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歌姫様は男の娘!?  作者:
第2章
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第16話

 翌朝、私はカールと手を繋いで訓練所へ向かった。

 そこはいつも兵士さんが訓練している場所なだけあり、見た目的に武骨な印象だ。


 中へ入ると、叔父様やお祖父様、父様にフォルテシモさんといった顔馴染みの人々の他に、見たことのないお爺さんと少女がいた。

 たぶん、あの二人が公爵家の人なんだろう。


「おはようございます、スカーラ様、カンタービレ殿」


「ああ」


「おはようございます」


 よし。どうにか普通に挨拶は出来た。

 私は、公爵様相手にもきちんと挨拶出来たことに内心ガッツポーズをきめた。


 初対面ではあるけれど、公爵様は見た目が優しそうなお爺さんなので、それほど怖くないのが良かったのだろう。

 どうも私は、前世で自分を殺した人に年が近ければ近いほど恐怖を感じるみたいで、お城に勤めている兵士さんたちや、叔父様はもろ恐怖の対象だ。

 あと、お祖父様みたいに見た目が厳しそうな感じの人も苦手なんだよね。


 そんな叔父様たちにも、カールに手を繋いでいて貰えば会うことも、ギリギリだけど会話することも出来るようになった。

 だから、大丈夫なはず。


 そう気合いを入れて挑んだ甲斐があったというものだ。

 公爵様とも滞り無く話せたことに満足し、私は改めて側付きになるはずの少女へと顔を向ける。


 彼女は銀髪に深い藍色の瞳がよく似合う美少女で、いかにもお嬢様とかお姫様といった風貌の子だ。

 こう言っては悪いけれど、カールよりも余程見た目はお姫様らしい。

 まあ、カールはお姫様じゃなくて王子様とか王様って感じだから気品では良い勝負だ。


 ただ、どうにも不機嫌なようで、腕組みをして此方を凝視してくるから少し怖い。

 つり目がちの目元が、余計に彼女の雰囲気をきつそうに見せている。


「は、始めまして」


「・・・ご機嫌よう」


「こら、きちんと挨拶をしなさい。申し訳ございません、今まで甘やかして育てていたもので、どうにも我が儘が過ぎるのです」


 素っ気ない態度の少女を、公爵様が優しく叱る。

 それに対し、少女は心底嫌そうに公爵様を睨みつけた。

 せっかく美人なのに、ツンツンした態度のせいでどうにも取っつき難い印象が強い。


 少女は、流石に祖父の言葉には逆らえ無いのか、睨みつけはしたものの、直ぐにとても美しい所作で礼をとった。


「始めまして皇女様。わたくしはクローマ公爵家次期頭首の長女、アクゥート・セミ・クローマと申します。以後、お見知りおき下さいませ」


「・・・スカーラだ。そしてこっちが側付きのカンタービレ」


「・・・・・・・・・」


 カールにしか挨拶をしてくれなかったアクゥートさんに、カールがわざと私を紹介してみせる。

 それのおかげか、彼女はすっごく嫌そうな顔をしつつも、再び綺麗な仕草で淑女らしいお辞儀をした。

 そんな彼女の態度に、周りが難色を示す。叔父様とカールなんて露骨に顔をしかめているし、父様とフォルテシモさんも少なからず不快に感じているようだ。

 すると、不穏な空気を察したのだろう、公爵様が急に話題を変えてきた。


「挨拶も終わったことですし、早速腕試しを始めましょう」


「ふんっ、そうだな。これ以上イライラさせられても適わん。さっさと終わらせることにしよう」


 叔父様の非難の言葉にも、公爵様は笑顔を崩さない。

 でも、その笑顔にはどうにも不穏なものが混ざっているように感じて、私は薄ら寒い思いがした。

 なのに、その笑顔を向けられたアクゥートさんの方は今までよりも更に苦い顔をして、公爵様を睨み返す。

 そうして笑顔としかめっ面で向かい合うこと数秒。ツンっと、効果音が聞こえそうな尖った表情で顔を逸らしたアクゥートさんは、くるりと踵を返し、やはり貴婦人の鏡とも言えるほど優雅な足取りで歩き始めた。


 剣呑かつ優雅。それが彼女に対する私の第一印象だ。


 あれでもっと人当たりがよければ、アリアさんみたいに完璧な貴婦人なのだろうけれど、如何せん態度が悪すぎる。

 あれでは社交界でやっていくのが大変だろうに。

 そんな風に、私がパーティーにも満足に参加出来ない自分を棚に上げたことを考えている間にも、彼女は用意してあった銃らしきものを手に取ると、具合を確かめるように弄り始めた。


 彼女の持っている物は、形的にはアニメとかに出てくる銃と変わらないように見える。

 ただ、違いを上げるとするなら、色が白くて少し筒の部分が太めだということ位だろうか。


 あれ、某怪盗の相棒が愛用している銃とは違って、弾を込める回るところは無いみたいだけど、どこから弾を入れるんだろう?


 私は、彼女の銃の仕組みが分からず首を傾げた。

 前世では小説やアニメをそれなりに見ていたけれど、スポーツものや恋愛ものが主だったから、正直武器関係にはあまり詳しくないのだ。

 そんな私では、あの銃が前世の銃とどう違うのか、正確には分かりそうにない。


 そんなことを考えている内に準備が完了したらしく、アクゥートさんが銃を構えた。

 彼女の前方には100mほど先に、弓の訓練用と思われる的があった。


 それに狙いを定める彼女からは、先ほどまでの不機嫌さや傲慢さはなりを潜め、真剣な横顔は、美しい容姿も相まって神々しくすらある。

 そう、まるで戦乙女(ヴァルキリー)のような雰囲気だ。

 そんなアクゥートさんの姿に、いつの間にか周りは静まり返り、彼女の動くその時を待つ。


 そして、彼女が引き金を引いた時、辺りは赤く染まった。


『ゴウッ!』


 そんな効果音がつきそうなほど大きく、赤々と燃え上がる炎の弾が放たれ、周囲を染め上げたのだ。


 その火球と言うには大きな炎は、まっすぐに的へと進み、そのまま的を破壊する。

 しかし、アクゥートさんはそれをちらりと流し見ただけで、直ぐに少しだけ身体をずらすと、さっき壊した的の左隣にあった的へと照準を合わせ、また引き金を引いた。


 すると、今度放たれた球は青い色から考えて水だと思われるものだった。

 それがまた的へと当たる。

 しかし、攻撃力は低いらしく、ひびは入っているが的は壊れなかった。

 それに眉を潜めつつ、アクゥートさんがまた引き金を引く。


 今度は土色の塊だった。それは、これまでの球状の弾とは違って鋭く尖っており、まるで矢の先端みたいだ。

 その弾が、水球でひび割れていた的へ突き刺さり、そのままこなごなに的ごと砕け散る。


 その衝撃で巻き起こった爆音に、私は思わず耳を塞いだ。

 一方、アクゥートさんはそんなこと気にした様子もなくそのまた左隣にある的へと狙いを定める。


 どうやら、彼女は全ての的を破壊する心積もりらしい。


 残りの的は後二つ。その間に彼女は他にどんなものを見せてくれるのだろう。

 そう期待しているのは私だけではないはずだ。

 その証拠に、先ほどからカールも真剣な表情で彼女の行動を見守っている。


 また、引き金が引かれた。

 しかし、ヒュッという風切り音はしたものの、私には銃から放たれたものは何も見えなかった。

 弾切れかな?そう首を傾げた時、目線の先で、的が真ん中からスパッと上下に斬れた。


「えっ・・・」


 驚きに声が漏れたけれど、その間にもまた新たな弾が発射される。

 それは黒く禍々しい塊で、落下しかけていた的だったものへと命中すると、ジュウッと音を立てて溶かし始めた。


 あれは、塩酸とかそんな感じなんだろうか?

 なんだか気持ち悪い物体になり果てた的を見つめて、あれに当たったらと思わず想像してしまう。

 うん、怖いからやはり止めておこう。


 私が一瞬だけそんな馬鹿な考え事をしているうちにも、アクゥートさんは、ついに最後の一つとなった的へと照準をすでに合わせ終え、引き金を引いていた。

 放たれたのは、見るのも眩しいほど光輝く弾。

 それは、さっきの火球や水球に比べていくらか小さい。


 けれど、それが的に当たった瞬間。

 ボンっと一際大きな音を立てて弾が弾け、それとともに的も爆散した。


「うわっ!び、びっくりした」


「ほっほっほっ。どうですかな?性格は少々癖がございますが、戦力としては申し分ないと存じますが」 


「ふむ、そうだな。まだ荒いところもあるが、年齢から考えてまだまだ伸びしろがあるだろう」


「ありがとうございます」


 流石に現役で軍人をしているだけはあり、お祖父様がいち早く評価を述べる。

 それに、何故か評価された本人ではなく公爵様がお礼を言う辺りに、アクゥートさんの愛想の無さがにじみ出ている気がした。


「まあ、性格は確かに気に入らんが。なかなか面白い見せ物だった。アクゥート・セミ・クローマ。お前をスカーラの側付きと認めよう」


「・・・ありがとうございます」


 叔父様の言葉にすら黙っていようとしたらしいアクゥートさんを、流石に公爵様も鋭い視線で見つめる。

 その、射殺すようなめ目線に促され、渋々といったようにアクゥートさんがすっと頭を下げた。


 銃の腕は確かに凄いのだけれど、この先、この子と上手くやっていけるのか。

 私は、色々と気難しそうな初めての同僚に、かなりの不安を覚えた。

ここまで閲覧していただき、ありがとうございます


新キャラについては、ツンデレ好きの姪っ子に色々アドバイスを貰ったのですが、彼女の好みがツンツンツンツンツンツンツンツンツンデ、ツンツンツンツンツンツンくらいの子なので、凄く加減が難しかったです。

色々弄っていたらなんだか姪っ子に言われた人物像とは違う感じになってしまいましたが、ちゃんとツンとした女の子になっていましたかね(汗)


彼女を魅力的に書けるように、「お前はツンデレを何も分かっていない」と、姪っ子にまた怒られながら精進します。

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