第18話 加減を知らない授業
今日から入学式まで屋敷で勉強パーティーだ。
でも俺は高校で割と勉強はできていた。
高校自体も進学校に入ると言われれば入るくらいだった。
だから現代日本の既存の授業内容は勉強しなくて大丈夫だ。
それを言ったら、教師役のバハリスさんは不思議そうな顔をしたが……。
それもそのはず、俺は文字の読み書きができない。さらに魔法の知識は皆無なのだから。
幸いなことに中学3年間と高校1年間で剣道部に入っていたから剣術はどうにかなるだろう。
と思っていたが駄目だった。
剣の扱い方がまるで違うのだ。
そもそも日本刀が片面だけに刃がついているのに、こちらの剣は両刃になっているのだ。
よくよく考えたら洋な世界だから当然なのだが。
だからバハリスさんに片側だけに刃のついた反った剣はないかと聞いたら、これが珍しい代物だけどあるらしい。
バハリスさんはすぐに手配をすると言っていたので、きっと日本刀を手にするのも間近なんだろう。
しかし竹刀を頼んだら、何それ状態だったので無理なのだろう。
剣術の授業は屋敷に隣接された訓練場を使って行われる。
ラミリアとフィリム、俺がバハリスさんに教わる形だ。
剣道が染みついた俺の体では、残念なことにこちらの剣術の習得が厳しいと判断された俺は剣道スタイルでいくことになった。
しかし、開始直後から俺の実力ではバハリスさんの目にも止まらない猛攻をしのぐことは到底できず、ただただあざを毎秒2個のペースでつけられていくだけだった。
「待って待って! 痛いって! 死ぬ、死んじゃう!!」
1つ1つの打撃が痛いのではなくそれが無尽蔵に繰り出されるから、本当に死ぬほど痛いのだ。
手加減という言葉が頭にないかと思うくらいだ。
しかし当のバハリスさんは手加減しかしていないと言っている。
本当にこれが手加減しているのだとしたら……、と考えるだけで鳥肌が立ってくる。
バハリスさんは俺との剣術の授業……というより拷問を中断し、ラミリアとフィリムにも同じように最低限の手加減で猛攻を仕掛けている。
その様子を少し見てクラリスさんに体に回復魔法をかけてもらった後、彼女の魔法の授業に入った。
そう、異世界に来たのに俺がすっかり忘れていたMAHOだ。
魔物に追っかけられて、平和な日常で、死にかけて――。
魔法なんて考える余裕がなかった。
というわけで、楽しみにしていた講義なのだ。
場所は俺の部屋でということになった。
「まずは適性を調べます。手を出してください」
席について向かい合わせになった状態でクラリスさんは俺に言った。
俺は両手を、差し出してきたクラリスさんの両手に乗せた。
すると手から腕を通って、体に温かな何かが流れてくるような感覚がした。
それは何というか、腕の内部からだんだん溶かされていくような奇妙な感覚であり、不快感がそこにはあった。
――なんか思ってたのと違うな。
もっと気持ちいい感じかと思ってたのに。
しかし彼女から流れるそれはさらに激しさを増すばかり。
さすがに熱すぎて本気で溶けると思った俺は急いで声を上げた。
「ちょっと!? 熱いんですけど!?」
クラリスさんは魔力を流すのを止め、瞑っていた目をゆっくりと開けて俺を見てから――。
もう1度始めようとした。
「ちょっっと!? え、なんでまた始めようとしてんの!?」
俺は両手を勢いよく引っ込めた。
「もう少しでできますから、男なら耐えてください」
「男らしい戦闘メイドさんに言われたくないけど!? いやほんと腕溶けるから無理って!!」
クラリスさんは「軟弱ですね」と少し冷たい目で見てきた。
――なんだろう。このM質な男が歓喜に震えそうな彼女の空気は。
実はこういう人だったのか。
礼儀正しい人だと思わせといて、気を使う必要がないと判断すると本性を出す系エルフ。
なんとなくよろしくない。
「残念ながらあなたに魔法の適正は魔法の魔の字もないくらいにありません」
彼女は淡々と言った。
俺はまさにガーンといった表情で固まった。
異世界来たのに俺の無双コースはどこへ?
俺のハーレム生活はどこへ?
理想が一瞬にして音を立てながら崩れていった。
「けれど、あなたの中には通常ありえないもう一つの核があります。それに私の魔力を流そうとしましたが拒絶されました。なのでその核に何らかの適性があれば核の持ち主であるミナト様に魔法が使える可能性はあります」
「やらせてください」
見事なまでの即答と背筋の改善、それに先程の理想の再構築を瞬間的に行い、クラリスさんをじっと見た。
クラリスさんは「こちらを見ないで下さいと」冷たく言い放ち、視線をそらした俺に「目を逸らさないでください」と言って説明を始めた。
――なんという理不尽さ。ツンデレかいな。
「魔法は基本的に火、水、植物、土、風の五つに分かれています。それ以外に、聖魔法、闇魔法があります。基本5属性は大衆の7、8割がどれか1つの適性を持っています。聖魔法と闇魔法は適性を持っている者がわずかしか存在しません。ちなみに私は水魔法と植物魔法と風魔法を使えます」
「適性は1人1つが普通なのか?」
「はい。私は三つですが」
クラリスさんの口調が真顔なのにどこか誇らしげで、適性が1つの人を馬鹿にしているような……。
これ以上考えると1つだけ適性を持つ人みんなに襲われそうなのでやめておこう。
――そもそも俺は1つもないんだけどね!!
「とりあえず魔法を使ってみましょう。そうすればどの適性を持つかわかるはずです」
俺はクラリスさんの指示に従い、差し出された紙に書いてある初級魔法の魔法陣の暗記を始めた。
どうやら、魔法陣を暗記して脳内で構築しないと魔法は使えないという。
そうして初級魔法であるにもかかわらずやけに複雑な魔法陣を脳に記憶させていく。
暗記にそこそこ時間はかかったが何とか覚えることができた。
次に魔力の操作だ。
脳内で魔法陣を構築したら主に体の中心部にある核から適応量の魔力を脳を経由して発動させたい体のどこかに流してやる。
そうすれば魔法を発動することができる。――らしい。
ちなみに核とは魔力の器のようなものだそうだ。
でも、この魔力操作が馬鹿みたいに難しい。
魔力という得体のしれない物を体の中心から脳を経由させて手に送ろうとするなど、全くどうすればいいのかわからなくて当然だろう。
異世界系でよくあるイメージでどうにかなるやつか、と思うもうんともすんとも言わず。
結局、全属性の初級魔法を試してみるもなにも出てくることはなかった。
――なぜじゃーーー!!!!
楽しみだった魔法が使えなかった。
チート無双が消えた。
俺のハーレムが消えた。
授業後俺はそう思いながらベッドに倒れこんだ。
読んでくださりありがとうございます。
評価、コメントなどよければお願いします。
やる気が滝のように湧き出ます。




