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第17話 穏やかな朝

 俺の朝のルーティンは6時から始まる。

 もちろん前日に激しく疲労したときは別だが、特段何もなければ体に染みついたその時刻に自然と起床する。


 そして窓を開け外の空気を十分に吸う。

 本日の空気は都心近くの住宅街では珍しく非常に心地よい。

 日光の当たり具合もまるで家ではないかのようだ。


 ようやく目を開けた俺は否応なく現実を突きつけられた。

 

 ――異世界だった。

 てか、めっっっちゃのどかやないか。


 俺は窓から見える広大な草原と奥に連なる山々を眺めた。

 つい我が家の窓から見えるのはお隣さん家だけだなと考えてしまうと、比較するのもおこがましく思えてしまう。


 お隣さんの誰かの影が、汚れたコンクリートに囲まれた窓の中でたまに動くだけ……。

 それに比べて青空に浮かぶ雲はゆっくりと動き、美しい緑の草原は優しい風にそよそよと撫でられている。


 俺は澄み渡る空気をもう1度吸い、窓を開けたままにして軽快なステップで部屋から出て廊下を進み、階段を下りて玄関へと向かった。


 玄関ではすでにメイド服を着ているクラリスさんが掃除をしていた。


「おはようございます」


 俺が爽やかイケメン風に言うと、クラリスさんは驚いたのか少しビクッとした後こちらを向いて少々引きつった顔であいさつをしてくれた。


 これは決して俺が引かれたわけではなく、クラリスさんが爽やかイケメンがタイプじゃないだけだ。

 そう自分に言い聞かせながら、封印しようと固く心に誓った。


 そうして俺は玄関を出て正面にある大きな階段を下り、両サイドにある庭園の右側の方にある広いスペースの中央に立った。


 そして国民的体操を実施後、筋トレをしていく。

 基本的にそんなにたくさんはやらないが、20回を2セット程行っている。


 このルーティンをこんな広大で心地の良い場所でできる日が来るとは思いもしなかった。


 程よく体が温まったところで、俺はその場に腰を下ろした。

 優しい風が俺の火照りを解消していく。

 しかしそれとともに俺の不安が解消されることはなかった。


 その後部屋に戻って用意された服を着て暇を持て余した後、朝食の時間となり誰よりも早く食堂へ行った。

 暖炉のある大きな食堂ではメイドさんのクラリスさんとフィアリスさん、そして執事のバハリスさんが待機していた。


 俺はバハリスさんの指示に従って席に着き、全員の着席を待った。


 初めに来たのはラミリア。寝間着のままだが髪は整えられていて、可愛いと美しいの中間あたりなのがまたいい。


 その次に来たのはフィリム。寝間着のままで、髪もいたるところに飛び跳ねている。

 眠そうな顔をしており、人形を抱えている子供のような愛らしさがある。


 最後にノークラスが入って来た。こちらもメイドさんの入ったいつものパジャマに、いつもの意味の分からない髪型をしている。


 全員がバハリスさんの案内で着席すると、メイドさんたちが料理を運んできた。


 料理が揃ったところでノークラスが食べ始めるのを合図にみんなが食べ始めた。

 俺は小さく頂きますと言って舌鼓を打つのだった。


 しかしこれで2日目になるのだが米が1度も出てこない。

 俺は薄々気づいてはいたが、やっと米のない国だと確信した。


 ――米が恋しい……。

 ほんとじゃがいもとパンばっかなんだよなーー。


 いわゆる日本食は一切出ないので舌を変える必要がある、といらない事実に気付いてしまった。

 異世界の王道、中世の西洋という設定がこういうところは細かいからよくないと思う。

 王道な設定だからしゃあないけど、慣れるまでの辛抱だ。


 とはいってもさすがお貴族様といったところか、味も食材もいいものを使っている気がする。


 その後黙々と食べ続け、食後のコーヒーに砂糖と牛乳をこれでもかと投入し全員が食べ終わるまで待った。


 しばらくしてノークラスが立ち上がった。


「今日からは皆さん、勉強が大変になると思うので頑張ってください」


 ノークラスはそう言って食堂から出ていった。

 それを見てフィリムとラミリアが立ち上がった。

 俺は急いでコーヒーを喉に流し込み、ご馳走様と小さく言ってラミリアたちの後に続いた。


 食堂を出たあたりで、ラミリアは俺の方へ来て口を開いた。


「食事の前後で手を合わせて何か言ってたけど、なんて言ってたの?」


「あぁ、あれは食べる前にいただきます、食べた後にご馳走様でしたって言って、手を合わせて食材を作ってくれた人や料理を作ってくれた人とかに感謝する、マナーになってくれれば嬉しいやつよ」


 俺は手を合わせて見せながら答えた。

 

「そういう意味だったの。私もやってみるわ」


 ラミリアは目を輝かせて手を合わせながらそう言った。

 俺の横で手を合わせながら、「いただきます」と「ご馳走様でした」を練習している純粋なラミリアに、俺は胸が温かくなった。


 ラミリアとフィリムは1度死んで生き返ったのだから、何かしら思うところがあるかもしれない。けれど、2人とも何事もなかったかのように俺に接してくれる。


 でも、死ぬ前の記憶があるなら、痛みを覚えているだろう。苦しい思いをした記憶があるだろう。


 俺が約束を破って助けることも何もできなかったせいで、ラミリアとフィリムはとてつもなくつらい思いをしたはずだ。

 それに対して彼女たちが何も思っていなくても、態度に出さなくても俺は謝る義務がある。


 俺が彼女たちの立場なら、死ぬ思いを実際に受けたら、つらくて2度と立ち上がれない自信がある。

 でもラミリアとフィリムは立ち上がって次の道へ歩みだしている。

 だから本当は昨日言うべきだった。

 けじめをつけるのが遅れてしまう前に。


 そして俺は今日けじめをつけようと決めた。


ご覧いただきありがとうございます。

久しぶりの投稿です。

今後は一週間に二回くらいのペースで投稿しようかなと思います。

すみません、書くの遅くて。

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