22 肉と混乱
携帯に兄ちゃんから「バーベキューの準備出来たから戻って来い」と電話が入って、メインハウスに戻ることになった。
ノブくんがジュンくんよりは、しっかりしてるとは思っては居たけど……。
まぁ、それはいいとして、ノブくんの本当の年齢を知っちゃったわけなんだけど。
それに、しずくちゃんは何か知ってるみたいだから、その話にについては驚いてなかったけど、あたしに話した事に対して驚いてた気がする。
ノブくんがノブくんの兄ちゃん? だから、ノブくんは剛くん? でも、ノブって芸名だって事でしょ? ノブくんって他にもいるの?
「なぁに、幸ちゃんは唸ってるのー? ほぉらぁ、お肉食べなよっ。食べさせてあげよーかー? あーん」
「馴れ馴れしく、触らないでくれます?」
「え?! あ、うっっ……」
ノブくんの事を考えてたら、ジュンくんがあたしの肩に腕を回して来て無意識のうちにエルボを入れる。
……ん? エルボ?
あ、やばい! と思った時には後の祭りだったみたいで、あたしを止めようとしたのか「あっ!」と言って、手を伸ばした状態で皆が同じ体制で固まってる。
「幸……あれは、やりすぎだろ」
兄ちゃんがあたしの所に来て注意を下す。
あはは……自分でも少しだけやりすぎたと思ってます。
「ジュンには、あれ位が丁度いいんじゃねぇ?」
「うんうん。幸ちゃんがジュンくんに、キズ作ったって誰も怒らないだろうしねぇ」
ノブくんと大輔くんが、フォローしてくれるのを横目にジュンくんを見ると、ばっちりエルボが入ったのかうずくまってる。
……ジュンくんが動かない。
本当にやりすぎた? 心配になって、ジュンくんに近づいてみる。
「ジュンくん、ご、ごめん……」
「大丈夫だよーーーーん!!」
「げっ!」
あたしが声を掛けた瞬間、ジュンくんが顔を上げて今度は飛びついて来ようとしたから、咄嗟に蹴りを入れようとしたけど間に合わず……あれ? ジュンくんが飛びついて来ない?
「バカ! もう止めとけって!」
「そ、そうだよ。後がもっと怖いって」
「わー! それを怖がってたら、何にも出来ないじゃん」
「出来なくていいんだよ。バカ!」
暴れるジュンくんをノブくんと大輔くんが、取り押さえてくれたおかげで抱き付かれなくて済んだみたいだった。
そんなジュンくん達を兄ちゃんとしずくちゃんは、呆れた顔で見てる。
まぁ、唸っててもしょうがないしお肉食べよ!
「ねぇ、幸ちゃん?」
「はーい?」
お肉を頬ばってると大輔くんが話しかけて来た。
「さっき、ゲストハウスに行った時に、ノブそっち行ったでしょ? 何か話した?」
「え?」
話した……話しましたとも。
お肉を食べてて忘れかけてたのに、話を思い出して頭の中がまたゴチャゴチャする。
「幸ちゃん?」
「あ、ノブくんの部屋の中を見せてもらってたの」
ダメだダメ。
遊園地の話は兎も角、あたしでもよく分かってない方の話は、話しちゃいけないって言われてるんだから、考えててもしょうがない。
「部屋って……部屋?! な、幸ちゃん、何してるの!」
「何って? ゲストハウスのお部屋もどんな感じなのかなぁと思って、こっそり覗こうとした部屋がジュンくんの部屋で止められて、見るなら大輔くんか自分の部屋にしとけ言われたから……ノブくんの部屋を見たんだけど?」
「あ。そっか、そうだよね? ジュンくんの部屋は、確かに止めといて正解だね。うん」
ホッとした顔をする大輔くん。
あー! みんながみんな、ジュンくんの部屋にそんな反応するから気になってしょうがないんだけど。
「……何もされなかった?」
「ジュンくんじゃないんだから、そんな事する人じゃないでしょ?」
あれ? なんか、忘れてると思ってたけど……え? ちょっと待てよ。
「だ、大輔くん……? あ、あのさー? ねぇ?」
「なに? どうしたの?」
あたしとノブくんはこの前……キ、キスして、何もされなかった以前に、ジュンくんよりノブくんの方が危なくない?!
「きゃあああああああああ!!」
「さ、幸ちゃん? え、何、どうしたの? あ、ちょっと? えぇぇ、何っ?!」
「ダイ? 幸に何してんだよ!」
「俺は何もしてないよ! 幸ちゃんが急に……」
あたしの叫び声を聞いて兄ちゃんが駆けつけると、大輔くんがあたしに何かしたのかと思われたらしく何か言われてるけど、それを気にしてる場合じゃない。
そうだよ。
ノブくん言ってたじゃん、もう一回とかどうのって……いやいや、まさか、あれはからかっただけだよね?
「あははははは……あははっ」
「な、何こいつ、笑ってるの?」
そんなあたしを誰かが顔が覗き込む。
「頭でも打った?」
ぺちっと冷たい手の感触に我に返る……我に返る?
「の、の、ノノブくん?! きゃあああああっ」
「はい?! 俺はなんも、してねーだろ? あ、こら、どこ行くんだよ!」
び、ビックリした……キスされた事を改めて思い出したら、ノブくんの顔が目の前にあるから、なんか気まずい。
思わず部屋から飛び出して来ちゃったけど、敷地内にいるし大丈夫だよね?
……あたしを探す声が聞こえるけど。
「兄ちゃーん! しずくちゃーん! あたしはここよー!」とは叫ばないけど、この2人のどっちかに見付けて欲しい。
あ! ……そうだ、しずくちゃんに電話して、ここに助けに来てもらおう!
「って、番号聞いてなかったーー!!」
「……あ! 幸ちゃん、みぃっけ」
語尾にハートマークが付きそうな軽いこの口調は……。
「なんで、ジュンくんが来るんだよーー!! 来ないでーっ!」
「来ないでって、ケダモノみたいな言い方しないでよ。俺、紳士だよー?」
「さ、触るなナンパ師!」
「いや、それ誤解だから。ちょっと、幸ちゃん?! 待って!」
なんちゅうか、ジュンくんに待ってと言われると、全力で逃げたくなるのですよ。
いつもは追いかける側だけど、逃げてる人はいつもこんな気分なのかな? いやいや、なんかそれとは違う気がする。
でも、やっぱりジュンくんは……。
「いやぁーーーーっ」
と叫んだと同時に腕を引かれてよろけて転ぶ。
「ぎゃああっ! 誰だよっ」
あたしの腕を掴んだ人物を睨み付けると、慌てた様子のしずくちゃんが目に入る。
「ご、ごめん! そんなに怒らないで。だから、喋らないで!」
あたしが睨み付けたのが悪かったのか、少し泣きそうな顔をしてるしずくちゃんに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「あぁああ。しずくちゃんだって分からなかったから、そんな顔しないでよぉ。あたしこそごめん!」
しずくちゃんって最初から分かってれば、睨んだり絶対にしなかったのに。
何もかも、ノブくんのせいだ!
こんちくしょー! キスなんか、キスなんか……。
「うわあああっ……んぐぐぐぐ」
「だから、静かにしてって幸ちゃん!」
また叫び出そうとした、あたしの口をしずくちゃんの手で塞がれる。
「お、しずくちゃんナイス! ほら、幸行くぞ! これ被って、ささっさと後ろに乗れ」
そこにまた第三者の声の方からバイクのメットが飛んでくる。
……行くぞ? 後ろに乗れ?
「はいはい。幸ちゃんはさっさとバイクに乗る!」
「え、え、え、え、え?」
「ちょっとは、私だって色々とあるノブくんに同情してるのよ。だから、たまには息抜きさせてあげたいんだ!」
って、やっぱりこの流れ的に、メット投げて来たのはノブくんですよねー。
あっははは!!
混乱してるあたしを横目に、しずくちゃんが手際よくあたしにヘルメットを被せて、バイクの所まで背中を押されて座らされる。
「じゃ、しずくちゃん。後はよろしく!」
「分かってるって」
「じゃあ、ちょっと行って来るわ。幸、ちゃんと捕まらないと落ちる」
あたしが何も返事が出来ないでいると、あたしの両手を掴んで自分のお腹に手を回させるノブくん。
キスの事でまだ悩んでるのに、なんでまたこんなに密着しなきゃいけないんだよーー!!
あ! そうか、これはきっと夢だよね! ほーら、あたしよあたし、早く夢から目覚めなさい!
……なんて、あるわけもなく、ノブくんの運転のバイクは実は楽しみにしてた遊園地に向かうのであった。
「はい、到着っと。念のために、これにそこのトイレで着替えて来て」
「あ、うん。ありがとう」
ん? 普通に洋服を渡されてあたしは何で、着替えようとしてるの?!
しかも、この服と言えば多分ノブくんのであって、デカいと思うだろうし……それに女子トイレからこの服で出てきたら、あたし捕まらない? と思ってしまう自分が悲しい。
「何にしてんの? 早くしないと時間なくなるじゃん」
「いや、でもぉ……」
「あ、メイクしたまんまだったの忘れてた」
「そこっ?!」
他に何があるんだ? って顔をしながら、あたしを見ながら自分のカバンの中身を確認始めるノブくん。
「あ、あったあった。目ちょっと閉じて」
「は?」
目を閉じろって?! な、何を言ってるノブくんは! こんな所で何をするの?
「メイク落とさなきゃ俺の服着ても意味ねぇじゃん」
へ? とオロオロしてると、ノブくんの手に何か握られてるのが分かる。
ウェットタイプのメイク落とし……そうですよね! メイク落とさないとだめだもんね? あはははは……!
「着替えてからトイレで拭いて来る!」
挙動不審なのがバレないように、ノブくんからメイク落としを奪い取ってトイレに駆け込む。
天の救いか否か、そこの公衆トイレには多目的用トイレがあってダッシュで駆け込む。
ここなら、メイク落としてノブくんの服を着てても、女の人に変態と騒がれる事はなかろう……実際に女なのに、女の人に気を使わなくちゃいけないのが、切なくなるところだけども。
ここまで来たら、遊園地楽しもうじゃないか!
お財布も持ってないし、ノブくんと一緒じゃないと別荘に戻れないし。
そしたら自分が男でも女でも関係ない! 絶叫で騒ぐしかありませんよね?!
そして開き直って、ノブくんの服を着てみれば、上はなんとか大丈夫でもパンツがデカい。
丈は考えてくれてたのか、ハーフパンツだからなんとかなる。
でもね、ウェストがデカいんですけど……歩くと下がって来るんですけど、ベルトないんですけど。
参った。
折角、楽しもうと思ったのにこれじゃあ、下がって来るの気になって遊べない。
……こういう事は、ノブくんだったら抜かりなさそうだったんだけど。
さっきまで着てたショートパンツだと、流石に男の子って言い訳できないだろうし困ったな。
「なぁに、してんだよ。まだかよ?」
トイレのドア越しにノブくんの声が聞こえる。
「だって、ウェストがデカくて……歩いたらやばい」
「ウェスト? あー。ベルト忘れてたか。チャンスとばかりに飛び出て来たからな」
チャンス……だったのか? あのタイミングは。
あたしとノブくんがいなくなって、大丈夫だったのかな? まっ、ノブくんに拉致られた、あたしが気にする事じゃないか。
「俺の渡すから出て来いよ」
「うん!」
ノブくんのベルト借りられるなら、はしゃげる?!
ヤッターと思ってトイレの外に出て、ノブくんのベルトを着けてると、ノブくんが何故か笑い出す。
「ぷっ……まんま、ユキだな」
「だって、ユキだもん」
なんて返事するのもおかしい気もするけど、幸であってユキですもん。
「じゃあ、取りあえず今日のお前の身分証はこれな?」
身分証? なに、その詐欺師みたいな発言! と思って身分証を見ると、何処から持って来たのか兄ちゃんの免許証。
「えーっと?」
「コッソリ持って来た」
「それは、してもよい事なんでしょうか?」
「普通にダメでしょ! あはは」
なんで、兄ちゃんの免許証を持って来たのか聞くと、自分の年齢で保護者にはなるけど、夏休みだし身分証提示を求められたら面倒だし、あたしが幸って名乗らないといけなくなるかららしい。
そりゃ、写真だったら兄ちゃんとあたしの違いは、ほぼわからないだろうけど……。
そこまで徹底して、なぜベルトを忘れた! とは聞けず、本当は犯罪なので人の身分証は使ってはいけません。
「じゃあ、行くか!」
「あ、ノブくん! あたくしお財布持っておりません!」
「バカか。ジュンじゃないんだから、俺より年下に出させるわけないだろ。それと、俺の名前は剛だから」
そ、そうか……あたしを着替えさせて、兄ちゃんの免許証まで勝手に持って来て、一応は用意周到に遊ぶんだから、ノブくんがバレないように遊ばないと、元もこうもないのか。
「もし俺がバレたとしても、俺がやる事に口出すなよ?」
「わかりました、剛くん!」
「はい、よく出来ました!」
ポンとあたしの頭に手を置いてニッコリ笑うノブくん。
アイドルスマイル……! いや、いかん。
最初にノブくんに会った時にも、これにやられそうになったんだった。
危ない危ない。
あの時よりは一緒に住むようになったから、少しは免疫ついたのか慌てずに済んで一安心する。
でも、やっぱり男の子に女の子扱いされるのは、こしょばったいけど……なんか心地いいな。




