する。


 ティムと呼ばれた少年は、酷く困惑しながら目を泳がせている。


 身長はジャックやシャルルなどよりも小柄で、華奢な体つき。


 とてもじゃないが、士官学校に通いそうな人間ではない。



 水色の髪を肩まで伸ばし、今にも泣き出してしまいそうな表情をしている。


 服装はジャージを袖余りに着こなし、袖口から手が出ていない。


 見た目からして内気で気弱という印象が強く、コミュニケーション能力も大して高いとは言えない。


 黙っていれば少女にも見えるが、れっきとした人間の男である。




 「このクラスでは、ティムちゃん以外、ティムちゃんって名前の子は居ないでしょぉ~?」



 「えっと……そう、ですね……。」




 ナナリーはクスクスと笑いながら尋ねる。


 それに対し、ボソボソと呟くティム。


 酷く気まずい空気を感じながら、視線を逸らしていた。




 「さて、それじゃあティムちゃん、前に出てきてくれる?」



 「あ、は、はい……。」




 相変わらずのニコニコ顔のまま、ナナリーはティムに声を掛ける。


 彼女の言葉を聞いて行動に移すティム。


 人前に出ること自体に苦手意識を強く持っているのか、その足取りは非常に重い。


 終始、顔を俯かせながらナナリーの前に立った。




 「それじゃあ、ティムちゃん。


  思い切って召喚(サモンズ)をしてみて。」




 ナナリーは両手を広げてティムに語り掛けた。


 いつも通りのニコニコ顔ではなく、まるで慈母のような微笑を浮かべていた。




 「えっと……こう、ですか?」




 ティムは恐る恐る手を伸ばし始める。




 「そうよぉ~。


  そのまま、ナナリーちゃんの目を見つめるの。」



 「…………。」




 黒眼を笑顔と共に向けるナナリーに対し、ティムは金色の瞳を向ける。


 その瞬間、ナナリーの心臓部分が光り出す。


 白い空間が広がっているかのように、発光していた。




 「ここに、手を、入れるの……。」



 「は、はい……。」




 ティムは緊張しながらも、光り輝くナナリーの心臓部に向けて手を伸ばす。


 そのまま、彼女の胸に手を突っ込んでいく。


 服越しでもお構いなく侵入していった。




 「そう……そのまま……心を、掴むの。」



 「は、はい。」




 苦し紛れの声音で、小さく呟くナナリー。


 戸惑いながらも、ティムは構わず更に奥へと手を突っ込んだ。


 そしてゆっくりと光の中から手を出した時、ティムの右手の甲に六芒星の文様が浮かび上がっていた。


 ナナリーの心臓部の光は、徐々に消えていく。




 「……こ、これは……。」



 「それが召喚(サモンズ)の刻印よ。


  手を地面に付けてみて。」



 「あ、はい。」




 ティムは言われた通り、地面に手をつく。


 すると、地面に巨大な六芒星の魔法陣が展開した。


 青く輝き、円の中に六芒星が刻まれたような魔法陣だ。


 展開された魔法陣が収束すると共に、一つの兵器が顕現する。



 戦車。



 と称していいかどうかも分からないが、一応は戦車の形を成した鉄の塊だった。


 小さな火砲を積み、まるで段ボールのように角ばった形。


 人が一人二人入ればいっぱいになるだろうというのが、一目でわかるほどの小さな戦車だ。




 「あらあら~……ティムちゃんとナナリーちゃんの相性は、あまり良くないかもしれないわねぇ~。」



 「ご、ごめんなさい……。」




 クスクスと笑いながら、ナナリーは段ボールのような異形の鉄の塊を見つめ、呟いた。


 彼女の言葉に、ティムはタジタジになりながら謝罪する。




 「いいのよ、別に。


  それよりも、ティムちゃんは思った通り、戦車の『ストライカー』なのね。」




 すぐさま気にしていないことを伝え、ティムの『ストライカー』としての特性を告げる。




 「さて、『ストライカー』というのはどういう物だったかしら? ジャックちゃん、分かるわよね?」




 ナナリーは笑顔を浮かべたままジャックを見据える。


 その笑顔を見て、シャルルは人知れず身震いした。


 これでジャックが答えられなければ、シャルルが責められることになる。


 ジャックの理解力が試されると同時に、シャルルの教示能力を試されることになるのだ。


 しかし、先ほど復習を兼ねて話したお陰か、未だに記憶に残っていた。


 ジャックは自信満々の表情でナナリーを見つめる。




 「分かるさ。


  シューティング・ストライカーのことだろ。


  兵器に乗り、操作する奴のことだ。」




 ジャックは簡潔に答えた。


 それを聞いたナナリーは驚いたように目を見開かせる。


 そして同時に、シャルルも彼の方へ顔を向ける。




 「……へぇ、万年ドベのジャックちゃんにしては、よく理解しているわねぇ~。


  さすが、主席の子に教えてもらえると出来が違うのかしら?」



 「主席?」




 ナナリーの感心したような言葉に、ジャックは首を傾げる。


 すぐさまナナリーは満面の笑みを浮かべる。




 「シャルルちゃんのことよ。


  ふふっ……もしかして、知らなかったのかしら?」



 「…………。」




 ジャックは驚愕のあまり、ナナリーの言葉に呆然と立ち尽くしていた。


 酷く身近に主席の者が居たこと自体が、衝撃的だったから。




 「まぁ気にしなくても大丈夫よ~。


  ジャックちゃんがシャルルちゃんに敵わないことくらいは、ナナリーちゃんは理解しているから。」



 「…………。」




 なんて、ニコニコ顔で告げられる。


 全てを理解した母親のような微笑み。


 そのナナリーの笑みと言葉が、ジャックにとっては少なくない屈辱感を叩きつけていた。




 「さてさて、それじゃあ召喚(サモンズ)も済んだことだから、このまま破壊しちゃいましょうね~。」




 なんて言いながらナナリーが片手を前に掲げると、既にサブマシンガンが握られていた。


 その銃口を、先ほど出来上がったばかりの小さな戦車に向けられる。




 「ファイヤ~!!」




 満面の笑みで片手で引き金を引き、ガガガガガ!!! と凄まじい速射音が鳴り響き、光の筋が戦車に向かう。


 弾は装甲を容易く撃ち抜いてしまい、無数の銃痕が刻まれる。


 満面の笑みで放たれるも、サブマシンガン自体は抜群なまでに安定し、練度の高さが伺える。


 狙った部分に的確に命中させていくといった風情だ。


 やがて戦車は火を噴き始め、ゴゥゴゥと燃え始めた。


 その段階でサブマシンガンの銃撃を終了させる。




 「と、ティムちゃんとナナリーちゃんの信頼関係は、サブマシンガンでも燃え上がってダメになるくらい、脆い関係性だってことでした~。」




 なんて、何が楽しいのか笑顔で皆にそれを告げる。


 生徒たちはそんな教師の姿と言葉に、苦笑を浮かべる他なかった。




 「これが、二人の信頼関係で兵器の性能が変わるってやつかい……。」




 ジャックは苦笑を浮かべる生徒たちとは別に、真剣な表情で燃え上がる戦車をジッと見つめていた。


 放課後に教えてもらったことを、知識ではなく、目で見て学ぶかのように。


 そして同時に疑問に思うことがあった。




 「どうやったら、信頼関係を築けるんだろうか……。


  そいつと接する他に、何もないのか?」




 この時初めて、人との交流を意識し始めたジャックだった。


 強くなるためには、誰かの力を借りる必要があり、互いに互いを信頼しなければならない。


 独りでは強くなれず、信頼関係の結果として強くなる。


 そして、信頼関係などは相性にも左右し、効率的な方法というものはある意味では存在しない。


 それが普通の人の、一般的な考え方。




 だが、ジャックは違った。


 彼は、無駄なことに時間を費やすことは無価値であると捉えている。


 そんな彼が無駄なく時間を使い、手っ取り早く強くなる方法はどうするべきか。


 もっと効率的に信頼関係を築く方法はないのか、と考える。




 「俺は……早く強くならないといけねぇんだ。」




 ジャックは拳を握りながら、呟く。


 圧倒的な力。


 それをただただ、求める。


 パートナーとの信頼関係が強くなる方法ならば、出来る限り早く信頼し合えるにはどうするべきかを知らなければならない。




 今日の放課後は、またシャルルから教えてもらえるはずだ。


 その時にでも聞いてやろうと、ジャックは内心で決意を固めた。

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