月下の邂逅
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[ソウルウォーデン(魂の番人)]
熟練度:E
魂を縛り、死の番人として仕えさせる。
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選んだばかりのスキルが、ホログラム画面に浮かんでいる。ネレズはしばらく眺めた末、長い息を吐いた。
「なるほど。スキルを選ばせる時に、ゴッドスクリプトが説明文すら出さない理由が分かった。どれもこんな調子なら、説明されても何ができるのかさっぱりだ……。そもそも『死の番人』って何だ? 俺がそんなものを欲しがるとでも?」
ばらばらに漂っていた図形や記号が寄り集まり、フードをかぶって大鎌を携えた人影を形作った。
「死神? 誰が好き好んで、死神なんかと関わりたがるんだ……? このスキルは、引き出しの奥で眠ったままになりそうだな」
ネレズはゴッドスクリプトを操作し、もう一つのスキルの情報が並ぶタブへ戻った。
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[デス・タッチ(死の接触)]
熟練度:D
不死とは一つの状態にすぎない。
弱り、傷ついた者ならなおさらだ。
死期を迎えた者に印を刻め。
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「骸骨兵と同じで、熟練度が上がれば説明文も変わるのか。それに、わざわざ不死について書いてあるってことは、まだ神まで対象になるわけじゃなさそうだ。半神あたりを指してるんだろうな」
ネレズは青空を仰いだ。視線は自然と、ヘラックスが消えていった方角へ向く。
「進んで使いたいようなスキルじゃないが、いざというときの手札としては悪くない」
行くあてもなく森を歩き回るうちに、かなりの時間が経っていた。まだ誰とも出くわしていないのが救いだ。
「それにしても、これから俺はどうすればいいんだ? 見ず知らずの相手と戦い続ける? いや、何のために? 輪廻から抜け出せたんだから、最後の人生くらい穏やかに過ごさせてくれ……」
気づけば小川へ出ていた。ネレズは水を口にし、喉を潤しながら、朝食抜きの腹もひとまずごまかした。
「神に選ばれなかったら、力ずくで銀の海に連れ戻されるかもしれない……」
不安が頭から離れず、ネレズは岩に腰を下ろして考え込んだ。
「神になれば、穏やかな暮らしとは正反対だ。第一、本当に輪廻から抜け出せたのかも怪しい……。そう考えると、不死を選ぶのも一つの手か」
岩に背を預け、開いた《死の書》を顔にかぶせる。
「それじゃ、形を変えただけで永遠の罰じゃないか……うぐ……ああ、もう!」
声を上げて跳ね起きた拍子に、《死の書》が膝へ落ちる。
「俺は予定どおり、隠遁の神になる! これで決まりだ!」
勢いよく立ち上がったものの、その意気込みはたちまちしぼんだ。
「そのためには、まだ戦わないといけないのか? 戦うというより、骸骨を人にけしかけるだけなんだが……」
再び空を見上げると、梢の隙間から差す光は、すでに薄れ始めている。
「寝てる間は骸骨兵に見張らせれば、小川のそばで野営しても問題ない。問題は……骸骨兵に囲まれて一晩過ごしたくないことだ」
気は進まなかったが、ネレズは骸骨兵を二体、狩りに送り出した。
狩人として生きた前世の経験を生かせば、自分で仕留めることもできる。ただ、死人の弓に触れる気にはなれなかった。
意外にも、二体はすぐ兎を仕留めて戻ってきたため、解体はネレズ自身が済ませた。
* * *
「アレンが、この辺りの魔物はバトルロイヤルのために一掃されたって言ってたっけ。動物は、地球にいたものと大して変わらないみたいだな」
ネレズは焼いた兎の脚にかぶりついた。
「うっ、塩が欲しい……。いや、先に塩水にしっかり漬けて、獣臭さを抜くべきだったか」
その頃には日も暮れ、ネレズは小川から少し離れた場所で野営していた。歩き回る骸骨に囲まれて眠るのは、やはり御免だったのだ。
兎を焼いている間は骸骨兵に辺りを見張らせていたが、日が完全に落ちると、焚き火を消して骸骨兵の召喚も解いた。
月はすでに昇り、梢の隙間から光が差し込んでいた。毒虫がいないことを祈りながら作った落ち葉の寝床から少し先には、月光がひときわ明るく降り注ぐ空き地がある。
「ん……? やっと眠気が来たか。空き地の真ん中に、人影が立ってるように見える……」
目をこすっても、人影は消えない。それどころか、武器は持っていないと示すように両手を上げた。
「はぁ……勘弁してくれよ……」
ネレズは立ち上がり、片手で《死の書》を固く握ったまま、人影へ歩み寄った。
その夜の月は淡い黄みを帯びながらも、白に近い光を放っていた。空き地で待つ少女の髪も、同じ色をしている。
その瞳はネレズの髪とは異なる銀色で、明るく生気に満ちていた。眼差しには、好奇心とどこか面白がるような色が入り混じっている。
「言っておくけど、今は揉め事に付き合う気分じゃないんだ」
ネレズは少女の前で足を止めた。
「俺を放っておいてくれるなら、兎を一切れ分けてもいい」
「ふふっ、兎を一切れですか?」
「ああ、一切れだ。朝食の分は残しておきたいからな」
「ぷっ!」
少女は吹き出しそうになるのをこらえ、どうにか話を続けた。
「いえ……ご心配なく。食べ物をいただきに来たわけでも、争いを仕掛けに来たわけでもありません。私はセレーネ。セレスティアル・コンクレイヴ(天体神族)を代表して来ました」
「セレスティアル……コンクレイヴ?」
その名を聞いた途端、つい先ほどの不愉快な記憶がよみがえる。
「どうやら私の氏族の者が、あなたを怒らせてしまったようですね。あの鈍感な馬鹿は、自分が何をしでかしているのか、まるで分かっていないんです……」
セレーネは額に手を当て、困ったように息をついた。
「ですから私も、あの人が何かしでかした時の後始末役として、同行させられたんです」
ネレズは、何の話だと言わんばかりの顔をしていた。
「怒らせたって? 今はバトルロイヤルの最中だろ。気遣いはありがたいが、それより君がまだ攻撃してこない方がよほど不思議だ……」
「戦う相手くらい、きちんと見極めますよ」
セレーネは涼しげに笑った。
「なるほど……」
「ですので、ネレジエル。ヘラックスがお仲間をさらった埋め合わせは、私があなたの派閥に加わることで十分でしょう」
「……」
「……」
「いや、遠慮しておく。二人によくしてくれれば、それで十分だよ」
「……」
「……」
「もう遅いですよ。ディヴァイン・オーダー(神の秩序)の前で、すでにあなたへ忠誠を誓いました。ゴッドスクリプトを確認してみてください」
ネレズは慌ててホログラム画面を呼び出した。目当ての表示は、すぐに見つかった。
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[派閥:名称未定]
指導者:ネレジエル
構成員:ネレジエル/セレーネ
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「待て、どうして俺の同意もなしに、こんなことになってるんだ!? 俺は認めない! 弁護士を呼んでくれ!」
「ふふ、落ち着いてください、ネレジエル。あなたに何かを強いるわけではありませんよ」
頭を抱えたまま、ネレズは元凶の少女へ向き直った。
「だいたい、知らない人に話しかけるなって親に教わらなかったのか!? いや、話しかけるどころじゃないな。会ったばかりの相手に忠誠まで誓ってるんだから!」
「忠誠の誓いは、奴隷契約ではありません」
セレーネはまだ笑いをこらえていた。
「私があなたに敵対できなくなる、それだけです。信用していただくための、私なりのやり方だと思ってください」
「ますます信用できなくなったんだが……」
「私に命令を下したければ、あなた自身も誓いを立て、盟約を結ぶ必要があります」
「俺が誓うとしたら、洞窟に引きこもって二度と出ないってことくらいだ。そもそも、なんで俺なんだ? ヘラックスじゃなく俺についたところで、君の氏族に何の得がある? さっぱり意味が分からない……」
「あなたのお仲間は、『光の賜物』を受け継ぐ氏族の者でしたよね? 私も光を扱う術には、いくらか心得があります。他の者には見えないものが見えるんですよ……」
セレーネは意味ありげに微笑み、ネレズの周りを歩き始めた。
「君の氏族のあいつは、光のことなら君よりずっと詳しそうだったけどな。何のためらいもなく俺を殺そうとしたし……」
「もちろん、ヘラックスのように、光を持ちすぎたあまり自分の目まで眩ませてしまう例外もいます」
「それで、君たちには俺の何が見えてるんだ? せめて、その正体くらい教えてくれ。プラスチックじゃなければ、海の底に捨ててくるから……」
「ふふふ、逆ですよ。光の力をもってしても見えない。だからこそ、気になるんです。……ところで『プラスチック』とは何ですか?」
「……何でもない。それと、できればネレズと呼んでくれ。『ネレジエル』は聞くたびに寒気がする」
セレーネは足を止め、ネレズに背を向けて両手を後ろで組んだ。
ネレズを信用している証なのか――それとも、自分の腕を信じているだけなのか。
「ご心配なく……ネレズ。あなたの邪魔をするつもりはありません。私には私の計画がありますし、自分の領域も治めなければなりませんから」
「どういう意味だ?」
「ゴッドスクリプトに表示されていませんか?」
ネレズはゴッドスクリプトを開いたまま、改めてセレーネへ目を向けた。表示された情報の中でも、二つの項目がひときわ際立っている。
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[セレーネ]
神格:月の女神
位階:大神
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「ヘラックスのような言い方はしたくありませんが、あまりにあっさり選ばれたので、拍子抜けしたくらいです……」
腑に落ちない点はいくつもある。それでも、千を超える人生で培った経験は無駄ではなかった。セレーネがすでに自力でやっていけるだけの力を得ていると分かった瞬間、話がつながった。
「俺を口実にして、氏族の束縛から抜け出そうとしてるってところか?」
「これで公平でしょう?」
セレーネは振り返り、ネレズと向き合った。
「どこが公平なんだ? 君のこともろくに知らないし、俺には何の得もない」
「何の得もない? ふふ、敵が一人減ったではありませんか。静かで穏やかな暮らしがお望みだったのでしょう?」
「いや、たった今、敵が一気に増えた気がする……」
「それに、あなたは勘違いしているようですが、最も平穏に暮らせるのは揉め事を避ける神ではありません。最大の派閥を持つ神です」
「いや、それには言いたいことが山ほどあるんだが……」
「あら、残念。まだお話ししたいのに、もう時間切れみたいですね……」
すでに彼女の周りには、淡い光が生まれ始めていた。
「そんな目印みたいに光って、これ以上厄介事を呼び込むのはやめてくれないか?」
「ぷっ……ふふ。ご心配なく、もう行くところですから。またお会いしましょう」
「次からは手紙で済ませてくれないか? 『忠誠の誓いは撤回しました』って書いてくれれば、喜んで受け取るから……」
「忠誠といえば――私が誓った忠誠は、無償ではありません。あなたには大いに期待しています」
セレーネはそう言って微笑んだが、光はすでに表情が見分けにくいほど強まっていた。
「手始めに、私の手から逃れた小さな厄介者を倒し、死の法則を司る権能を確立してはいかがですか?」
言い終えるや、輝きは光の柱となって噴き上がり、新たに選ばれた女神の姿とともに消え去った。
……
「買ってもいないものの代金を請求されたうえ、後始末まで押しつけられた……。しかも、誰のことかも分からない! あの氏族の連中は、どうして誰も俺の話を聞かないんだ!?」
……
ネレズは、光の柱が消えた場所を黙って見やった。
……
「おかげで、真夜中に野営場所を移す羽目になった……」
* * *
そこから遠く離れたエンピリアン・ピークス(神々の都)。宮殿の一室では、桜色の髪をした少女が試練の行方を熱心に見守っていた。
鮮やかな翠色の瞳は、今しがた映し出された一幕へじっと注がれている。
「やはり、夜の女王は闇の君主に臣従しましたか……」
生命の女神にしてゾロヴァンの孫娘、リリエンは席を立ち、部屋を後にした。




