第32話 魔術の授業
「んぁぁああああ」
俺は窓から差し込む優しい朝日に照らされながら、ベッドの上で体を伸ばす。
――昨日はやばかったわ。
理性の修行だったわ。
下着見ちゃって、一緒に寝ちゃって……。
サリアの甘い匂いに包まれて、意外とよく眠れたのは不幸中の幸いと言うべきか。
その彼女はすでに起床しているようだ。
目覚めとともに美少女は、さすがに刺激が強すぎるのでありがたい。
しかも何かを焼くようないい匂いもしてくるので、これもありがたい。
朝飯を、しかも美少女に作ってもらえるなんて最高だ。
昨日の夕飯は文句なくおいしかったし、本当にありがたい。
「おはよーー」
眠気眼をこすりつつ、台所のサリアに挨拶をする。
「やっと起きたのね。ごはんもう少しでできるわよ」
せわしなくご飯の用意をするサリアはすでに制服に着替えており、その上からエプロンをしている。
俺は台所へ行き、出来上がっているものからテーブルへ運ぶ。
今日の朝ご飯はパンに卵焼きそれと、野菜とフルーツだ。
朝ご飯にしてはちゃんとした品揃えだ。
さすが公女殿下だ。
そんなところもしっかりとしている。
できない俺がとやかく言えることではないのだが……。
それから少しの間、台所でちょこちょこ動くサリアを眺めながら、席に座って彼女を待つ。
「それじゃいただきます」
サリアが席に着いたので、俺は手を合わせてそう言った。
「いただきます? 昨日も言ってたけど、そんなこと言わなくてもいただいていいわよ」
俺からしたら当たり前な行動にそんなことを言われるとは思ってもみなかったので、つい面白いなと思ってしまう。
「いや、そうじゃないんだ。これは材料を作ってくれた人や調理してくれた人、この食べ物にかかわったすべての人に対して感謝するって意味を持ってるんだよ」
「……へぇ、それいいわね。いただきます」
見よう見まねで合掌してサリアはそう言う。
俺はラミリアとフィリムを思い出しつつ、和やかだなと平和な世の中を実感したのだった。
朝ご飯を食べ終えて登校する準備を整えた俺たちは、早めに寮を出た。
クラスメイトを含めて、他の生徒達は俺とサリアが同棲していることを知らない。
というかこんなことは知られてはいけない。
だから人が少ない早い時間帯に寮をでなくてはならない。
そして俺はサリアと雑談をしながら、クラスへ入った。
元の俺はいつもチャイムギリギリ登校の常連だったので、人のいないクラスを見るとつい自分に感心してしまう。
いや、人が1人だけいた。
黒髪の女子だ。
俺がいつも座る席の前に立っている。
悪いが彼女のことを初めて見た気がする。
いや実際にはクラスにいたとは思うんだが、記憶の中に彼女の姿が見当たらないのだ。
影の薄いタイプなのだろう。
「おはようございます。あなたは……たしかミラさんですよね? ずいぶん早いんですね」
「あ、ああ、サリア様……。おはようございます。つ、つい早く来てしまって……」
ミラさんは動揺を隠せないまま恭しくそう言う。
「ミナト様もおはようございます」
俺に向かってまで恭しく挨拶してきた。
正直そういうのは慣れないし、違和感しか感じない。
「ああ、おはよう。そんなに固くならないでくれよ。ここは王立学校なんだし」
「え、そ、それは……」
――あ、拒否られた。
と横を向くと、サリアが真剣な眼差しをミラさんに送っていた。
「あなた、何をしていたんですか?」
ミラはサリアのその言葉に、一瞬明らかに動揺した。
「あ、え、その……これは、ミナトさんにプ、プレゼントがありまして」
――モテ期来たーーーー!!!!
さすが異世界。
「プ、プレゼントですって?」
サリアの声にはミラへの疑いがあふれ出ているようだった。
しかし次の瞬間にはサリアの口調は一変していた。
「そんな、はしたないわ……」
サリアは顔を赤くして小さくそんなことを言った。
「どこが!? 健全そのものでしょうが!」
俺がとっさに突っ込むと、サリアも自分で自分に突っ込んだ。
「あ、いや、何を言っているの私!?」
――これが二重人格ってやつか。
何言ってるのかわかんなくて怖いんだけど。
するとミラが小さな箱を持って寄って来た。
「これ、差し上げます。えと中身は……、開けてからのお楽しみってことで……」
――間があったんだけど。
中身わかんなくて怖いやつだよ。
これでおかしなやつだったら笑うしかないな。
俺は差し出されたその箱をもらい、家に帰ってから開けることにした。
その後ホームルームを終え、魔術の授業が始まるとアリス先生は明るく言う。
「魔術は体の核にある魔力を使って発現させられるが、火、水、植物、土、風と聖魔法、闇魔法があり、人によって適性がある。それは遺伝に左右されることが多いが、個人差が大きい。と言うわけでミナト、初級魔法をやってみろ。そうすれば試合でなぜ魔法を撃たなかったのかは不問にしてやるぞ」
「――うっ!」
この人撃てなかったってことに気付いてるな。
ほんといい性格してるな……。
ため息をつきつつ席を立ち、前へと向かう。
「頑張りなさいよ」
隣に座るサリアにそう言ってもらえたので、俺は自信しか感じなくなった。
前の方にたどり着くとさっさと終わらせるために、俺は一気に全種類の初級魔法を並べて発動させる。
これだけは自信がある。
全属性を使えるというチートを持っているのだ。
ただし構築して維持するのは馬鹿みたいに大変だが。
でもやせ我慢しただけあってクラスのみんなの受けはよろしい。
「え、全属性?」
「まじかよ。どうなってんだ?」
みんな疑わしいというような目をしているが、最終的には感動してじっと俺の魔法を見つめている。
「というように全属性使えるような人も本当にまれにいるが、個人差だ。気にしなくていいぞ」
めちゃめちゃ動揺して、焦っているアリス先生は早口でそんなことを言っている。
このことは先生にも言っていなかったから、仕方がない。
「諸君らも初級魔法は発動させられるな。なら次は中級魔法だ。ミナト、撃てるか?」
俺はまだ初級魔法しか覚えていないので、首を横に振る。
「そうか。なら威力の比較をしよう。このクラスには結界を張ってあるから、人のいない方にできる限りの魔法を撃ってくれ」
「わかりました」
俺はとりあえず、炎魔法に魔力を大量に流し込んで天井へとぶっ放す。
すると見た目は変わらない炎魔法が出来上がり、天井の方に飛んでいく。
「このように威力はあまり大きくは――」
天井に到達する直前に先生は解説を始めたが……。
「ドゴォォォオオオン!!!!」
その爆風と轟音に先生の解説は止まった。
――やばいやばい!!
結界にひびが入ったんだけど。
魔法が当たった場所の真下の生徒は、爆風に荷物を飛ばされながら叫んでいた。
本当に申し訳ない。
俺もこんなに魔力を注いで撃ったことがないので、予想外だったのだ。
まだまだ入れようと思えば入れられるが、これはかなり危ないな。
「先生、これでいいですよね?」
と横を向くと、目を見開いて固まっているアリス先生がいた。
――いい仕返しになったな。
「私の結界にひびを入れるとは……」
先生のつぶやきをしっかり聞いた後、俺は席に戻った。
「私を倒したミナトだもの、当然ね!」
俺が席に着くと、なぜか自慢気にサリアはそう言ったのだった。
その週の週末俺は久しぶりに実家――、ホールメス領の屋敷に帰ることにした。
手順は簡単、先生に申請書を渡して承認されればいいのだ。
そしてバハリスさんあてに手紙を書いて送ればよい。
そうすれば予定時刻に犬車がやってくるのである。
「行ってきます!」
俺は見送りに玄関まで来てくれたサリアにそう告げる。
行ってきますのチュウでもしたいところだが、ここは自制する。
すると彼女の方から俺に寄ってきて、抱いてきた。
「行ってらっしゃい」
「――お、おふぅ……」
その優しい柔らかさと、甘い匂いに俺の思考は一瞬で溶かされた。
――なんでこんないい匂いなんだ!
犯罪的だわ。
俺はその幸福感に包まれたまま寮を後にして、校門の外で待っている犬車へと向かった。
犬車の側にはバハリスさんが立っており、俺の荷物を受け取って載せてくれた。
そして俺は犬車に乗り込み、5時間ほどの長い道のりが幕を開けるのだった。
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今後ともお付き合いいただければ幸いです。




