表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された関税令嬢は、辺境に「税のいらない街」をつくります 〜王都の通行手形はぜんぶ私が捌いていたのですが、止めても構いませんよね?〜  作者: 花守いとは


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/15

第4話 関所に、最初の灯がともる

 ロウフェルトを治める辺境伯の館は、町と同じくらい古びていた。


 石壁にはひびが走り、調度は質素だ。けれど磨き込まれた床と、隅々まで手入れの行き届いた窓を見て、私は理解した。ここの主は、貧しくても誇りを捨てていない。


「王都の査定官が、こんな辺鄙な町に何の用かな」


 辺境伯ボルガー・ロウフェルトは、暖炉の前で私を迎えた。白い髭をたくわえた老人で、声は低く、目だけが鋭い。


「もう査定官ではありません。婚約を破棄され、評議会も追われました」


 私は包み隠さず告げた。隠したところで、いずれ知れる。


「ほう」ボルガーは片眉を上げた。「それで、敗残の身を辺境に隠そうというわけか」


「いいえ」


 私は、まっすぐ彼を見た。


「この町を、立て直しに来ました」


 暖炉の薪が、ぱちりと爆ぜた。


 ボルガーは、しばらく私を見つめていた。それから、ゆっくりと笑った。乾いた、けれど不思議と温かい笑いだった。


「面白いことを言う。だがな、お嬢さん。この町が寂れたのは、立地が悪いからだ。北は王都、南はトラス。どちらからも遠い、どっちつかずの田舎よ。私が何十年、手を尽くしても変わらなかった」


「立地のせいではありません」


 私は断言した。


「ロウフェルトは、二つの交易路が交わる結節点です。本来なら、栄えていておかしくない。寂れた理由は、たった一つ。――通行料が、高すぎる」


「……何だと」


「この関所の通行料は、荷の値の四割。王都周辺の関所の倍以上です。これでは、まともな商隊は通りません。みな、遠回りしてでもこの町を避ける。人が通らなければ、町は死ぬ。当たり前のことです」


「料率は、王都が決めたものだ。先代の頃に上げられた。理由は知らんが、一度上がった料率は、誰も下げようとはせん」


 その「理由」を、私は知っていた。


 ――フェルマー商会。


 南の交易を独占したいフェルマーが、競合の小商隊をこの関所から締め出すために、王都に働きかけて料率を吊り上げた。三年前、私が評議会に入ったとき、すでにそうなっていた。私は職務として「決められた料率」を守るしかなかった。


 けれど今は、職務はない。


「辺境伯さま。一つ、ご提案があります」


「言ってみろ」


「この関所の通行料を――ゼロにしてください」


 ボルガーが、目を見開いた。


「ゼロ……だと? 通行料は、この町の数少ない収入だぞ。それをなくせば、町はますます――」


「逆です」


 私は、静かに続けた。


「四割の通行料で、年に十の商隊しか通らないなら、収入は四割×十です。ですが通行料がゼロなら、商隊は百でも二百でも通る。彼らはこの町に泊まり、飯を食い、馬を休ませ、荷を売り買いする。町が得るのは、通行料ではなく――人が落とす金です。通り道で稼ぐのではなく、立ち寄らせて稼ぐ」


「立ち寄らせて……稼ぐ」


「『税のいらない街』。それが、この町の旗印になります。重い税の王都を避けたい商人は、必ずここを目指す。一度人が集まれば、宿も、市も、職人も戻ってくる。関所は、関銭を取る場所ではなく、人を呼び込む門に変わる」


 長い沈黙があった。


 ボルガーは、窓の外の――灯のともらない、暗い町を見つめていた。


「……お嬢さん。私はな、若い頃、王都にいた」


 ぽつりと、彼は語り始めた。


「正しいと思うことを、正しいと言った。それで疎まれ、この辺境へ飛ばされた。以来三十年、この死にかけの町を、ただ看取るために生きてきたつもりだった」


 彼は、私を振り返った。その目に、消えかけていた何かが、かすかに灯っていた。


「正しいことを言って疎まれる気持ちは、よく知っている。……だからこそ、あんたに賭けてみたくなった」


 ボルガーは、立ち上がった。


「やってみろ。この町を、好きにいじっていい。通行料をゼロにする布告は、私が出す。失うものなど、もう何もない町だ」


 その夜。


 関所の番小屋に、久しぶりに灯がともった。


 私は一枚の羊皮紙を広げ、新しい料率表を書き始めた。指の腹で、紙の縁を一度なぞる。


 ――ここから、流れを変える。


 剣も、魔法も、いらない。


 必要なのは、正しい数字と、それを信じてくれる人が一人。


 それだけで、人は動く。


「税のいらない街」。

旗が立ちました。あとは、人が流れ込んでくるのを――王都が気づかないうちに。


次話、セレーナの査定が町に信頼を呼び、ある協力者が現れます。

ブックマーク、ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ