第30話 俺の願い
試合が終わり、俺はサリア公女殿下を保健室へおいてから教室へ向かう。
俺の前を歩くアリス校長先生は、よくやったと一言だけ言って今はもう話さない。
ただ静かに廊下を進み続けている。
俺はその後ろで、勝利という美酒に未だ酔いしれていた。
サリアは大丈夫だろうか。
脳裏にそうよぎった。
俺が腹を思い切り叩いた相手は、誰が何と言おうと一国の姫なのだ。
保健室の先生は回復魔法をかけていたが、それでも目を覚まさなかった。
安静にしていれば今日中には目覚めると言っていたが、どうしても気になってしまう。
人をそこまでしてしまった自分に罪悪感が降りかかってくる。
いくら試合と言っても人をそこまで痛めつけるのは気の乗るものではない。
そう思いつつも喜びが全身を巡って、マイナスな思考は侵食されていく。
するといつの間にか教室に着いていた。
アリス先生は扉を開いて、入るように促してきた。
俺がそれに従って恐る恐る教室に入ると、突然歓声が沸き上がった。
「すげーよ!! ミナト!!」
「見直したぞ!!」
「かっこよかったよー!」
「――うお! え?」
急にほめられて正直驚きを隠せなかった。
「自分のした試合がどれだけのものだったのか、これでわかっただろう」
扉を閉めてから俺の横に立ってアリス先生はそう言った。
「そんなにすごい試合だったんですか?」
自分のしたことは客観的に見ることができないし、どれほどできれば凄いのかという基準も持ち合わせていない。
しかも勝てたのは、公女殿下が油断していたおかげだ。
決して俺の実力が彼女に勝っているとは思えない。
でもあの試合を見ていた誰しもが俺を称賛している。
ならば認めてもらえるほどの試合はできたということだ。
しかしやはり魔法を使う余裕がなかった。
あの状態で魔法を構築するなんて、俺には出来っこなかった。
「それにしても魔法も使わずに勝つとは、計り知れないな」
「魔法使わなくても余裕だったのかもな。恐れ入ったわ」
――ちっげえよ!
使えないんだよ!
周囲の反応に、口では言えず脳内で突っ込んだ。
その授業が終わると、クラスメイトが俺に詰め寄って来た。
初めに入学式で知り合ったカイリ・メイリスとフィリップ・ベイソンがやってきて俺の両隣を占領した。
その後はもうわんさかきて、何人来たのかさえ覚えていない。
休み時間も中盤に差し掛かった頃、すごい勢いで扉が開いた。
「ミナト!!」
不機嫌そうに俺の名前を叫び、近寄って来た。
「はい、ミナトです」
――てか目覚めるの早いな。
そして俺の横の2人が離れ行き、俺とサリア公女殿下とやって来たアリス先生だけになると、公女殿下は早口で話し始めた。
「負けを認めてあげるわ。早く言いなさい」
「何を?」
「は? どうせ嫌らしいこととか、卑猥なこととか、下賤なこととか想像していたんでしょ」
「ああ。願い叶えてくれるとかいうやつね」
俺は真っ赤に染まってプルプル震えている公女殿下に告げる。
「じゃあ、仲良くしてください」
俺がそう告げると、長い沈黙の後彼女は言った。
「…………は?」
「だから仲良くしてねと」
「……え?」
俺の説明でもまだ理解できないのだろうか。
簡単な話だろう。
仲良くするのがノークラスとの約束だし、美少女の公女殿下と仲良くして損はしない。
いや、本音は普通に仲良くなりたい。
美少女と仲良くなりたいと思うことは自然なことだよね。うん。
すると俺を凝視して固まっていた公女殿下はやっと口を開いた。
「仲良く……する?」
俺は首を縦に振って肯定する。
「あの? 2人専用の部屋取ってあるんだが……」
――なぁにしちゃってんの!?
アリス校長を全力で目を見開いて見ていると、先生が思いついたように言った。
「なら2人で生活して、身の回りのことをサリアがやってやればいい」
――なぁに言っちゃってんの!?
アリス先生の性格はいいとして、2人で暮らすって、身の回りのことをしてもらうって。
絶対まずいでしょ。
でも、俺なんにもできないからな。
朝飯作るのに40分かかるとかそんなことはわざわざ言わないけど、やってくれるならとても楽だ。
でもまずいだろ。
「じゃあそういうことで荷物は運んどくからな」
「――え? は? ちょっ!」
先生を引き留めようとしたが、またもや先生は扉の前で手を振っていた。
試合のことと言い、このことと言い先生はなかなかの性格を持っていらっしゃるようだ。
――あんた校長だろ……。
「うぅぅ……」
横を向くと公女殿下はまた俯いて体を震わせていた。
本日の授業が終わり、俺はサリアとともに寮へと戻る。
部屋の場所は帰り際にアリス先生に教えてもらった。
寮の最上階の15階にある唯一の部屋。
15階の部屋はもともと倉庫なんかに使われていたが、試合後にアリス先生が無理やり空けた。
そして俺と公女殿下の部屋となった。
寮の入口につくと人に見られないように辺りを見回し、ドキドキしながら15階を目指した。
そして部屋の前につき、俺はゆっくりと扉を開ける。
中は俺のもともとの部屋より少し大きく、2人で生活しても不自由はしないだろう。
トイレと浴室が別になっているのはありがたい。
――って、なにそのまま流されてんだよ!!
後ろにいるサリア公女殿下は未だにプルプルしているっていうのに、俺はすんなり受け入れてしまったのか。
まあいつまでもグダグダ言ってても始まらないし、受け入れたのは不問としよう。
で、この先どうしよう。
先生に言われたように、身の回りのことはやってもらいたい。
というかその前に、普通に仲良くしときたい。
もういっそ、そこまで深く考えずに流れに身を任せてしまおう。
「あのサツキ・ミナトです。これからよろしく」
「――ッ! サ、サリア・リーゼヴィクトよ」
顔を赤くして返されると、正直俺もとまどってしまう。
「えと、図々しくて申し訳ないんだけど、俺家事とか全然できなくて……だから仲良くするついでと言っちゃなんだけど、俺の身の周りのことをしてください」
「……本当にそれだけで……いえ、分かったわ。あなたと同棲して、家事をすればいいのね」
「同棲って……間違ってないか。大変だけどよろしく」
俺は理解してくれたらしい公女殿下に、少し表情を柔らかくした。
「それとミナトでいいぞ。敬語も使わないでほしい。俺はサリアでいいか?」
「ええ……。いいわ」
サリアの表情はとても柔らかいとは言えないが、ひとまず落ち着いて暮らせるだろうか。
早くラミリアとフィリムに会いに行きたい。
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