第15話
歌唱祭が終わったあと、皇宮は一気に慌ただしくなった。
以前の襲撃とは違い、今回は大勢の人がいるお祭りの時に堂々と行われたのだから仕方がないのかもしれない。
警備が前より厳重になって、以前は気詰まりするだろうという理由で部屋の外で待機していたアルトさんが、勉強中も部屋の中にいるようになった。
勿論、部屋の外には彼女の代わりの兵士さんがいる。
そんな重苦しい空気を、カールと叔父様は過剰だと眉をひそめた。
でも、その警備を手配したのが父様なので、カールはともかく、何故か父様を異様に慕っている叔父様は文句が言えない。
多分、この厳戒体制はしばらく続くだろう。
そんな状況に便乗する人々が現れたのは、あの女の人が現れた次の日だった。
「やはり姫の側付きには武術にも優れた者を置くべきだ。あんな見た目だけのお飾りなど不要」
そう言って、私の代わりに自分たちの子息や親戚をカールの側付きにしようとする貴族の人たちが出始めたのだ。
まあ、その人たちは私のことも可愛がってくれている叔父様とお祖父様の怒りを買って沈黙させられたらしいけれど。
その時のことを話すカールは、とても不機嫌そうだった。
かくいう私も良い気分ではない。
でも、私が武術的に何の役にも立たないのは事実だから、彼らのように怒りは湧かない。
神官は元々後方支援が専門の職業だ。そんな私が戦闘で出来ることなんて、精々回復と補助魔法くらいのもの。
だから、私はカールたちに交代の話に応じるべきなのではないかと提案してみた。
そのあと、怒ったカールと叔父様に笑顔で威圧されたことは思い出したくない。
あの時の二人は、本当、うん。怖かった。
そんな感じで一週間ほど経った頃。
カールが物凄く不機嫌そうに謁見から帰ってきた。
「えっと、おかえり?」
「すまん、カント。側付きが一人増えることになった」
「へっ?」
どういうことなのかと話を聞いてみると、私の家と双璧を築いているもう一つの公爵家から話を持ちかけられたらしい。
例のカールが大嫌いな公爵様の家だ。
流石カールが狸爺と称するだけのことはあり、他の貴族の人たちがするアプローチへの叔父様たちの反応を観察し、そのうえで断れない理由を作り上げて持ちかけてきたのだとか。
「あの狸ジジイめ、『カンタービレ様は補助、スカーラ様は直接攻撃がお得意だと伺っております。それならば、お二人を援護出来る遠距離攻撃が得意な者を側付きにお増やしになってはいかがでしょう?』などとぬかしおった」
多分その公爵様の真似だろう、低く、嫌みそうな声でカールがまくし立てる。
今までの貴族の人たちは、私を排除しようとして怒りを買うことが多かった。
そのため、私を排除するのではなく、寧ろフォロー出来る人材を提供することで守りを万全にしようというスタンスらしい。
まあ、普通ならそんなもの不要と言って突っぱねることが出来るのだけど、相手は二大貴族の片割れ。
いくら皇帝の方が地位や権力があっても、無碍には出来ない相手だ。
しかも、公爵はトドメとばかりに私の事情にも配慮を見せた。
『勿論、カンタービレ殿の事情は存じております。丁度良いことに、私の孫に彼女と同年の女子がおりまして、あれならばカンタービレ様でも問題ないかと。それに、もしカンタービレ殿と相性が合わない場合には、彼女が付き添えない時にのみ、スカーラ様へ付き添う、というように役割分担をすれば良いでしょう。何より、やつは銃の扱いにかけては天賦の才を持っておりましてな。我が孫という欲目を抜きにしても、スカーラ様の補佐として充分な能力があると自負しております。どうですかな?勿論、我が孫を側付きにしていただけましたら、陛下の
ご提案への助力もご考慮いたしますぞ』
と、このように長い口上を述べ、おまけに長年彼が反対しているせいで通らなかった議案への賛成を仄めかした。
これで断ったら、どんなしっぺ返しがあるか分かったものではない。
これには流石に叔父様も頷くしかなかったようだ。
「そっか・・・それで、その人はいつから来るの?」
「ああ、明日だ。ひとまず顔合わせとその者の腕試しのために訓練所で会う予定になっている」
「そう。・・・それなら、私も行った方が良いわよね」
「・・・それは、そうだな。そなたがこなければまた貴族たちがうるさいだろうし、あの狸ジジイが調子に乗るだろう。だから、出来れば来て欲しい」
少し間があったのは、きっと男の人が多くなるだろう場所に私を連れて行くことに戸惑ったのだろう。
それでも来て欲しいと言うことは、行かなければよほど私の立場が悪くなるということだ。
そして、それをどうにかするためにカールや叔父様たちが奔走する。
これまで幾度となく繰り返されてきた事柄に、私は強く拳を握った。
そのまま、深く、深く、息を吸う。
そして一気に吐き出す。
「はぁーーーーー。よしっ!大丈夫、私も明日一緒に行くよ」
「そうか。だが、無理だけはするなよ。辛くなったらいつでも言え。あんな狸ジジイの言うことなんて気にしなくて良いからな」
「ふふふ、うん。その時はよろしくね?」
「ああ、任せておけ」
不敵に笑うカールに、私も笑みを返す。
そうしてひとしきり笑いあったあと、ふと、気になることがあり、流れのついでに聞いてみることにした。
「そういえば、銃ってどんな武器なの?」
公爵様が言うには、彼の孫は銃の使い手らしいけれど、この世界の銃がどの程度のものなのか、私には全く分からない。
というか、銃を使っている人など今まで一度も見たことがなかった。
みんな大抵剣や槍、斧といったものばかりで、銃や爆弾といった現代的な武器を使っている人はいない。
街並みもレンガ作りの中世の西洋といった雰囲気だったので、文明もそのくらいなのかと思っていたのだけれど。
あ、でも。火縄銃なら戦国時代にもあったわけだし、銃があっても可笑しくないのかな?
そもそも、私は基本的に人とあまり会わないようにしているから、見たことがないだけなのかも。
そんな疑問のうえでの質問だった。
そんな私の質問に、カールは少し難しい顔をした。
「むぅ。我も良くは知らないのだが、なんでもドワーフ族と吸血鬼族が協力して作った魔道具らしい。少ない魔力で大きな威力を生み出せるそうだが、扱いが難しいうえに、数が少ないから値段も高い」
「なるほど、だから持ってる人が少ないってわけだね」
「そういうことだ。この国でも所持しているのはあの狸ジジイの家の者くらいだろうさ」
よほど公爵様が嫌いらしく、カールは忌々しそうに吐き捨てた。
そして、この話は終わりとばかりにおやつを盗り(台所から盗んでくるのでこの漢字で間違いない)に出て行ってしまった。
その姿に苦笑を浮かべつつ、私は明日出会う未知の道具へと思いを馳せる。
どうやら前世の銃とは違うものみたいだし、明日が少し楽しみになった。
ここまで閲覧していただきありがとうございます。
今回は少し短くなってしまいました(汗)
次回は新キャラを登場させる予定なので、その子のことも宜しくお願い申し上げます。




