第45話 いじられた記憶
祠へ向かって走っている俺へ向かって、四方八方から様々な声が飛んできた。
「おい! あいつ!」
「入ろうとしてるぞ!」
「死ぬぞ!!」
「「「きゃああああ!!」」」
どこかから叫び声も上がっている、突然の事態に観客たちは混乱しているのだろう。
フィリムやクラリスさんの叫び声も後ろの方から飛んできている。
「おい! 誰か止めろ!!」
「やばい、死んじまう!!」
そんな声が会場中に広がる。
衛兵も「止まれ!」と叫びながら、はるか後ろで俺を止めようと懸命に走っている。
俺は全力で走った。
フードはすでに俺の頭を覆うのを諦めて、首の後ろで揺れている。
「あいつ……、人間だ!!」
誰かに俺の正体を叫ばれた。
それは火に油を注ぐような行為で、会場の混乱はさらに高まった。
「え!? 人間? なんでここに?」
「人間!? ああ! 死ぬぞ!」
人々からの心配の気配が消え、代わりに疑うような、でも未だに混乱しているようなものになった。
それに加えて多少の恐怖も抱いており、俺が門の中めがけて飛び込む瞬間、観客の大半が目をふさいだ。
しかし俺はなんの抵抗もなく、祠のなかへ入れた。
祠の中は、黒と白の極端に別れた2色に染まっていた。
真っ黒な壁に真っ白な光を放つ線が、奥へ向かって一直線上についていた。
祠の入口である門は二次元的で後ろに空間が続いているようには見えなかったが、ここはまるで地下のように暗かった。
「異空間……?」
俺がそう静かに呟くと、その声は空間中に響いた。
俺は口を紡いで、奥へと進み始める。
奥の方も地面も天井も壁も暗くて何があるのか、分からない。
正直今にも漏らしそうなほど怖い。
けどラミリアのところに行かなくてはならない。
俺はやっと目が慣れてきたので、スピードを上げて奥へと進んだ。
しばらく進むと扉があった。
白い光に淡く照らされた少しだけ開いている扉から、俺は慎重に警戒しながら中へ入った。
そこは部屋だった。
少し光が強く明るい部屋で、そこまで広くはない。
その中に3人ほど女性が倒れていた。
その中に俺はラミリアを見つけ、そばに駆け寄った。
そしてゆすって起こそうと試みるが、一向に起きる気配がない。
暗いので目を凝らしてラミリアの顔を覗くと、辛そうな顔をしている。
幸い寝言のようなことを言っているので、寝ているだけなのだろうが、何があってこんなに辛そうな顔をしているのだろうか。
「ラミリア……!」
名前を呼びながらゆすっても効果はない。
――クソッ!
かくなる上は……。
俺は持ち上げて外に運び出すしかない、と考えてラミリアの体と地面の間に腕を通した。
そして持ち上げようと前かがみになったところで、突然俺の意識は途切れた。
「久しぶりだな」
――ん……?
聞き覚えのあるような声が耳に入った。
急いで目を開けると、そこには魔王の間が広がっていた。
そして俺はなぜか立っていた。
不思議に思って辺りを見回すが、やはりそこは魔王の間に間違いなかった。
しかしどこか新しいというか、俺の知っているそれより古びれていないように感じる。
「こうやって顔を合わすのは初めてだというのに無視か?」
女性の声が響いた。
俺は声のした方――魔王の座の方へ向いた。
そこには黒くて少し露出の多い服を着た魔神さんがいた。
彼女は足を組んでなんとも偉そうに、俺を見下ろしていた。
俺は魔王の間の中央付近に突っ立っていたので、魔神さんに近づくようにゆっくりと階段の前まで歩いて行った。
「なんで魔神さんが?」
「挨拶もなしにそんな質問を……、まあいい。……それはな、この試練の祠は我が作ったからだ。お前が入って来てくれたおかげで、こうしてお前の前に姿を現せている」
「なるほど……。で、ラミリアは大丈夫なんだよな?」
俺は魔神さんの話をさらっと流し、ラミリアの安否を確認する。
「ああ、命に別状はない」
魔神さんもさらっとそう答えて、言葉を紡ぐ。
「それからお前の試練の話だが、我から言えるのは1つだ。……今の自分を忘れてはならない。それじゃあ、死なないように乗り切れよ」
――俺も試練受けるのかよ!!
そう叫ぼうとしたとき目の前の景色がぐらつき、次の瞬間には覚えのある景色が眼前に広がっていた。
「ここは……、学校?」
俺は困惑しつつ、辺りを見回す。
――教室……。
ここは俺の通い詰めた、教室だった。
紛れもなく日本の俺の通っていた高校の教室だ。
「日本に帰って来たのか?」
俺は不思議に思って、窓の外を見る。
時刻は朝だろうか、太陽が東の方の少し昇ったところににある。
きっと早朝だろう。
景色はいつもと変わらなかった。
手前には大きくも小さくもない校庭。奥には家々がまだ弱い日光に照らされている。
俺はどうするべきか悩んで、とりあえずポケットから携帯を取り出して日時を確認した。
「2月18日で6時40分、今日は平日だから人は来るのか」
そう小さく言って俺は携帯をポケットへと戻す。
そして暇なので自席で待っていようと、自席へ向かった。
しかし自席があるはずの場所には、落書きされてしかも壊された机があった。
椅子はなかった。
しかもその壊れた机の上には、一度濡れたのだろう、しわしわでびりびりに破かれた教科書やノートが置かれていた。
その教科書から何とか名前を見つけると、そこには俺の名前が書かれていた。
「いじめ……、俺が?」
その光景を見つめながら、俺は記憶を探る。
――いじめなんて受けたこと……。
その時俺の中に記憶が流れ込んできた。
いじめられていた記憶が。
口では罵られて体は殴られ蹴られ、ものは奪われて捨てられたり壊されたり汚されたりした。
トイレでは便器に頭を押し込まれ、女子トイレに監禁されて女子からもいじめられるようになった。
登下校では荷物を持たされ、ものを投げられ……。
次の日登校すると物はなくなっているか汚されていて、机は壊され汚されていた。
椅子はもちろんゴミ置き場に投げ捨てられている。
恥ずかしい写真も撮られたし、SNSにアップされた。
それが脅しとなり、お金なんかも取られるようになった。
そんないじめはとどまることを知らず、むしろ大きくなっていき、俺を苦しめつつけた。
もちろん先生は見て見ぬふり、親に言う勇気もないし、いじめていたやつに言うなと脅されていた。
そして俺は明日、19日の放課後に屋上から飛び降りて自殺する。
「ぅうあああああああ!!!!」
俺は急に流れ込んできた記憶に絶叫した。
辛くて苦しくてどうしようもないという気持ちが一気に押し寄せてきたのだ。
その記憶を失っていた俺に、耐える術はない。
俺はしゃがみこんで頭を押さえた。
俺は何も解決させないまま逃げて、異世界に行って悠々と生きていた。
こんな重大な事実を忘れて悠々と生きていたのだ。
そして俺はやり場のない自分への嫌悪感と、いじめてきたやつへの怒りを抱きつつ、勢いよく立ち上がり学校を出て自宅へと力任せに走った。
ご覧くださりありがとうございます。
暗い展開に入りましたが、あまり長々とやるつもりはありません。
先に作者の気が滅入ってしまいそうなので。
強制ではありませんが、正直に評価の方していただけましたら嬉しいです。
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今後ともよろしくお願いします。




