第43話 試練会場
「魔王候補の試練ねー……」
夜、俺は何か感慨深いものを感じながらベッドに横になった。
街で特に親しい人がいなくて、独りぼっちだったラミリアが魔王になろうとしている。
俺はその背中を見守るだけ、何かをするわけでもない。
――離れていくなぁ。
1人でいるのに、気恥ずかしくて口にはできなかったが、そんな感情が心の奥にうっすらと存在している。
もちろんラミリアが努力している姿は素直にうれしいし、俺の活力にもなる。
だから寂しいとは思えないはずなのに、どこか俺の近くから離れていくような感じに襲われる。
異世界にきて何もせずに周りに流されていた俺。
特に自分から行動することはなかった。
王都を追い出されて街で静かに暮らしていたラミリア。
ラミリアは内心諦めていたから、何もしていなかったのだと思う。
いや俺はラミリアのほんの一部しか見ていないから、何もしていなかったかどうかはわからないが……。
それでも周りに流されてばかりで、何もしていなかった俺とラミリアは似ていたのかもしれない。
だから今こんなに親近感を持っていたラミリアが前に進んでいる姿を見て、劣等感まではいかなくても自分とは違うということをありありと見せつけられて、寂しいように感じてしまうのだ。
――じゃあせめてラミリアのために行動しよう。
何もしないのなら、せめてラミリアのために行動したい。
周りに振り回されるのなら、せめてラミリアのために振り回されたい。
――好きな人の助けになりたい。
頼られたい。俺の与えられた能力で守ってあげたい。
俺はそう心の中で強く言って、眠りについた。
「今日の試練は、城の近くにある試練の祠に入って行われるものなの」
何日かたった日の朝食後廊下を歩いていると、ラミリアは緊張をほのかに香らせる顔をして、俺に今日の魔王候補になるための試練について教えてくれた。
「祠に入れるのは選ばれた人だけで……、内容は公開されてないわ」
一瞬不安そうな顔で俯いたラミリアだったがそれでも顔を上げたので、俺はラミリアのやる気を感じた。
――確かに内容がわからないのは怖いよな。
試練とやらが、何を受ける者に望んでいるのかがわからない。
それにラミリアにとって初の魔王になるための試練だ。
不安になるのは仕方ない。
「きっと大丈夫だ、ラミリアなら大丈夫」
俺は微笑みながらラミリアを励ます。
その励ましに多少の勇気をもらったのか、ラミリアは少し顔を緩ませつつ準備のため部屋へ入っていった。
――何か怪我でもすることがなければいいんだけどな……。
俺は部屋に戻った後、ベッドに腰かけて脳みそを回転させた。
実力主義が武力なのか頭脳のことなのかはっきりしていない以上、祠の中で何が起こるかはわからない。
モンスターみたいなのが出てきて戦えなのか、謎解きでもしろなのか、もっと違う何かなのか……。
起こりうるものすべてを考えると埒が明かず、予測は一向に立たなかった。
時間になり俺はラミリアとともに城の裏にある出入口へ向かった。
表は特別な時以外に開けることは少ないからと言う理由で、裏口から出ることになった。
ラミリアの服はいつも通りの色合いだが、ラフなものではなくきちんとしたものだ。
と言っても動きやすさも重視しているのか、そこまでガッチガチの装いではない。
と思いつつラミリアをちらちらと見ていると、目が合った。
「に、似合ってるよ。試練頑張れよ」
とっさに陰キャ間の否めない口調でラミリアの服をほめてから応援すると、ラミリアからは優しい笑顔が帰って来た。
裏の出入り口に着くと、そこにはクラリスさんとフィリムがいた。
先に行って犬車の準備をしてくれていたのだろう。
確か祠は近くだけど、試練に受ける人は犬車で行くのが普通だそう。
と言うわけでさっそく乗り込もうと思っていたら、プリプリした様子のフィリムが待ったをかけた。
「なに廊下でイチャついてるんですか。あとこれ被っておいてくださいね」
フィリムは前半は俺にだけ聞こえるように言うと、後半の方を言いつつ俺に白いローブをかけた。
俺は一瞬困惑したがすぐに察した。
――俺差別対象だった。
実感はあまり湧かないが、それでもローブを被った。
「それでは行きましょう」
クラリスさんがそう呼びかけて、一同は城をでてすぐのところにいた犬車に乗り込んだのだった。
俺たちの乗る犬車は城の周りをゆっくりと回り、表側に向かっていた。
犬車から見える街は王都にはかなわないと言ったところだが、それでも人口の多さと賑わっている感じはさすがと思えた。
日はようやくてっぺんに到達しそうなほどで、雲は少なく家々の屋根をまっすぐに照らしているのがわかる。
しかしまだ夏にはなっていないようで、心地よい温もりについ瞼が重くなってきた。
しかし眠りにつく前に犬車はその動きを止め、到着したことを否応なく認識した。
俺はゆっくりと目を開け、辺りを見回す。
比較的大きい犬車の中には反対側のソファにクラリスさんとフィリムが、こちら側には俺とラミリアが座っている。
そしてその3人全員が俺を眺めていた。
「お兄ちゃん眠そうですね。膝枕してあげましょうか?」
「――そっ、それはだめですよ!」
俺が驚いていると、フィリムがとんでもないことを言いながら自分の膝を叩いて、ラミリアは慌ててフィリムにメッを出した。
――微笑ましいのー。
どこか親のような視線を送りながら微笑んでいると、クラリスさんが降車を促してきた。
俺がラミリアの次に降りると、目の前には大きな訓練場のようなところがあった。
訓練場の形は高等部にあったものと変わりはないが、高等部のものより数倍大きいように見える。
高さも高等部の訓練場の倍はあり、壁は古びているのか濁った色している。
その建物に畏怖すらも覚えつつ、俺は3人について行きすぐ近くにあった試練会場の裏の入口から中へ入った。
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