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歌姫様は男の娘!?  作者:
第2章
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第19話

 マイクを上手く扱うコツは、魔力の流れを詳細まで感じとることみたい。

 そうすることで、今どの程度の魔力がマイクへ注ぎ込まれているのかや、どの方向へ流れようとしているのかが分かるというのがアリアさんの説明だ。

 そして、それをコントロールすることで拡散や集約を自在に行う。


 これは、敵を直接攻撃する時だけではなく、歌で術を発動させる時の効果や範囲を調節することにも使える。

 戦闘に出る神官には必須の能力らしい。

 なので、まずは自分の魔力を知ることから始めることになった。


 今までは祈りを込めて決められた歌を歌っていれば術が発動したから、自分の魔力をきちんと感じようとしたことなんてない。

 だから上手く出来るか正直とても不安だ。

 と、いうか。術だって歌えばなんか身体が軽くなったり、力が溢れてくる感じがするなあと感じていた程度なんだよね。


 私が今使える術は、アクゥートさんみたいな目に見えるものではないから、未だに自分が不思議な力を使えるのだという実感がない。

 本当に私に魔力なんてものが備わっているんだろうか?実は全て錯覚だったんじゃないのか?

 そんな疑心暗鬼な考えが頭を過ぎる。


「カンタービレ様の場合、すでに術が使用可能なので、まずは術を発動させてみましょう。ただ、何時もより術が発動するときの感覚に意識を集中してみてください」


「はい」


 ぐだぐだ考えていても仕方がないので、アリアさんの言葉に従って歌う。

 ひとまず敏捷向上で良いかな。えっと、何時もみたいに祈りを捧げて、それから一生懸命歌う。

 単純だけれど、私はこれで術を発動させることが出来る。


 前にそうアリアさんに言ったら凄く驚かれたので、私の方法はどうやら特殊みたいだ。

 普通は魔力で術を発動するための術式を編み上げて、そこへ歌に答えた神が力のほんの一部を注いでくれることで発動出来るものらしい。


 その時には『流石はカンタービレ様、無意識の内に術式を作り上げていらっしゃるのですね』と言われたけれど、どうなのだろうか。

 何時もは何気なくやっているけれど、発動する時の感覚に神経を傾けてみる。


 始めは何も感じることが出来なかった。そのため、私の中に少し焦りが生まれる。

 でも、術が完成する頃になると、身体の中に何か暖かなモノが溜まっていることを感じられるようになった。

 そして、それは刻一刻と増えていく。

 術が発動する時には熱くすら感じるほどの質量になっていたそれを、最後のフレーズと共に一気に放出する。


「・・・・・・・・・」


「如何ですか、カンタービレ様。普段の状態と違う感覚を感じることは出来ましたでしょうか」


「・・・はい」


 私は、初めて感じた魔力に少しぼーっとしながら答えた。

 あれが、魔力か。なんだか暖かくて心地よいものだったな。でも、きちんと集中しないと自分の一部のように感じてしまうくらい違和感が少ないものだった。

 あれはどういう原理なんだろう?


 そんな風に考えていた私へ、アリアさんがとても真剣な表情で再び問いかけてきた。


「失礼ですが、どのような感覚だったかお聞きしてもよろしいですか?」


「あ、はい。えっと・・・術の発動が近づくにつれて、自分の身体の中に暖かいモノが溜まっていってて、発動する時に一気に外に吐き出すような感じがしました」


 改めて言葉にしてみると、自分が感じていたモノが本当に魔力なのか確信が持てず、段々声が小さくなってしまった。

 だって、術の発動には術式が必要だって聞いたのに、私が感じたのはただ暖かい塊が大きくなっていく感覚だけだったんだもの。


 すると、そんな私の不安を汲み取ってくれたのか、アリアさんが優しく頭を撫でてくれた。


「大丈夫、その感覚が魔力の収束と発散です。ご自分の感覚に自信をお持ち下さい」


「良かったぁ」


 アリアさんの言葉に安堵した途端、気の抜けた声が出てしまった。

 そんな私の様子をくすくすと笑い、良く出来ましたと言うようにアリアさんがさらに頭を撫でてくれる。


「さて、それでは次の段階に進むことにいたしましょう」


「はいっ!」


「うふふ、その意気ですわ。次は、より小さな魔力も感じ取れるようにするのです。目標は体内に入る前の魔力も感じられるようになること。よろしいですか?」


「はい」


 この世界では、魔力は神から与えられる恩恵だ。

 漫画や小説みたいに、空気中や体内にあるわけではない。

 そのため、魔力を使うためには神様に力を貸しても良いと思わせるだけのアピールがいる。


 私たち神官の場合は歌。魔術師ならば詠唱。

 でも、一番大切なことは神への祈りである。


 神によってどんなものを好むかが異なるけれど、人間の祈りが彼らの力に変わるから、神々は祈りを捧げた私たちへのご褒美として少しだけ力をくれる。それが魔力だ。

 神殿関係者の間では神の力を魔と表することを不敬として神通力や神力と呼んだりするらしいけれど、魔力と呼ばれるのが一般的だ。

 まあ、これらは全部アリアさんや母様から聞いた話なんだけどね。


 それは置いておいて。つまり、極論で言うと、この世界では歌や詠唱を行わなくても、神へ捧げる祈りの力が大きければ神は力をくれるということだ。


 でも、そんなことが出来たのは大昔の巫女や魔法を開発した大賢者くらいのもの。

 私みたいな凡人にはそんなことは無理だから、精々沢山の魔力を貰えるように一生懸命歌うだけだ。


 そうすれば、神様が私の身体へ魔力を流し込んでくれる。

 その体内に入る前の魔力も感じられるようになるというのは、砂浜の細かい砂の一粒一粒を感じ取るようなものだと思う。

 それでも、これが出来るようにならなければ何も始まらない。


 私は、投げ出したいと訴える頭を叱咤し、身体へ集まってくる魔力へと精神を集中させた。








 訓練を始めてから一週間。体内に集まる魔力をある程度細かいところまで感じられるようになってきた。

 この訓練は、初心者が術を使えるようになるために習うものだそうで、普通は一年近くかけて出来るようになるものらしい。

 私後少し神官学校に居れば習う予定だったみたいだ。


 だからクラスの子たちはみんな術が発動しなくて苦戦していたのかと、少し自分がズルをしていたような気分になった。

 でも、私の場合には教えて貰うとすぐ術が使用できたのだからしょうがない。


 本人もなんで術が使えるのか分からないんだから、反省のしようもないのだ。

 まあ、おかげで集まる魔力を集中して詳細に感じるようにすれば良いだけだから、楽で良いんだけどね。


 ただ、最終目標の体内へ入る前の魔力を感じるというところだけがどうしても出来ない。

 アリアさんにもコツなんかを聞いてみたけれど、どうも体外の魔力を感じられるようになるには時間をかけて経験を積むしかないらしく、上手く伝えられないという答えが返ってきた。


「お役に立てず、申し訳ありません」


「いえ、気になさらないで下さい。これは私の問題ですし。どうにか自力で頑張ってみます」


 心底申し訳なさそうにしているアリアさんに、私は慌てて言葉を返した。

 私が不甲斐ないせいで彼女にこんな顔をさせたと思うと、罪悪感が凄い。


「はい。でも、無理だけはなさらないで下さい。体内の魔力さえ感じられるようになれば神官としては十分役目を果たすことが可能ですから」


「分かりました」


「それと、明日からは次の段階の練習に取り組みたいと存じますが、魔力探知も毎日少しずつでも練習しておいて下さい」


「はい」


 次の練習の内容は、明日教えて貰えるということになり、私はそわそわしながら家へと帰ることにした。


 それにしても、今日もカールは会議が長引いているのかな。


 最近あまり会う機会が無い友人に思いを馳せる。どうも、新しく貿易をすることになった国の王子がしつこくカールをお嫁さんにしたいと言ってきているらしい。

 カールと叔父様が断固拒否の姿勢でいるものの、相手はなかなかに強国だから、角が立たないように断る方策を連日話合っている。


 その会議には側付きとしてアクゥートさんが同行しているから、彼女とも最近は会っていない。

 まあ、完全拒絶をされた後だから、会えなくてほっとしている部分も正直あったりする。


 でも、少しずつ彼女とも距離を縮める努力をしないとね。

 戦闘の訓練は時間がかかりそうだし、彼女の落とし物を取りに行くのはもっと時間がかかりそうだ。


 その長い時間避けっぱなしじゃ、彼女の言う条件を満たしても仲良くなれなさそうな気がするもの。


「む、カント。お前も今帰るところか」


 お城の侍女さんに盾になって貰いますながら廊下を歩いていると、別方向から来た父様と鉢合わせた。

 会議に駆り出されていた父様とは家ですらもほとんど会っていなかったので、かなり久しぶりに会った気分になった。


「あ、父様。はい、父様もこれからお帰りになられるのですか?」


「ああ。今日はスカーラ様が側にいたおかげで陛下がきちんと仕事を済ませたからな」


 なるほど、カールが帰って来なかったのは叔父様の仕事を手伝っていたのもあったのか。

 腕組みしながら叔父様を見張っているカールの姿が想像出来て、私は思わず苦笑いを浮かべた。


 叔父様はとても優秀な人だけれど、どうもサボリ癖があるらしく、すぐに執務を放り出して逃げてしまう。

 普段は、その仕事を父様が代わりに行っている間にアルトさんやフォルテシモさんたちが叔父様を探すそうだ。


 でも、カールが側にいる時には、彼女に「我に構いたいのならば仕事を全て終わらせろ。話はそれからだ」と言われるため、きちんと仕事をする。

 だから、カールは自分の仕事が無い時に叔父様の執務室へ詰めていることが多い。


 そのことがカールは不満らしく、叔父様に自分が居なくてもきちんと仕事をしろと言っている。

 逆に、叔父様は娘と過ごす時間欲しさに父様たちに我が儘を言うらしい。

 叔父様も娘に構ってもらうために必死みたいだ。


「ふむ。せっかくの機会だから共に帰るか」


「っ!はい、父様」


 普段仕事が忙しくてなかなかお会い出来ない父様と一緒に帰れる。

 そう考えただけで私の心は踊った。

 父様は一応私が最も恐怖の対象としている年代の男性なのだけれど、全然そうは見えない。


 寧ろ、私も大人になったらこんな女性になりたいと憧れを抱いているくらいだ。

 まあ、それを言うと怒られるだろうから言わないけれど。


 そして、恐怖の対象となり得ないのは、父様だけでなく、兄様たちにも言えることだ。

 特に、今年で14になるはずのバリー兄様はますます父様に似てきていて、後三年もすれば全く見分けが付かなくなりそうなくらいである。


 性格まで父様にそっくりで、生真面目さに磨きがかかってきている。


 バッソ兄様も、兄弟で唯一のお祖父様とお祖母様似だけれど、女顔には変わり無いから、凛とした美しさがある顔立ちをしている。

 言い表すなら、美貌の女戦士といった感じだろうか。

 それでいて寡黙で無表情なことがあり、付いた徒名が「氷の人形(アイスドール)」である。


 呼んでいるのは、バッソ兄様の武術訓練の相手を勤めている一般兵さんたちらしい。

 どうも、バッソ兄様の体術の腕はかなりのものらしく、何時も兵士さんたちをコテンパンにしているみたいだ。

 それでも顔が綺麗だから、一部の人以外からは遠巻きながらも好かれてはいるらしい。

 因みに、このことを教えてくれたのはカールである。

 結構噂好きの彼女は、こういうネタをどこからか仕入れてきては私に報告してくれる。


 メッツォ兄様なんて、まだ幼いせいもあるのかもしれないけれど、可愛らしい女の子にしか見えない。

 あれで兄弟で一番気性が荒くて暴れん坊なのだから、世の中不思議なものだ。


 そんな彼らの容姿のおかげで、私は家族にまで怯えるなんて悲惨な状況にはならずに済んだので、とても感謝している。

 まあ、みんな女にしか見えない自分たちの容姿にコンプレックスを抱いているみたいだから言わないけれど。


「どうだ、訓練の調子は」


「え、えっと・・・ひとまず体内にある魔力だけならば感知が出来るようになりました。なので、明日からは次の訓練を始めると伺っています」


「そうか」


 普段あまり自分から雑談をしようとしない父様から投げかけられた言葉に面食らいながらも、どうにか言葉を返す。


 そんな私の様子を、父様は何を考えているのか分かりにくい静かな表情で見つめてくる。

 そんな時間が数分過ぎた頃、父様はふいっと私から視線を逸らしながら口を開いた。


「あまり無理はするなよ。お前は、私の娘なのだから」


「っ!・・・はい」


 あの父様から娘と言われた。


 そのことに、私は嬉しくて嬉しくて涙がこぼれそうだった。

 だって、あの父様だよ?冷静沈着、冷酷無慈悲、鉄壁の女帝とまで呼ばれているあの父様に認めて貰えるだなんて。


 これも、訓練を頑張っている効果なんだろうか。

 そう考えると、ちょっと挫けそうになっていた心が、もっと頑張ってみようと思い始めるのだから不思議だ。


 とりあえず、認めてくれた父様にはとびきりの笑顔で返事を返し、私は明日からの訓練も頑張ろうとやる気を出した。

ここまで閲覧していただき、ありがとうございます


今回はここのところ出番の無かった主人公のお兄さんたちの話をちらっと出してみました。

因みに、メッツォにはまだ異名はありませんが、バリーには「鉄の乙女」という異名が付いているという裏設定があります。

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