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第24話 王都への入門

 思ったよりも揺れの少ない犬車に、俺はいつの間にか眠っていた。


 どれくらいたったのだろうか、バハリスさんの起床を促す声が聞こえる。

 俺は静かに目を開けた。


 バハリスさんは目を覚ました俺を見ると、ちらと俺の右側を見た。


 俺はその視線の先に何があるのか気になって、ゆっくりと寝ぼけ眼を右へ向ける。


「うわあああああ!!!!」


 そこにはニコニコ笑顔で俺を見ているノークラスの姿があった。


 この犬車は広いとは思うが、さすがに横に並んで座ると存在をまじまじと感じてしまうわけで、しかも美女ならまだしもイカれたおっさんときた。

 さすがにキツイ。


「近いって!」


 ――ていうかなんでここにノークラスがいるんだ?

 屋敷にいるはずじゃなかったっけ?


「なんでここにいるんだ?」


「このタイミングが一番効率がいいと思いまして」


「へえー……って、ちげーよ。どうやってここに来たんだって?」


 ノークラスは察したような動作をしてから言った。


「ああ。転移ですよ。ただの」


「ただの……って」


 俺のジトっとした視線を無視し、ノークラスは語りだした。


「突然ですが、ミナト君にはこれからホールメス家の人間として暮らしてもらいます」


「――は?」


 ――今になってホールメス家の人間になれと?

 どんな勧誘だよ。


「そういう設定ということです。養子ということにしておいてください。と言っても外では養子ということを自分から広めないで、子供という様にしておくのがいいでしょう」


「あぁそれなら……、てわけにもいかないでしょ。言うの遅いし俺そんな立ち振る舞いできないよ!」


「立ち振る舞いはそれほど気にしなくて大丈夫ですよ」


 ノークラスは微笑みながらそう言った。

 俺には結局断れないので承諾以外の選択肢はない。


「そういや俺高等部とやらも王都も、どういう生活すればいいのかとかも知らないんだけど」


「それに関して今からお話しするつもりで来たんですよ」


 そうだったのか。

 何も知らないのに高等部入るってなって、割と不安だったんだよな。


「高等部では、普通に過ごしていただければ大丈夫です。けれど魔術、剣術などよく学んで強くなってくださいね」


「おうよ!! 任せとけ、バハリスさんとクラリスさんレベルなんて1か月で越してやるわ!」


 ガッツポーズを決めてノークラスにアピールすると……。

 横から威圧を感じる。

 ちらと向くと、ニコニコしながら殺気のオーラまとっている人がいた。


 ――怖えーー。


 本気でやってるわけじゃないはずなのに、冗談でここまでとか人とは思えねえ。


「それは頼もしいですね。あ、ちなみに王立学校は全寮制で生徒以外立ち入り禁止なので、1人で生きてくださいね」


「ん?」


「1人で生きてくださいね」


「ん?」


 ――まずい……。


 俺は顔を真っ青にして、冷や汗を垂らしながら固まった。


「まさかできないんですか? 何も?」


「な、何もって……そ、そそ、そそそんなことはないよーー」


 俺はあからさまに視線を逸らして言った。


「ぷっ。あ、いやいやじゃあそこで頑張って1人で生きられるように頑張りましょう」


「ぷって言ったよね今? いやいやとかも言っちゃったよね?」


 確信犯や。


「そういうことで、頑張ってくださいね」


「おい? 無視するなー」


「ああ、でも今日は王都にあるホールメス家の屋敷に泊まることになってますから。あと荷物は入学式の日に寮に運んでおくので、ミナト君は運ばなくていいですよ。さすがに寮生活が始まる前なので、荷物入れくらいはできるので」


 ――王都のホールメス家の屋敷か……、でかいのかな?

 どうせでかいんだろうな。


「あいあい、分かった」


「ああ、そうだ大切な話をするのを忘れていました」


 そう言うとノークラスは俺の肩を掴んだ。


「ほかの子たちもそうですけど、公女殿下とはくれぐれも絶対に必ず仲良くしてくださいね」


「お、おう」


 ノークラスがここまで言うとは。

 こりゃ絶対なんだろうな。


 それにしても公女殿下と同じ学年とか運がいいな。

 可愛いのかな。

 ここまで来たらどうせ可愛いんだろうけど。


「公女殿下とは同じクラスなはずなので」


「ブフッ! ――なんでノークラスが知ってんだよ!! てかクラス決めの俺のドキドキ青春の一ページ返せ!!」


「そりゃあ、貴族ですから」


「誇らしげに言うな!! なんかむかつくんだよ!!」


「ひどいですわ~。ミナト君ったら」


「――キモイキモイ」


 俺の辛らつな反応に心を痛めたのか、説明が終わったのか、ノークラスはひとしきり笑った後はしゃべらなかった。


 俺もその和やかかつ静かになった空気に合わせて、頬をさっきよりも少し緩めながら景色を眺め始めた。



 心地よい振動と穏やかな景色にぼーっとしていると、突然ノークラスが静寂を破った。


「見えました。王都です」


 俺はその声に意識を覚醒させた。

 そしてそのまま窓から進行方向へ視線をやると、とんでもないものが飛び込んできた。


 ――で、でけえ。


 それなりに東京の都心を見てきた俺でさえそう思えるほどの、大きい都市が見えるのである。

 緩やかな斜面の上に並ぶ家々、それらに挟まれるようにして長く太い道路がまっすぐ連なっている。

 そして斜面の頂上には城。

 白を基調とした、立派な城が構えている。


 まだ王都に入ってすらいないのに、こんなに大きくくっきりと見えるのだ。

 本当にバカみたいに大きな都市なんだろう。


 俺がじっと王都を見つめているうちにも、どんどん犬車は進んでいく。

 数分後には王都の目の前についた。


 と思ったとたんラッパのような音がかき鳴らされた。


「うお!?」


 その音は敵襲を知らせるものとは違い壮大で、盛大に歓迎を祝っているかの様だった。

 すると正面の門が閉められた。

 俺が状況の理解に苦しんでいると、門が開いた。

 その門は先程の門とは違う。いや同じと言えば同じではある。


 今開いた門がこの門の本当の開門で、先程のはこの門の中央下についている縮小版なのだ。

 しかもその縮小版でさえ犬車や馬車が余裕で入れるサイズだった。


 今俺の眼前に広がる門は巨大ドラゴン用ですかと思わせるくらいのものだ。

 俺は驚きを隠せず、開いた口がふさがらなかった。


 窓から上を見上げると、はるか遠くに石レンガでできた天井が見える。


 そして未だ鳴り響く楽器音と伴に、門の両脇に並ぶ敬礼している兵士のような人々の間を、犬車はゆっくりと進み始めた。


 そして門を抜け大通りを進む。

 そこは、初めの町とは比べ物にならないくらいの都市だった。


 初めに見えた大きな広場の真ん中の噴水。そしてその噴水の中央上部の女神の像。

 大通りを挟むように立ち並ぶ白い石レンガでできた立派なお店やお宅。

 清潔感の溢れる大通り。


 中世西洋の美が都市として表れているように感じられた。


 しばらく進み、こちらを見て一礼する多数の民衆に慣れた頃、俺はノークラスに少し興奮気味に尋ねた。


「あんな歓迎パレードおっぱじめるもんなのか? ふつう?」


「いえいえ。我がホールメス家が爵位第1位の公爵だからでしょうね。普段はあまり王都に赴くことも少ないですし」


「ちなみに公爵家って何家あるんだ?」


「3家ですね。3大公爵家と呼ばれていてホールメス家、ミリトゼリック家、シュワイガル家です」


 ――貴族の中の貴族に拾われたってか。

 そんなに爵位が高いとは思っていなかった。


「そんなにすごい身分だったのか。魔族フェチのく――」


 突然ノークラスに口を押えられた。


「そのことを口にするのは禁止です。ただでさえ魔族をかばうと重罪になるのに、公爵家の当主がとなると大問題になりますからね」


「そうなのか……。ほかに言っちゃいけないことってあるか?」


 俺は頷いた後尋ねる。


「そうですね……。養子になった経緯と屋敷の様子、屋敷にいる人物、私のこと全般、魔王の件。それと後でまた言うつもりですが、ミナト君の能力のことです」


「かなりのことを隠せと。さすがにブラックな世界だな」


 かなり真剣な顔でそう答えたノークラスに俺は苦笑した。


「あなたのことは信用していますが、くれぐれも、ホールメス家の名前を使ってもいいので内密にしてください」


「わかった」


 俺もさすがに真剣な顔でそう返した。


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