超時空戦艦な俺
やっとタイトルまでやって参りました。
薄暗闇の中に、一人ぼっちで腰掛けるクァイナ。
「ねぇ、ハジメ!!ねぇ、リーダー!!ちょっとぉ……居るなら返事してよっ!?」
ガコンッ!!と肘掛けに拳を突き立てるクァイナだったが、返事は当然無い。堪らず肘掛けを握り締めるとミシミシ……と指先が食い込み次第に手の中でひしゃげかけていくのだが、
【……お待たせいたしました。……只今より《超時空戦艦・₴₹₷℘∝》上映を開始致します。】
上品かつ落ち着いた女性の丁寧なアナウンスが鳴り響き、クァイナは意識を肘掛けからスクリーンへと引き戻された。
【……尚、上映中のお煙草、ご飲食、並びに席を立っての化粧直しや激しいイチャイチャうふふ等は、他のお客様の御迷惑となりますので……御遠慮頂きますよう、御願い致します。】
「他にお客さんなんて居ないっての!!もう……一体全体何が始まるって……上映開始……?」
……ビーーーーーッ!!と、ブザーが鳴り響く中、白い光を放つスクリーンが暗転し、巨大な球体が下から画面中央へと昇っていく。
「……宇宙……それは、ロマンの残された最後のフロンティア……」
渋い男性のバリトンボイスがナレーションを始め、クァイナは仕方なく画面へと意識を集中させていく。
「あー、はいはい映画館だから映画を上映するわよね……まっさか、転生先でこんな映画を観させられるとは……トホホ……」
誰に言うでもなく呟くクァイナだったが、彼女をほったらかしにしてナレーションは続く。
「……そして遂に超時空戦艦は宇宙へとその一歩を踏み出していったのだ!!」
「……なーにが一歩を踏み出していったのだ!!よ……足付いてないじゃん……」
ダッダッダッタタタッ、と勇ましいリズムを刻むテーマソングが流れる中、画面には宇宙の光景が写し出され、白い字幕がタイトルを表示していた。
《第一話・旅立ちの時》
「ハジメェ~ッ!!行ってはいけないわっ!!」
ビクッ、と思わずクァイナは飛び上がる。だって画面脇の巨大なスピーカーから哀しみに暮れる女性の金切り声が飛び出してきたのだから。
「うっわぁ……マジで驚いたわ……てか、主役はやっぱりハジメなの……?」
画面にはほっそりとした色白黒髪姿の美しい女性(字幕に名前が【イチ子】と出ていた)が、出発する宇宙戦艦に今まさに乗り込まんとするハジメ(白いパンタロン姿に軽く吹いた)に向かって叫んでいた。
「……イチ子……それでも俺は……行かねばならないんだ……全宇宙の平和の為に……」
決意の固いハジメは俯きながら、イチ子の姿を視界に納めないようにしつつ、一歩を踏み出そうとする。
「……ハジメ……、実は私……あなたに伝えていなかったことがあるの……」
イチ子は意を決して、自らの手を握り締め、ハジメの背中に向かって訴えた。
「……イチ子……どうした……何なんだ……?」
フルフルと睫毛を揺らしながら、イチ子は遂に……その美しい唇を開き、
「……私のお腹の中に……新しい命が……赤ちゃんが居るの……」
「……な、なにぃっ!?」
思わず振り向き狼狽えるハジメ、そして涙をうっすらと浮かべながら告白するイチ子……。
「……でも、あなたの子供では無いの……ッ!!」
「そりゃそーだろ!!俺はまだドーテーだしぃ!!!」
絶叫し、がっくりと力無く項垂れるハジメ……。
そして画面の前のクァイナはと言えば……、
「うっそ!!なにコレ何なのこの茶番劇はっ!?」
……余りの茶番劇っぷりに思わず叫んじゃってました。
「第一話・旅立ちの時・完」
「うっそ!!もう終わりなの!?あれ?オチとか無いの!?ドラマチックなどんでん返しとかは!ね~っ!?ちょっとぉ~っ!?」
意識が遠退き次第にスクリーンから引き離されていく失墜感を感じつつ、答える者の無い中……クァイナは一人、ひたすら突っ込みを入れていくのでした。
✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳
「……ふぁっ!?……なんなのよ……アレは……ハジメ……ハジメは!?」
クァイナは意識を取り戻すと、まず最初に周囲の状況を確認し、ハジメの姿を探したのだが、
「何よ心配させて……ちゃんと居るなら居るって……ねぇ、ハジメ?」
意識を失う直前と全く同じ配置のまま、怪物もハジメもその場所に居たのだけど、そのハジメの様子が少しだけ……いや、相当おかしい。
まず、さっきの映画のキャラそのままの白いピッチリとしたシャツとパンタロン姿に変身しており、しかも身体からはうっすらと黄色い光を放ち輝いていた。
(……ダッサイ格好……あの姿でずーっと居たの?……罰ゲーム並みの羞恥プレイよね……同情しちゃうわぁ……!)
クァイナは思わず心の中で呟いていたが、気になるのはパンタロンにいつ着替えたのか……いやそれよりも光り輝く理由である。
「ねぇ、ハジメ……あんた大丈夫?……その、プッ……ご、ごめんなさい……プフフッ!」
……訊ねようとするクァイナだったが、振り向いたハジメのうっすらと乳首が透けて見える白シャツ(もちろん柄もマークも何も付いていない)一枚と、時代錯誤も甚だしい白パンタロンと真っ赤なブーツ姿に、堪えきれなくて吹き出してしまう……。
「プフゥ!や、やめて……やっぱ無理!キャハハハハハハハハァ!!なにそれその格好……いやぁ~っ!?やめてェ~ッ!!乳首透けちゃってるわよ!?無理無理やっぱ無理!直視すると……堪えらんないよぅ~!」
もう堪えきれずに転がるのも構わず、直立不動で立ち尽くすハジメを見ては堪えることが出来ずに爆笑する彼女を尻目に、ハジメは自らの身体に漲る力を感じて恍惚としていた……ピッチリとした白シャツと、ピッチリとしたパンタロン姿のまま……。
「……クァイナさん、俺は今まさに……超時空戦艦の……先っちょを飾る存在として二つの世界を股に掛けて立っている所だ……君に……判るかい?この力が……」
「ヒーッ!ヒーッ!やめてぇ……もう、やめてぇ……先っちょとか……ブッ!股に掛けてぇ……ハァハァ……立っちゃってるぅのぉ?……キャハハハハハハハハ!!……もぅ、漏れちゃいそぅぅ……!!」
その力を理解する等……堪えること全てを放棄した彼女には……不可能だった。いやマジで無理だった。
「……あらら、クァイナさん……腰から下着見えてますよ~?はぁ……まぁ仕方ないや。そんじゃ、行ってきまーす!」
ハジメは先程と何ら変わらぬ様子で(着替えていたが)、シュッと飛び出して体当たりを試みたのだが、
彼が怪物に直撃した瞬間、驚くべきことに怪物は接触した場所から溶けるように蒸発していき、彼の身体は容易に反対側まで突き抜けてしまう。
「……ふぅふぅ……ひっひっ、ふぅ~ぅ。はぁ……死ぬかと思ったわ……って、何コレ……何の臭い!?焦げ臭いっ!!?」
笑いの波が退いたクァイナだったが、肝心な所を見逃していたのでグチュグチュと沸騰した醜い巨大な肉塊と、傍らに佇むハジメだけを目撃し、そこから漂う悪臭に顔を歪めてしまう。
「……えっと、俺が《デブリ廃除用ビーム》を実装して、ドーンと体当たりしたんで……ずっぱりとやっつけちゃいました……」
「うえぇ……焦げ臭いよぅ……それにしても、凄い威力ねぇ……ねぇ、ハジメ、ちなみに超時空戦艦ってどの位の大きさなの?」
鼻を摘まんだまま、その焼け焦げた物体を眺めつつ質問したクァイナだったが、
「……確か、全長三十キロ……位?」
「へ?……さ、三十キロォ~ッ!?それじゃ……ドッカンドッカン体当たりしてる間にアイツ……もう死んじゃってたんじゃないの!?」
相手の生命力だの防御力だのを全く考慮する余地のない圧倒的な質量差……を、産み出す超時空戦艦のイチ・ハジメ。
……考えてみれば、彼の非常識な耐久性も頷ける……あれだけの巨大な生物に対し、この時空に……巨体も巨体、その先っちょのホンのちょびっとだけ、姿をチラ見せしちゃってる超時空戦艦……の、フィギュアヘッドたるハジメにとっては…………タンカーとノミ位の質量差でしかなかったのだから。
……ハジメは身体に纏っていた光が、彼の身を包んでいたユニフォームを引き剥がして元の服装へと戻しつつ、
(……でも、クァイナさんの下着……結構可愛かったなぁ……)
……まぁ、色々な余韻に浸って……かなり、美味しかったり……してました。
ここから始まる、と言っていいでしょう。