表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/18

翼ある斥候

 星々の狭間に浮かぶ一つのテーブル。そこが、原初神評議会の会合の場だった。


 評議会に名を連ねるのは、ディヴァイン・オーダー(神の秩序)の影響が及ぶ幾多の世界で、調和を守る使命を負った至高神たちだ。


 このとき席に着いていたのは二柱だけ。果てしない宇宙に映し出された光景を、ともに見守っている。


 二柱が見据えていたのは、今まさに芽吹いたばかりの世界だ。


「ゾロヴァン。お前がほんの気まぐれで祭典を取り仕切っている世界に、これほどの逸材が集まるとはな……」

「ふん。孫娘に会いに行く口実を作るのは、気まぐれではない。私の生き方そのものだ」


 もう一柱は、顔を影に隠したフード姿の神だった。


「ははは。何百もの子や孫がいるっていうのに、昔からリリエンには甘いな。まあ、お前と同じ生命の女神で、おまけにお前より才を持つとなれば、無理もないか」

「はっ! 私の限界を知りもしないくせに、よく言う」


 ゾロヴァンは鼻を鳴らした。


「それはそうと、才と可能性の話なら……メヴィス。お前は至高神に昇る前、死の領域をほかの神と分かち合っていたな。あの男をどう見る」

「例の謎めいた客人のことだろう。率直に言えば、原初神が何を考えているのか、私には見当もつかない」


 メヴィスは頭上の虚空へしばし目を向け、再び視線を下ろした。


「一言で評するなら、規格外だ。あの骸骨兵は、並の代物ではない」


 メヴィスは椅子の背にもたれ、胸元で両手を組んだ。


「死者の中でも選りすぐりの猛者たちが、我先にとあの男に召喚されようと競い合ったかのようだった」

「ふむ……」


 ゾロヴァンは髭を撫でながら呟いた。


「孫娘の競争相手を気にしているなら、まだ勝負は決まっていない」


 メヴィスが続ける。


「あの客人は、死を扱う才にかけて前例がない……だが、死そのものと歩んでいるかのような候補者もいる」


 二柱が見ていた映像が切り替わり、血のように赤い髪の少女が、崩れ果てた戦場で猛威を振るう姿が映し出された。


 どうやら複数の派閥からなる同盟を、たった一人で相手取ったらしい。残るは、命からがら逃げ惑う二人の半神だけ――その二人も、ほどなく刈り取られた。


* * *


「ああ……青い空、爽やかな風、花の香り。おまけに、うろつく骸骨は一体もなし。これ以上、何を望むっていうんだ?」


 青々とした草の上に寝そべったまま、ネレズは深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。


「こんな開けた場所じゃ丸見えだって、自分で言ってなかった? さっき倒した連中がどうなったか、見たでしょ……」


 傍らに立つヴィルキーが呆れたように言う。


「落ち着け。骸骨を何体か、周りの見張りに出しておいただろ。見てなかったのか?」


 ネレズは影になるからどけと言わんばかりに、ヴィルキーへ手を振った。


「あいつらが動いてることだし、たまには休まないとな。戦い続けてると、そのうちツケが回ってくるぞ」

「まだ骸骨を出してたの? 霊力を食いすぎるから、あのスキルは使うのをやめたんだと思ってたけど……」

「え? ああ、言われてみれば、霊力が減ってることにも気づかなかった……次からはちゃんと確認した方がよさそうだ」

「それだけでも、ネレズの霊力が相当なものだって分かるよ。ヴィルキーはどれくらいだと思う?」

「最低でも五万……」

「俺はそれ以上だと思うな」


 アレンは顎に指を添えた。


「でも、死んだときに霊力を失わなかったとしても、ネレズは人間なんだよね……」


 ヴィルキーもその姿勢を真似て考え込んだ。


「まさか、十万以上!? そんなのありえないよ! もう女神になってるリリエンだって、そこまでは持ってないはずなのに!」

「よし、そこまで! このまま続けるなら、二人きりでここに置いていくぞ!」


 ネレズは眉根を寄せて身体を起こした。髪に何枚か葉が絡んでいるのを見つけると、アレンとヴィルキーは気まずそうに慌てて摘み取った。


「それより、このバトルロイヤルはいつまで続くんだよ! 誰も何も教えてくれないじゃないか! 主催者に苦情入れるぞ!」

「ゾロヴァン様の話が長すぎるって文句なら、ほかの半神たちも言ってたけどね。まあ、一日で終わるかもしれないし、何週間も続くかもしれない。参加者がどれだけ早く減るか次第だよ」


 アレンは笑いながら答えた。


「何週間も!? うわ……野営できる場所を探さないと……」

「川の近くとか? 安全な飲み水は大事だよね」

「川の近くなんて、ほかの参加者だって真っ先に探しに来るだろ? 次は夜に焚き火でもして、『俺たちはここです』って宣伝する気か?」

「ごめん……そこまで考えてなかった」

「いや、俺のほうこそ悪かった。君がまだ子供だって、つい忘れるんだ」


 ネレズは腰に手をやり、短く息を吐いた。


「アタシ、もうすぐ二百歳なんだけど……」


 ヴィルキーが小声で抗議した。


「悪い、ネレズ。俺たちが経験してきたのは戦場ばかりで、こういう競争は初めてなんだ。勝手がまるで違う」

「前にも似たようなこと言ってたな。そもそも、なんでそんなに何度も戦場に出てたんだ? 親族に神がいるんじゃなかったのか? 氏族の始祖だって神なら、まだ生きてるんだろ」

「争いも、神が力や影響力を広げる手段のひとつなんだ。俺たちの世界にはもう世界主神がいるから、領土を広げたり支配を強めたりするとなると、話がややこしくなる」

「だから氏族は、アタシたち二人なら新しい世界で勝負したほうが、まだ見込みがあるって判断したんだよ」


 ヴィルキーが説明を継いだ。


「聞かなきゃよかった……この忌々しい神々の祭典が終わっても、俺の厄介事は片付きそうにないな」

「大丈夫だ、ネレズ。俺たちが力になる。仲間っていうのは、そういうものだろ」


 アレンはそう言って、ネレズの肩に手を置いた。


「図書館の神に仲間はいらないよ……必要なのは、平穏と静寂だけだ」

「とりあえず、拠点探しとか周りの様子を見るなら、ここはアタシの出番だよね」


 ヴィルキーは胸に手を当て、その手を前へ伸ばした。すると傍らで、まばゆい光が弾ける。


 現れたのは、大きな翼を広げた天馬だった。


「ペガサス?」

「アタシのエイドロンだよ。生き物が出てくるなんて思わなかったでしょ?」


 ヴィルキーは誇らしげに胸を張った。


「エイドロンって、魂を映したものか何かじゃなかったか? 君……今までずっと馬だったのか?」

「アタシは馬じゃない!」

「ははは。ヴィルキーが自由な魂の持ち主ってことだよ」


 アレンはそう説明したものの、笑いをこらえきれていなかった。


「それで、アタシのエイドロンが最初に得たスキルも《飛行》なんだ」


 ヴィルキーは腹立たしげに頬を膨らませた。


「そんな大きな翼があるのに、飛ぶためのスキルが要るのか?」

「ネレズが言ったんでしょ。エイドロンは魂を映すものだって」


 ヴィルキーは馬を撫でながら答えた。


「つまり、《飛行》はアタシのスキルで、ペガサスの翼を通して発現するの」

「なんとなく分かった気はする……それでも、君ひとりに偵察へ行かせるのは気が進まないな。アレンは一緒に行けないのか?」

「アタシを子供扱いしないでよ……今まで何度戦場に出たと思ってるの? エイドロンを召喚できるようになったのは最近だけど、使うのはこれが初めてじゃないんだから」


 ヴィルキーが不満げに言い返した。


「分かったよ。危ないと思ったら、すぐ戻ってこい。言うことを聞けないなら、この同盟は解消だ」


 ネレズの言葉に、ヴィルキーがアレンを見る。アレンは小さく頷いた。


「はーい。でも、アタシがいない間に敵を倒しすぎないでね。ディヴァイン・オーダーに見向きもされなくなったら困るから!」


 ヴィルキーはペガサスにまたがり、一気に空へ舞い上がった。


「俺たちも、ひとまず移動しよう。骸骨に見張らせてはいるが、所詮は骸骨だからな……」


 ヴィルキーの姿が遠ざかるなか、二人も木陰へ向かって歩き出した。


 この先、何と出くわすか。その不安とは別に、ネレズにはもう一つ気がかりがあった。


「スキルの熟練度を上げれば、新しいスキルが解放されるなんて知らなかったぞ。まったく、ここは誰も何も教えてくれない……」


 アレンと並んで歩きながら、ネレズはゴッドスクリプトを眺め、ぶつぶつと文句を言った。


「おまけに選ばせるくせに、見せてくるのは名前だけ……このゴッドスクリプト、いや、つながってるディヴァイン・オーダーか。まともに教える気がないのか?」


 ネレズがまた長く息を吐く。アレンはもう慣れたもので、隣で笑っているだけだった。


「名前だけで、どうやって選べっていうんだ?」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


[取得するスキルを選択してください]


>デス・タッチ(死の接触)

>ソウルウォーデン(魂の番人)

>フェリーマンズ・デュー(渡し守への対価)


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


* * *


 そこから数キロ先。ヴィルキーが飛び去った方角には、長身の美青年と、陽光を映して輝く髪の少女の姿があった。


 二人と向かい合っていたのは、血のように赤い髪をツインテールにした少女。槍を肩に担ぎ、悠然と構えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ