事後
一行は山賊の拠点から村へと戻ってきた。
村はまだ焼け焦げた匂いが残っている。
水の魔法によって、村の炎は消えていた。
残ったのは黒く焼けた木材と焼け焦げた跡がある地面。
それと、戦いの爪痕。
村の中央には山賊たちが地面に座らされた。
男たちの数4人で捕虜として拘束された。
その他の者たちは死亡もしくは逃走していた。
村の中は静かだ。
先ほどの戦闘の喧騒が嘘のよう。
その静寂の中で、アルトが一歩前へと出る。
「……聞かせてもらう」
声は落ち着いている。
だが、その奥には張り詰めたものがある。
「この村の住民はどこへ行った」
アルトは発生している事実を確認していく。
その問いに顔が薄汚れている男がゆっくりと口を開く。
その目にはまだ光が残っている。
「……連れて行かれた」
吐き捨てるように言う。
続けて出てきた言葉は予想していた名前。
「“自由の盾”にな」
予測していた名前だが、その場の空気がわずかに動く。
アルトは目を細めて薄汚れた男へと更に質問を重ねる。
「どこに行ったんだ」
男は即答した。
少し試すように返す。
「言うと思うか?」
しばしの沈黙となる。
代わりに、別の捕虜が口を開いている。
「いろんなトコロで人を集めてるんだよ」
男はアルトを睨みつける。
それでも口は止めない。
自分の立場は理解しながら言葉を重ねる。
「村も、街も関係ねぇ、“仲間”を増やしてる」
その言葉の意味は重い。
ユウは腕を組みながら聞いている。
(……やはり、ただの山賊じゃない)
明確な意思をもって、組織として動いている。
アルトは睨みつけてきた男にさらに問う。
「この村の人間は……全員攫われたのか?」
一瞬の間があった。
そして、捕虜の一人が笑いながら答える。
「どうだろうな?一部はこっちに来た奴もいるぜ」
アルトの眉が動く。
男の発言の真意を問いただすように。
「……どういう意味だ」
「そのまんまだよ」
男は肩をすくめた。
そして、個性的の言い回しで事実を伝える。
「ベルノアの連中の中にも、“俺たち”はいる」
空気が変わる。
言葉の意味が理解しがたい。
村人が――山賊になったということだろうか。
「……どういう意味だい」
アルトの問いは、真っ直ぐだった。
それに反して返ってくるのは、笑いだった。
乾いた声で人を嘲るような声。
「分からねぇのかよ」
その声に、棘が混じる。
その場にいるアルト達へ毒を吐くように。
「これだから、″貴族さま″はよぉ⋯」
その一言は明らかに蛇足であった。
話を聞いていた一部の隊員がわずかに動く。
その動きを見たカインは隊員を静止させる。
「続けさせろ」
しっかりとした命令。
襲われることはないと感じた捕虜。
その場にいる人のことを気にせずに自分の境遇を明かす。
「俺たちの暮らしがどうなってるか、知ってんのか?」
「毎年、納めるもんは増えて、作物はすくねぇ」
「干ばつや災害があっても、税は減らねぇ」
吐き出すような言葉。
もう、その言葉は止まらない。
「誰が保証してくれるんだッ?」
「俺たちがどうやって生きるのか、誰が責任とるんだよッ!」
アルトは――何も言えない。
それは他の隊員達も同じこと。
その指摘に反論することはできない。
民の生活が苦しいことは知識として知っていた。
それが現実として突きつけられた。
「……それでも」
絞り出すように、アルトは言い返す。
その言葉には貴族としての誇りが混ざっている。
「皆がそうではない。領民を守ろうとする貴族もいる」
その声は、捕虜の発言を否定はしていない。
自分達も信じてほしいという一種の思いにも聞こえる。
だが、その発言を聞いても捕虜は笑いながら言い返す。
「で?」
「それで俺たちの腹は満たされるのか?」
痛烈な一言であった。
アルトは言葉が、止まってしまう。
重い沈黙、認めがたい現実。
その空気を――
カインが断ち切る。
話に割って入るには良い間であった。
「そこまでだ」
相手を静止する低い声。
だが、有無を言わない。
「これ以上は無意味だ」
視線だけで、捕虜を黙らせる。
場の空気がわずかに落ち着いた。
ユウはそのやり取りを見ていた。
(……社会構造の問題だな)
個人の善悪ではない。
問題は、この社会、この国の仕組みによって起きている。
そして、それが″彼ら″の活動の要因となっているのだろう。
別の捕虜が、ぽつりと口を開く。
「……ヴァルグのことなら話してやる」
アルトとカインの視線がそちらへと向く。
先ほどの戦いにいた無精髭を蓄えた男のことだろうか。
カインは発言の意図を理解しようとする。
「どいつのことだ」
「なぁに⋯死なねぇ男だよ」
言葉の意味が理解できない。
適当に話しているのかが不明。
ここでユウが口を開く。
「逃げ出した男のことか」
「そうさ」
「あいつは、どんな状況でも生き残る」
「だから、みんなあいつについていくんだ」
その言葉だけで信頼されていることが分かる。
それも命を預けるレベルとなっている。
ユウは新たな疑問を問いただす。
「リーダーなのか」
「リーダーではあるが……」
男は続ける。
「一番“上”じゃねぇ」
アルトの目がわずかに細まった。
「……どういう意味だ」
「一番上は別にいるってことだよぉ」
その一言で、全員が理解した。
おそらく、ヴァルグという男は“現場の頭”なのだろう。
追っている組織の頂点ではないことが分かる。
アルトはようやく一番知りたかった内容を質問する。
「本拠はどこだ」
アルトが問いた。
捕虜は笑いながら言葉を返す。
「言うかよ」
即答。
「それに――」
別の男が続ける。
「志があれば俺たちは自由の盾だッ!」
そう力強く宣言した。
拘束されて自由に動けない状態でも自分達の意思を持つ。
ある意味では強靭な精神力を保っている。
(……厄介だな)
ユウは内心でそう判断する。
情報が断片的すぎるが、敵の結束力が想定以上に強い。
一つ分かったことは“明確な組織”ということだけ。
アルトはゆっくりと息を吐き、決断した。
「……ここまでだ」
捕虜を見下ろす。
「お前たちは都市へと連行する」
座り込んでいる男たちに抵抗はない。
すでに戦意はなく、ある種の覚悟はしていたようだ。
アルトは自分の仲間の方を向く。
「今回の任務は、拠点の制圧」
「それは達成した」
周囲を見渡す。焼けた村。負傷者。
そして――消えた住民。
「この状況も含めて、報告が必要だ」
カインがその場にいた仲間たちが頷く。
「帰還しよう」
その言葉を聞いて隊員たちは、静かに動き出す。
捕虜の拘束を確認して、自身の隊列を整える。
(……始まってるな)
これは――
ただの山賊討伐ではなかった。
この地方は崩れ始めている。
お互いの立場があり、守るべきものがあり、そこに歪みがある。
それを、初めて身に染みて感じている。
一つの休憩も取らずにアルトたちは歩き出す。
ベルノア村を後にしてルーヴェルへと戻る。
彼らの背後に残ったのは――
村の焼け跡だけだった。




