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急報

大理石で彩られたローディスを背に、ユウを乗せた馬車と、その傍らを馬で並走するイリーナは、ローデリヒへの道を進んでいた。


整備された石畳と、沿道に広がる豊かな田園。

共和国の繁栄を象徴するような景色を眺めながら、二人は王国への帰路についている。


「……派手な街だったな。華やかというべきか?」


窓から顔を出したユウが呟くと、馬上のイリーナも手綱を握りながら静かに頷いた。


「ええ。王都やローデリヒとはまるで違う世界でした。立ち並ぶ商店の数や、すれ違う人々の表情。正直に言えば、少しだけ羨ましくなりました」


「そうだな。王国も落ち着けば、あれくらい豊かになるだろう」


「ええ……、今は私たちに出来ることをやるだけですね」


王国の民が飢えと戦火の恐怖に晒されている中、隣国にある圧倒的な富と平和。

その差を目の当たりにしたからこその、飾り気のない本音だった。


「ロレンツォの屋敷で出された食事も贅沢なものばかりでしたね」


「ああ。だが、あの豊かさの裏には商人たちのシビアな計算がある。あいつらは金にならない争いはしないし、俺たちが敗れれば、平気な顔をして帝国の連中と商売を始めるだろう」


「分かっています。だからこそ、私たちはあの者たちの計算を上回る勝利を提示しなければなりませんね」


イリーナは腰の剣にそっと視線を落とし、前方の風景へと向き直った。


「金と平和があれば、国は豊かになる。俺たちが勝って、全て手に入れるしかないな」


「……ええ。私たちが帰るべき場所は、あちらですから」


なだらかな丘を越えた先には、次第に見慣れたアーベント領の無骨な風景が広がり始めていた。


***


国境を越え、ローデリヒの領地へ入ってすぐのことだった。

前方から、土煙を上げて一頭の早馬が駆け寄ってくるのが見えた。


騎乗しているのは、カインであった。

彼はユウの馬車とイリーナを見つけると、手綱を強く引き絞り、強引に馬の足を止めた。

馬の鼻先から白い息が立ち上り、カインの額にも大粒の汗が浮かんでいる。


「ユウ! イリーナ!」


カインは息を切らしながら大声を上げた。


「カインか。そんなに急いでどうした?」



「大変なんだ! 王都に帝国軍が入ってきた!」


その一言で、緩んでいた空気が一瞬にして冷え込む。


「入ってきた?」


ユウの鋭い問いに、カインは乱れた呼吸を整えながら首を振る。


「ああっ。王都の貴族連中が、自ら城門を開け放って迎え入れたらしいんだ! 指揮を執っているのは帝国の第一皇子、ギデオンだって噂だ」


「ギデオン……」


イリーナの表情が険しくなる。


「内輪揉めの末に、自ら帝国の軍勢を招き入れるとは……。王都の連中は何を考えているのですか」


「向こうからすれば、俺たち辺境の軍勢に怯えるよりも、帝国の威光にすがりたかったんだろうさ。東のルーヴェル辺りも完全に帝国側に寝返ったと見るべきだな」


状況を瞬時に分析し、ユウは短く息を吐いた。


「クロイツ伯爵から急いでお二人を迎えに行けって!」


カインの言葉を受け、ユウは窓枠に肘を乗せると、焦りのない声で淡々と告げた。


「こっちは上手くまとまった。共和国の支援は取り付けた」


その報告を聞き、カインの顔に張り付いていた緊張が解け、はっきりとした歓喜の色が浮かんだ。


「本当か……! やっぱりすげえな、ユウは! 皆、お前たちの帰りを今か今かと待ってるんだ」


「喜ぶのは早い。帝国が王都に入ったとなれば、前提条件が変わる。一歩間違えれば、国ごと帝国に飲み込まれるぞ」


「ユウの言う通りです。詳しいことはローデリヒに戻ってから話しましょう。今は急ぐことが先決です」


イリーナが冷静に会話を引き取ると、カインは強く頷いた。


「そうだな。よし、ここからさらにスピードを上げる! 馬車は少し揺れるけど我慢してくれ!」


カインが先導するように馬首を返し、イリーナとユウもまた、速度を上げて荒れた街道を走り出した。

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