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追放された関税令嬢は、辺境に「税のいらない街」をつくります 〜王都の通行手形はぜんぶ私が捌いていたのですが、止めても構いませんよね?〜  作者: 花守いとは


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第5話 数字は、嘘をつかない

 通行料をゼロにした関所の噂は、思ったより早く広がった。


 商人の口は速い。「南のロウフェルトは、関銭を取らないらしい」――その一言が、街道を伝って流れていく。半月もしないうちに、町を通る商隊は、十から三十に増えていた。


 けれど、人が増えれば、揉め事も増える。


「冗談じゃねえ! この値で売れだと? 足元見やがって!」


 町に戻り始めた小さな市場で、二人の商人が怒鳴り合っていた。片方は毛織物を売る商人、片方は買い付けに来た仲買だ。


「お前の織物は染めムラがある! 二等品だ!」

「ふざけるな、これは一等の品だぞ!」


 私は二人の間に入った。


「拝見します」


 毛織物を手に取り、光にかざす。指の腹で、布の端を一度なぞった。


「染めは一等。ムラに見えるのは、織りではなく光の当たり方です。ただし――端の始末が甘い。ここがほつれれば、一冬で裾が傷む。だから一等と二等の、ちょうど中間の値が妥当です」


 私は、二つの値のちょうど真ん中を口にした。


 二人の商人が、顔を見合わせる。


「……それで、いい」

「……まあ、それなら」


 あっけなく、商談はまとまった。


 数字は、嘘をつかない。


 誰かが得をしすぎず、誰かが損をしすぎない一点を示せば、人は不思議と納得する。怒鳴り合いより、たった一つの正しい数字の方が、ずっと強い。


「へえ。たいしたもんだ」


 背後から、軽い声がした。


 振り返ると、若い女が壁にもたれて私を見ていた。短く切った髪、日焼けした肌、腰には小ぶりのナイフ。商人にしては身軽すぎ、ならず者にしては目が澄んでいる。


「あんたが噂の査定の姐さんか。王都から流れてきた、税ゼロの仕掛け人」


「あなたは」


「リタ。この辺りの道案内、ってことにしといてくれ」


 彼女はにやりと笑った。


「で、姐さん。一つ忠告だ。税ゼロは結構な話だが、商隊が増えりゃ、それを面白く思わねえ連中も増える。あんた、フェルマー商会に喧嘩売ったの、分かってんのか?」


 私は、彼女を見返した。


「あなた、フェルマーの名を、なぜ知っているのですか」


「この辺りの裏道を走ってりゃ、嫌でも耳に入る」リタは肩をすくめた。「南の交易を全部押さえてるのがフェルマー商会だ。あいつらは、この関所の通行料を高くさせた張本人だって、もっぱらの噂さ。それを、あんたはゼロにした。――商隊がこっちに流れりゃ、フェルマーの取り分が減る。あいつらが黙ってるわけがねえ」


「……でしょうね」


 私は、驚かなかった。むしろ、予想通りだった。


「リタ。あなたは、この辺りの道に詳しいのですね。表の街道だけでなく、裏の道も」


「まあ、人より少しはな」彼女の目が、わずかに警戒の色を帯びた。「……元密輸の運び屋、って言ったら、突き出すか?」


「いいえ」


 私は、即答した。


「あなたの知識は、罰せられるべきものではありません。使い道を間違えていただけです」


 リタが、ぽかんとした。


「この町には、これから商隊が増えます。フェルマーが妨害してくれば、表の街道だけでは荷が滞る。そのとき、裏道を知る人が一人いれば、流れは止まらない。――あなたの知識は、この町の生命線になります」


 しばらく、リタは無言だった。


 それから、ふっと笑った。今度は、皮肉でない笑いだった。


「……変わった姐さんだ。おれの過去を聞いて、戦力扱いしたのは、あんたが初めてだよ」


 彼女は壁から背を離し、私の隣に並んだ。


「いいぜ。乗った。で、姐さん。今度は誰を黙らせるんだ?」


「黙らせるのではありません」


 私は、町の通りを見渡した。少しずつ、灯の戻り始めた町を。


「より良い流れを作るだけです。正しい流れができれば、人は自然とそちらへ動く。――それを、誰にも止めさせない。それだけです」


 リタが、口笛を吹いた。


「こりゃ、面白くなりそうだ」


 その日、ロウフェルトの市場には、これまでで一番多くの商人が立った。


 そして同じ頃――王都のフェルマー商会では、当主ロドリゲスが、一枚の報告書を前に、机を指で叩き始めていた。


リタが仲間になりました。

そして物語は、いよいよ「捨てた側」が異変に気づく段階へ。


次話、商人たちはなぜ王都を避け、辺境を選ぶのか。第三者の視点でお届けします。

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