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歌姫様は男の娘!?  作者:
第2章
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第20話

 次に言い渡された訓練は、マイクを使った武術だった。

 これについては練習は外の方が都合が良いということで、人払いしたお城の裏庭を訓練場として提供して貰えることになった。


 運動はあまり好きでは無いのだけれど、いくら神官が後方支援特化とはいえ、やはりこれは避けては通れないものみたい。

 少し気落ちする私に、稽古相手を務めてくれることになったアルトさんが励ますように声をかけてくれる。


「カンタービレ様の場合にはスカーラ様もアクゥート様もいらっしゃいますから、あまり必要無いかもしれませんね。ですが、ある程度は出来ておいて損はありませんから、頑張りましょう」


「はい。・・・すみませんアルトさん、せっかく時間を割いて下さっているのに暗い顔なんてして」


 申し訳なくて私はしゅんっと眉を下げた。

 私のためにわざわざ時間を作ってくれている人の前でやる気の無いそぶりを見せるだなんて、失礼にもほどがある。

 そんな落ち込んだ様子の私に、アルトさんは何かを思い出したように苦笑いをした。


「いいえ、カンタービレ様は良い方かと存じます。最近入った新米兵士たちの中には堂々と訓練をサボったり手を抜いたりする不届き者もいますから」


 その時のことをより鮮明に思い出したのか、アルトさんの表情が苦笑いからだんだんと険しいものへ変化していく。

 どうやらそのへ兵士さんたちはよほどアルトさんに手を焼かせているらしい。

 このままだと私までとばっちりを受けそうな気配がしてきたので、私は慌てて話題を逸らすことにした。


「あ、アルトさん。それで、私はまず何をすれば良いのでしょうか?」


「あ、はい。それではまずはマイクへ力を通して柄を出して下さいますか?」


 幸い、私の言葉でアルトさんは直ぐに現実へ帰ってきてくれたようで、普段通りの声音で指示を出してくれた。

 これなら真面目にしてさえいれば理不尽に怒られるようなことも無いだろう。

 そう安堵して、私はアルトさんの言葉に頷くと、アリアさんとの訓練を思い出しながらマイクへと適量の力を注ぐ。

 まあ、実際に力を注いでくれているのは私の心の呼びかけに応じてくれた神様なんだけど、そこは気にしないでおこう。


 私の身の丈に合わせて短めの柄が形成され、そこを持つように手の位置を変える。

 私のその仕草を確認して一つ頷いたアルトさんは、そのまま私の背後に回ると、持ち方を矯正してくれる。


「マイクの取り回しは杖と同じように行いますから、持ち方はこう、そして、構えはこのようになさるとやり易いかと」


「こ、こう、ですか?」


「はい。ひとまずこれから暫くは自在にマイクを振り回せるだけの力を付けるために素振りを行いましょう。攻撃の際の型はある程度振れるようになってからですね」


「は、はい」


 うう、やっぱりそうなるよね。

 私はアルトさんの言葉に内心がっくりと肩を落とした。

 でも、自分から言い出したことなんだから、今更辞めるわけにはいかない。

 私は気合いを入れ直すと、アルトさんの指示に従って素振りを始めた。




「はい、そこまで」


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


 アルトさんのかけ声とと共に、私はどっと地面に座り込んだ。

 ああ、疲れた。覚悟はしていたけれど、このしんどさは想像以上だ。

 私は、筋肉痛の予感をひしひしと伝えてくる両腕に嘆く。


「お疲れ様でしたカンタービレ様。本日はここまでにしておきましょう」


「は、はい。・・・・・・・・・あ、ありがとう。ござい、ました」


 完全に息があがって言葉が途切れ途切れになってしまう。

 けれど、そんな私を叱ることもなく、アルトさんは寧ろ気遣わしげに私を見た。


「大丈夫ですか?」


「は、はい。少し、運動不足だった、ものですから。でも、少しやすん、だら、どうにか」


「あまり無理はなさらないで下さい。宜しければ此方をどうぞ。蜂蜜が入っていますから、疲れに効くはずです」


 あまりにも疲れた様子の私を哀れに思ったのか、アルトさんが少し離れた場所に置いてあった机の上に用意してあった紅茶をティーカップに注いで持って来てくれた。

 そのことにどうにかお礼を言いつつそれを受け取る。


 流石はブランさんが用意してくれたものだけあってカップからはとても美味しそうな匂いが立ち込めている。

 その爽やかな中にも甘さを含む独特の匂いに誘われて一口含む。

 それは、匂い通り爽やかな味わいのお茶で、ほんのり感じる蜂蜜の甘さが良いアクセントになっていた。

 私は、そのあまりの美味しさに暫く我を忘れて紅茶を堪能した。


「ふう、美味しかった。流石はブランさんの入れた紅茶ですね」


「ありがとうございます。かんたーびれさまにおほめいただけるとはこうえいのきわみでございます」


「え、ブランさん?」


 後ろから聞こえてきた声に驚いて振り向くと、そこには紅茶を置いた後立ち去ったはずのブランさんがにこにこと笑みを浮かべて立っていた。

 その横には、何故か不機嫌度MAXといった表情のカールと、相変わらずゴミを見るような目を向けてくるアクゥートさんもいる。


「えっと、皆さんどうしてここに?」


「あまりにも気持ちの悪い手紙が届いたのでな。会議を放棄してカントに癒やされに来たのだ。と、いうわけで部屋に戻るぞ」


 そう言ってカールはズンズンとこちらへ歩み寄ってくると、私の返事も聞かないまま私をすっと抱え上げた。

 そのまま器用に横向きに抱えて歩き出す。所謂お姫様抱っこというやつをいきなりされて、私はひたすら戸惑った。


「うわっ!・・・ちょ、ちょっとカール!?」


「なんだ?」


「いや、なんだ?じゃなくて、下ろしてよ!これ、なんていうか凄く恥ずかしいから」


 お姫様抱っこには少なからず憧れがあるけれど、こんな人目の多い場所でされると羞恥の方が強い。

 それに、アルトさんやブランさんは兎も角。アクゥートさんが死ねば良いのに、とでも言いたげな酷い顔で見てくるから余計に恥ずかしさが募る。


 けれど、カールはそんな私の抗議なんてまるで意に介した様子も無く。寧ろ私を抱く腕により一層力を込めた。


「我慢するんだな。今日の我は兎に角機嫌が良く無いのだ。だから少しでもカントに触れ合っている必要がある」


「ええっ!意味が分からないよ」


「お前は分からずとも良い。ただ、我の精神安定のために必要なことなのだと我慢してくれ」


 そんな懇願するような目を向けられれば、私も了承するしかない。

 だから私は、せめてアクゥートさんや部屋へ移動する間に出会うだろう人たちからの視線に耐えるため、カールの首もとへと顔を埋めた。


 部屋に着くと、カールは早速私を抱いたままソファーへと腰を下ろし、そのままぐりぐりと私の首筋へと顔を押し付けてきた。

 移動していた間の私とほとんど同じ仕草だけれど、カールの場合には首筋の匂いも嗅いでくるからたちが悪い。


「ちょっ、カール!いっつも首の匂い嗅がないでって言ってるでしょ」


「すまん、許せ」


 そうは言いつつ、匂いを嗅ぎ続けているから説得力は皆無だ。

 これはどうも相当嫌なことがあったらしい。


 こうなったカールは、彼女が満足するまで好きにさせておかないと収まらない。

 そのことを心得ている私は、仕方なく彼女の思うようにさせておくことにした。

 それにしても、いったい何があったのか。


 カールの行動の原因に興味がわいた私は、暫くまともに会話が成り立ちそうに無いカールに聞くのは始めから諦め、一番話が通じそうなブランさんへと水を向けた。


「ブランさん、いったい何があったんですか?なんだか相当嫌なことがあったみたいですけど」


「それが、いぜんからすかーらさまへきゅうこんしてきていたおうじさまがこいぶみをおくっていらしたのです」


 なるほど、それでこの反応なのか。

 どうやらカールは相当その王子様のことが嫌らしいと納得していると、それまで私の首筋の匂いを嗅ぐことに集中していたカールが、ガバリっと勢いよく顔を上げた。


「あれは恋文などと純粋なものでは無い!ようは鬼と人間のハーフである珍しいメスを自分のコレクションに加えたいと言う欲望に濡れたものだ。あんなものを寄越しておいて我が嫁に来ると、あの男は本当に思っておるのか!」


 カールはそこまで一気に捲し立てると、『気持ち悪い』と、吐き捨てて再び私の首筋へと顔を戻した。

 でも、私もカールの気持ちは分かる。


 私だって前世のあの体験のせいで男の人が駄目になってしまったのだ。

 実力行使に出られていないとはいえ、あの時の男の人と似たような感情をぶつけられているのだと考えれば、気持ち悪いという感想を抱いても可笑しくは無い。

 カールの言い分に納得した私は、カールの気が済むまでこのままにしてあげることにした。


 それにしても、世の中にはやっぱりあの男の人みたいな考え方をする人がいるのか。

  私がこの世界で出会った男の人たちは、いずれもそんな感情を私に向けてくることがなかったから安心していたのだけれど、カールの話を聞いて少し不安な気持ちがぶり返してしまう。

 せっかく最近は改善されてきていた男性恐怖症だけれど、なんだか先行きが怪しいことに、私はひっそりとため息を零した。



ここまで閲覧していただき、ありがとうございます。



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