六章
家に帰ってからも、
「あんたも知ってるでしょ」
絵里子の言葉が頭から離れなかった。
絵里子は嘘をついている。
知らないふりをしているだけだ。
でも、
黄色い乗り物も、
私の手提げも、
本当に分からない顔をしていた気がした。
演技だ。
そう思えば説明がつく。
私はノートパソコンを開いた。
生成AIが画面に表示される。
以前、自分で作った画像は消してある。
履歴には、
何も残っていない。
削除済みデータを確認した。
その中に、
見覚えのある画像が混じっていた。
二枚目に送られてきたスーパー。
ガチャの位置も、
二人の服も、
違っていた画像だった。
作成日時を見た。
二枚目のDMが届く前。
私が初めて生成AIで画像を作った日より前だった。
しばらく、
何も考えられず、画面を見続けていた。
覚えていない。
その画像を作った記憶が、
まったくなかった。
さらに削除データを追った。
広すぎるスーパー。
今風の服を着た女の子。
これは覚えていた。
二枚目の画像が届いたあと、
絵里子がどうやって作ったのか知りたくて、
自分で試したものだ。
その後のデータにも、
画像が残っていた。
黄色い乗り物。
紺色の手提げ。
指が止まった。
匿名アカウントから届いた画像と並べた。
女の子の指の崩れ方。
ガチャの横にある、
文字になっていない文字。
同じだった。
「……何で」
その下には玄関の画像もあった。
私が家の中にいて。
絵里子が外にいる。
これも、
送られてきたものと同じだった。
作成時刻を見た。
午前二時十八分。
黄色い乗り物の画像が届く前の夜。
あの日、
私はすぐ寝ると決めて、
ベッドに入った。
そのはずだった。
残っていた入力文を見た。
《後ろに黄色い子供用の乗り物》
《女の子のバッグは肩掛けではなく手提げ》
《色は紺》
私が、
頭の中で思い浮かべた内容だった。
一度、生成AIを閉じた。
そして、また立ち上げた。
当然、
何もデータは変わっていない。
髪型。
服。
二人の位置。
玄関。
思い出した細部を足すたびに、
画像が作り直されていた。
ただ、
最初の一枚だけはない。
絵里子が自分が送ったと認めた画像。
それだけは、
生成記録のどこにもなかった。
背中に汗を感じた。
私が画像を作っていた。
そこまでは、
もう認めるしかなかった。
でも、
送ったのは別の誰かかもしれない。
ハッキングされた。
画像が知らないうちに共有されていた。
そんな可能性だってある。
その考えに、
少しだけしがみついた。
これまでDMを送ってきたアカウント名をDMの一覧から確認した。
そのうちの一つでログインをしようとした。
パスワードを入力しようとカーソルを合わせると、パスワードが自動入力された。
しばらく、
理解が追いつかなかった。
投稿がない。
プロフィール画像もない。
DMの相手に、
私のアカウントがあった。
そこに、
見覚えのある文章が残っていた。
《自分だけ置いていかれるのが嫌だったんだよね》
あの朝、
ベッドの上で読んだ文章。
その前の夜、
私が一人で考えていたこと。
他のアカウントも、
調べるとログイン情報が残っていた。
どのアカウントも、
やりとりは私のアカウントとだけだった。
《思い出した?》
その文章で、手が止まった。
絵里子と話していたあの日。
スマートフォンを伏せ、
次に見た時には一時間近く経っていた。
その間に、
このアカウントから送られている。
その時の記憶はない。
念のため、最初の画像を送ってきたアカウントでもログインしてみようとした。
だけど、ログイン情報だけは、
私のパソコンには残っていなかった。
最初の画像だけは絵里子がやった。
その後は。
「……違う」
声が出た。
何が違うのか、
自分でも分からなかった。
――あんたも知ってるでしょ。
画面には、
《証拠あるの?》
あの文章が表示されている。
昔、
私が絵里子に言った言葉。
今度は、
私が私に送っていた。
時計は十一時を過ぎていた。
画像。
アカウント。
どれも私につながっていた。
ないのは、
私がやったという記憶だけだった。
私はもう一度、
生成AIの記録を開いた。
自分で作ったと覚えている最初の画像。
店が広すぎた。
服も違った。
だから直した。
ここまでは覚えている。
二日後の記録にも、
作った記憶がなかった。
《後ろに黄色い子供用の乗り物》
生成。
《女の子のバッグは肩掛けではなく手提げ》
生成。
《色は紺》
生成。
あの日、
電車の中で画像を見て怖くなった。
絵里子が、
そこまであのことを覚えている。
私を今でも恨んでいる。
そう思ったから。
違った。
覚えていたのは、
私だった。
思い出した細部を、
一つずつ画像に足している。
だから、
届く画像が少しずつ私の記憶に近づいていた。
更にスクロールすると、
文章が目に入った。
《自分だけ置いていかれるのが嫌だった》
匿名アカウントから送られてきたメッセージと似ていた、私自身の当時の気持ち。
誰にも言っていないのに、
絵里子が知っている。
そう思っていた。
でも、
誰にも言っていないからこそ、
知っていたのは私だった。
私は椅子から離れた。
水を飲んで戻ると、
ノートパソコンの黒い画面に、
自分の姿が薄く映っていた。
すぐに閉じた。
薬のせい。
その考えが浮かんだ。
眠れなくて飲んだ。
寝ぼけていた。
疲れていた。
それなら、
まだ説明できる。
けれど、
データの日付を確認すると、
薬を飲んでいない夜にも画像は作られていた。
私はスマートフォンを見た。
午前二時十三分に撮られていた、
あの真っ暗な写真。
もうない。
自分で消した。
何を撮ったのか。
どうして撮ったのか。
確かめることもできない。
分かったことは、
二つだけだった。
最初の一回は、
絵里子。
その後は、
ぜんぶ、私。
それなのに、
一番知りたいことだけが残った。
なぜ私は、
こんなことをしたんだろう。




