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追放された関税令嬢は、辺境に「税のいらない街」をつくります 〜王都の通行手形はぜんぶ私が捌いていたのですが、止めても構いませんよね?〜  作者: 花守いとは


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第3話 行き場のない隊商と、たった一枚の通行手形

 ロウフェルトは、想像していたよりも静かだった。


 いや――静かというより、死にかけていた。


 関所の門は半ば朽ち、番兵は一人きり。かつて宿場だったらしい建物は板を打ちつけられ、通りには人影もまばらだ。南へ抜ければ隣のトラス商業同盟の交易圏、北へ戻れば王都。本来なら、二つの交易路が交わる結節点になりうる土地。


 それが、こうも寂れている。


 馬車を降りた私は、町の入り口で足を止めた。


 道の脇に、一団の商隊が立ち往生していた。十数頭の荷馬と、疲れ切った商人たち。荷を積んだまま、関所の前で途方に暮れている。


「困りごとですか」


 声をかけると、初老の隊商頭が振り返った。警戒と、わずかな縋るような色が、その目に混じる。


「……あんた、王都の人かい。見ない顔だが」


「以前、少しだけ。通行のことなら、多少は分かります」


 隊商頭は深いため息をついた。


「聞いてくれよ。うちは陶器を運んでる。この関所を抜けて南のトラスで売るはずだった。だがこの関所、通行料がべらぼうに高い。荷の値の四割だ。払えば赤字、払わなきゃ通れねえ。かといって遠回りすりゃ、陶器は途中で割れちまう」


「手形は」


「王都で出してもらった手形がある。だが番兵が言うには、料率が古いとかで、この関所じゃ使えねえと」


 彼が差し出した一枚を、私は受け取った。


 通行手形。荷の品目、申告された価値、納めるべき通行料。


 指の腹で、紙の縁を一度だけなぞる。


 ――ああ。


 一目で、分かった。


「この手形、荷の価値が高く見積もられすぎています。陶器を、磁器の等級で申告している。だから通行料が四割にもなる」


「な……っ」


「あなたの荷は並等の陶器。本来の等級なら、通行料は荷の値の一割五分。それでも、この関所の料率設定そのものが高すぎますが」


 隊商頭が目を見開いた。


「等級を、見ただけで……?」


「梱包の仕方で分かります。磁器なら藁を二重に巻く。あなたの荷は一重。割れてもいい値段の荷だということです」


 私は、もう一つの問題に気づいていた。


「それと、この関所を無理に抜ける必要はありません。あなたの目的はトラスで陶器を売ること。なら、ここで売ればいい」


「ここで? こんな寂れた町で、誰が買うんだ」


「買い手は、すぐそこにいます」


 私は、立ち往生している別の商隊を指さした。荷馬に空の木箱を積んだ、北へ向かう一団。


「あちらは塩を運び終えて、王都へ空荷で戻る隊です。空荷で帰るのは丸損。あなたの陶器を仕入れて王都で売れば、彼らは帰り道で利を出せる。あなたは割れる前に荷を捌ける。トラスまで運ぶより、利は薄いかもしれません。でも、確実です」


 隊商頭は、しばらく言葉を失っていた。


 それから、北へ戻る隊の商人と、ぽつぽつと話し始める。値が折り合うまで、そう時間はかからなかった。


 空荷だった隊は荷を得て、立ち往生していた隊は損を免れた。


 二つの商隊が、動き出す。


 関所の前で、初老の隊商頭が私を振り返った。


「あんた、何者だ」


「……ただの、通りすがりです」


「とぼけるな。料率も、等級も、人の流れも、ぜんぶ一目で読んだだろう。あんたみたいな目を持った人間を、おれは一人しか知らねえ。王都の、通商評議会にいたっていう査定官だ」


 私は、答えなかった。


「なあ」隊商頭は、帽子を取った。「もしあんたがしばらくこの町にいるなら――おれたちみたいな商隊は、あんたを頼りたい。この関所は、あんたみたいな人がいれば、まだ死なずに済む」


 あんたを頼りたい。


 その言葉が、奇妙なほど深く、胸の底に落ちた。


 三年間、王都で誰にも言われなかった言葉だった。「役に立つ」とは言われた。「便利だ」とも。けれど――「あなたに頼みたい」と、まっすぐ言われたのは、いつ以来だろう。


 私は、朽ちた関所の門を見上げた。


 二つの交易路が交わる、本来は栄えるはずの土地。料率さえ正しければ、人は戻る。


「……少し、考えさせてください」


 そう答えた私の声は、自分でも驚くほど、静かに弾んでいた。


「あなたに頼みたい」――この一言が、セレーナの欠落をそっと照らします。


次話、彼女はこの町に一つの決意を口にします。

「税のいらない街」という、旗印を。


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