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歌姫様は男の娘!?  作者:
第2章
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第18話

 男性恐怖症についてはおいおいどうにかするとして、私はまず、森のモンスターをどうにかする術を身につけることに決めた。

 と言っても、私一人では神官に向いた戦い方は分からないため、アリアさんに授業のついでに聞いてみる。

 母様に聞いても良かったんだけど、理由を根ほり葉ほり聞かれてボロが出そうだから止めておいた。


「アリアさん、少し相談したいことがあるんですけどよろしいですか?」


「はい。わたくしでお力になれるのでしたらいくらでもご相談に乗りますわ」


 朗らかに笑うアリアさんに心が和む。言葉遣いはアクゥートさんと似ていても、相手へ与える印象に天と地ほどの差がある。

 やはり貴婦人とはこういう人のことを言うのだろう。

 私も彼女みたいに、もっと優雅な所作や言葉運びが出来るようになりたいものだ。


 そう思ってみたものの、それだとますますアクゥートさんに嫌われそうな予感がして、少し微妙な気持ちになった。

 ひとまず、気を取り直して相談内容を打ち明ける。


「ありがとうございます。・・・じつは、私も身を守る手段を身につけようと思うんです。ほら、このままだと、私一人だけが明らかに足手まといじゃないですか」


「まあ!そんなことはありませんわ。カンタービレ様は神官としての力を十分身につけています。寧ろ、普通の子よりも優秀な位ですわ。恐らく、あのまま神官学校にいれば主席で卒業できたことでしょう」


「えっ」


 思いもよらない言葉に、私は呆然とした。

 確かに、歌声は素晴らしいと誉めて貰えていたが、術の精度なんかについては何も言われた記憶が無い。

 でも、神官学校では本格的な術の行使は二年生になってからだと言われていたため、習っていたのは軽い身体強化の術くらいだったから仕方が無いのかもしれない。


 そう思ってみても半信半疑な私へ、アリアさんが自信を持たせるような優しい笑顔を向けてくる。


「だから、自信を持ってください。あなたにも力があるのですよ。ただ、その力の使い方を分かっていないだけに過ぎません」


「でも、私はカールやアクゥートさんみたいに敵を倒すことが出来ません。それじゃあ、二人が側にいない時に襲われたら何も出来ずに殺されるだけです」


「そうですね。確かに神官の力は支援専門で、敵を直接倒すことには向きません。けれど、工夫次第では自分の身を守る術としても使えるのですよ」


 アリアさんの言う工夫が想像も付かず、私は首を傾げる。

 だって、今まで習った神官の術と言えば回復や身体強化なんかの完全に後方支援特化のものばかりで、使えそうなのは身体強化くらいのものだ。

 でも、いくら身体強化を使っても、それで自分が魔物と渡り合えるようになるとはとても思えない。

 やはり、兄様やカールのように剣術や体術を身に付けなければいけないのだろうか。


 そう考えると一気に気が重くなる。

 強くなるためには仕方がないと理解はしているが、やはり武術は性に合わない。

 せめて敵の攻撃を防御したり回避したりする方向性でどうにかならないだろうかと、悪足掻きのように思考を逸らす。


「そうですね。本来なら戦闘に派遣される部署に配属されない限り、神官に戦い方を教えることは無いのですが、カンタービレ様が望まれるのであれば、神官独自の戦い方をお教えいたしますわ」


「ほ、本当ですか!ありがとうございます」


「いいのですよ。貴方を立派な側付きへ育てることがわたくしの仕事なのですから」


 一向に理解出来ないでいる私を哀れに思ったのか、アリアさんが戦闘訓練を申し出てくれた。

 それは私にとって願ってもいないことで、一も二も無く飛びつく。その時には、本当に武術だったらどうしようかとか、そんな考えは抜け落ち。

 これで少しは目標に近づくことが出来るかもしれない。そんな希望に胸を踊らせていた。




 そうして、この日からアリアさんとの授業に戦闘訓練が追加された。

 そのことにカールや叔父様は難色を示したけれど、「足手まといのままは嫌だし、自分の身くらいは守れるようになりたい」と言うと渋々納得してくれた。

 武闘派のお祖父様と、元々私に戦い方を学ばせたかった父様が賛成してくれたこともあり、実戦練習の時には女性の兵士さんが手伝ってくれることになった。


「良いですか。まず、神官に大切なことは相手の攻撃に絶対に当たらないことです。何故なら、神官の一番の役目は敵を倒すことではなく、仲間を援護し、手助けすることだからです。その援護するはずの人間が傷を負って仲間に援護されたのではお話しになりません」


「はい」


「だから、神官はまず最初に仲間と自分へ防御や敏捷などを強化する術をかけます。そのうえで、絶対に敵の攻撃が当たらないように避けながら、援護のための術を適宜に展開。近づいてきた敵は、これで攻撃します」


 今日は初日ということで、道具や戦術の説明などの座学の予定だ。

 説明と共にアリアさんが、懐から手のひらより少し大きい位の筒を二つ取り出す。

 そして、その片方を私へと手渡すと、残りの一つを弄り始めた。


「これは、神官用に作成された魔法道具です。これへ魔力を流すと、その魔力に応じた強度の柄が伸びる仕組みになっています。長さも魔力で調節が可能ですが、銃のように属性を付与することまでは出来ません」


 そう説明をしながら、アリアさんは実際にその魔道具に魔力を通して実演してくれる。

 確かに、アリアさんが魔力を通した途端、筒の端から 柄が伸びた。

 因みに、属性を付与出来ない理由は、本来の道具の使い方ではないから、というのと、この魔道具を作った職人の腕ではこれが限界だかららしい。


 魔道具というのは、大抵闇の神の加護を受ける吸血鬼一族のみが扱える魔法陣を、道具へ刻むことで作成される。

 しかし、なん百年も前にとある人間の国が魔道具を独占しようと、『闇の神は邪神だ!そんな神から加護を受けているものたちが過ちを犯さないよう、我々が管理をしなければならい』などといちゃもんをつけて、吸血鬼一族を攻撃した。


 そのときは、ヴォカーレを中心にした援軍が人間側を追い払って事なきを得たそうだが、その攻撃のせいで当時の巫女が亡くなったそうだ。

 そのため、吸血鬼一族は人間には絶対に魔道具を作成してくれない。

 唯一、救援に駆けつけたヴォカーレにだけは無理を言えば作ってくれるそうだが、それでも担当するのは魔道具作成の経験が浅い新人だという。

 そのため、音を増幅させる魔法陣だけならともかく、柄を延ばさせる魔法陣まで組み込むのはかなり難しいそうで、この上属性を付与しろというのなら今後一切作成しないと、職人に断言された。


 そこで仕方なく属性付与は諦めて、その分、音を増幅する魔法陣の精度を改良して貰っているそうだ。


「この道具の本来の役目は、私たち神官の声を増幅させ、より遠くの仲間まで術を届けさせることなのですから、これで良いのですよ。柄が伸びる機能も、使い勝手を良くするために後から無理に付けられたものなので、これ以上を望むのならば吸血鬼一族をどうにか説得しなければならなくなります」


 そう言って、アリアさんは道具の性能についての説明を締めくくると、次に、実戦での道具の使い方について説明を始めた。


「この魔法道具はマイクというのですが、先程も説明したように、私たちの声を増幅することが主な役割です」


「マイク・・・」


 マイクって、やっぱりあのマイクだよね?筒から延びた柄を見たときから何かに似ていると思ったけれど。そうだよ、あれ、スタンドのついたマイクにそっくりなんだよ。


 機能も音を拾って増幅するとか、マイクとスピーカーが合わさったみたいなものだし。

 これって偶然なのかな?

 私は、いきなり現れた前世で慣れ親しんだ文明の利器に動揺する。


 けれど、アリアさんはそのことに気がつかなかったのか、特に気にした様子も無く説明を続けた。


「授業で説明したかとは存じますが、我々神官の能力の効果範囲は声が届くところまでです。そのため、対象に声が聞こえなければ効果がありません。しかし、戦闘中は声がどうしても届き難くなります。かといって、神官は能力的に前線に出るわけにはいきません。そのため、より大規模な戦闘時に活躍できるように開発されたのが、このマイクなのです」


 確かに、神官の術は対象を術者の任意の相手のみに絞り込んだり、及ぼす効果を魔力量で微調整が可能だったりと、そこだけ見れば便利だ。

 しかし、その分アリアさんの言うように相手に声が聞こえないと効果が無いというのは、戦闘中だとなかなか厳しいものだろう。

 アクゥートさんの銃に被弾した的が出した爆発音を思いだすと納得だ。


「そして、これは後から編み出された技ですが、この機能を利用すれば、我々神官の能力でも敵を攻撃することが可能です」


「えっ!そうなんですか?」


「はい。普通は増幅させた声は広範囲へ拡散させるのですが、それを一点に集中させて放つと、強力な衝撃波となります。急所を狙えば、使い手の力量によっては、相手を殺すことも可能な武器になりますわ」


「っ・・・」


 殺す、という言葉に自然と身体が震える。

 前世で味わったあの、苦しみ、恐怖、虚無感。それを今度は自分が違う誰かに与える。

 それは一度死を体験したことのある私にはとても辛い重荷に感じられた。

 アクゥートさんと仲良くなることばかりに目が行って、戦うということはつまりそういうことに繋がるのだということを失念していた。


 でも、そういえばそうだよね。相手を攻撃するってことは、殺すこともあるってことだ。

 ううん、後から襲われることを考えれば、敵は殺した方が確実だってお祖父様が仰っていた。

 戦闘経験が豊富なお祖父様が言うのだから、それが効率的なのだろう。

 頭ではお祖父様から聞いた戦闘の心得を理解している。


 でも、それを心が納得できるかは全く別の問題だったみたいだ。

 そんなことも理解していない状態で戦闘の仕方を習いたいだなんて、良く言えたものだと、自分を罵りたくなった。

 けれど、そんな私の反応を、アリアさんは、微笑ましいものを見る目で受け止めた。


「大丈夫ですよカンタービレ様。私も生き物を殺すことにためらいがありましたし、中にはそれがどうしても出来なくて部署を代わった神官もいます。だから、殺すことへ恐怖を感じることは正常なことです。ただし、実戦でその逡巡を行うことは、貴方様や、仲間の命を危険に晒すということを肝に銘じておいてください」


 真剣な、それでいてどこか悲しみを帯びた表情で語るアリアさんに、私はただ無言で頷いた。


「とはいえ、カンタービレ様は常にこの国最強クラスの戦士たちに守られているのですから、直接手を下す決断を迫られる機会などそうそう訪れるものではありません。ですから今は、スカーラ様たちの攻撃をくぐり抜けてきた敵から身を守る術として身につけるつもりだけで構わないかと存じます」


「はい。・・・ありがとうございます、アリアさん」


「いいえ。それでは授業を続けましょう」


 気を利かせてくれたのだろう。アリアさんが勇気づけるように言葉をかけてくれた。

 そんな彼女に、まさか「一人で戦わないといけないんです」とは言えないから、アリアさんにはお礼を言うだけに留める。


 湖がある場所は、観光地としてある程度整備されている場所とは言っても、少ないながらもモンスターが出てくるところだ。

 私一人で行くなんて言ったら、絶対に止められる。

 下手をすると、原因となったアクゥートさんが処罰されることにもなりかねない。

 それではアクゥートさんと仲良くなんて絶対になれないから、本末転倒だ。

 出だしから躓いた計画に、私は道のりの長さにため息をついた。


ここまで閲覧していただき、ありがとうございます。


ようやく主人公が戦う術を手に入れられそうです。

主人公はRPGの正統派ヒロインをイメージしてスペック構成をしたので、完全に後方支援キャラなんですが、せめて自己防衛くらいはさせないと話しが進め辛いなあ、と無い知恵を絞った結果今回書いた感じに収まりました。

主人公が戦えるようになったら、戦闘シーンを活かして少しでも話しにスピード感というか、緩急をつけられるように頑張ります。

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