↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された関税令嬢は、辺境に「税のいらない街」をつくります 〜王都の通行手形はぜんぶ私が捌いていたのですが、止めても構いませんよね?〜  作者: 花守いとは


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/60

第20話 紙切れになる手形

 フェルマー商会の手形が、市場で値崩れを起こし始めたのは、自由市の成功から、三月後のことだった。


 フェルマー商会は、長年、自家の手形を発行してきた。「フェルマー手形」――商会が値を保証する信用状。王国一の大商会の信用は厚く、その手形は、銀貨と同じように、市場で通用していた。


 だが、その信用が、崩れ始めていた。


「フェルマー手形が、額面の八割でしか、引き取られないだと?」


 当主ロドリゲス・フェルマーは、報告を聞いて、机を叩いた。


「なぜだ。うちの手形は、王国一、信用されてきたはずだ」


 番頭が、青ざめて答える。


「南の交易が、ロウフェルトに奪われて……商会の儲けが、落ちております。儲けが落ちれば、手形の裏付けが薄くなる。商人たちは、それを嗅ぎつけて、フェルマー手形を、早めに銀貨に換えようとしている。換える者が増えれば、ますます、手形の値が落ちる……」


 悪循環だった。


 信用が落ちる→手形が値崩れする→さらに信用が落ちる。ちょうど、ヴィントがロウフェルトに仕掛けようとして、失敗した「取り付け」が――今、フェルマー商会自身を、襲っていた。


 そして、決定的だったのは。


「旦那様。商人たちが、こう言っております。『フェルマー手形より、ロウフェルトの自由市手形の方が、信用できる』と」


 ロドリゲスの顔が、歪んだ。


「あんな、辺境の手形が……王国一のフェルマー手形より……?」


「自由市手形は、いつでも、ぴたりと銀貨に換わります。査定が、決して間違わない。刷りすぎもしない。――対して、フェルマー手形は、この有様です」


 ロドリゲスは、言葉を失った。


 彼は、ようやく、理解し始めていた。


 フェルマー商会の繁栄が、何の上に乗っていたのかを。


 ***


 それは、三年前に、遡る。


 ロドリゲスは、王都に金を積み、南街道の関所の通行料を吊り上げさせた。小商人を締め出し、南の交易を独占するために。王太子アルベリクの後ろ盾を得て、王家とフェルマー商会は、互いに利を融通し合ってきた。


 フェルマー商会が栄えたのは、商いの才ではなかった。


 王家との癒着で、競合を締め出し、市場を独占していたからだ。そして――その独占した市場で、セレーナの定めた「正しい料率」に、ただ乗りしていたからだ。


 正しい料率を作る目は、セレーナのものだった。

 市場を独占する力は、王家との癒着によるものだった。


 フェルマー商会自身には――何もなかった。


 そのセレーナが、辺境で「誰もが安心して取引できる、正しい市」を作った瞬間。


 商人たちは、気づいてしまった。


 締め出されていた自分たちにも、行ける場所があると。癒着のない、公正な市が、あると。


 そして、雪崩を打って、そちらへ流れた。


 独占が崩れれば、フェルマー商会には、何も残らない。才も、信用も、もとから、借り物だったのだから。


「旦那様……いかが, いたしましょう」


 番頭の、震える声。


 ロドリゲスは、長いこと、黙っていた。


 それから、低く、絞り出すように言った。


「……ロウフェルトへ、行く」


「えっ」


「私が、直接、あの市へ乗り込む。あの女の市を、潰す。そうしなければ――フェルマー商会は、終わりだ」


 彼の目には、もはや、王国一の大商会当主の余裕は、なかった。


 あるのは、追い詰められた者の、危うい光だけだった。

フェルマー商会の繁栄は、商いの才ではなく、「癒着」と「ただ乗り」の上に乗っていた――その正体が、ここから剥がれ始めます。

借り物の信用は、本物の信用の前に、崩れていきます。


次話、追い詰められたロドリゲスが、ついにロウフェルトへ。最後の悪あがきが、始まります。

ブックマーク・評価、ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。