第33話 帰宅? 帰屋敷?
犬車に揺られること5時間弱、やっと始まりの街が見えてきたあたりで俺は目を覚ました。
慣れない学校生活と試合でたまった疲れで、俺は長い時間眠っていた。
「もうすぐ着くのかー」
久しぶりのラミリアとフィリムだ。
と言っても実際の期間としては1週間と少しなのだが……、まあ気持ちの問題だ。
ちなみにラミリアとフィリムには、帰ることは知らせないようにとお願いしている。
無論サプライズという形にしたいからだ。
どれだけ驚くだろうか、とても楽しみだ。
しかしそれも重要だが最重要事項はラミリムパワーを補充することだ。
しっかり補充して来週の原動力を得る必要がある。
そのためのサプライズでもある。
そう考えているうちに犬車は街を抜け、森に入り屋敷の門の目前まで進んでいた。
門が自然に開くと、同時に正面の大きな扉からクラリスさんが出てきた。
犬車は速度を落としゆっくりと正面の階段の前へと近づいていく。
階段前に到達すると犬車の扉が開けられて、俺は屋敷の敷地に足を下ろした。
すると正面の扉が勢いよく開けられた。
「「ミナト!!」」
俺の名前を叫びながら勢いよく飛び出してきたのは、ラミリアとフィリム。
そして階段を駆け下りて俺の元へと寄ってくる。
前にいるフィリムは可愛らしいメイド服を着ていて、つい手が……。
――そんなことはないよ。うん、断じてないよ。
ラミリアは新しい服なのか、ラフな白いワンピースを着ている。
――ああああああ!! 天使だわーー。
吸血族だけど。
と言っていてやっと気付いたのだが、吸血鬼って日光に弱いんじゃなかっただろうか。
何ならニンニク嫌いじゃなかっただろうか。
鏡に映らないとか。
でも今ゴリゴリ外に出ているし、ニンニク料理を食べていたし、鏡にも映っていたと思う。
――べ、別に鏡に映るラミリアを覗いたとか、そういうんじゃないんだからね。
いやまあここは異世界だから、気にしたら終わりだ。
そういうもんなんだと割り切るしかない。
「久しぶりだね! お兄ちゃん!」
フィリムが俺に抱き着きながらそう言った。
――出たよ。
メイドさんなんだから、もうちょっとしっかりしてほしいんだけど……。
本当は断じて思っていないくせにそう考えてしまう。
この子供らしさが子供にはちょうどいいだろう。
「ぅうんん……、久しぶりだな」
俺は少し苦笑しながらそう返す。
お兄ちゃんの破壊力にやられたことで、つい一瞬おかしな音が漏れてしまった。
「もうフィリムったら! ……ミナト、お帰り」
ラミリアが少し頬を膨らませた。
そしてすぐに、優しく微笑みながら俺のハートを射貫いてきた。
「ただいま、ラミリア! フィリム!」
俺はそう言って、大きく笑って見せた。
そうして一区切りがついたところで俺は屋敷に入り、もともと使っていた部屋へと向かった。
部屋に入るとまず、荷物の中から例の箸を取り出し飾る。
箸は俺が日本から持ってきた数少ない物の1つなので、いつも部屋に飾っている。
次に目覚まし時計をベッドの横にセットしておく。
これはミラからもらったプレゼントだ。
何気に持っていなかったので、普通に使わせてもらっている。
その他の荷物はもともと少ししか持ってきていないので、整理に時間はかからなかった。
だから時間を持て余していると、クラリスさんの声とともに扉がノックされた。
「ノークラス様がお呼びです」
「はーい」
俺は座っていたベッドを飛び降りながらそう返した。
俺とクラリスさんは廊下を歩き、1階にある割と大きな部屋の前へやって来た。
扉をクラリスさんが開けてくれたので、俺がそのまま部屋へと入るとすでにみんな揃っていた。
その光景で一番初めにここで会議したときと違っているのは、フィリムがメイド服を着て立っていることだけだ。
そのほかは何も変わらない。
俺のあの時の混乱が昨日のように思い出せる。
――平和になったもんだなー。
そう噛みしめていると、早速ノークラスが口を開いた。
「さて、ミナト君が公女殿下と仲良くしていることはいいですけど、同棲ですかー。なかなかやりますねー」
「ちょおっっとーー!! 何を言っているのかなー? ワカラナイナー」
――こいつなんで知ってるんだよ。
仲良くしてることは手紙で伝えたけど……、アリス先生だ。
あの人、今頃にやけてんだろうな!
さすがの性格をしていらっしゃる。
――て、あああーー。
ラミリアと特にフィリムの視線がーー!!
「ミナトお兄ちゃん? 他の女に手を出したらダメだよって言ったよね?」
フィリムがお怒りモードでこちらを向いてきた。
頬を膨らませているのに、可愛いけど可愛くない。
普通に怖い。
「ミナト、そ、そういうのはよくないと思うわ」
ラミリアは顔を赤くして、必死で俺に伝えようとしている。
――うん、伝わっているよ。
俺のこのアリスへっぽこ校長への思いも伝わればいいなあ。
そもそも言い方ってものがあるだろう。
きっとアリス先生が同棲という状況を強調して言ったから、ノークラスも便乗しただけで、経緯を説明すればきっと大丈夫だ。
きっと。
フィリムの怖い視線のせいで、きっとどまりなのは仕方がない。
そこからはフィリムとラミリアを納得させるのに、一苦労した。
どうやら同棲の部分が気になるようで、経緯を説明してもあまり効果がなかった。
だからこそ納得させるのが一苦労なのだ。
「さて、これからは私の話をしましょうか」
ノークラスが一区切りついたところでそう切り出した。
「俺の苦労をさての2文字で、切り捨てるなー」
俺のそんな突っ込みは華麗に無視され、ノークラスは続ける。
「私、今度は獣人族との交渉をしに行きますので、しばらくここを開けます」
その発言にリアクションを見せたのは、ラミリアのみ。
メイドさんはもともと知っているようで、特に驚きはしない。
「あれれ、ここは驚くところですよ? なんなら寂しくて泣いてくれても……」
「うっわ、悲し、泣けてくるわー」
俺がまんま棒読みでそう言うと、ノークラスはニコニコしたまま悲しそうな顔をした。
いや正直俺は王都にいるから会わないし、ラミリアとフィリムに会えるなら文句はない。
だからノークラスが出張と言っても、特に何も感じない。
そういうことで会議は終わりとなった。
夜になり俺は部屋で1人、寝る前の時間をなんとなく過ごしていた。
すると突然、部屋にノックの音が響いた。
「はーい」
俺が返事をすると扉は開き、寝間着姿のラミリアが入って来た。
「こんな時間にどうしたんだ?」
俺は入ってきて早々、ベッドに座るラミリアに尋ねた。
「い、いや、あの……」
明らかに動揺しているし、顔が赤い。
しかも体が妙にふらふらしている。
――まさか、体調が悪いのか!?
「大丈夫か? 熱でもあるんじゃないか?」
「ううん。そうじゃないの」
そう言うラミリアの息は荒い。
手も震えている。
「本当に大丈夫か?」
俺はラミリアの前でしゃがんで、おでこに触れる。
「あ、熱い――」
すると急に視界いっぱいに天井が広がった。
いや、体がベッドへ仰向けに倒されたのだ。
「え……?」
ラミリアがなぜか俺の上に乗っている。
その顔と目は本当に赤い。
「ダメ、なのに……」
ラミリアの手は俺の肩をがっしりと抑え込んでいる。
彼女の顔は俺に息がかかるほど近い。
口には……、大きな犬歯があった。
俺はさすがに察した。
「飲みたいかなら、遠慮なくいっていいぞ」
俺は肩から首にかけての部分を服から出して見せた。
「で、でも……」
それでもラミリアは、衝動に抗おうと必死だ。
手はより強く俺を抑え、目は血走っており、口は噛み付く気満々の形をとっているのにだ。
「遠慮するなって」
俺はつらそうにするラミリアを、一刻も早く楽にしてあげたくて彼女を抱き込んだ。
そしてラミリアの口が、俺の首の近くに来るようにしてやる。
ラミリアは一瞬口を開いた状態で固まったが、すぐに俺の首筋に噛み付いて血を飲み始めた。
「――んっ!!」
痛さと気持ちよさに、ついおかしな声が出てしまった。
その間にもラミリアは俺の首筋から血を吸い続ける。
彼女の喉からは、液体を喉の奥へと流し込む音が絶えず聞こえる。
その快楽と甘い匂いが、俺の心臓を高鳴らせる。
――ああ、やばいわ。
と極楽へ昇りかけたところで、ラミリアの口は俺から離れた。
彼女の顔はまだ赤いが、さっきよりもだいぶましになった。
「今日が誕生日なのか。お誕生日おめでとう」
しばらくしてから申し訳なさそうな、でも幸せそうなラミリアに俺は微笑みながらそう言った。
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