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エターナル・スペランツァー  作者: 和島大和
7/15

第六弾 『信用と信頼』



 放課後。


 茜色の空が見える教室。


 他の生徒は帰宅する者以外に、残って外で運動している者たちがいた。


 グラウンドから彼らの声が聞こえてくる。


 そんな中、ジャックは教室でシャルルが主催する講義を受けていた。


 今回は、六星刻印(レジュルタ)開心(フェデルタ)と呼ばれるものに関しての話。


 昼に名前だけ出てきては、ジャックが放課後での説明を求めた話題だ。


 しかし今回は、六星刻印(レジュルタ)を中心に行われるらしい。




 「開心(フェデルタ)によって開かれた『リアライザー』の心に、『ストライカー』が触れると『六星刻印(レジュルタ)』っていうのが刻まれるの。


  ちょうど、こんな感じの文様ね。」




 真剣な表情で説明するシャルルは、ホワイトボードに六芒星を描き始める。


 円の中心に正三角形と逆三角形を重ね合わせる。


 お世辞にも形は綺麗なものだとは言えないが、それは大した問題ではない。




 「その、六星刻印(レジュルタ)ってのが刻まれたら、『ストライカー』自身はどんな変化があるんだ?」




 ジャックは早速、疑問を口にする。


 至極根本的なものだ。


 六星刻印(レジュルタ)が『ストライカー』自身の手の甲に刻まれることは理解した。


 それを以って召喚(サモンズ)へと繋げることも理解した。


 だが、肝心の『ストライカー』の変化の理解は追い付いていない。


 身体的なの変化や、精神的な変化はどうなのか。


 どんな状態になるのか。




 「まぁ、色々と疑問はあるかもしれないけど……後で答えてあげるから、今は待ちなさいな。」




 クスクスと微笑み、人差し指を自らの口元に添えて呟くシャルル。


 ひとまず、今の疑問を頭の隅に置いておきながら、ジャックは彼女を真っ直ぐに見据えていた。




 「六星刻印(レジュルタ)の説明の前に確認するけど、ジャックは六芒星が持つ意味って知ってるかしら?」



 「……六芒星が持つ、意味?」




 唐突な問い掛けに、思わず首を傾げるジャック。




 「そんなもの聞いて、何になるんだ?」



 「いいから、早く答えなさいよ。」




 質問を質問で返され、不機嫌そうな面持ちを浮かべるシャルル。


 ジャックはホワイトボードに描かれた六芒星を見つめ、考える。


 形そのものに対して、どこか惹かれるような不思議な感覚はあったが、その意味など考えたこともない。


 当然ながら今まで、六芒星について調べようとも思わなかった。




 「……知らないな。」



 「そっか。


  じゃあ、説明するわね。」




 解っていたかのように話を進めるシャルル。


 それに耳を傾けるジャック。




 「六芒星は基本的に、正三角形と逆正三角形の組み合わせで構成されているの。


  ここでいう正三角形は『男性』を表してて、逆三角形は『女性』を表している。


  その二つの三角形が組み合わさり、統合され、調和がとれている状態が六芒星よ。」




 シャルルは『六芒星』という星型多角形の意味を説明した。


 二つの三角形の組み合わせによって構成され、その調和として六芒星が生み出されている。


 それぞれの三角形は、男女を表すことも話題の一端として述べた。




 「つまり、『ストライカー』が『リアライザー』の心に触れて、調和が取れた状態の証として六星刻印(レジュルタ)が発現するの。


  男性の心と女性の心が一つになった証、といえばより分かりやすいかな?」



 「なるほどね。


  ってことは、六星刻印(レジュルタ)ってのは、互いに互いを信頼していれば出てくるってことか。」



 「…………。」




 シャルルの説明を元に、ジャックが考えをまとめてみる。


 しかし、シャルルは視線を逸らして何やら考え始めた。


 そんな彼女の態度に、ジャックは怪訝な表情を浮かべる。




 「……シャルル?」




 思わずジャックが首を傾げ、シャルルは視線を戻してきた。




 「ごめんなさい。


  互いに信頼、って言うとちょっと違うわ。」



 「……どういうことだよ?」




 彼女の言葉に、訳が分からないといった風情のジャック。


 シャルルは言葉を続ける。




 「アタシの説明不足だったってことよ。


  間違いではないけど、正解とは言えない。


  『リアライザー』自身は、開心(フェデルタ)をした段階で『ストライカー』を信頼していることになるの。


  それに対して六星刻印(レジュルタ)は、『ストライカー』が『リアライザー』を信頼している証ってこと。」




 「信頼……。」




 シャルルの説明で出てきた言葉。


 信頼。


 誰かを信頼し、誰かに信頼される。


 信頼とは、どういったものなのか。


 ジャック自身も興味を持ち始めていた。




 「その信頼ってのは、具体的にどんなものがあるんだ?」



 「……唐突に難しい質問をするわね、アンタ。」



 「何か悪いかよ? 気になってんだから仕方ねぇだろ。」




 ジャックの唐突な問い掛けに冷や汗をかくシャルル。


 そんな彼女に不満げな顔で呟く。


 そして、ジャックの疑問は収まりを見せない。




 「そもそも『信用』と『信頼』って、どう違うんだよ? 召喚(サモンズ)に必要なのは、『信用』じゃなくて『信頼』なんだろ?」



 「…………そ、そうね。


  『信用』と『信頼』の違い、か。


  確かに、言われてみれば『信頼関係』とは言っても、『信用関係』なんて言葉はないものね。」




 ジャックの疑問に、シャルル自身も腕を組んで考え込む。


 彼が質問した内容は、一言に関係ないとは言い切れない要素だ。


 そして、シャルルは今まで疑問視すらしなかった内容でもある。


 腕を組み、数分もの間考え続けた。


 かなり難しい内容ではあったが、徐々に徐々に、その言葉の意味を明確にしていく。




 「難しいけれど『信用』っていうのは、なんだか物理的よね。


  対して『信頼』は、精神的な面が多い気がするわ。」



 「…………どういうことだ?」




 シャルルの発言に、ジャックは首を傾げる。


 彼女なりに導き出した答えとして、こうして口に出し始めたが、ジャックの理解が追い付いていない。


 しかし、自らの考えを(まと)めるように、シャルルは言葉を続けた。




 「相手が積み上げた何らかの実績や成果物……その人が今まで行ってきた業績なんかを見たり感じたりして、『この人なら信用できる』って感情を抱くのが『信用する』ってこと、なんじゃないかな。


  対して『信頼』は相手の性格とか、癖とか、目には見えないものに何らかの期待や憧れを抱くもの、なんじゃないかなって思う。


  こういう点を考慮すれば、『信用』は過去で『信頼』は未来を指しているように思うわね。


  相手の過去の業績や成果を見て、期待して『信用』する。


  簡単に言えば、企業が過去に造った製品品質が良ければ、その企業が造った同じ分野の製品品質を人は『信用』するのよ。


  でも、『信頼』ってなるとそうじゃない。


  相手の性格や癖を理解した上で、その人の未来の行動なんかに期待する。


  『この人になら秘密を伝えても大丈夫』って感情を抱くの。


  恋人同士とか、家族とかはこっちに近いわよね。」



 「…………。」




 言葉を並べる内に、シャルル自身は理解しつつあった。


 それが正解か間違いかは問題ではない。


 『信用する』ことと『信頼する』ことの違い。


 過去と未来。


 物理的と精神的。


 一方、彼女の説明を聞いていたジャックは理解の外にあった。


 完全に話に置いて行かれた気分だった。


 更に言えば、自分の疑問の本質が解消されていない気分に陥った。




 「……よく分からねぇな。


  つまり、『信頼』を勝ち取るにはどうすりゃいいんだ?」



 「……そうね。


  まずは、相手に『信用』されることじゃないかしら。


  過去の業績を『信用』して貰った上で、今後の業績を『信頼』して貰わないといけない。


  簡単に言えば、アンタがこれから先で信頼を勝ち取るために多くの人から『信用』されて、『信頼』されないといけないのよ。」




 ジャックの疑問に対し、シャルルはクスッと微笑みながら告げた。


 これが正解かは分からないが、それでジャックの疑問が少しでも解消されれば良いと思った。


 それによって、ジャックも多少の疑問は解消されていた。


 だが、それでも何かが足りない。


 ジャックは腑に落ちない気分を孕み、真剣な表情で更に問い掛ける。




 「……相手のことを理解した上で、相手に委ねるってのが信頼……それは解った。


  けどよ、その信頼ってのをもっとこう、手っ取り早く勝ち得るにはどうすれば良いんだ?」



 「もっと、手っ取り早く?」




 ジャックの質問に、問いの意図を掴めずに首を傾げるシャルル。


 『信頼』を勝ち取るために『信用』されるような行動を起こすというのが、ジャックの問いに対する答えだと思っていた。


 だが、ジャックは掘り返すように『信頼』を勝ち取るための問いかけを投げてきた。


 自分の答えに納得していないことは解ったが、それ以上何を求めているのかが見えない。


 そんなシャルルに対しても、ジャックは言葉を選びながら自らの疑問を伝えようとする。




 「……召喚(サモンズ)ってのは、神秘的な儀式のようなものなんだろ? だったら、その儀式に等しい『何か』があるんじゃねぇのか。


  信頼関係を築くために行われる、神秘的な儀式のような『何か』だ。」



 「……あぁ、なるほどね。」




 補足のように述べた彼の言葉に、シャルルはようやく理解する。


 召喚(サモンズ)のように神秘要素を孕んだ、信頼関係を築く方法を彼は尋ねたいのだ。


 確かにそれならば、信用のために動く手間は省かれるのではないか、という疑問を抱くことだろう。


 ようやくジャックの考えが解り、それによって一つの答えが見えてきた。




 「ないことはないわよ。


  神秘的に信頼関係を築く方法。」



 「ホントか!?」




 視線を逸らしながらも呟くシャルルに、ジャックが身を乗り出すように食らいつく。


 期待していた応えに辿り着けそうな状況に、興奮しているようだ。


 しかし、その想いに釘を刺すように人差し指を立てながら、言葉を紡ぐ。




 「但し、これは上級士官学校で学ぶ分野よ。


  アタシ達みたいな下級士官学校の生徒が知るべきものじゃないわ。


  だから、アタシがアンタに教えて良いかどうかは分からない。」



 「……そうか。


  じゃあ、後でナナリーさんに何か言われる可能性があるってことか。」



 「えぇ、そうよ。


  場合によっては機密事項の漏洩に繋がるから、知りたいのならここからは自分で調べることね。」




 シャルルの説明に納得するジャックに対し、自らの意志で学ぶように告げる。


 自身がそうしてきたように、ジャックにも探求心を養ってほしいという想いもあった。




 「俺が勉強、ね。


  気分が乗ったら調べておく。」



 「そうすることね。


  って、かなり話が逸れちゃったわね。」




 顔を引き攣らせながらも呟くジャック。


 彼の言葉に頷きつつも、大きく話が逸れたことに苦笑するシャルル。


 その時、窓の向こうで何かが煌いたのを、視界の端で捉えた。


 

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