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板橋区に住むサラリーマン井上の意識が高いはずなのに限界系ギャンブルライフ  作者: 秋山機竜


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4/8

第4話 地方交流重賞の日は平日開催なので、営業の仕事が終わり次第、各地のオフトで馬券を買おう

 繰り返しになるが、営業職の良いところは、外出中自由になれることだ。


 えっなに? 外出中にサボるなって?

 

 サボってないが? ちゃんと営業先を訪問しているし、既存の顧客の信頼は勝ち取っているし、新規層の開拓だってぼちぼちやっているが?


 俺は不良社員枠ではあるのだが、営業成績的には真面目枠だぞ。


 というわけで今日も外出中はギャンブルすることにしていた。


 ただし単独じゃなくて、営業部の同僚と一緒に。


 同僚の山田が出勤してくるなり、俺にこっそり耳打ちした。


「よぉ井上、船橋で重賞あるけど、どこで馬券買うよ?」


 山田は、ひょろっとした男だ。身長は175センチとそこそこ高くて、体重は50キロしかない。


 ダイエットしているわけではなく、痩せの大食いだ。バカみたいな量を食べるくせに、まったく太らないのだ。


 だから顔つきもなんというかミイラっぽかった。でも生命力が足りないという感じはなくて、F1のエンジンみたいにスピードは出るが燃費が悪い感じなのだ。


「営業先のルートから考えて、水道橋のオプト後楽園が現実的だ。現地は無理だって、千葉はさすがに遠すぎる」


 船橋競馬場は千葉県船橋市にある。しかも地方競馬は平日開催だから、明日も仕事があるサラリーマンにとっては酷な距離になるのだ。


「なぁ井上、競馬は現地のほうがおもしろいと思うぞ。とくに地方競馬は」


 山田は地方競馬とボートレースが専門だ。だから社宅は新小岩の拠点を選んでいた。


 新小岩であれば、船橋競馬場と江戸川ボートレース場が近いのである。


「俺の社宅は板橋なんだよ。船橋が遠すぎるんだ。明日が大変になるだろうが」


「だがしかし、お馬さんが走る姿には魔力がある」


 山田はギャンブルも好きなのだが、それ以上にスポーツとしての価値に惹かれているらしい。


 だから馬だけじゃなくて騎手のファンになっている。


 俺はあくまでギャンブルとして見ているので、馬やら騎手やらはデータの塊に見えていた。


「誰かのファンになると予測が狂うんだよ。だから俺は現地にこだわらない」


「ドライだねぇ。でも競馬はロマンが勝つこともあるからおもしろいんだぜ」


「俺にとってのロマンは、手堅いはずの一番人気を人気薄が撃破して万馬券になることだ」


「それもロマンだな。わかった。現地で待ち合わせよう」




 俺と山田はそれぞれの営業先に行って、その帰り道にオプト後楽園で合流した。


 すっかり夜が更けていた。船橋競馬の最終レース発走時刻が20時50分なのだが、これに余裕をもって間に合うぐらいの時間帯に現場入りしていた。


 時間が時間なので、会社には直帰を伝えてある。まぁたとえ予定時刻より早めに営業が終わったとしても、嘘をついて直帰するつもりだったが。


 それはさておき、俺たちはマークシートを書き込んでいた。


「山田、お前本命買うのか?」


「どうしたものかなぁ。交流重賞は、基本的にJRA勢が優勢とはいえ、最近は番狂わせで地方競馬が勝つことも多いから」


 そうなのだ。どうやら地方競馬のレベルが少しずつ上がっているらしく、中央競馬が必ず勝つわけではなくなっていた。


「馬のレベルもあるんだが、中央のジョッキーたちが普段走ってないコースの癖を見抜けなくてやらかすこともあるからな」


「それでもオレは基本的にはJRA勢を中心にフォーメンションを組むよ。ただし圧勝予測じゃなくて、地方競馬が一矢報いる感じで」


「なら俺は中穴狙いで行こうかな。JRA勢の一番人気と二番人気が飛んで、三番人気だけ馬券内にくるイメージで、残りは地方競馬勢で埋める」


 地方交流重賞ともなれば、それなりに売掛金が多いので、当たったときのリターンが大きい。


 だからいつもよりちょっとだけ多めに賭けた。それは俺だけじゃなくて山田も一緒だった。


 こうしてレースが始まった。


 なのだが、中穴を買ったときにかぎって、レース展開が極限まで怪しくなっていた。


 ハイペースだ。JRA勢が先頭を走っているのだが、逃げ馬のペースがおかしい。ジョッキーが手綱をがっしり引っ張っているってことは、盛大に掛かっているのだ。


 しかも他の馬までそのペースに引きずられてしまって、レース展開がカオスになっていた。


「荒れに荒れて超大穴になるんじゃないか」


 俺の買った地方競馬の強い馬まで、JRA勢のハイペースに引っ張られてしまい、全員仲良くずるずる後退。


 なんと最後方に控えていた地方競馬の人気薄によるワンツースリーで決着した。


 配当金は三連単で900万円。


 超大穴である。


 穴党というのは、こういうおいしい馬券を外したときに、もっとも悔しくなる生き物なのだ。


「なんでだよぉおおおぉぉぉ…………!!!」


 まるで俳優の藤原竜也みたいな悔しがり方をしてしまうぐらい、俺は穴党としてショックを受けていた。


 どうせ穴を狙うんだから、もっと極端な買い方をしていれば、900万当てられたのに。


 なんでこんなことに。ああ本当にショックだ。


 俺と同じぐらい予測を外した山田は、精気の抜けた顔で天を仰いでいた。


「これは普通に買っても当てられないな。JRA勢の総崩れはさすがに読めないだろうし」


「さっさと帰ろう山田。ばかばかしくなってきた」


「たまには飲んでいこうぜ井上」


「断る。酒代あったら、全部ギャンブルにつぎ込むよ」


「おごってやるよ。実は午前中のボートで大勝ちしてるんだ」


「おごりなら付き合うさ。いこう」



 水道橋の居酒屋に入った。


 東京ドームで野球の試合があったので、ユニフォームを着た客が多い。あとは大学生と会社員。どいつもこいつも世俗の泥臭さを身にまとっていた。まぁファミリー向けの店ではないからな、こんなもんだろう。


「なぁ山田、どうやったらwin5ひとり勝ちできると思う?」


「ある程度の運は必要だろうな。穴馬が三頭ぐらい重ならないといけないから」


「しかもなにが厄介かって、1レースぐらいは1番人気が買っても、それ以外のレースが荒れれば、的中者一人の回が実際にあったんだよ」


「一攫千金を夢見てるやつは大変だな。オレもギャンブルは好きだが、会社員を辞めたいと思ったことはないぜ」


「マジかよ。お前意外に真面目だったんだな」


「だって営業職楽しいじゃないか。自由に外出られるのに、給料までもらえて」


「そいつは天職ってやつだ。おめでとう、お前は立派なサラリーマンだ」


「井上はしょうがなく仕事してる感が、ぷんぷん漂ってるものな」


「基本的に誰だってそうだよ。山田が例外なんだ」


「いつか当たるといいな井上、win5かdokant7をさ」


 こうして俺たちの酒盛りは無事終わって、また明日も仕事だ。


 久々に酒を飲んだが、酔っぱらうと仕事を嫌う気持ちが強くなる。


 あー、めんどくさいなぁ、労働って。さっさとwin5かdokanto7当てて仕事辞めたいなぁ。

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