24 本物現る。
剛と伸之くんの話を聞き終わったと、ほぼ同時に観覧車が終わって降りる。
「なんか、凄いねぇ……」
「ん? それは、なんの事を言ってんの?」
「いやぁ、なんか色々?」
中学生で本当のノブくんは子供作っちゃうわ、ここに居るノブくんは弟の代わりにモデルしてたはずが……今はアイドルだもんね? なんでアイドルになったのかも少し気になるけど、ここでは聞けないから我慢しないと。
「さぁてと。どうやって、帰っかなぁ……そのままの男の恰好で、お前が別荘に戻ったらジュンにバレるしなぁ」
「あたし自分では、メイクとか出来ないよ?!」
「うん、それは多分そうだと思ってた」
分かってて、あたしに黙ってメイクとか落とさせたのかー!
普通に遊園地を楽しんで、何も考えないでウイッグ取って、メイク落とした自分も悪いから文句は言えないけどさ。
「しょうがない、あいつら呼ぶか……」
「あいつら?」
「念のためと思って、影武者的なの呼んでたんだよ。使い道は変わるけど、近く居るはずだから俺探して来るわ。少し待ってて」
「え、ちょっと?!」
あいつらって、なんぞや?! 影武者って響きカッコいいけど……なんぞや?!
「あれ? 今ここに居たの見えた気したんだけど」
ノブくんもう、戻って来た? 誰かと一緒に、来た気配はないけど。
「剛……?」
「はいはいー! って、あれ? 誰の声だ?」
今の声、ノブくんだと思ってここでは剛って言ったけど……正解みたいだけど、なんか反応が変?
声のした方を見ると暗くて顔はわからない。
その人は、あたしを探してるのか……キョロキョロる男の人の影が見える。
ノブくんとは服が違うから、同じ名前の人だったのかな?
「なんできみ、俺の名前知ってるのー? 誰ー?」
あたしを見つけてニコニコしながら、その声の主があたしの所に来た。
ノブくんかと思って観察してたから、見つかっちゃったけど、声は似てるなぁ。
別に今ここにノブくんは居ないから、あたしが見つかっても問題はないんだけど……ノブくんが戻って来た時が面倒だよね?
んー。どうしたもんか。
「もー、俺、男に見つめられっる趣味ないんだけどー。あ、ねぇ、この辺で俺に似た人みなかった?」
あで? あ! あれ? なんかノブくんと声と雰囲気が少し似てると思って、観察してたけどこの人がもしかして……噂の影武者?! そんで、ノブくんに似てる人と言えば……!
「本物?!」
「本物って、何言ってるのきみ?」
何かあった時に影武者の正体を話すのに、さっきノブくんはノブくんの話をしてくれたのかな?
「だから本物のノブくん……伸之くんだっけ? かと?」
「え? なんで?! え、じゃあ、今日……あれ? 一緒に遊ぶ子、女の子って聞いてたけど……え?! 剛、そっちの趣味に走っちゃったの?!」
なんか、盛大な勘違いしてるけど、伸之くんで間違いなさそうです。
「えーっと、剛とは、どういうお付き合いをなさってるのでしょうか……?」
え、その勘違いネタ引っ張るの?
だけど、あたしここで女の子です! って言っていいのかもわからない。
それに、どういうお付き合いって言われても、女の子としても男の子としても友達だろうし……同じグループのメンバーになる予定の仲間です。
って、言っても、男同士の怪しい関係は勘違いさせたままになるだろうし。
「……ごめん! 俺が悪かった。人それぞれの人生があるもんな。自分の身内の話だったから、ちょっと気になっちゃって」
あたしが悩んでる姿を見て、何かを感じたのか本気の顔で伸之くんが謝って来た。
「伸之くんが思ってるような関係ではないと……」
「そういや、凛もいなくなったなー」
って、人の話を聞く気はないなこの人。
「えと、幼馴染で妊娠したっていう……凛さん?」
「あ、そこまで聞いてるの? やっぱ、2人の関係すんごい気になるなぁ」
あたしとノブくんの関係と、その話は関係ないと思うけど。
ノブくんの名前のこととかを話す流れで、凛さんと伸之くんの話をしてくれただけだと思うけど。
「凛、あいつもあそこにいるし」
「ほんとだぁ。もう勝手にいなくならないでよー」
伸之くんと会話をしてると、剛の方のノブくんが女の人を連れて戻って来た。
……この女の人が凛さんかな?
凛さんは伸之くんに小走りで近づいて、一緒に居たのに勝手にいなくなったらしい伸之くんに、少しだけ小言を言ってる。
「なぁ、剛。男が好きなの?」
「は? なんで?」
「男2人で遊園地とか寒すぎじゃね?」
「あれ? 何も聞いてないの? ……男ねぇ? ぷぷぷ」
あたしが男の子だと、伸之くんに勘違いされてるのが面白いみたいでノブくんは、笑いを堪えてるつもりかもしれないけど、堪えきれずに爆笑してる。
「ちょっと、2人共? ここに固まってるのは、やばくないの?」
「あ、そうだった。車に行こう。話はそれからでいいでしょ?」
……なんちゅーか、お店の名前が車にあって、もろ花屋の車が。
お花を後ろに置くためか、座席が取られてる後ろにあたしとノブくんが乗り込む。
「お前ら……せめて、凛の家の車とか借りれなかったのかよ」
「剛がいきなり呼び出すからだろぉ。せっかく、親父にチビ預けて来たのに、遊べると思ったら到着しても閉園ギリギリで少ししか遊べなかったし」
「この恥ずかしい車を高速を運転して来たの、私なんですけど……」
「恥ずかしいって、お前ら自分の家の車だろ……」
なんか、3人にはいい雰囲気が流れてて、あたしは会話に入れない。
伸之くんと凛さんはパパとママなんだよねぇ? 若いパパとママだなぁ。
「あ、そうだ。大事なこと忘れてた。凛こいつにメイクしてやって」
「え? メイク? なんで、わざわざ男の子に?」
「……ぷっ。俺、女と遊ぶからって、お前らに来てって頼んだんだけど」
「えー? えー? 女の子ー?」
前の座席から、あたしの顔をジッと2人は見てるけど、女の子って聞いてもまだ2人の疑いは晴れないらしい。
こないだ、淳美さんに髪の毛やってもらったからなぁ……って言っても、凄く短くなったわけでもないんだけど。
「えー。剛、この子……おっぱいないじゃん! 本当に女ー?」
「あ! ちょっと、ノブ?! 本当に女の子だったらそれやばいでしょ!」
「っ?!」
おっぱい……はい。
ありませんけど、何か? えぇ、それは別に自覚してますし、怒ったりもしませんよ。
いつの間にあたしの目の前で、伸之くんが手を伸ばして屈み込んでる。
そして、その伸ばした手があるのは、あたしの胸。
紛れもなく伸之くんの手でありまして……これは、怒ってもいいところですよね?
「げっ! バカ! ノブ何してんの?! お、おい? 幸、大丈夫……じゃなさそう?」
「いてぇっ! 幸? え? マジで女なの?!」
ノブくんが伸之くんを蹴飛ばして、尻もちを付く。
凛さんの方からは、ため息が聞こえる。
心配してくれてるのか、ノブくんが何も言わないあたしの顔を覗き込んでる。
「おーい。幸さーん? もしもーし?」
「ちょっと……ノブくん退いて?」
「え? 俺?」
「多分、俺の方だろ。はぁ……まぁ、好きにしろよ。今はノブは素人だし」
車のスライドドアをスッと開けて、あたしの顔を見ながら車の外に出るノブくん。
「まだ、成長途中だ! さいてー男っ!」
「げ! あ、タンマ! ちょ?! 剛?! なにこれ? あ、助け……いってぇえええええ!」
……えぇ、まぁ。
もちろん。成敗してやりましたよ。
「ごめんね、幸ちゃん。ノブも悪気があったわけでは、ないはずなんだけど」
「……うん」
凛さんが、あたしにメイクしながら謝ってくれる。
けど、けど、けど、けど! 他に女かどうか確かめる方法は、無かったの?
……あ。
前に湯浅さんも服を脱がすまで、あたしが女って気付かなかったんだった。
しーかーもー!
伸之くんは、胸を触ってもあたしが女って分からないってどういう事?!
「うわぁぁぁぁん」
「あ、幸ちゃん、泣かれるとメイク出来ないよっ」
もう、もう、あたし頑張る。
何を頑張ればいいか、わからないけど……頑張る!
「俺、本当のまた板って感じのおっぱい、触ったの初めてだし。わかるかっつーの」
「お前、よく凛の前でそんな話出来るな。それに、文句言ってないで幸に謝れよ」
車の外でコーヒーを飲みながら、あたしに成敗されたのが悔しかったのか、顔を腫らした伸之くんが、ブツブツ文句を言ってるのが聞こえる。
「普通、触ったくらいでキレるー?」
「そりゃ、中学生はキレるだろーよ……つか、中学生じゃなくても普通はキレんじゃないの?」
「中学生?! 高校生じゃないの? あー、剛は中坊に手出したんだー。へー」
「……まだ、手を出してないから、あの反応なんだろ」
「まだっ?! やる気は、あるんだ。へぇぇぇ」
「もう、俺……お前の相手すんのダルイ。凛まだか?」
本当に伸之くんと話してるのが、本当にダルかったみたいで、メイクをしてもらってるあたしの所に、ヒョコッと顔を出すノブくん。
「もー! ノブが幸ちゃんを泣かすから、メイクのノリ悪くて大変なんだけど」
「え? 幸、泣いたの?」
「泣いでなひ……ヒック」
「わっ。泣いてんじゃん。はぁ……ごめんな? 嫌かもしんないけど、こいつら2人も連れて別荘に戻るから」
ちゃんと喋れてないあたしに謝りながら、頭にポンと手を置くノブくんの仕草に、また泣きそうになったけど、これ以上メイクがグチャグチャになるのもヤバイから堪える。
「えーっと、ノブお前が俺が乗ってたバイクでついて来いよ」
「なんで?!」
「俺、一応は有名人。幸もデビュー決まってんの。夜中に幸をバイクの後ろに乗せるの危ないだろ?」
「じゃあ、剛だけバイクでいいじゃん」
チラッと伸之くんがあたしの顔を見る。
「だったら、あたしもバイクで戻る……むしろ、歩いてでも帰る!」
「だってさ」
「わ、分かったよ! バイクで行けばいーんだろ! 俺が悪かったよ……」
あ、伸之くんが謝った。
胸を触った事を謝ったのか、触っても性別が男だと思った事についてかは分かりませんが。
どっちでもまだ許さないっ……!
今日は伸之くんと凛さんも、別荘に泊まって行くみたいだから、怒りをぶつける本番はこれからなんだから!
◆◇
「おーまーえーらー!」
「ひぃっ!」
兄ちゃんが、兄ちゃんが、兄ちゃんが……ものすごーく怒っていらっしゃいます。
「なんで、女なんかナンパしてんだよ!」
へっ? 怒るとこそこ?!
いくら凛さんも一緒に居るからって、あたし……女の子なのでナンパじゃない。って、少しは思って下さらないのですか?
「なんで、遊園地に行ってない俺がナンパした事になってんだ! しかも、剛って誰だよ!」
「あ、はーい。剛は俺でーす」
バイクで別荘に後から来た伸之くんが、状況がまだ分かって無いみたいで、あたし達の後ろから手を上げてふざけた感じで返事をする。
ここでは、伸之くんが剛って名乗るのか……そっか、そうだよね、そうなるのか。
しかも、ノブくん……あの紙に兄ちゃんの番号書いてたんだ。
そりゃ、ナンパもバレるし怒られますよ。
「は? 幸、誰こいつ。しかも、女までいるじゃん」
女までって兄ちゃんは今、凛さんの事も気付いたのかい!
この二人が誰か分かって無い兄ちゃんは、2人を睨み付ける。
「あ、これ、俺の兄貴の剛とその嫁で幼馴染の凛っす」
そう言った後にノブくんは兄ちゃんの耳元で何か小声で話してる。
「へぇ……」
何か聞いた兄ちゃんは、伸之くんだけにターゲットが決まったのか、ジワリと伸之くんの近づいてる。
「兄ちゃんに何て言ったの?」
「男の格好してる、幸に俺が居ない間に無理矢理と剛がナンパさせてたって言った」
あのナンパは、ノブくんの計算済みの行動だったのかな……これならあたしも、ノブくんも兄ちゃんに怒られなさそうだけど、凛さんが立場的に少し可哀想な気がする。
「あ……凛さんだっけ? 幸のメイクしてくれたんですよね? ありがとうございます」
「いえ! 幸ちゃん、泣いてたからきちんと出来なかったですけど」
「泣いてた?」
凛さんと話しながらも、伸之くんとの距離を縮めてた兄ちゃんがあたしの顔を見る。
「目腫れてんじゃん。何した?! おい、ノブっ!」
「幸のことちゃんと話しといたのに、勝手に勘違いしてトドメ刺したの剛っすよ?!」
「うん。確かに話は聞いてたのに、それ信じないで幸ちゃんの胸を触ったの剛が悪い!」
「触った……ふーん。触った……ねぇ?」
「ちょっと?! なんか、俺だけ悪者になってない?! しかも、このお兄さん誰?!」
状況が段々とわかって来たみたいで、伸之くんが慌ててノブくんと凛さんに助けを求めてるけど2人は無視。
凛さんは伸之くんの味方するかと思ったけど、凛さんの口からさっきの事件の事を言ってくれるとは思ってなかった。
伸之くんって、なんか可哀想な扱いなんだねぇ……。
「嫁がいるのにナンパして、しかも幸のを触るとか何やってんだ?」
「あ、いや、そのっ」
だから兄ちゃん、なんか少し怒る所……間違ってます。
ナンパも自分の名前と妹使われたことを怒るとこでは?
それに、あたしの胸を触ったことに対して……伸之くんに嫁が居るのに、他の女の胸を触ってることを怒ってる気がするのは……あたしの気のせいじゃないよね?
怒ってはいるけど、伸之くんの首根っこを掴んで兄ちゃん何かを考えてるのか、特に何かする様子はない。
まぁ、そんなに妹想いの兄ちゃんではないのは知ってたけど、すこーし怒って欲しかったんですけど……。




