第二十話 呪いの解き
日の暮れの時間になるとアヤが一緒に晩ご飯を食べましょうと雄一たちを招く。その日の晩ご飯は焼き魚であった。七人は丸の形で床に座っていただきますと食べ始める。全員が食べきるとアヤが合掌をして言葉を口にする。
「ごちそうさまでした」
他の六人もそれを繰り返すと安堵の表情をするミツキが口を開く。
「美味しかったわ」
「そうですね」
アヤがミツキと賛成をした後、よいっしょと立ち上がってまたミツキに話しかける。
「……それじゃミツキさん、呪いを解きましょう」
ミツキがこっくりと頷くと彼女も起き上がる。
ミツキとアヤが部屋の中心に立ちつつ雄一たちはあらためてベットに腰をかける。目と目が合うままでアヤが落ち着いた調子で喋る。
「ミツキさん、ゆっくり呼吸をしてください」
アヤが命令した通り、ミツキは深く吸って吐く。手を伸ばしながらアヤが言葉を継ぐ。
「わたしの両手を取ってください」
ミツキがアヤの手を取り、両手の指を絡める。アヤが目を瞑って言い続ける。
「頭を寄せてください」
おでこと鼻がお互いに接触するほど近づいてアヤが深い域をする。
「目を瞑って集中してください」
二人はその体制で数秒で言い続けるとミツキとアヤの周囲に白い光が輝かしく煌めいた途端彼女たちはその光に囲まれた。雄一たちには少しつずミツキとアヤの姿を見れなくなり、樹上の家の中は真っ白な風景となった。
「綺麗な光ですね」
「そうだな」
ミナが微笑みながらそう言うと雄一は賛成してミナの方へ視線をやって彼女の髪の毛先が灰色に染まるのを見取れた。その微妙な色はどういう意味なのかと考えて、わざわざミナを聞こうとしたけれどその咄嗟にミツキとアヤの方向から薄っぺらい黒い煙が出て雄一の目を引いた。というより、ミツキの背中から出た。けれど、すぐにその煙が褪せて白い光もなくなっていった。
白い光は完全に褪めた後、ミツキとアヤがゆるりと目を開く。アヤは莞爾と笑いながら喋る。
「はい、出来たんです」
「え? それは詰まり……呪いを解けたの?」
呆然な顔をしながらミツキがそう聞くとアヤはにっこりと首肯く。
「そうなんです、ミツキさん」
アヤがそう言ったや否やミレイとミナが小走りでミツキに近寄って彼女を抱きしめる。
「ミツキちゃん! やっとその呪いが解かれたよ!」
「すごく嬉しいです、ミツキさん」
「わたしも……嬉しい……わ」
三人の女子の目角から涙がこぼれ落ちる。嬉しいときにも涙が出る。だから、その涙は幸せな涙であるのは雄一が分かった。ミヤとリョウヤも黙ったままで嬉しく笑った。
雄一は微笑みを零しながらアヤを話しかけて、褒め言葉を口にする。
「やばいな。アヤってめっちゃ上手だろ。ミツキの呪いってこの世界の一番残酷で最低な呪いだったって」
「そうだね……どうしてこんな速く解けたの?」
ミレイは雄一と賛成して、涙を拭いながらそう尋ねた。アヤは微苦笑をしてそうですねと答える。
「実は、ミツキさんの呪いがほとんどなかったんです……しいて言えば、わたしは解く前に十パーセント以下だったんです」
「……え?」
ミツキが涙を拭いつつ小首を傾げる。誰よりもミツキにとってそれはとんでもないほど意外な宣言であった。それはどういう意味なのでしょうかと考えた途端彼女は昨夜の雄一の質問を思い出す。十三年の間で毎夜に泣いてきたのに昨にも一昨夜にも泣かなかった。呪いが十パーセント以下だったのは二晩連続で泣くことはなかったと関係でもあるかしらとミツキが思った。
「それはどうやって?」
「ミツキさんは、この先に誰かに呪いを解きの試しをもらったんですか?」
雄一の問いに、アヤが手を顎に当ててミツキに質問を投げかけた。
弱く頭を横に振りつつミツキは答える。
「もらってないわ。これは初めてのよ」
「そうなんですか? 不思議ですね」
手を顎に当ててまま、アヤが小首を傾げてそう言った。
雄一はなんとなく実際に呪いを解きって出来たのかと疑うと、その疑惑を口にする。
「そうだっても、本当に解けた証明でもあるのか?」
アヤが人差し指を立てて答えを口にする。
「ミツキさんとわたしの辺りに浮かんだ薄くて黒い煙を見れたんですか?」
「ああ、見れたぞ」
雄一はこっくりと首肯きながらそう言うとアヤはすぐに言い返す。
「それはミツキさんの呪いだったんです」
「そうなのか」
納得できた雄一は腕を組みつつため息をつく。黒い煙を思い出すと雄一は眩暈を感じてしまってハジマ村の宿屋に寝たときの違和感を覚える。あの夜の絶望的な感覚はなぜだろうかと考えると数分前のミナの灰色の髪を思い起こす。そのミナの髪の色を初めて見たし、その瞬間にその灰色はどれ気持ちの表現なのだろう。アヤと関係でもあるのかと考えると、アヤの声が聞こえて彼女の言葉に集中する。
「それで、ミツキさんが言えるんです。もう呪いを感じていないんですね」
「そうだわ……その呪いは重い負担を背負うような感覚だったけれど、今はその感覚はないのよ」
ミツキのセリフを聞くとミレイは安心な表情で息を吐く。やっと、数年の後で、ミツキの呪いは解かれた。ミレイにも、それは重い負担に解放されたみたいな感覚であった。
「呪いって十パーセント以下だったって謎だけど、ミツキちゃんの呪いはもうないのは何より大事だよ。おめでとう、ミツキちゃん」
ミレイは心からお祝いを述べる。雄一は笑みを浮かべ、開口する。
「そうだな……おめでとう、ミツキ」
「おめでとうございます、ミツキさん」
ミナと雄一もミツキにお祝いを言ってあげると彼女は会釈をしてお礼を言う。
「ありがとう皆」
にっこりとミツキが笑う。黙っていたミヤとリョウヤもミツキに近づいてお祝いを言って彼たちもミツキがお礼を言う。ミナとミレイが混ざって五人はあれこれや喋り始めた。アヤが笑顔でミツキたちを見守り、役に立ててよかったんですねと彼女が思った。
雄一は腕を組んだままでよかったなと思う彼に視線は光に引かれた。その光は樹上の家のただ一つの小さい窓に通っていた。雄一はその窓にやって覗き見るともう晩であるのに外はずいぶん眩しかった。昼でもキタノ森林にはそんなに眩しくなんてないので雄一がそれはおかしいと思った。
「……あの、外に眩しいぞ」
「え? 見させてください」
雄一は退くとアヤが窓越しの風景を覗き見をして瞿然と口を開く。
「……そうですね……とても珍しいんです」
「こんな眩しい光ってここに普通なもんか?」
「そうでないんです」
雄一は手を顎に当てて、ふたたびアヤに質問を投げかける。
「先に見たことがあるのか?」
「見たことはないんです」
アヤはずっとここに住んできたとしても、キタノ森林にこの眩しい光を見るのは初めてというのは滅多にないことなのだと雄一は思った。
「それは……あれ? そこに誰かがいるじゃん」
樹上の家の前に誰かの立つ姿を雄一が見とれて、眩しい光のせいで窓からその人物の顔を見ることは出来ないのでその者は誰なのか確かめる術はないのだ。
アヤが雄一が言ったことを確かめるようにもう一度窓の外を窺う。
「本当なんです!」
「何かあったの? アヤちゃん」
アヤの声を聞くとミレイはそう聞いて、ミツキたちもアヤの方へ視線をやって耳を澄ます。
「外で誰かがいるらしいんです」
そう言いながらアヤはミレイさんも見てくださいと言わんばかり小さい窓を示す。
「本当だ」
「見に行きましょう」
アヤがそう促すと七人は樹上の家を出、階段を下りる。そうしたや否や、眩しい光が薄くなったけれど十メートルの周囲に見れるほど十分な光だった。
その人物から十メートルの距離で足を止めて、その者が動くのを待つ。けれど、そのやつは動くことなくただ地面を眺める。顔を見れないのでミレイは話しかけてみた。
「……えっと、あんたは誰っ…………うそ、でしょ」
「……こいつはあのときの―」
そこに立っていたのはハジマ村で雄一とミレイとミナを襲った瘡蓋だらけの偽精霊であった。
そうか。その眩しい光はただの囮なのか。あの時に、俺を狙っていると偽精霊が言ったのでここにきた理由はまた俺を襲うかもしれないと雄一が思った。
偽精霊が土に唾を吐くと声を出す。
「ヨオ。元気か? ありゃ……そのしろイ髪って……コイツらってホンユジ部族のやつじゃねェか。お前らって全員殺されなかったっけ……あァ、そうだ。お前らは消えたヤツたちじゃねェか」
偽精霊はアヤとミヤとリョウヤの白い髪を見とれると驚いた顔でそう宣言する。アヤは気持ち悪いゴキブリを見ているようで偽精霊を見つめてミレイを話しかける。
「このやつは悪いモノなんですね。誰ですか?」
「偽精霊だよ、アヤちゃん。おそらく、総偽精霊の助手なんだよ」
ミレイがそう言ったや否やアヤの表情が歪み始めた。
「そうですか……ふふふ、ミヤリョウヤ」
「「はい、姉ちゃん」」
ミヤとリョウヤが同時にそう言って一歩を踏み出す。アヤと彼女の弟と妹が狂しそうな表情をしながら殺意こめて目で偽精霊を見つめる。ホンユジ精霊部族の三人の目をうかがうと雄一は背筋が寒くなるを感じってしまった。
偽精霊が舌打ちをして忌まわしい笑顔を浮かべて話す。
「オイオイ、ちょっと待ってろ。七人対一人は不公平じゃねェか……けどなァ」
偽精霊の笑顔は一層忌まわしくなって言葉を継ぐ。
「七人対二人は良いと思うゼ……な、アクト様」
偽精霊の後ろの木の陰から腕を組んでいる男が出ると不快な笑顔を浮かべる。彼の長くて茶色い髪は着ている白い皮製ジャケットと白いズボンと全然似合わなくてもその男はそのところに気にしなくて、自信満々と雄一たちの方へ歩く。
アヤがその男の顔を見とれたや否やその不気味な男のアイデンティティは分かった。
彼は総偽精霊の一人である。




