第39話 2人対大勢
「ミナト様!? 大丈夫でございますか?」
――耳元で叫ぶな。
この声はバハリスさんか。
俺はそこでようやく覚醒して飛び起きた。
「バハリスさん! フォルミドは!?」
俺は上半身だけ起きて、そばにいるバハリスさんに尋ねる。
「え、ミナト様が倒したのでは?」
バハリスさんはそばで倒れ伏しているフォルミドを指さしながら、不思議そうに言った。
俺は魔神のことを話すか悩んだ末、曖昧に答えた。
「あ、ああ俺がやったよ……」
それにしても、バハリスさんがすぐに起きてくれて助かった。
あのまま伸びていられると、俺が起きる前にフォルミドに逃げられる可能性があった。
と言ってもこの変態女、どうするべきだろうか。
殺すべきか?
でも一度助けたわけだしな。
拘束しとくべきか?
それはそれで不安だな。
――まあ、バハリスさんに丸投げしとこ。
何とも人任せな結論に至った俺は、その旨をバハリスさんに伝える。
「じゃあこいつ、どうにかしておいてください」
自分で言っていて勝手な話だなと思うが、バハリスさんは特に思うことが無いらしく承諾した。
「さて結界は消えたし、蘇らせますか」
立ち上がり伸びながらそう漏らすと、バハリスさんは空を見上げながら眉間を寄せた。
「……また結界が、張られています」
「また!?」
俺は何も見えない空を見上げ、顔を歪ませた。
「まだ誰かいるのか?」
バハリスさんは少し集中するように目を閉じた後返答した。
「いいえ。少なくとも結界内にはクラリス、フィリム、ラミリア様、それに私たち以外に人はいません」
「それじゃあ、外から結界を張ったってことか?」
「その可能性が高いです」
バハリスさんは静かに肯定する。
なら何のために結界を張るのだろうか。
能力がバレていて、生き返らせるのを防ぐため?
いやその可能性は低いだろう。
ならまた襲撃者が来る?
メイドさんがもし負けたら、あの軍勢が押し寄せてくる可能性はある。
もしくは全く新しい襲撃者がやってくるかも。
あの犬車を吹っ飛ばした子供だったら、メイドさんを全員倒すこともできるかもしれない。
――ということは、
「来るかも」
「……?」
バハリスさんはわかったような、わかっていないような顔をした。
「街にいた軍勢が……」
俺が補足すると、バハリスさんは脳内で葛藤を繰り広げたのか、すこし間を取ってから苦しそうに頷いた。
そりゃそうだ。あの軍勢が来るということは、すなわちメイドさんたちの敗北を意味するからだ。
頷きたくないだろう。
でも可能性的にありえなくなくて、認めざるを得ない。
バハリスさんの弟子的存在なら、なおさら考えるだけで辛いだろう。
「……ならば、早く移動しましょう」
バハリスさんはそう言ってから、フォルミドとクラリスさんを抱えて屋敷の中へ入る。
俺もそれに従って屋敷へ入り、フィリムを抱えてとりあえずラミリアの部屋へ運んだ。
3人の遺体と拘束したフォルミドを早急にラミリアの部屋に移し終えた俺とバハリスさんは、隣の部屋で今後について話し合った。
内容はもちろん、大人数での襲撃に対する俺たちの対抗手段だ。
「ホールメス家は代々、魔族領との境界線の警備を口実に私兵同然の軍を保有しています。兵舎までは魔法による連絡が取れませんので、フクロウに便りを持たせて応援要請をしましょう」
バハリスさんはあまり気乗りしない様子で言った。
「私兵同然って……。てか最初からそうして欲しかったな」
「きっとする間もなかったのでしょう」
俺のつぶやきにバハリスさんは顔を若干曇らせながら答えた。
「それに、到着するまでに時間がかかりますから……」
――詰みだな。
でもやってみる価値はある。
時間は稼げばいい。
「じゃあ、手紙送りますか」
俺もわずかな希望だということはわかるが、ここはおとなしく縋るしかない。
「それでは、私は便りを書こうと思います。少々お待ちください」
「あ、あと、油とか燃料とかある?」
俺はふと思いついたことの材料が存在するかを確認する。
「地下にあると思いますが……」
バハリスさんはそう答えると足早にノークラスの部屋へと向かっていった。
「やっぱ異世界と言ったらエクスプロ―ジョンでしょ」
俺はバハリスさんのいなくなった部屋で、縁起でもなくウキウキしていた。
材料は燃料、火、以上。
肉体強化で燃料を相手に投下して、火を投げて戦力を減らしてやろうということだ。
「そんじゃ、地下に行きますか」
俺も足早に廊下に飛び出て、屋敷の地下へと向かったのだった。
地下深く、燃料が爆発しても耐えられそうなくらい深く、それはあった。
たるに入れられた燃料だ。
辺りはガソリンのようなオイルの匂いが漂っており、息をするのが嫌になるくらいだった。
一応換気口は存在するが、この匂いは健康にあまりよろしくないだろうから手っ取り早く退散したい。
そう思いつつ、肉体強化してたるを3つほど持ち1階へ運ぶという作業を何回か繰り返した。
するとちょうど作業が終わった頃に、バハリスさんが俺のところへ走って来た。
「便りは出しましたが、門の向こうに大勢の制裁部の兵が見えました」
バハリスさんは少し焦り気味にそう告げてから俺の側にあるたるを見る。
「まさか……、やるんですか?」
俺も少々焦って不安になるが、ここは漢の顔をして一言。
「――ああ、やる」
チラと窓から外を覗くと先頭がもう門の目の前にいて、今にも門を破壊しそうな勢いだった。
「それじゃあ、2人で屋敷を死守しますか。雑魚相手でも無理だったらごめん」
俺が微塵もかっこのつかないことをかっこつけて言うと、バハリスさんは戦に向かう漢の顔で答えた。
「その時は、私が敵兵を全滅させて見せましょう」
――かっけぇ。
俺は素直に感動しつつ正面扉を開け、たるを構える。
「「「いたぞ!! やれえ!!」」」
門を抜けて叫びながら走ってくる、黒い不審な侵入者に俺は全力でたるを投げた。
「でぇぇええりゃあ!!」
肉体強化した体に投げられたたるは見事に集団の中におち、オイルをまき散らして粉々になる。
この時点で二人ほど負傷しただろうか。
「さあ、続きましてぇ!!」
いつの間にかたいまつを持って横に立っていたバハリスさんから、それを受け取りぶん投げる。
するとオイルでぬれた部分が、音を立てて一気に燃え上がった。
俺は爆発による侵入者の悲鳴をBGMに、次のたるを投下していく。
先頭のやつらが到着する頃にはすべてのたるを投げ終えていたが、まだまだ大勢の大胆な侵入者は際限なく門から湧いてきている。
燃やして倒せたのはほんの気持ち程度の人数だ。
――こんなにいたかよ。
内心では焦りに焦っているが何もしないと殺されるので、武器を構えて全速力で突撃してくる侵入者を切り捨てに飛び出した。
それでもなんとなくバハリスさんの方を見ると、目が合って少しにやけてしまう。
「それじゃあ、斬って斬って斬りまくりますか!!」
俺がそう叫ぶと、すぐに辺りは叫び声に包まれたのだった。
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