第13話
私もいよいよ10才になった。
向こうでの年齢も合わせると28才だから、立派な大人だ。
いや、大人というかオバサン・・・。
うん、前世の年のことを考えるのは止めよう。私は今10才、それで良いじゃないか。
さて、年の話は一旦置いておくとして。長い間の訓練が実り、最近では男性を見ても息が出来なかったり、絶叫したりすることが少なくなってきている話をしよう。
まあ、少なくなっていると言っても、カールに手を繋いで貰っているとき限定なのだけれど。
それでも、以前に比べれば進歩していると思うと嬉しい。
おかげで、ようやくお祖父様と現皇帝である叔父様にお会いすることが出来た。
ただ、お祖父様は前皇帝であるお祖母様に強さを見込まれて婿入りを迫られ、現在もこの国の将軍を務めているほどの強者だ。
そのためだろうか、外見もその強さに見合った厳つさで、初めてお会いした時には、恐怖のあまり泣き出してしまった。
その時のお祖父様の悲しそうな顔といったら。あれは一生忘れられないだろう。
こんなに情けない孫で本当に申し訳ない。
何度かお会いしている内に、どうにか泣かずにお話が出来るようになったので良かったけれど、あのままではとんだ親(?)不孝者だ。
それに、前世では親が晩婚だったこともあり、物心つく前に両親の祖父母は亡くなっていたので、優しいお爺ちゃんお婆ちゃんに憧れていた。
お祖父様はお顔こそ厳しいけれど、かけてくださるお言葉はどれも優しい、理想に近いお爺様だ。
そんなせっかくの夢を叶えるチャンスを自分から棒に振るだなんて。
考えるだけでもったいなさと虚無感と申し訳なさが溢れる。
だから、お祖父様が生きておられる間に、頑張って男性恐怖症を克服しようと目下奮闘中だ。
そうそう、叔父様の話もしなければならないだろう。
叔父様は、ご存知の通りこの国の皇帝陛下であると同時に、父様の弟でもある。
何故弟の叔父様の方が皇位を継いでいるのかというと、ただ単に父様が辞退したからだ。
父様曰わく、叔父様は特定の人間にしか興味がない。
しかし、何故か人心掌握術に優れているし、慈悲が無い大胆な改正案を出すものの、運の良さと頭の良さで悉く成功させる。
こんな男を皇帝にしないことなど、それこそ愚かなことだ、という訳らしい。
叔父様も皇帝になれば、長年片思いをしている鬼族の姫を、確実に正妻に迎えられるよう取りはからうと言われては断れない。
そんな訳で父様は皇族からヴォーチェ家へ養子に入り、叔父様は皇帝になった。
そのため、実は両親よりも叔父様とお妃様の方が早く結婚はしている。
けれど、異種族間ではなかなか子供が産まれないため、カールと私は近い年齢で生まれることができたらしい。
でも、もし子供が出来なかったらどうしたのだろう?
そう疑問に思ったけれど、どうやらこの国では後継者がいなければ、私の家のように皇族の血を引く公爵家から選出するシステムになっているらしい。
それでも、普通は正妻の他にも妾や側妻を囲うものらしいんだけど、叔父様はお妃様を溺愛しているため断固拒否したそうだ。
うん。実際、叔父様は常にお妃様を側に置いているらしく。
この前お妃様が苦笑しながら「お気に入りの玩具を取られたくない子供みたいでしょう?」と仰っていた。
でも、お互いに好き合っているのが分かるから、仲むつまじくて羨ましい。
私の両親も父様が母様にゾッコンで、全然頭が上がらないし、父様と叔父様は容姿はあまり似ていないけれど、そういうところはそっくりだ。
そんな夫婦を常に見ていると、自分もいつかはこんな家庭を築きたいと憧れちゃったりする。
そのためにも、頑張って男性恐怖症を克服しなければ。
まあ、いくら見た目を取り繕っても身体が男な私なんかと結婚してくれる男の人がいるか分からないけれど。
「どうしたのだカント、ぼーっとして」
「うえっ!?」
気がつくと目の前にカールの整った顔があった。
武術の稽古が長引いているカールを待っている間に、少しこの世界でのことを整理していたのだけれど、いつの間にか稽古が終わっていたらしい。
それにしても、思いの外カールとの顔の距離が近い。そのことに驚いて思わず仰け反る。
けれど、そんな私の反応が面白かったのか、カールがニヤニヤと再び顔を近付けてきた。
「ん?どうしたカント」
「ちょっ、ち、近い。近いよ!」
「ほお~、どうしてそんなに焦る必要がある?私はこれでも女だから恐れる必要はないだろう?」
それはそうだけど。
でも、カールは最近なんというか、その、とても発育がよくなっている。
私とは2才しか違わないはずなのに、胸なんかはすでにCカップはありそうだ。
それでいて美しいけれど、女性にしては凛々しい相貌が、同性でさえもドキドキとさせる魅力を放っている。
そう、宝塚の男役スターにときめく感じを想像してもらえば分かり易いだろうか?
そんな人の顔が間近に有れば、いくら相手が女性でも動揺してしまうものだ。
けれど、そんな心情を宝塚や女性スターを知らない人にどう伝えたら良いのか分からない。
「だっ、だって・・・」
「ふっ、カントは相変わらず愛らしいのう」
「もうっ!すぐそうやってからかうんだから!それよりも、稽古が終わったのなら早くお散歩に行きましょう」
「そうだな。あまり遅くなってはせっかくのデートを堪能出来ないからな。さあ、お手をどうぞ、我の姫」
「またそんなこと言って・・・」
わざと恭しい所作で手を差し伸べてくるカールへ、呆れた風をどうにか装ったものの、実際にはけっこう狼狽えている。
だって、冗談めかしてはいても、セリフと共に手を差し伸べてくる姿がとても様になっていて、まるで少女漫画のヒーローのようなのだ。
それに、このところ私もカールもそれぞれの勉強や習い事が忙しく、前のように一緒にいれる時間が少なくなっていて、寂しく感じていた。
そんなところへこんな格好良い仕草をされたら、相手が女の子でもぐらりときても仕方が無いんじゃないだろうか。
でも、このときめきを素直に捉えられない自分もいる。
もしかしたら、カール相手になら、私も普通の家庭が築けるかもしれない。
そんな、打算的な考えがあるんじゃないかと怖いのだ。
そりゃあカールは未だに男の人の格好をしているけれど、きちんと心は女の子だ。
そんな彼女を私の事情に巻き込むわけにはいかない。
「カント、またぼーっとしているぞ」
「へっ?そ、そんなことないよ」
「いや、ぼーっとしていた。それも、なんだか悲しそうな表情だったぞ。なにか悩みでもあるのか?」
思いの他真剣の表情で問いかけてきたカールに、思わず息を飲む。こういう時のカールはとても鋭い。
しかも、嘘を見抜くことも上手いから、下手に言い訳をすると洗いざらい吐かされるはめになる。
そのことを良く知っている私は、まずいことになったことに焦りつつ、それでも、そのことを悟られないように、務めて何時も通り振る舞う。
カール相手に隠し事をするのは心苦しいけれど、いくらなんでも彼女を利用しているんじゃないかと悩んでいた、なんてことは言えるわけがない。
「ううん、悩みってほどじゃないんだけど、ちょっと気になってることがあって。少しぼーっとしちゃったんだ。ごめんね」
「そうか。・・・我も、カントが言いたくないのならば無理には聞かぬ。しかし、あまりにも辛そうならばその限りでは無いと心得よ。良いな?」
そっと、腰を抱き寄せられ、真剣な表情で告げられた言葉に、圧倒される。
カールとは違ってなかなか成長しない私と、鬼族とのハーフなためか、同年代の子たちと比べても発育の良いカールでは結構な身長差があるので、完全に見下ろされる形になる。
それに加えて至近距離に有る男前な顔と、暖かな体温。
これで平静でいられたら、その人を私は尊敬する。とりあえず、私には無理だ。
カールの雰囲気に飲まれてしまい、私はただ、彼女の言葉に頷くことしか出来なかった。
「よし、それではここからは我とのデートに集中してくれ」
「・・・・・・・・・分かったわ」
頷いた途端、何時もの調子に戻ったカールに、私は彼女の思惑に完全に嵌まってしまったことを悟った。
そのことに釈然としないものを感じながらも、仕方なく了承の言葉を述べる。
精神的には三十路近くになったところで、凡人では策士に勝てない。
私はその日、そのことを深く思い知ることになった。
ここまで閲覧していただきありがとうございます。
カンタービレは精神的に女性のままなので、恋愛対象は男性です。
そんな彼女をドキドキさせられるくらいにはスカーラは所作や態度が男前なことを表現したかったのですが、上手く書けているでしょうか?
まだまだ二人は仲の良い小学生女子のノリなので、ここから恋愛へ発展させられるように努力します。




