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第29話 サリアとの試合

 今日は試合当日だ。

 朝大きいほうもしっかり出したし、ご飯も頑張って作った。


 土日は1日中剣術と魔法の練習をしていたし、できる所までは準備してきた。

 肉体強化は使えば使うほど体になじんで使いやすくなってきたが、やはりそれでも使いすぎると痺れのような痛みが出てくる。


 魔法の発動にもだいぶ慣れてきたし、速度も制御も悪くはないくらいには届いただろう。


 せめて少しでも実力を示せれば、恥をかかずに退学できるだろうか。

 そのためには学年トップ級の公女殿下と善戦をしなければならない。


 ――見かけだけでも強そうに戦えたらなあ。

 そんなのできっこないんだけどな……。

 まあ、いいや。


 そして開き直った俺は、いつものように教室の扉を開けた。


 ――視線が……熱い。


 いや本当は熱くはない。むしろ真逆で冷たい。


 裏口入学したやつを快く思う人間なんていないわけで、しかもほかの人はちゃんと実力があって苦労してきた人間なのだ。

 このクラスの中には平民の方々もいるので、彼らの俺への思いは凄まじいものなのかもしれない。


 そりゃあ冷たくもなる。


 日本でも有名大学に裏口で、なんてニュースが出回ると俺は少し憎たらしくも羨ましいような嫉妬にかられるわけで、それを俺がやっているわけだから仕方がない。


 それにしても入学2時間でさっそく2人の友達を失った時はさすがに驚いた。

 というか本当は泣きたくなるほど悲しかった。


 理不尽だ。勝手に学校に入れられたのに……。

 承諾したのは俺なんだが……。


 そして最近定着しつつある、窓際の1番後ろの席へ歩いていき座る。

 俺の席の近くに座るもの好きで勇気のある人はおらず、空席が俺の周りにだけ集まっている。

 勇気と言ったが、それは公女殿下の無言の圧に反発することである。


 俺のことが徹底的にお気に召さなかったようで、クラスメイトにまで無言の圧をかけている。

 もちろん意識的にか無意識的にかなんてことはわからない。

 しかしクラスメイトたちは勝手に怯えて、俺には近寄らなくなってしまう。


 まことによろしくない。

 立場上どうしても逆らうことのできない圧をかけてくるなんて、卑怯だ。


 俺も圧かけたら公爵より身分の低い人はどちらに味方するのだろうか。

 何もできなくなってしまうだろうか。困るだろうな。


 まあ慈悲深い俺はそんな面倒なことはしないが。


 そしてアリス先生が今日も元気よく入ってきた。


「おはよう諸君! 今日は待ちに待った試合の日だ。さっそく第3訓練場へ行こう」


 ――はえーよ。

 入ってきて2秒で試合って、実はめちゃくちゃ楽しみにしてんじゃないかこの人?

 待ちに待ったって言っちゃってるしな。


 勘弁してくれよと重い足を引きずって、俺はクラスの波の最後尾で弱々しく第3訓練場へ向かうのだった。



 公女殿下と反対側の入り口から第3訓練場に入り、観客から見えない廊下で呼び出しを待つ。

 俺はしっかり緊張して足が震えている。


 廊下を抜けた舞台の方からは、がやがやと生徒の声が聞こえる。

 俺は静かな廊下に流れ込むやかましい声に、集中できずにいた。


 刀は持った。

 後は集中して頑張るだけだ。


 そういえばこの刀の名前、まだ付けてなかったな。

 試合が終わったら考えよう。


 そんなことが頭をよぎったとき、ついに俺の名前が呼ばれた。


「サツキ・ミナト入場しろ」


 アリス先生のそれっぽくないコールに返事をしつつ舞台に上がる。

 それから5歩くらい進んで止まると公女殿下が呼ばれた。


「サリア・リーゼヴィクト入場しろ」


 ――サリアって言うのか。

 今更だけど初めて知った。


 そう言って彼女は金髪ツインテールをなびかせながら、舞台へ上がって来た。

 その顔には自信が見える。

 緊張している様子もないようだ。


「この場所は魔法によって剣の斬る能力を消している。安心して戦ってくれ。それでは両者とも構えて……」


 アリス先生の合図で俺とサリアは剣を抜く。


 先生の言っていた通りサリアは剣で、お高そうな美しいまっすぐなものだ。

 それに対して俺は美しく反った、至高の日本刀だ。


 抜いた瞬間――、いや入学式の時からだが、この細くて反った刀はあまり受けが良くない。

 馬鹿にするやつが多すぎる。

 世界に誇る日本刀のすばらしさを見せつけてやる。


 そんなことを脳内で言ったところで、この緊張が解けるはずもない。


 俺は嫌な汗をかいた両手で刀を握った。


「ぷっ! 見ろよあの構え、素人でもあんなのしないぞ」


「公女殿下と試合をすること自体がおこがましいな」


 聞こえてくる罵倒に怒りを覚えつつ、集中しろと自分に言い聞かせる。


 そして少しの間の後、アリス先生の合図が発せられた。


「試合始め!!」


 合図とともに公女殿下が口を開いた。


「不正入学の劣等生君は、私がじっくりいたぶってあげるわ」


 そしてゆっくり近づいてきた。

 彼女の持っているものは正義感なのかよくわからない。

 ただ単にある意味いい性格をしているだけかもしれない。


 まあそんなことはいい。

 今はサリア公女殿下を倒すことだけに集中しよう。


「それはありがたいことですね!」


 俺は肉体強化で一瞬で彼女の懐へ入る。

 そして低い姿勢のまま、上段からの一振りを放つ。


「――なっ! くっ!」


 彼女はすぐさま剣で防ぎつつ、後ろへ飛ぶ。


 やはり防がれてしまった。

 これだけのスピードを出しても防がれてしまうとは……。

 勝てる気がしてこない。


 でもまだだ。


 俺は後ろへ飛ぶ彼女に再び斬撃を与えに飛び出す。


「く、来るな!」


 いくつもの炎の球が瞬時に繰り出され、俺に向けて矢のように飛んでくる。

 俺は横に飛んで回避し、弧を描くように距離を取ろうとする彼女を追いかける。


「おい……。まじかよ」


「あんなのよけられないだろ……」


 もうすでに俺を馬鹿にして蔑む生徒はいない。

 生徒たちは俺たちの戦いを食い入るように見ている。

 そして口を開けたり、たまにそれぞれ思い思いの感想をこぼしたりしている。


 すると俺の視界から彼女が消えた。

 自身が撃った魔法の陰に隠れて俺が捉えていた場所から消えたのだ。


 左側面から何かが――、まずい!

 俺はとっさに剣で斬撃を防ごうと試みる。


「はあ!!」


 しかし俺を襲ったのは彼女の斬撃でなく、腹への強烈な回し蹴りだった。


「――ぐっ!」


 俺は肉体強化された足からの強烈な蹴りに3メートルほど地面を転がった。


 が俺の全身肉体強化のおかげで強化された腹筋たちが、みぞおちへのダメージを最小限にしてくれた。


 しかしうまい。

 魔法の陰に隠れて、しかも蹴りを使ってくるなんてさすがだ。


 でもこのままじゃ終われない。

 俺の攻撃も入れなくては。


「これであなたは退学ね。初めのあれがそこそこよかったから、劣等生は取り消してあげるわ。光栄に思いなさい」


「それはどうも。でもまだ退学は早いかな」


 俺は巻き上がった砂埃の中で立ち上がった。


「なっ!? なんで立ててるの! 私の一撃が入ったはずなのに」


 これはこれは一撃に自信があるようで。


 そして俺は油断しまくっているサリア公女殿下に向かって飛び出す。

 今度はさっきよりも速く。


 そして上段に構える。


「――!」


 彼女は慌てて剣を上に構えて防ごうとする。


「ここだ!」


 俺は刀を上段から横に倒して、彼女の腹に横なぎの一太刀をおみまいする。

 きれいに胴が決まった。


「――ううっ!」


 魔法のおかげで肉を割く感覚は伝わってこない。

 思いっきり腹を叩いた感覚でかなり反動が来るが、肉体強化でそこまでつらくはない。


 代わりに公女殿下は舞台の端側まで飛んで行ってうずくまっている。


 ――さすがにやりすぎた気がする。

 ここしかチャンスがなかったからしょうがないよな。


「勝てた……。勝った――!!」


 俺はうれしさをかみしめて、ガッツポーズを決めた。

 そして肩をおろして安堵の息を吐く。


「まだ、だ――」


「――なっ!」


 公女殿下がお腹を押さえながらよろよろと立ち上がった。


 ――さすがに無理しないでほしいんだけど。


 俺はゆっくりと彼女に近づいていく。

 彼女も剣を拾い、よろよろと近づいてくる。


「まだだ……。まだ戦える……」


 彼女は荒い息とともにそう訴えてくるが、姿はもうすでにボロボロでとても戦えるとは思えない。


「無理するなよ」


 俺が言い終わる前に彼女は剣を振り上げようとして、前にバランスを崩して倒れた。


「――っと」


 抱きかかえて彼女を見るとすでに意識を手放していた。

 俺の腕の中で眠る彼女に、つい心臓が主張してくる。


「サリア・リーゼヴィクト戦闘不能によりサツキ・ミナトの勝利!」


 アリス先生の高らかな宣言がこの第3訓練場に響いた。


 俺は公女殿下を抱きかかえながら、達成感に声を上げて喜んだのだった。


ご覧いただきありがとうございます。

ブクマしてくださった方ありがとうございます!

評価もぜひぜひ。

今後ともよろしくお願いします。


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