表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/25

22話「魔物」

 

 莉子とのリンクはまだ繋がっていて、宮本怜夏がデータバンクを閲覧することもしばらくはなさそう。

 後は千鶴ちゃんが上手くやってくれることを祈るばかりだ。


「そういえば八八地、さっきのことだけど、気付いてる?」


 ここへ来る前に位置を把握しておいた魔物は十数体。それらを狩りに廊下を歩いていると莉子から唐突に訊かれた。


「なんのこと?」

「さっき競技場の地下にもう一人いた奴、アレがローエって奴でしょ?」

「あーうん、いたね、そうだけど、それがどうかしたの?」

「アレがアーティストの新メンバーって言ってたけどさ、人間じゃないでしょ、アレ」


 人の姿をしているのに、人間じゃない。

 神宮寺海斗の印象にかき消されて気が回っていなかったけれど、それってどういう意味だろうか。


「ん? もしかして亜人種だったの?」

「亜人種が人間じゃないって、それ差別発言だから。そうじゃなくて、普通にまんまの意味」


 建物内なのに小さな破片がたくさん転がっていて、パキバキと音が鳴る。それが細長い廊下に反響して、なんとも薄気味悪かった。


「ごめん、わかんないんだけど」

「要は、魔物ってこと」

「本当に? さっき本人を見かけたけど、魔物特有の不自然な揺らぎなんて感じられなかったよ?」


 廊下の角を曲がると、ちょうどそれがいる。

 背後をとれているからこちらに気が付いていないものの、魔力の揺らぎが溢れ出てて気にかけずにはいられないほどだ。


「アーティストってことはステージで言えばSなんでしょ? 話を聞いた限りだと人として遜色ない知能がありそうだし、そのあたりも克服してる可能性あるんじゃない」

「なのかなぁ」


 言われてみれば確かに、ありえない話じゃないようにも聞こえる。

 ただそれを判断するにも、『魔物』についてあまりに知識がない。


「魔物ってさ、日本こっちの世界にはいないけど、莉子の世界にはいた?」

「いたってもんじゃない。9割がた魔物に支配された世界だった」


 魔物の背中に向けてかざした手から、火属性魔法を発動し焼き払った。

 魔物は、魔力の結晶が核となって身体を形成しているだけだから、身体は簡単に消失する。そして内側からコロンと出てくる核を、踏むなり叩き割るなりすることで完全に消滅する。

 逆に言えば、そうしない限りまた身体が形成されるというのことだが、私が魔物について知っていることと言えば、この程度。

 でもその概念さえ、どこの異世界でも共通の認識なのかどうかわからない。少なくとも、ここいらの魔物はそうみたいだけど。


「よく無事だったね」

「酷い世界だったよ。魔物に支配されてたから、私を異世界に召喚したのも魔物だったし。多分これ以上聞いても、ただただ不快になるだけだから、話さなくてもいい?」


 聞いてみたい気持ちが強かった。

 でも、莉子がこの場で敢えてそう言ったから、話したい思い出ではないんだろうな。


「ごめんね、嫌なこと思い出させちゃったよね」

「別に、他のアーティストとも前の世界の話をすることがあったんだけど、私以上に酷いところから返って来た人もいたよ、私もだけど、そこまでくるともう、気にならなくなるから」


 なんていうか、こう、胸が一杯になった。

 私のいた世界はそんなに酷いものじゃなかったけれど、ライトノベルにあるような楽しいだけの世界でもなかった。

 だからもし、また異世界に転生したいかって訊かれたら、首を縦に振ることはきっとない。


「八八地、耳」


 返せる言葉なんてなかったから、ちょうど耳をリンクするように促されて、ちょっと安堵した。


「本部から? 嫌な予感ね」

「出なよ? 絶対面倒なやつだから」


 聞き馴染みのある電子音が鳴っていて、着信だってすぐにわかった。

 宮本怜夏の大きな溜息が聞こえた。


「もしもし、何かしら?」


 宮本怜夏が電話する傍ら、莉子はセラピストから「いかがされました?」って聞かれてる。

 状況があまり読めなくて視界も共有してみると、莉子は施術台から立ち上がってた。


「多分だけど、行かないといけない」

「さようでございますか。でしたらこちらを」


 折りたたまれている状態からでも、ものすごく柔らかいのがわかるバスタオルだった。

 パーカーを抱えてそれを羽織る頃、まさに莉子の言う通り、「わかった、今から行くわ」と宮本怜夏が告げていた。

 電話を切る彼女の肩にも、バスタオルが掛けられた。


「何があったわけ?」

「本部が今、ハッキングを受けているのだそうよ」

「───ぐふぉっ!」


 心当たりしかない言葉に、思わず変な声が出てしまった。


「せっかく人が久々の休暇を取ってるって時に……」

「ぅしっ、殺そう」


 ちょっと莉子?

 なんでやる気満々なわけ。


「いいわね、身の程知らずに教えてあげましょ?」


 部屋を去る二人の言動はとても、正義側のそれには見えなかった。

 千鶴ちゃんの様子も気になるけれど、魔物がまだ近くに何体かいるから先にそちらを片づけることにした。

 奥に進むにつれ外の光が届かなくなってきたから、火属性の魔法を明かり代わりに。


「っで、行って何するつもり?」

「まずは現状確認ね、それとどっちに転んでも必要になるから先に連絡を済ませちゃわないとかしら」


 莉子の視界を借りると、宮本怜夏はスマホを操作していた。ポンポンと何度か画面を触った後、耳に当てる。


「私よ、お願いしていた作業の方はどう? 進んでいるのかしら? 詳しい報告を後で聞かせて頂戴、それと急用よ、急ぎ本部の指令系統側へ来て頂戴」


 莉子に「誰かわかる?」って聞いても、「いや」って返って来た。

 宮本怜夏は言い終わるとすぐにスマホから耳を離したけど、会話がずっと一方的で、有無も言わせない感じだ。


「今のって、留守電?」

「それに近いわね」


 近いって何? 留守電じゃないんだよね? 人、出てるんだよね?


「大丈夫なの、それ?」

「安心して頂戴、返事はないけれど確実に聞こえてはいるもの」


 安心できる要素が見つからないんだけど、もしかしてパワハラ?


「ってあなたは知らないわよね、エキストラ所属の子なのだけれど、身体を電子化して電子媒体の中に入れる能力を持つ子がいるの。もともと今日、個人的にスマホだったりの履歴を洗ってもらっていたのだけれど、向こうの世界にスマホは持ち込めないらしいわ」

「え? 何? じゃあさっきのって、ただスマホに話かけてただけ?」

「そうよ。彼女、今この中にいるもの」


 手に収まったスマホの、真っ暗な画面を莉子に向けてみせた。

 明かりがついていないそれに、一瞬何かが過ったように見えたのは気のせいじゃないのだろう。


「本部指令系統側って?」

「ほら、本部って指令室とその他でネットワークを切り分けてるでしょ? 彼女、インターネットを通じてデバイス間を往来できるらしいから、そっち側で待ち合せましょうってこと」

「いや、知らないって」


 それから莉子と宮本怜夏は露天風呂のようなところを通って、大浴場に出ると、そのまま脱衣所そして廊下と、思いのほか長い経路を経てようやく水着から着替えた。

 一方で私はその間、エキストラ支部を散策して回って2個班ほどの魔物を処理し、周囲の安全が確保できたところだった。

 私が千鶴ちゃんの元へと帰る頃、二人もようやく作戦指令本部とやらに着いたようだ。


「ただいまー、千鶴ちゃん、今どんな感じ?」

「PCのスペックが低くて難儀しているところだが、それも直に終わる。あと10分といったところか」

「アーティストの本部、今大騒ぎみたい」

「そうだろうとも」


 莉子の視界を借りるとすごい騒ぎなんだけど、千鶴ちゃんはもはやキーボードにさえ触れることなくモニターを眺めているだけだ。


「今思ったんだけどさ、ここってエキストラの本部でしょ? それってあっちからわかったりしないの?」

「IPの偽装工作くらいはしているとも、無論それでもいつかはバレるが、早くともひと月後といったところだろう」

「そ、そうなんだ」


 なにが起こっているのか全然わからないんだけど、見たところ順調そうで一安心だ。


「そういえばさっき、身体を電子化できるエキストラの子が応援にくるみたいなこと言ってたんだけど」

「ふん。先ほどから一人、異常に対応の早いエンジニアがいるようだが、聞くにそれが原因か」

「問題ないの?」

「今のところは。だがなるほど、そういった異能力もあるのだな。先ほどからやけに違和感のある動作なのも、そこに帰因す───」


 その時だった。

 本当になんの前触れもなかったんだ。

 どこからともなく、強風が吹き抜けた。

 身構えないと風圧で吹き飛ばされるほど強力で、同時に地鳴りを一つ伴う。

 すぐそこで何かが起こったんだ。


「八八地!! すぐにそこから離れられる!?」


 頭に声が響いた。

 ガラスの破片や小石が吹き荒れたあと、建物の外に視線を向けると、目に余る高さの影が立っていた。


「エキストラの子、暴走してるっぽい! 怜夏の指示ガン無視でそっちの居場所、特定したって」


 立ち上った砂埃が徐々に晴れて、私はそれを、見上げていた。


「今怜夏から海斗に連絡がいってる! 逃げて八八地!」


 二足歩行だが明らかに人間の姿をしていない。皮膚が鱗のような光沢を放ち、口先はワニのように長い。腕でさえ私の胴体とさほど変わらないくらいに太いそれは、魔力の揺らぎが異常なまでに濃く、気分が悪くなりそうなほどだった。


「魔物だと!? なんという大きさだ……!」

「千鶴ちゃん……落ち着いて聞いて。今莉子から連絡があったんだけど、ここが特定されちゃったみたい」

「そのようだな……あの役立たずにこう伝えておいてくれないか? 

 もっと早く知らせろと」


 なんとも形容しがたい容姿のそれが、建物内を覗き込み黒い眼球に私の姿を映した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ