第十九話 五年前の出来事
十五分を歩いたところで、アヤがある木の斜め上に指差しながら口を開く。
「ここです、わたしの家」
「樹上の家か」
アヤの樹上の家は大きくても小さくてもなく古そうだった。
「上ってください」
アヤが先に階段を上ると雄一たちも階段を上りに招くように彼女がそう叫んだ。
階段を上った後、アヤの後ろで歩き、家に上がった。外見の見た目より、アヤの家の中は広かった。ともし火の薄い光に照らされながらベットの上で座っている一人の少女と一人の少年がいた。アヤに似て、二人の髪も白くてぼろぼろで茶色い服を着る。少女が立つとアヤに話しかける。
「姉ちゃんこの人たちは?」
「新しい友達なんですよ、ミヤちゃん。はい、こっちらはわたしの妹、ミヤ。そしてあっちらはわたしの弟、リョウヤ」
アヤがそう答えると彼女の妹と弟を紹介した。
「よろしくお願いします」
ミヤという少女とリョウヤという少年が同時にそう言って頭を下げる。
雄一たちは各々自己紹介した後、アヤが何でこの四人はキタノ森林に来たのを説明した。
「ミツキさん呪われたのですか。あの総偽精霊は悪いモノなのですね」
「そうっすね。誰かがあいつらを打っ倒さなきゃっすね」
ミツキの呪いに関してアヤが話すとミヤとリョウヤが強い調子で総偽精霊の悪口をする。ミヤはミツキの方を向くと優しいトーンで話しかける。
「安心してください、ミツキさん。お姉ちゃんは呪いを解けるのです」
笑顔をしながらアヤも優しい調子で言い添える。
「うん。わたしはミツキさんの呪いを解いてあげるんです。その代わり、ミツキさんはわたしたちと総偽精霊を殺すと約束したんです」
アヤがそう宣言したや否や、ミヤとリョウヤがにこやかにミツキに声をかける。
「そうですか? すごいです、ミツキさん」
「本当っすか? やったっすよ! あいつらを負かして殺す日が近づいてくるっすね……きみたちは?」
リョウヤはミレイたちの方を向いてそう聞く。
「……あの……」
ミレイは答えもできずに躊躇った。それにもかかわらず、雄一は言葉を口にする。
「一つ聞いていいか?」
「いいんです」
「なんでそんなに総偽偽精霊を殺したいのか? あいつらは悪いのって分かってるけどアヤたちの殺意はやばいぞ」
その質問をアヤに投げかけると、彼女は会釈をしながら答えを出す。
「雄一さんは言いたいのは分かるんですけれども仕方がないんです……総偽精霊やろうは死ぬべきなんです」
「どういう意味?」
アヤが総偽精霊やろうは死ぬべきのところを強調し、彼女の目に殺意が戻った。雄一はまだ分からずにそう問いかける。
「この話を聞いてください」
アヤがそう言いながらベットの上で座ってくださいと身振りで促す。彼女も座ると語り始める。
「五年前の話です……その時に、ホンユジ精霊部族の皆が嬉しく生きていた。母さんも父さんも祖母も祖父も友達も。その頃に、わたしは十二歳ミヤは十一歳リョウヤは十歳だったんです……しかし、ある夜、あのクソ野郎たちがここにきたんです。そして、襲ったんです。老人を殺した赤ん坊を殺した男を殺す前に拷問した女を殺す前に激しく犯した……わたしたちの前で母さんもわたしの友達も犯されたんです! ここは賑やかな村だったんだけれどあの夜は、わたしたちの村は血の海になったんです」
それを語りながらアヤとミヤとリョウヤの表情が暗くなった。恰も今にも、その血まみれ風景を見ている顔だと雄一に思えた。
「……ひどい」
「……ひどいです」
ミレイとミナがそう述べるとミナの髪の毛先は薄っぺらな青色に染まった。雄一はあらためて問いをかける。
「……どうしてお前らが生き残れたのか?」
その質問にアヤが手を顎に当てながら答えを口にする。
「不思議なことがあったんです。わたしたちの殺される番の寸前でわたしはミヤとリョウヤを抱きしめて目を閉じたんです。そして目を開くと変な部屋にいたんです。灰色まみれで霧が濃くて些細な雨が降っていたんです。またミヤとリョウヤを抱きしめると、ここに戻ったんです……その時に、あいつらはもう去っていたんです」
アヤの説明を聞いた後、ミレイは跳ねるように立ち上がりながら声を上げる。
「それは灰色空間なんだよ」
「灰色空間?」
疑いもなくミレイはそう宣言する。アヤはその単語を知らなさそうな顔をして小首を傾げながらその言葉を繰り返した。ミレイは人差し指を立てて言葉を継ぐ。
「そうだよ。守る精霊が瞬間移動できる場所なんだ」
「けれど、わたしは守る精霊ではないんです」
アヤがそう言い添えるが早いか雄一は言い返す。
「いやでもお前も精霊だろ」
「そうですがホンユジ精霊部族が守る精霊と違うんですよ」
それを言い表したアヤが否定するために彼女の顔の前で手を振った。
「そうだっても、ホニユジ精霊部族の精霊は守る精霊になるのは不可能と言えるのか?」
「そうですね……不可能と言えないんです」
そう答えたアヤが頭を横に振った。自分の唇に手を当てているミレイは口を開く。
「じゃあ、こうしようかな」
アヤとミヤとリョウヤに近づいてと言わんばかり身振りをして三人のホンユジ精霊が従う。
「アヤちゃん、ミヤちゃん、リョウヤくん、あたしのワンピースの裾を触って」
ミレイの命令を聞くとアヤとミヤとリョウヤがミレイのメイドめいたワンピースの裾を触って、数秒後でミレイのワンピースの裾を手から離す。
「それじゃー……はっくしょん……」
ミレイが何かを言おうとした瞬間に彼女がくしゃみをした。
「えっと、あんたって鼻拭きを持っていないの?」
「いや持たないぞ」
鼻水を拭うため、雄一に鼻拭きを求めるように彼に聞いた。雄一は持たないと答えるとミレイはミナとミツキの方へ向いて聞く。
「ミナちゃんミツキちゃん?」
ミナとミツキが頭を横に振った後、すぐにミレイがホンユジ精霊部族の三人に聞く。
「アヤちゃんミヤちゃんリョウヤくん?」
三人も否認をするのでミレイは肩をすくめながら開口をする。
「そう。仕方がないねー……はっくしょん」
彼女のセリフの途中でまたくしゃみをしたや否やアヤが口を開く。
「ミレイさんこれを取ってくださ……え? これはいつの間にっ?」
アヤがそう言うと自分の手のひらの上に鼻拭きがあることに気がついた。
「決まった! アヤちゃんも守る精霊なんだ」
ミレイはアヤが持つ鼻拭きを取りつつアヤは守る精霊だと宣言する。
「姉ちゃんは? どうして分かるんっすか?」
「透明な袋だから」
ミレイがそう言うとミナが納得した顔で口を開く。
「あ、なるほど! そうですね」
「透明な袋ですか? それは何ですか?」
アヤが彼女にとってその意味を分からないセリフを繰り返すとミレイは説明するために話す。
「透明な袋は守る精霊の機能なんだ。守る精霊は無意識でも使えるよ。アヤちゃんがしたばかりみたいに」
「そうなんですか……わたしは守る……精霊」
まだ理解できない仕草でアヤが独り言つ。彼女が自分の手のひらを眺めると目を瞑る。ため息をつくとミレイに問いをかける。
「けれど、どうして守る精霊になったんですか?」
アヤの質問に、ミレイが腕を組みながら答えを出す。
「守りたい気持ちだからかもしれないね。アヤちゃんが先に言ったでしょ。殺されるときにミヤちゃんとリョウヤくんを守りたかったでしょ。だから、二人を抱きしめた。それから、守る精霊になったんだよ」
「…………」
アヤが悔しそうな表情をして口を開かずに黙った。手を拳にしながら自分の唇を噛み、頭を横に振る。アヤが何を考えているのか知る術はないけれど、彼女の身振りで彼女はホンユジ精霊部族がほとんど絶滅されたあの夜には、皆を救える力を持ったとしても何もできなかったと考えながらアヤが自分を責めているに思えた。




