第19話 ゴブリンでもわかるらしい語学学習
しばらくしてから俺の部屋の扉からノックする音が聞こえた。
「はーーーい。どうぞーーー」
俺はまるで生者でないかのような、グダグダとした声を発した。
その後すぐに入って来たのはバハリスさん。
「なんだ。ラミリアじゃないのか」
「ラミリア様でなく、申し訳ございませんでした」
バハリスさんは本心かわからないが俺に軽く謝った。
「ただ今からは文字の勉強でございます」
そう言いつつバハリスさんは俺の机に本をどさっと置いた。
俺はその量に一瞬うなり、だらだらと起き上がり机に向う。
「文字と言っても言葉の音が文字になっているだけでございますので、話すことができるのなら簡単でしょう。この量をやれば日常生活では支障はないと思います。ああ、もちろんこれは今日中に終わらせてください」
バハリスさんはニコニコと、とんでもないことを言ってきた。
――この人怖い。
いろんな意味で怖い……。
「私は横で見ておりますので、いつでも質問されて結構ですよ」
俺は素直に従って本を広く。と、何も読めない。そりゃそうだ。
「あのー、これ全部読めないんですけど……」
俺がバハリスさんに恐る恐る質問をすると。
本の初めのページに書いてある大きな文字を指さして言った。
「『ゴブリンでもわかる。子供向け文字の絵本』と書いてあります」
「ん? 馬鹿にしてるよな?」
「そんなことはございません」
「誰がゴブリンだ? 子供だ? 絵本だ?」
俺はバハリスさんの方を向き微笑みながら、やさーしくやさーしく尋ねた。
「本の名前でございますから、気にしては負けです。次のページへ行きましょう」
――ムキーーー!!
俺のこと馬鹿にすると痛い目見るぞ!!
と、先程剣術でバハリスさんにフルボッコにされた俺は思ったのだった。
「このページのこの表は「あいうえお」からすべての文字が書かれています。これを覚えてしまえば文字は完璧でございます」
バハリスさんは次のページに書いてある大きな表を指しながらそう言った。
日本の音と変わりはないのに、どの文字も不思議な形で不規則な形をしているように見える。
俺は内心でこりゃ大変だと思い、ひとまず次のページにあった物語を先程の表を使いながら読んでいった。
その物語にはしっかりと絵がついているからわかりやすくていい。
――絵本だからね、そりゃ。
どーせ俺は絵本しか読めませんよ!
そんな余計な考えを脳から押しやり、俺は物語を読み進める。
その物語は見開き2ページで終わるような短いお話だったが、かなり読むのに手こずってしまった。
内容はこんなものだった。
《あるところに小さなゴブリンと大きなゴブリンがいました。大きなゴブリンは自分が世界で1番強いと思っていました。なので、自分の持つ力を信じて努力せずに生きていました。でも小さいゴブリンは自分が弱いことを知っています。なので、毎日強くなるための努力をしました。そして、小さなゴブリンが大きなゴブリンに食べ物を待って来いと命令されたとき、怒った小さなゴブリンは大きなゴブリンをあっという間に倒し、その日の夕飯のおかずにしましたとさ》
本にはこの続きに手書きでこんなことも書いてあった。
《しかし、人間の領土に土足で踏み込んできた汚い小さいゴブリンは我らが人間によって切り殺されましたとさ。めでたしめでたし》
…………いや、めでたくねぇえええ!!
最後人間側の思想に偏りすぎだろ!!
どんだけゴブリン卑下してんだよ!!
てか、切り殺すって子供向けだよなこれ?
「これ最後のやつ衝撃的だな……」
俺が誰に言うでもなく独り言として言った言葉にバハリスさんは反応した。
「確かに、子供にこれを読ませるのは少々苦でございますね」
なんだろう、最後のところとか突っ込み所が多すぎて文字の勉強になったのか怪しいわ。
俺はいろんな意味で問題の溢れるこの本に早くも疑いの色を隠せなくなるのであった。
そんなこんなで今日の授業は終わった。
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