第26話 校長のアリス先生
「まあ座ってくれ」
俺たちに向かってアリス先生はそう言った。
俺とノークラスはソファへと腰を下ろす。
そして先生も座り、俺を見ながら話し始めた。
「さて今日来てもらったのは、紛れもなく君のことに関してだ。いろいろ厄介なことになっているから、今から言うことを徹底してくれ」
先生は体ごとこちらに向けて、真剣な目つきをしている。
「はい……」
場の雰囲気に俺の口調も真面目感を帯びている。
「まずは君の素性だが、ノークラスと相談して詮索しないことにした。探っても何も出てこないから仕方ないのだが、口は堅く占めておいた方がいい。誰が探ってくるかわからないからな」
――なるほど了解。
……いや。待てよ。
もうすでに探り済みかよ!
さすがの仕事の速さだな。
恐れ入ったわ。
そう内心で突っ込みを入れつつ俺は頷く。
「まあそのあたりの話はノークラスとしているだろう。私の口出しする場所ではないな」
そう言って軽く笑うと、再び言葉を紡ぎ始める。
「察しているとは思うが、私が君を無理やり押し込んだ。しかしこの学校は実力主義を代々うたっている。入学する人数が限られている以上、生徒はエリートたちばかりだ。君がそのレベルに達しなければすぐに退学になるだろう。そればかりは私も止められん。だから君には全力で勉学に励んでもらいたい」
「わかりました……」
高校は入学さえできれば難しいことなんてないと思っていた俺にとって、かなり厳しいお言葉をいただいた。
劣等生は退学。
それは実力主義なら当然のことだ。
まだできることのないこの世界で、貴重な俺の居場所だ。
そう簡単に手放そうとは思わない。
しかも俺には約1年のアドバンテージがあり、魔法や剣術の練習もそれなりに好きだ。
というより普通の勉強をするよりかは楽だ。
だから魔法や剣術の努力をすることは普通の勉強よりも、容易にできるだろう。
「あと人間関係には注意してくれ。実力主義をうたってはいるものの完全なものではない。平民もいれば貴族もいる。そんな中で実力がすべてと言っても通用しないのは仕方がない。君は一応貴族の中で最高位だから問題はないだろうが、君のクラスには公女殿下がいるから気を付けてくれ」
――あ、やっぱさらっとクラスメイト言っちゃうのね。
あと一応ってなんだ、一応って。一応で間違いないけど引っかかるような言い方するなよ。
「……了解しました」
顔だけは真面目に俺はそう答える。
「あとの説明は明日の入学式で伝えられるだろうから、今日のところはこの辺でいいだろう。また明日、入学式で会おう」
先生はそう言って少し頬を緩めた。
そうして、校長室を出て長い廊下を再び歩き高等部を後にしたのだった。
「これから王都を観光いたしますか?」
犬車に戻って扉を閉めるとすぐにバハリスさんが尋ねてきた。
正直王都に着く前に犬車でお昼を食べてからもう時間が経つし、お腹が減っていた。
観光も街の様子も犬車から見ただけだし、観光ついでにスイーツか何か食べたい。
「いたしたいです」
俺が元気よく答えると、ノークラスが口を開いた。
「では私も久しぶりの王都ですし、一緒に行こうと思います。バハリスと2人で出かけたいというなら私は行きませんが」
「俺とバハリスさんって、地獄絵図が目に浮かんできて頭燃やしたくなってきたんだけど」
俺が顔を歪ませながらそう言うと、ノークラスは一人で笑って「冗談ですよ」と軽く言った。
というわけで、今は3人仲良くショッピングをしている。
ショッピングと言っても、特に何かを買いたいという目的を持っているわけではない。
観光ついでにお土産屋に入るのと、そう変わらない行為だ。
結局その店では特に何も買わなかった。
そんなこんなで観光はかなりできた。
大通りは大きな店が立ち並んでいるが、少し外れて初めの町の大通りくらいの道に入れば、入りやすそうな店がたくさんあった。
店では洋服から雑貨、食品などを売っていた。
道沿いには街灯もあって、整備がきちんと行われているようだ。
道もきちんと整備されており、でこぼこするといったことは特に感じない。
すると何かを思い出したのか、俺の横で歩いているノークラスが話しかけてきた。
「そうでした。ミナト君のお小遣いどうしましょうかね」
「そりゃ勿論ごそっといこーぜ」
――あ、待てよ。
単位がクルトって言うのは知ってるけど、価値とかよくわかんないんだよな。
ごそっとなどと言い終えてから、俺はその事態に気付いた。
「それでしたら1人で生活するというのもありますので、学費等を除いて月に1,000クルトでどうでしょう?」
「えと、それってどんくらいなの?」
――円の十倍くらいになるのかな?
そしたら1万か。さいこうだな。
「1クルトで品質の良い食材が1つは買えますね」
――食材1つが約百円だとすると、百倍!!
千かける百は十万……。
高校生に月十万あげちゃうとか……、さすがとしか言えないわ。
「さすがにそんな大量にはいらないんだけど」
「そうですか。では700クルトでどうでしょう?」
「じゃあそれでお願いします」
それでも多いなと感じてしまうのは、日本で慢性的な金欠に悩まされていたからだろうか。
そんな話をしながら歩いていると、どこからかいい匂いが漂ってきた。
「なんかいい匂いしない?」
俺の問いにノークラスは辺りの匂いを嗅ぎだした。
「……。確かにいい匂いがしますね。これは肉料理の匂いですね」
そう。
先程からこんな調子だ。
お菓子を売っている店が見当たらない。
お菓子って売れないのか?
売ってるものはそれほどおいしくないのだろうか。
それともお菓子という概念が市民にはまだ広がっていないのだろうか。
屋敷ではクッキーのようなものや甘いパンのようなものはあった。
だから街にもあると思ったんだが……。
まあ広がっていないなら、仕方がない。
そんなことよりも、もう夕方だから屋敷に戻って夕飯を食べたい。
そして明日の入学式に備えて、不安を帯びたわくわくを胸に寝たい。
「もう十分観光したし、夕方だから帰んない?」
「そうですね。そろそろ戻りますか」
俺が疲れたような口調で尋ねると、ノークラスはニコニコしながら賛同した。
そして俺たちはそこから割と近くにあった屋敷へと歩いて戻った。
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