第21話
結局、きちんと武術の型を教えて貰えるようになるまで、半年近くかかってしまった。
自分でも時間がかかり過ぎだと呆れている。
でも、男性恐怖症のリハビリよりはマシだからどうとも言えない。
ひとまず、型は教えて貰えるようになったけれど、まだまだ体力が足りない私は、長時間の訓練は行うことが出来ない。
そのことを歯がゆく感じながらも、気長にやることにした。
どうせ男性恐怖症を克服しないことにはどうにも出来ないんだ。
それなら、ここで焦っても仕方がないよね。
「カント、今日は久々にデートに出かけよう」
「えっ?い、いいけど、どうしたの?」
朝、カールの部屋に着いた途端そんなことを言われ、私は少し驚いた。
確かに、ここ最近は私もカールも忙しくてどこかに出かけることが出来ていなかったけれど、それにしても唐突な気がする。
そんな私の思いを感じ取ったのか、カールが珍しく疲れた表情で答えてくれた。
「あの馬鹿王子が漸く諦めてくれたのでな。厄払いのためにもカントと楽しいことがしたいのだ」
「あー、なるほどね」
その話は私も昨日父様から聞いていた。
家ではほとんど仕事の話をしない父様だけれど、今回の件については私も心配をしていたので、特別に教えてくれたみたい。
その話によると、カールに言い寄っていた王子様には元々婚約していた別の国のお姫様がいて、そのお姫様から脅しに近い制止の声があがったらしい。
まあ、実際にはお姫様がそう行動するように叔父様たちが行動をしていたみたいだ。
そのおかげで、漸くカールは王子様のラブコールから解放された。
デートなんて言っているけれど、ようは憂さ晴らしに思いっきり遊びたいだけじゃない。
そんな呆れにも似た感情を抱いたけれど、私も最近は訓練続きで遊んでいなかったし、カールの誘いは魅力的ではある。
あ、そうだ!
「なら、アクゥートさんも一緒に行きましょう?」
「は?貴方、何を言っていますの?」
私の言葉がよほど予想外だったのか、アクゥートさんは一瞬虚を突かれたような顔をした。
これど、直ぐに何時も通りの冷たい表情を取り繕えるんだから、流石と言うかなんと言うか。
まあ、彼女とも1ヶ月の付き合いだ。最近は彼女のこの反応にも慣れてしまった。
こんなことくらいで落ち込んでいたら彼女と付き合っていけない。
だから、私は出来るだけなんとも思っていない風を装って彼女に言葉を返した。
「だって、アクゥートさんはここに来てから仕事ばっかりだったじゃない?だから、今日くらい一緒に遊びましょうよ」
「はぁ、何故わたくしが貴方なんかと遊ばなくてはなりませんの?そもそも、スカーラ様は貴方をデートに誘ったのでしょう。デートとは、大勢で行くものではありませんわ」
そう言って、アクゥートさんが心底呆れたとでも言いたげな視線を向けてくる。
うう、そう言われてしまうと反論出来ない。
私は困った結果、助けを求めるようにカールへ顔を向ける。
すると、カールはしょうがないなと苦笑を浮かべ、アクゥートさんへと声をかけてくれた。
「まあそう言うでない。お前も我の側付きなのだから、別に居てくれて構わぬ。寧ろ、見目の良い者が多い方が華やかだからな」
「な、何を言って・・・」
「さて、そうと決まれば早速出かけるとしよう。ブラン、馬車の仕度を」
流石カール。アクゥートさんが動揺している内にさっさと話を進めてしまった。
こうなると、いくらアクゥートさんでも皇女であるカールに逆らうことは出来ない。
アクゥートさんは凄く悔しそうだったけれど、どうやら一緒に行ってくれそうだ。
「ありがとう、カール」
「ふっ、礼を言われることはしておらんさ。我は本当のことを言っただけだからな」
アクゥートさんに気付かれないようにこっそりお礼を言うと、カールが本当に何でも無いことのように快活に笑う。
その表情に何だか私まで可笑しくなってしまって、彼女の腕に抱きつきながら笑顔を零した。
初めはアクゥートさんの態度に不快そうにしていたカールだったけれど、彼女もアクゥートさんのあの態度は仕方が無いものと割り切ったらしい。
寧ろ、最近はさっきみたいにアクゥートさんをからかって遊んでいる姿を見かけることが増えてきた。
私は未だにアクゥートさんから嫌われているから、仲良さそうにしている二人を見るのは少し複雑ではあるけれど、二人が仲良くなってくれたことは嬉しい。
このまま私も、アクゥートさんと仲良くなれるように頑張らなくちゃ!
珍しく服がみたいと言うカールの希望で、今日はショッピングをして回ることになった。
どうも、また一回り胸が大きくなったから、今の服じゃ入らなくなったらしい。
既にCは有りそうなんだけど、彼女の胸はいったいどれだけ大きくなるつもりなんだろうか。
前世の私なんて、ギリギリBカップだったのに。
まだ12才にも関わらず、グラマラスボディへと成長しつつある親友の姿に、私は無意識の内に自分の胸へと視線を落としていた。
まあ、今の私じゃあ、どう頑張っても胸は大きくなりようが無いんだけど。
こういう時にはどうしても自分が男だということを実感してしまうな。
はっ!ダメだダメだ。そういうことは気にしないって決めたじゃないか。
つい暗くなりそうだった思考を払うため、無理やり視線を上へ戻す。すると、私と同じように自分の胸元へと目線を落とし、眉をしかめているアクゥートさんが目に入った。
彼女もきっと、私と同じことを考えているに違い無い。
そう思うとなんだか親近感が湧いて、私は勝手ににこにこと彼女を見つめてしまっていた。
しかし、私の視線に気がついたアクゥートさんは、はっとしたように頬を赤く染めると、慌てたようにキツい視線と言葉を投げかけてきた。
「な、何を笑っているんですの!」
「い、いや。別に」
まさか貴方の反応が可愛いかったから、なんて言えるはずも無く。私は言葉を濁す。
でも、アクゥートさんはそれも気に入らないというように更に語気を強めて食いついてきた。
「なら、へらへら笑わないでいただけるかしら。そんな目線を向けられたら不快で仕方がありませんの!」
「うう、ごめんなさい」
「これこれ、喧嘩をするでない。せっかくの愛らしい顔が台無しであるぞ?まあ、その表情も乙なものだが」
「ま、また貴方はそのような戯れ言を!・・・もう良いですわ」
どれだけ睨んでもからかうような視線を送り続けるカールに、アクゥートさんは拗ねたようにぷいっと顔を背けた。
その姿がやっぱり可愛らしく感じて、こっそり笑う。
すると、その雰囲気を感じたらしいアクゥートさんが鋭い視線を素早く向けてきたから、今度は私が慌てて顔を反らせるはめになった。
「そ、そうだ。私も欲しい物が有ったんだったよ。ちょっとあっちの方見てくるね」
顔を背けても刺さってくる視線の鋭さに負けて、私はそそくさとカールたちから距離を取る。
幸い。皇女が来るからという理由でこのブティックは貸切になっているから、店員さん以外の男の人に会う心配は無い。
店員さんも、カールの気遣いのおかげで彼女が呼ぶまでは店の奥に引いてくれているし、店の中だけなら、一人で行動しても大丈夫そうだ。
さてと、せっかくだから私も何か新しい服を買おうかな。
そう考えて、ほとぼりが冷めるまで一人で店の中を見て回る。
このお店は何時も母様が服を取り寄せてくれているお店で、所謂貴族御用達のお店だ。
だからなのか、置かれている服はどれもこれも高級そうで、前世の私なんかじゃとても手がだせそうに無い。
これを気軽に買えるようになるなんて、今更だけど変な感じだよね。
そんなのんきなことを考えて、完全に油断をしていた私は、背後からいきなり抱きすくめられ、パニックに陥った。
「っ!」
驚いて悲鳴を上げようとしたけれど、背後の人に素早く口を塞がれたせいで、それは叶わなかった。
そのうえ、私の口を塞いでいたものには何か薬が染み込ませてあったらしく、時が経つにつれてだんだんと意識が遠のいていく。
ダメだ、このままじゃ。
そう考えてみても、私を拘束している人の腕力は強いみたいで、一向に身体は動かない。
結局、私はそのまま意識を失った。
ここまで閲覧していただき、ありがとうございます。
なんだかカールがアクゥートに対しての態度を変えるのが急な気がしますが、そこら辺の話はまた、主人公以外の視点として番外編で書けたらなと考えていますので、見逃していただけると助かります。




