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裁定


砦の制圧を終えたアルト達は、日が傾く頃には本陣へ帰還した。


勝利の報はすでに全体へ伝わっているはずだった。

しかし、その空気は決して浮ついてはいない。

むしろ、戦後の重さが陣全体を静かに覆っていた。


本陣の中央に設えられた指揮天幕には、隊長格が集められた。

外では拘束された山賊たちが整列している。

彼らは武装解除の上で監視下に置かれていた。

負傷者には応急処置が施されたが、それは慈悲ではなく管理だ。

あくまで「処分を保留している状態」に過ぎない。


天幕の中、アルトは中央に立っていた。

その左右にはユウとカイン、そして少し距離を置いてクラウスがいる。

戦場での立場が、そのまま空間の配置に現れていた。


やがて幕が開き、二人の捕虜が中へと連れてこられる。


ガルドとリズだった。


両手を縄で縛られ、戦闘の傷もそのまま残っている。

それでも、その目は死んでいなかった。

敗北した者にありがちな諦めや萎縮はない。

むしろ、こちらを値踏みするような視線すら感じられる。


アルトは一歩前に出た。


「……君たちは、“自由の盾”の統率者かい?」


静かな問いだった。

ガルドは一瞬だけアルトを見て、口元を歪める。


「さあな」


短く吐き捨てる。

リズも何も言わない。

ただ腕を引かれたまま、じっと周囲を見ている。

その視線は怒りだけでなく、何かを確かめるような色を帯びる。

アルトはわずかに息を整え、言葉を続ける。


「ただの山賊とは思えない。防衛の準備、配置、統率、判断……どれも統一されている。誰が指示を出していたんだ?」


ガルドは肩をわずかに揺らし、吐き捨てるように言う。


「……そんなこと、どうでもいいだろ」


そして、視線を逸らさずに続ける。


「聞きたいことがそれだけなら、さっさと殺せ」


その一言で、天幕の空気が引き締まる。

間を置かず、クラウスが口を開いた。


「妥当な提案です」


その声は落ち着いているが、明確だった。


「山賊は処刑する。それが秩序であり、この場でも例外ではありません」


数名の隊長が同意するように小さく頷く。

クラウスはさらに続ける。


「むしろ見せしめとして処断すべきでしょう。これほど統制された賊であれば、早期に根を断つ必要があります」


合理的であり、同時に貴族的な判断だった。

その言葉に、ユウが静かに口を挟む。


「まだ殺す必要はないだろ」


場の視線が一斉に集まる。

ユウはガルドたちを一瞥してから、淡々と続けた。


「こいつらは普通の山賊じゃない。戦い方も組織も出来上がってる。背後に何かある可能性が高い」


クラウスがわずかに眉を寄せる。


「だから何だと?」


「情報を持ってるってことだよ」


ユウの声は変わらない。


「場合によっちゃ交渉もできる」


その瞬間、クラウスの表情に露骨な不快が浮かぶ。


「……山賊と交渉?」


その声には、明確な拒絶があった。


「身分も秩序もない連中と取引など、あり得ない。残したところで、行き着く先は決まっている」


一拍だけおく。


「牢獄で一生を終えるか、もしくは誰かの奴隷になるだけです」


その言葉に、リズの空気が変わった。


「……ふざけないで」


その声は、はっきりと響く。


「だから貴族は嫌いなのよ」


怒りは抑えているが、隠してはいない。

その場の空気がさらに冷えかけたところで、カインが一歩前に出る。


「そこまでだ」


短いが、場を止めるには十分な声だった。

カインは周囲を見渡す。


「感情で話しても仕方ない。決めるのは――」


視線がアルトへと向く。


「隊長だ」


すべての視線が集まる。

アルトはすぐには答えなかった。

ガルドとリズを見る。クラウスを見る。ユウを見る。

そのときだった。

リズが小さく息を吐いた。


「……一つ、聞いてもいいか?」


その声は先ほどより落ち着いている。

アルトは視線で続きを促した。

リズはゆっくりと周囲を見渡す。


「三日目の夜に水が止まった」


短い言葉だったが、その場の何人かの表情がわずかに動く。


「偶然にしちゃ、出来すぎてる」


リズの目が細くなる。


「こっちが持ちこたえられる限界を分かっているような止め方だった」


誰に向けるでもなく、だが確実に天幕内の反応を見ている。


「それに、あの日の攻め方も妙だった」


クラウスがわずかに眉を動かす。


「無理に押してこない。押せる場面でも引く、時間を潰してるみたいな動きだった」


その言葉に、ユウの目がわずかに細まる。


「だから思ったのさ」


リズは静かに言う。


「外から攻められてただけじゃない。中から崩されたとね」


誰もすぐには言葉を返さない。

リズは軽く肩をすくめる。


「で、そんな面倒なこと考える奴が、この中にいる」


ゆっくりと視線を巡らせる。

クラウスやカインも見定められているが違う。

最後に、ユウへの視線で止まる。

だが断定はせずにじっと見ている。


「……まあいい」


小さく言う。


「当たってるかどうかなんて、今は関係ない」


その目は、ほぼ確信に近い光を宿していた。

ガルドもその流れでユウを見る。


「……なるほどな」


低く、わずかに笑う。


「正面じゃなく、内側から崩されたってわけか」


ユウは何も言わない、それは肯定でも否定でもない。

ただ、この場においてはそれが一つの答えになっていた。

再び沈黙が落ち、アルトはゆっくりと息を吐いた。


「……処刑はしない」


静かな決断だった。

クラウスの目がわずかに細まる。

アルトは続ける。


「拘束は続ける、尋問も行う、それで十分だ」


ガルドが短く笑った。


「……甘いな」


顔を上げる。


「その判断、戦場じゃ命取りになるぞ」


忠告だった。

アルトはそれを正面から受け止める。


「そうかもしれない」


その言葉を否定しない。


「でも、それでもいい」


一拍置いて、言葉を続ける。


「僕は、僕が信じているやり方で戦いたい」


その言葉に、誰もすぐに言葉は返せなかった。

理想的な発言だったが、逃げているわけではない。

ガルドはしばらく黙りこみ、やがて小さく息を吐く。


「……面倒な奴に捕まったな」


リズは何も言わない。

だがその視線は、先ほどよりわずかに変わっていた。

敵を見る目ではなく、測る目に。


天幕の外では野営の準備が進んでいる。

戦いは終わった。


だが――


その先の戦いは、すでに始まっていた。

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