第44話 試練の祠
試練会場の中に入ると、長い廊下が目に入った。
その廊下の壁には等間隔で少々みすぼらしい扉がついている。
扉には何やら名前が書かれた紙が貼られているようで、きっとそれが試練を受ける人の名前なのだろう。
しばらくその廊下を進みラミリアの名が書かれた扉を見つけると、俺たちはその部屋に入った。
中は8畳くらいで4人が入るとそれなりに部屋が満たされた。
どうやらこの部屋は控室のようでここで準備をするらしい。
部屋の外からは頻繁に足音が聞こえ、いったい何人が参加するのか疑問に思った。
「なあ、何人が試練受けるんだ?」
俺が他の3人に向けてそう尋ねると、緊張しつつも暇を持て余していたラミリアが答えた。
「ええと、試練を受けるにはお金がかかるから、十人くらいじゃないかな」
「へぇー」
――金取るんだ。
まあいい収入源だし、受ける人の制限もできるからその方がいいか。
そしてしばらく部屋は静寂に包まれた。
何かを話そうと思えるような空気ではなかった。
「……いつ始まるんだ?」
何分かたち、俺はそわそわしてしまいその静寂を破った。
「もう他の方々は受けていますよ。順番なのでもうすぐ人が呼びに来ると思います」
落ち着いた口調でクラリスさんはそう返答した。
始まっているとは気づかなかった。
この会場の正面出入口には観客らしき人がたくさんいたと思うのだが、歓声などは全く聞こえないのだ。
俺が不思議に感じていると、突然扉がノックされた。
扉の近くにいたクラリスさんが返事をすると、扉が開いて魔族の男が淡々と声を発した。
「もうすぐ順番がきますので案内いたします。ついてきてください」
俺はすぐにフードを深々と被り、4人の最後尾について扉からでて廊下を進んだ。
長い廊下を進んで行くと、やっと歓声の振動が伝わって来た。
その空気の振動と観客の熱気を肌で感じつつ、俺たちは進む。
そしてついに会場の中央が見えた。
やはり訓練場のような構造で、コロッセウムのような形をしているらしい。
俺たちはその廊下の最終地点である、中央の会場に出る一歩手前で止まった。
「頑張ってください、ラミリア」
「応援しております」
フィリムとクラリスさんからのそんな励ましの言葉をラミリアは受けていた。
俺も何か言おうとして、言葉が詰まった。
このままラミリアが一歩踏み出せば観客の視線に晒される。
そうすれば精神的を通り越して、目に見える形で物理的に俺とラミリアに距離ができてしまう。
それに俺が何もしていないのに対して、ラミリアが懸命に進んでいるということの証明にもなってしまうのが、怖かった。
――けど……。
「ラミリアならこんな試練余裕だろ。ちゃんと応援してるから頑張れよ」
俺は笑顔を作り、少しだけ頑張ってラミリアを励ました。
「ちゃんと攻略してくるから待っててね」
そう微笑んでラミリアは一歩を踏み出し、それに伴って360度会場を囲む観客席から雄たけびのような歓声が上がった。
「実は……」
ラミリアが中心にある祠と呼ばれる門のようなものに入る寸前、クラリスさんが俺に語り掛けてきた。
「選ばれた者でないと、門に張られた結界に触れるだけで死んでしまいます。よくて瀕死です。この試練を受ける者が少ないのはそれが理由でもあります」
俺はラミリアから視線をずらしてクラリスさんの方を向いた。
彼女の顔は真剣そうで、ラミリアをじっと見つめている。
俺は動けなかった。
もちろん死んでしまう可能性があることを知ったのだから、止めるべきだとは理解している。
しかし俺の頭はそれほどまで慌てふためいているわけでもなく、焦りも感じない。
ラミリアを信じているからだろうか。
それとも……。
俺は不適切だろうと後者の方の考えを押しとどめ、祈りつつラミリアを見やる。
――でもきっとラミリアなら……。
お願いだ無事に入ってくれ。そしてクリアしてくれ。
ラミリアはもうあと数歩で祠に入る。
その先に何が待ち構えているは先に試練を受けた者しか知らない。
しかしその先に入った人たちも今は祠の中で試練を受けているので、知っている人間は外にはほぼいないのだろう。
何が起こるか不明で、だからこそ不安だ。
いや、そもそも入れるかもわからない。
俺は静かにラミリアを見つめる。
今は観客席の方から音がすることはない。
誰もが緊張の一瞬を見守っている。
俺の手は汗で湿っており、この会場に満ちている張り詰めた空気を肌で感じていた。
そうしてラミリアは一歩一歩踏みしめながら進み、するっと祠の中に入っていった。
それに伴い会場の歓声が巻き上がったのは言うまでもない。
俺も興奮のあまり飛び跳ねてしまい、クラリスさんに罵られたほどだ。
俺の手はまだ汗で濡れているが、それはきっと興奮によるもので、俺は安堵しつつそれを握りしめてガッツポーズを決めた。
しばらくの間、もう観客の歓声もとっくに収まっているにも関わらず、俺は門のような形状をした祠を見つめていた。
そしてまたしばらくすると、そこからお姉さんが出てきた。
彼女はとてもボーイッシュな感じで、ゆっくりと門を背に歩いている。
観客は一時の自由時間にそれぞれ雑談やらを繰り広げていたが、すぐに莫大な歓声へと変化し会場を包み込んだ。
新たな魔王候補の誕生に、会場中の観客が称賛や拍手や叫び声をその魔王候補に送っているのだ。
俺も自然と拍手を送っていたが、すぐにラミリアの様子が気になってやめた。
「ラミリアは大丈夫かな?」
俺は独り言のように不安を漏らした。
「何を弱気なことを言っているんですか? 大丈夫に決まっているじゃないですか?」
フィリムは微笑んでそう言うが、やはり安心はできていないようで、顔がその旨をうっすらと語っているように見えた。
祠に入れたのはいいものの、何が待ち構えているかは検討もつかない。
相性の悪い試練かもしれない。
いい試練かもしれない。
どちらにせよ出てくるまで待つことしかできることはない。
「もしも試練を攻略できなければ、祠に一生取り残されます。それで何人もの人が祠の中で息絶えているのです」
クラリスさんが静かに言い放った言葉に俺は焦りと動揺を隠せなかった。
「な、なんでそんな大事なことを――!」
「ミナトが止めにくるだろうから、とラミリア様から秘密にするよう言われていたのです。……ミナト様、危険を冒さずに魔王になる術などありません。ラミリア様の行動は正しかったと私は思います」
「――ッ」
何も言えない。
ラミリアには全部お見通しだったし、クラリスさんの言葉もまっとうだ。
でもどうして、そんな危険を……。
そこで死んでしまったら俺の能力が通用するかもわからないし、通用したとしても試練の再開になってしまうかもしれない。
このままずっと出てこなかったら、ラミリアのために行動するという心に決めたことが果たせない。
ただここに突っ立ていることしかできない。
――そんなことには、俺がさせない。
意地でも助け出して見せる。
それでもまだラミリアが試練に失敗しているかはわからな――。
「きゃあああああ!!」
どこからか突然悲鳴のようなものが聞こえた。
それは遠くからなのか小さくしか聞こえなかったが、確かに誰かが全力で発した悲鳴だった。
そしてその声がラミリアのものだと気づいた頃には、俺の体は自然と祠の方へ駆け出していた。
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これからは宣言通り火、金の二日投稿を予定しています。
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