第7話 ウインズ後楽園でwin5
運命の日曜日がやってきた。
俺にとってもっとも大切な曜日――中央競馬でwin5がある日だ。
対象5レースの1着を5回連続で的中できれば、普通に会社員をやっていたら絶対に稼げない金額が手に入る。
現在の最大払戻金額は、6億円。
日本全国の金に目がくらんだギャンブラーたちが賭けた総額を、的中者たちで分配する方式なので、もし自分ひとりで的中できたら6億丸ごと手に入る計算だ。
この賭け式が導入された直後は2億円が上限だったんだが、それでもこれだけまとまった金額が手に入れば、人生上りといっても過言ではないので、当時三十路社員だった俺は粉骨砕身の精神でwin5に挑んだ。
だが人生っていうのは、そううまくいくものじゃないんだよな。
基本的には外れる。たまーに的中したと思ったら、的中者の数が多すぎて三連単の中穴を当てたときぐらいの金額しか払い戻されなかった。
だから発想を変えて、いかにも的中者の数が少ないような大穴の組み合わせで5レースの1着を予想すれば、そういうときにかぎって本命が5回連続で1着になって泣きを見ることになった。
そんな人生を、四十代中堅社員になった今でも続けている。
俺の夢はずっと変わっていない。
win5を単独で的中させて、6億当てて、会社員を辞める。
そのために生きているんだ。
だからこそ日曜朝にはやらなければならない儀式がある。
板橋仲宿商店街のパチンコ店の開店行列に並んで、朝一で勝負するのだ。
2000円だけスロットに放り込んで、当たりを引けなかったら、この日のwin5は少額で勝負する。
なぜかというと、もし自分に運がない日であれば、高額でwin5を勝負したところで、ガチガチの一番人気が3頭も4頭も1着になる展開になってしまい、単独的中できないからである。
win5で単独的中するための絶対条件は、ほとんどの参加者たちが外れること――すなわち人気薄の馬たちが連続で1着を取ることなので、運要素が絶対に必要になってくる。
それこそ土曜日一緒に遊んだ後輩の渡来みたいなサイン派の買い方のほうが理にかなってしまうぐらいだ。
だから俺は運要素を味方につけるために、朝からスロットで運試しをしている。
スロットの場合、そもそも自分の座った台が設定6でなければ大儲けなんてできないのだが、そこまで含めて運試しだ。
なんとなく座った台が設定6だったら、その日の俺は絶好調なんだから、win5でも高額勝負していいことになる。
ではこの日のスロットはどうなるんだろうか?
…………最速でメダルはゼロになりましとさ。
…………運がない日かぁ。
よし、今日のwin5は少額で勝負しよう。
出勤日であれば、板橋区役所前駅から内幸町駅まで乗るわけだが、本日は水道橋駅で降りると、ウインズ後楽園にやってきた。
後楽園という文字からわかるように、東京ドームと隣接したギャンブル施設だ。先日会社の同僚の山田とオフト後楽園にやってきたが、同じビルに入っている。
ぱっと見た外見は、ちょい昔風のデパートなのだが、あながち間違った印象ではない。1階から9階までギャンブル施設なのだが、それぞれの階にスポーツ施設やレストランが混ざっているのだ。
どうやってギャンブラーと一般客を分けているのかというと、縦に導線を切ってあるのだ。
だから普通に施設を利用している分には、両者の客が混ざることはない。
まぁレストランは普通に混ざるんだが。
それはさておき、ウインズ側には高齢者が密集していた。まるで都内のおじいさんおばあさんギャンブラーたちが一斉に集まったようなイメージだ。
なんでウインズ後楽園はこんな人が多いんだろうな。
都内のウインズはここだけじゃなくて、他にも複数あるんだが、なぜかここは集中しやすい。
たぶん建物のサイズが大きいことと、あとなぜか千葉県から遠征してくる人がいるからだ。
なんで千葉県民が水道橋まで遠征してくるんだろうか。錦糸町のウインズを使うか、直接中山競馬場に行けばいいのに。ふーむ、謎だ。
あと最近ウマ娘の影響で、都内の大学生たちもウインズにぼちぼち出没するようになっていた。
すごいな、ウマ娘。ウインズの高齢化が若干阻止されているぞ。
もし俺がスマートフォンでゲームをやる習慣を持っていたらインストールしていたんだろうが、そういう習慣がない。
あれだ、win5を当てて金持ちになって仕事やめたら、高性能なパソコンを買ってウマ娘やろう。たしかPC版があるはすだし。
っていうか、今日ウインズ後楽園でウマ娘声優がトークイベントやるみたいだな。だからこんな若者が多いのか、納得だ。
無料で見れるみたいだし、ちょっと冷やかしてみるかね。
…………おいおいなんだよ最近の女性声優ってあんなにかわいいのか。そりゃ人気になるわ。
っていうか、声優もファンもみんな若いな。
若いっていいよなぁ。動きがきびきびしててさ。きっと毎日脂っこいものを食べても胃もたれしないんだろう。
俺はいつから若さを失ったんだろうか。
焼肉食べると胃薬必須だし、外営業でちょっと長い距離歩くとスタミナが空っぽになってしまう。
若さが欲しい。学生時代みたいに毎日夜更かしして脂っこいものを食べて飛んで跳ねても、翌日には体力全開になっていたあのころに戻りたい。
いかんいかん、雑念に惑わされている場合じゃない。まずはumacaカードでwin5を購入しないと。
というわけでwin5を買ってきた。
買い目は二桁人気の馬を中心に、それぞれのレースで二頭ずつフォーメーションを組んだ。
合計で3200円のみ。
ただしこれは今朝のスロットの結果から考えると、やや買いすぎだ。もうちょい点数を抑えてもよかった。だって本日の俺は運がないわけだし。
でもつい買っちゃうんだよな。
さてもうすぐ1レース目のスタート時刻だ。はたして俺は6億当てて会社員を辞められるのか?
見届けようじゃないか!
「さぁ人気薄こい、人気薄こい、絶対1番人気なんてくるな。あれ、俺の買った馬たち、みんな失速してる……!?!?!?」
…………いきなり1レース目から1番人気がそのまま圧勝ゴールイン!
「どうしてだよぉおおおお…………!」
またもや俳優の藤原竜也みたいに嘆いてしまった。
それぐらいショックだった。
当然win5の俺の買い目は1レース目で終了である。
はぁぁああああ………………やっぱ今朝のスロット勝負の運の悪さは正しかったな。3200円も買うんじゃなかった。
だがwin5はごくまれに、1番人気が1着のレースがひとつだけあっても、それ以外のレースが荒れることで払戻金を独占することがある。
では2レース目はどうなったか?
「またもや1番人気が1着やないかい!」
ばりばりの関東人なのに関西弁が出てしまうぐらい拍子抜けであった。
本日のwin5はもうおしまいだ。1番人気が1着のレースが二つもあったら、ほぼ確実に高額払戻は発生しない。
っていうかそもそも俺は1レース目で終了している。
これじゃあもう残りの3レースは見る価値ないよなぁ。
おとなしくメインとローカルの重賞レースの馬券だけ購入して、定期券使ってラピスタ新橋に行こう。ナイター競輪で勝ちまくって、スロットで外した2000円分とwin5で外した3200円分を取り戻さないと。
っていう感じのルーティンをかれこれ10年以上やっているんだが、あと何年続くんだろうか……。
あぁ、さっさとwin5かdokanto7当てて会社員やめたい。




