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板橋区に住むサラリーマン井上の意識が高いはずなのに限界系ギャンブルライフ  作者: 秋山機竜


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第6話 ボートレース江戸川(後編)

 俺と後輩の渡来は、モーニング1レース目を検討していた。


「ボートは専門外だからな、渡来だったらどう買うんだ?」


「手堅く買うなら、1号艇からっすよ。ボートレースはどんな場所でも、基本内枠有利っすから」


「まぁそうだよな。それにボートで大穴狙っても、ちょっとなぁ」


 なぜボートの大穴狙いが、そこまでおいしくないかといえば、6艇しか出走しないからだ。


 これぐらい頭数が少ないと、三連単の組み合わせ数が少なくなるため、幅広くフォーメーション買いするやつが絶対にいる――せっかく大穴が当たっても利益が減りがちなのである。


 というわけで、ここは逆張りせずに、1号艇を頭に固定したあと、そこからちょっとだけ崩してフォーメーションを組んだ。


 1-34-34。


 びっくりするぐらい普通の買い方だが、専門外のギャンブルで大穴を狙っても単純に外すだけなのでやめたほうがいい。


 ではボートレース大好きな渡来の買い目はどうなったのか?


 4-5-36


 大穴狙いだ。しかし渡来なので、なにかしらの予測があるわけではなく、サインである。その理由はちゃんと教えてくれた。


「今朝、姉さんにお弁当作ってもらったんすけどね、そこに入ってたふりかけに書いてあったバーコードの数字の並びっす」


 あー、たしかにバーコードっぽい数字だなぁ、とくに頭が4で始まるあたり。


 っていうか渡来、姉さんに弁当作ってもらったのかよ。


 いくらお前が俺の三歳年下の後輩といっても、すでに四十代のおじさんだぞ。


 しかも渡来の姉は結婚していて小学生の子供もいるわけだし、彼女に迷惑かけないためにも、さすがに自分で弁当作ったほうがよくないか。


 ――なんて小言はいわないほうがいい。


 いくら親しい後輩といはいえ、相手の家族関係の事情なんて俺にはわからんし、そもそも他人の家庭に首を突っ込みすぎるのもよくない。


 それに俺が小言をいったところで説得力ないしな。熱烈なギャンブラーだし、不良社員だし、結婚してないし。


 だから仕事が休みの日ぐらい気楽なマインドでいこう。


 ビバ公営ギャンブルライフだ。


 というわけで、1レース目が始まった。


 順当に1号艇が最初のターンを決めて先頭を確保した。ここはもう一着で揺るがないだろう。ボートは先行できたらほぼ勝ちだ。だってエンジンでレースしてるからスタミナの概念がない。


 あとは二着争いだが、現在2号艇と3号艇の争いになっていた。このままだと俺の舟券は外れることになる。


 2号艇が失速して着外に吹っ飛ぶ予測で買っているからな。


「なんか波乱おきて、2号艇失速しないもんか?」


 と願っていたら、最終ターンで2号艇と3号艇がもつれあうように接触。仲良く大外に膨らむと、そのまま大幅に失速して、後続に抜かされてしまった。


「3号艇まで失速するのは聞いてない!」


 というわけで、入着順は1ー4ー5だった。


 俺も渡来も舟券を外してしまった。


「ボートは専門外すぎて、なんで外れたかのすら分析できん」


「でも先輩、ぼちぼちボートやりにきますよねー」


「たまには競馬と競輪以外のギャンブルをやりたくなるときがあるんだよ。とくにボートはとっつきやすいしな」


「だから少額勝負なんすね」


「わからんものに大金は賭けられない」


 それから数レースやったが、当たることもあったし、外れることもあった。1レース200円ぐらいしか賭けていないので、なにか大きな変化があったかといえば、なにもなかった。


 今日は全国的に波も風も荒れていないこともあって、ほとんどのレース場が一番人気のカチカチ決着ばかりであった。


 これがあるから、俺はボートレースをメインにしていなかった。


「先輩、昼飯どうするんすか?」


「食べないよ。今日は2食でいい」


「2食で腹減らないんすか?」


「中年になったせいなのか、仕事してない日は2食で十分になった」


「へー、胃腸から先に老化した感じっすねぇ」


 といいながら、渡来は姉に作ってもらった弁当をもしゃもしゃ食べはじめた。


 弁当の中身を見てわかったのだが、たぶんこれは姉が子供用に作って余ったやつの詰め合わせだ。


 なんで断言できたかといえば、白米にそえてあるふりかけが、女児用アニメの銘柄だったからだ。


 まぁそうだよな。わざわざ中年になった弟のために弁当作らないよなぁ。


 なんか世知辛い気がしてきた。


 ぱーっと盛り上がることをしたいな。


「午後のレースは、ちょっとだけ大穴狙ってみるかな」


「おっ、本領発揮じゃないっすか先輩」


「今日のボートレースは、午前中はカタい結果ばっかりだった。ってことは統計データ的に、午後のどこかで荒れるはずだ」


「ボートの統計、結構そのまま出ますからね」


「競艇は水面走るからな。気温の変化、磁場の変化、風の変化、それらが全部水中の流れに影響するから、レース全体に影響するんだ」


「そこまでふくめてサイン舟券ですよ。次のレースはネット記事で報道されてた玉突き事故のナンバープレートでいくっす」


「そんな不謹慎なサインで当たるのかよ」


「玉突き事故でも死者が出てないってことは、それだけ運がよかった数字の組み合わせってことっすよ」


「ああ、それなら当たるかもな」


 なんだか大学生みたいなノリで午後の勝負に突入したわけだが、俺たちは綺麗に外した。


 統計データはちゃんと正しくて、荒れるレースはぼちぼち出てきた。


 だが俺がボートレース詳しくないせいで、その荒れるレースに入れなかったのだ。


 まぁこんなもんだよな、わからないジャンルの大穴狙いなんて。


 もうすぐ19時である。予定時刻だ。


「くよくよしてないで帰るかぁ、大事なのは明日のwin5だし」


 俺が帰宅準備を始めると、渡来はぐっと背伸びした。


「今日はいつも以上に舟券外したんすけど、なんか楽しかったっすね。大人になると、こういう機会減っちゃうんで」


「結婚したら、もっと減るんだろうな」


「減るほうがまともって考えもあるっすよ。少なくとも姉さんから弁当受け取るとき、そういわれたっす」


 たぶんギャンブルやめて真面目に生きろとか、そろそろ結婚しろ、と小言を言われたんだろう。


 まぁたしかに正論ではあるのだ。


 まともなアドバイスをしてくれる身近な人が貴重なのもわかっている。


 だが無頼漢なんてのは、そういう普通の道から外れた連中なので、そっとしておいてほしい一面もあった。


「あんまり小言は言われたくないよな」


「そうっすね。先輩は優しいから、いちいちオレをバカにしないですもんね」


 渡来はちょっと抜けているところもあるし、頭の回転が速い人間でもないし、親に泣きつくほどギャンブルで負ける悪癖がある。


 だからおそらく親戚にもバカにされているし、もしかしたら職場でバカにされることもあるんだろう。


 だがそれでも真面目に働いているし、一生懸命生きているんだ。 


「ははん。俺も立派なギャンブル中毒者だからな、他人に小言なんて似合わないだろ?」


「そうっすよ。先輩、オレよりギャンブルうまいから生活破綻してないだけで、賭けてる回数と金額はオレより圧倒的に多いっすから」


「いつか会社員辞めるためには、ギャンブル強くなるしかないんだよ」


「そこで投資とかいわないから、先輩はサイコーなんすよ」


 結局俺と渡来は似た者同士だから、大学を出てからもこうやってつるんでいる。


 良いのか悪いのかわからないが、友達というのは金では買えないものだとよくわかっていた。

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